三輪霞は、剣だけでいい   作:ケーケーケー

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AI利用です


第二十話 怖いのは、普通です

 

 東京校の一年生が京都へ来る日、三輪は集合時刻の二十分前に教室を出た。

 

 遅れないように、というのもある。

 

 けれど本当は、何を話すか、もう少し考えておきたかった。

 

「初めまして。京都校二年の三輪霞です」

 

 廊下の窓に映った自分へ向かって、声を出す。

 

「分からないことがあったら、何でも聞いてください」

 

 そこで少し止まる。

 

「何でも、は困るかな……」

 

 京都校の設備についてなら案内できる。授業の話も、去年受けた範囲なら分かる。

 

 ただ、東京校の授業について聞かれたら、答えられないかもしれない。

 

「困ったことがあったら、先生に聞いてください」

 

「お前に聞くんじゃないのか」

 

 背後から声がした。

 

 三輪は肩を跳ねさせた。

 

 振り向くと、メカ丸がいた。

 

「い、いつからいたの?」

 

「何でも聞いてください、のあたりからだ」

 

「ほとんど最初からじゃん……」

 

 メカ丸は三輪の横まで来ると、窓に映った彼女を見た。

 

「普通に話せばいいだろう」

 

「普通に話すために、考えてるの」

 

「矛盾していないか」

 

「してないよ。たぶん」

 

 手帳を開く。

 

 昨晩書いた挨拶の案が、三つ並んでいた。

 

 一つ目は硬すぎる気がして、二つ目には線が引いてある。三つ目は、途中で眠くなってしまったので、最後まで書けていない。

 

 メカ丸が手帳を覗き込む。

 

「そこまでする必要があるのか」

 

「私が一年生のとき、初めて会った先輩が優しくしてくれて、安心したから」

 

 三輪は手帳を閉じた。

 

「私も、ちゃんとしたいなって」

 

 メカ丸は少し黙った。

 

「なら、相手が困ってから考えても遅くない」

 

「……うん」

 

「まだ会ってもいないんだろう」

 

「そうなんだけど」

 

 そのとき、遠くから歌姫の声がした。

 

「三輪、もう来るわよ」

 

「あ、はい!」

 

 三輪は慌てて手帳を鞄にしまった。

 

「行ってくる」

 

「ああ」

 

 数歩進んでから、振り返る。

 

「変じゃなかった?」

 

「何がだ」

 

「挨拶」

 

「初めまして、は普通だった」

 

「そこしか言ってないじゃん」

 

 三輪は笑って、玄関へ向かった。

 

     *

 

「おー、ここが京都校!」

 

 最初に聞こえたのは、明るい声だった。

 

 門の向こうから歩いてきたのは、桃色の髪の少年。大きな荷物を肩にかけ、物珍しそうに周囲を見回している。

 

 その後ろに、黒い髪の少年と、茶色い髪の少女が続いていた。

 

「建物、思ったより古いわね」

 

「東京校だって似たようなもんだろ」

 

「東京は東京だからいいの」

 

「どういう理屈だよ」

 

 少女が少年を軽く睨み、少年は何でもない顔をした。

 

 五条は、その三人の後ろを歩いていた。

 

「歌姫、こんにちは。今日はよろしくね」

 

「遅い」

 

「時間どおりでしょ」

 

「連絡が遅いの。到着時刻、昨日のうちに確定できたでしょう」

 

「ごめんごめん」

 

 歌姫は深く追及せず、三人へ向き直った。

 

「遠いところ、お疲れさま。京都校の庵歌姫です」

 

 それから、三輪を見る。

 

 来た。

 

 昨晩、何度も考えたところだ。

 

 三輪は一歩前へ出て、背筋を伸ばした。

 

「初めまして! 京都校二年の、三輪霞です!」

 

 三人がこちらを見る。

 

「今日は、その、よろしくお願いします! 困ったことがあったら、えっと、先生に聞いてください!」

 

 言ってから、違うと思った。

 

「いえ、私でも! 分かることなら!」

 

 一瞬、静かになった。

 

 桃色の髪の少年が、ぱっと笑った。

 

「初めまして! 俺、虎杖悠仁です。よろしくお願いします、三輪先輩!」

 

「あ、はい! よろしくお願いします!」

 

 続いて、少女が一歩前へ出る。

 

「釘崎野薔薇です。よろしくお願いします」

 

「うん、よろしくね」

 

「伏黒恵です。よろしくお願いします」

 

「よろしく、伏黒くん」

 

 全員に挨拶できた。

 

 三輪は胸の中で、小さく息を吐いた。

 

 それから、自分が虎杖の顔を少し長く見ていたことに気づき、慌てて視線を戻す。

 

 虎杖は、思っていたより普通の少年だった。

 

