Yuming's songs   作:アリス・リリス

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時のないホテル

今、私はロンドンに来ている。

 

「ふぅ、そろそろホテルに戻ろうかな…」

 

私の泊まるホテルは、ブリリアントホテル・ロンドン、古き良き時代の面影を残す老舗ホテルだ。

 

しかし、このホテルで不可解な出来事が起きている。

 

数年前、このホテルに泊まっていた英国紳士が行方知らずになったのだ。

他にも、美女が一人、部屋に荷物を残したまま姿を消した。

その美女の残したパフには発信器が仕込まれているのがわかり、

誘拐事件の可能性が疑われたが、結局迷宮入りとなってしまった。

 

 

「つっかれたぁ~!」

 

ベッドに大の字になって寝転がると、戻る途中で買った新聞を広げる。

 

 

『老舗ホテルに隠された魔物か? 宿泊者が犠牲に』

 

 

一面を飾る文字に目を奪われる。

 

 

「え………、このホテルの宿泊者が三人も………?!」

 

 

現場は、ブリリアントホテルから西に3kmの広場。

蜂の巣になったという。

 

 

「なんて恐ろしいの………」

 

自分も狙われているんじゃないか…、そんな不安がぬぐえない。

 

 

「でも、明日チェックアウトするから………大丈夫よね………?」

 

朝早くから観光していたせいか、眠気が襲ってくる。

 

………………zzZ

 

私は深い眠りに落ちた。

 

――――――――――――

――――――――――――

 

 

チュンチュンチュンチュン………

 

 

小鳥のさえずりが耳に入ってくる。

 

 

「………ふぁぁ………。

…よく寝たぁ………」

 

 

髪を整え、服を着替える。

 

 

朝食を取るために一階に降りる。

 

ロビーを横切ったとき、自分の目を疑った。

 

 

行方不明の英国紳士がそこにいるではないか。

 

 

(ずっとここにいたのなら、どうして誰も気づかないの………?)

 

 

心にモヤモヤとしたものが残ったまま、レストランに向かう。

 

 

 

「お席はこちらで宜しいでしょうか?」

 

ウェイターに薦められた席は、窓側の席。

 

「ええ、構わないわ」

 

 

そう言って、椅子に腰をおろす。

 

 

ふと顔をあげると、目の前に美女が座っている。

 

(あの美女は………)

 

そう、姿を消したあの美女。

彼女が食事をしているのだ。

 

(どうして………!?)

 

 

不気味な気配がする。

 

早く食事を済まして、このホテルを出なければ…。

 

 

少しのパンを口にして、急いで部屋に戻る。

 

荷物をギュウギュウにつめて、エレベーターに押し込む。

 

 

…ポーン…

 

一階フロントに向かおうとしたとき、あることに気づく。

 

 

昨日まであったはずの、回転ドアが消えている………。

 

いや、気のせいかもしれない………。

 

そう自分に言い聞かせて、フロントに立つ。

 

 

「すみません………。

チェックアウトお願いします」

 

 

しかし………

 

 

「お客様、当ホテルはチェックアウトできません」

 

「えっ………。

私は、今日の10時の便で帰らなきゃならないのよ!」

 

「お客様、落ち着いてください」

 

「もうリコンファームまでしたのよ!」

 

「静まりなさい」

 

「あ………」

 

 

ひときわ高級そうなスーツを着た男性が現れる。

 

 

「これはこれは支配人…」

 

 

支配人………?

………そうよ、彼にクレームを………

 

 

そう思った矢先だった。

 

 

「お客様は、迷い込まれてしまったのでございますね。

 

もうひとつの“ブリリアントホテル”、この“時のないホテル”へ。

 

そして、お客様は当ホテルの食事を召し上がってしまった。

 

よって、このホテルより出ることはできません」

 

 

その言葉が意味するもの………。

 

 

――――――――――――

――――――――――――

 

 

『邦人が一名、ロンドンで行方不明となりました。

 

行方不明となったのは………』

 

 

荷物が散乱した部屋のテレビが告げる。

 

また一人、この世の影に消えたことを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この短編は、実在する人物・企業等とは一切関係ありません。




この短編のモチーフとなった曲 時のないホテル

歌詞 http://www6.airnet.ne.jp/satoumc/cgi-bin/kashi.cgi?ARG1=0090&ARG2=02&PRIVATE=12345

動画(YouTubeより) https://www.youtube.com/watch?v=XjDYwIA8Z_k


コメント等
「けっしてここを出てはいけない」という歌詞をどう生かすかを考えた結果、このようなミステリアスなホテルを舞台とするに至りました。
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