 明るくて、よく動いて、人の話を聞くときには、まっすぐ相手を見る。

 

 宿儺の器。

 

 その言葉を知っていても、それだけでは目の前の人がどんな人か分からない。

 

「三輪ちゃん、案内お願いしていい?」

 

 五条に言われ、三輪は頷いた。

 

「はい。荷物を置く部屋から、ご案内します」

 

「俺、これ持っていけばいいっすか?」

 

 虎杖が自分の荷物を持ち上げる。

 

「うん。階段があるから、気をつけてね」

 

「了解です!」

 

 三輪は歩き出した。

 

 三人の足音が、後ろからついてくる。

 

 少しだけ緊張したけれど、挨拶はできた。

 

 たぶん、できていたと思う。

 

     *

 

 実習の前に、全員で説明を受けた。

 

 場所は、校舎から離れた演習場。外周には補助監督がつき、歌姫と五条も立ち会う。

 

 今日行うのは、避難経路を確保しながら移動する訓練だった。

 

 途中に置かれた目印を、人が取り残されている場所とする。参加者は位置を確認し、連絡しながら、順に安全な場所まで運ぶ。

 

 呪霊は用いない。

 

 代わりに、動きを制限する障害物と、教員が操作する訓練用の仕掛けが置かれている。

 

「何かあれば、すぐ止めるわ」

 

 歌姫が全員を見る。

 

「特に、連絡が途切れたとき。自分だけで何とかしようとせず、声を出して」

 

「はい」

 

 三輪たちが返事をする。

 

 少し離れた位置で、メカ丸が通信機材を確かめていた。

 

「今日は俺が中継に入る。声が聞こえなければ、まず立ち止まって報告しろ」

 

「お、すげえ!」

 

 虎杖がメカ丸を見た。

 

「ロボット?」

 

「傀儡だ」

 

「動くんだ!」

 

「見れば分かるだろ」

 

 伏黒が言う。

 

「いや、そうだけど! 近くで見ると、やっぱ違うだろ!」

 

 虎杖の勢いに、三輪は少し笑った。

 

 メカ丸は慣れた様子で、三人へ予備の通信機を渡す。

 

「故障したら無理に使うな。位置を伝えて、交換を待て」

 

「分かりました」

 

 伏黒は受け取り、すぐに耳元へつけた。

 

 釘崎は機材を裏返して見てから、ポケットへしまう。

 

「地図は?」

 

「こっち」

 

 三輪は用意された簡単な見取り図を広げた。

 

「ここが入口で、この線から外は今日使わない場所。困ったら、まず近くの先生か、メカ丸に連絡してね」

 

「了解です、先輩」

 

 釘崎は地図を覗き込む。

 

「三輪先輩は、普段からこういう訓練してるんですか?」

 

「うん。いつも同じ内容じゃないけど」

 

「先生みたいに説明するんですね」

 

「えっ、ほんと?」

 

 三輪は思わず顔を上げた。

 

 釘崎が少し笑う。

 

「今のは、ちゃんとしてましたよ」

 

「よかった……」

 

「さっきは、してなかったみたいな言い方ですね」

 

「自分でも、ちょっとそう思ってて」

 

 虎杖が笑い、伏黒も地図から目を上げた。

 

 五条が遠くから手を振る。

 

「じゃ、準備できたら始めようか」

 

     *

 

 最初の目印は、入口近くの建物の中にあった。

 

 虎杖が先に見つけ、伏黒へ位置を伝える。釘崎は周囲に別の仕掛けがないか確かめ、三輪が退路を見た。

 

「二人で運ぼう」

 

 虎杖が人形を抱えようとすると、床の端から板が跳ね上がった。

 

「うわっ!」

 

 虎杖は後ろへ下がる。

 

 その背に、釘崎の声が飛んだ。

 

「後ろも見て!」

 

 虎杖が振り向く前に、三輪が足元へ伸びてきた紐を刀の鞘で押さえた。

 

「大丈夫。踏まなければ、こっちは動かないよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「焦るよね。最初、私も何が出るか分からなかったし」

 

 虎杖が息を吐く。

 

 床にある細い紐は、もう一本、部屋の奥へ続いていた。

 

 伏黒がしゃがみ込む。

 

「これ、人形を持ち上げると引っ張られるな」

 

「じゃあ、先に外す?」

 

 釘崎が尋ねる。

 

「それか、人形の下に手を入れて、紐を緩めたまま運ぶ」

 

 三輪が言うと、伏黒は人形と紐の位置を見比べた。

 

「外す間、周りを警戒していてください。何が繋がってるか分からない」

 

「分かった」

 

 三輪は入口側へ立った。

 

 伏黒が紐を持ち上げ、釘崎が結び目を外す。虎杖は人形を支えたまま、二人の作業を待った。

 

 結び目がほどける。

 

「行ける」

 

「じゃ、運ぶぞ」

 

 虎杖が人形を抱えると、今度は何も動かなかった。

 

 伏黒は床の紐を踏まないように避け、三輪の立っていた入口を通る。

 

「先輩、そこにいたの、後ろから何か来たときのためですか」

 

「うん。それと、みんなが一度に出口を通ろうとしても、ぶつからないように」

 

 伏黒は一度、入口の幅を見た。

 

「なるほど」

 

 三輪は少し嬉しくなった。

 

 去年なら、何となくそこに立っていたとしか言えなかったかもしれない。

 

 歌姫と真依との練習を、少し思い出した。

 

     *

 

 二つ目の目印は、林の中にあった。

 

 狭い道を進み、崩れた柵を回り込んだ先。木の根元に、小さな布人形が置かれている。

 

「子供を想定してるのかな」

 

 三輪が言うと、虎杖は頷いて近づいた。

 

 そのとき、木々の間で乾いた音がした。

 

 上から、黒い塊が落ちてくる。

 

 呪霊ではない。布を丸めた訓練用の重りだ。

 

 だが、虎杖の足が止まった。

 

 三輪は落下する位置と、虎杖の肩を見る。

 

「右へ!」

 

 虎杖が動く。

 

 重りは彼の横を落ち、地面に当たって転がった。

 

 ほぼ同時に、釘崎が後方へ回っていた。伏黒は人形の位置を確かめ、木の根元へ近づく。

 

 三輪は周囲の仕掛けが止まったのを確認してから、虎杖へ声をかけた。

 

「大丈夫?」

 

「あ、はい。すみません」

 

「謝らなくていいよ。怪我してない?」

 

「してないです」

 

 虎杖は重りを見た。

 

「さっき、ちょっと動けなくなって」

 

「うん」

 

「訓練なのに、呪霊が落ちてきたときのこと、思い出して」

 

 笑おうとしたのかもしれない。けれど、その顔は途中で止まった。

 

 三輪は、すぐに言葉を返さなかった。

 

 虎杖は、つい最近まで普通の学校に通っていたと聞いている。

 

 その彼が、呪霊と戦い、宿儺を身体に抱えている。

 

 三輪には、彼が見てきたものを全部は分からない。

 

「怖かった?」

 

 尋ねると、虎杖は少し驚いたように目を上げた。

 

「……はい」

 

「そっか」

 

 三輪は重りの落ちた場所を見た。

 

「怖いのは、普通だと思うよ」

 

 虎杖が黙る。

 

「私も、任務の前に、怖いなって思うことあるから」

 

「三輪先輩も?」

 

「うん。間に合わなかったらどうしようとか、見落としがあったらどうしようとか」

 

 百鬼夜行の夜、閉まった扉の向こうにいた二人を思い出す。

 

「怖くなくなるまで待てないこともあるけど、だからって、怖いと思っちゃ駄目なわけじゃないよ」

 

 虎杖は、地面に転がった重りを見ていた。

 

「じゃあ、どうすればいいんですか」

 

「まず、何をするか決めておく。危ないと思ったら離れるとか、声を出すとか。自分だけで分からなかったら、隣の人に聞くとか」

 

 三輪は少し考えた。

 

「それでも動けないときは、誰かに助けてもらえばいいと思う」

 

「助けてもらう」

 

「うん。さっきは釘崎さんも、後ろに気づいてたよ」

 

 釘崎がこちらを見る。

 

「そりゃ気づくわよ。あんた、真っ直ぐ下がろうとしてたし」

 

「ごめん」

 

「だから、謝れって言ってないでしょ。次、私が危なかったら教えなさい」

 

「……おう」

 

 虎杖が頷く。

 

 伏黒は布人形を持ち上げ、周囲を確認していた。

 

「こっちは大丈夫そうです。戻りましょう」

 

 三輪は刀の鞘から手を離した。

 

「うん。虎杖くん、先に運べる?」

 

「はい」

 

 虎杖は今度、足元と頭上を見てから、人形を受け取った。

 

     *

 

 休憩時間、四人は演習場の脇に並んで座った。

 

 虎杖は用意された水を飲み、釘崎は携帯電話で近くの店を調べている。

 

「帰り、少し寄れるかしら」

 

「何の店?」

 

 三輪が尋ねると、釘崎は画面を見せた。

 

「甘いもの。せっかく京都に来たんですから」

 

「あ、ここ、気になってた」

 

「先輩も行ったことないんですか?」

 

「うん。値段見て、今度にしようと思って」

 

 虎杖が顔を上げた。

 

「先輩でも、そういうの気にするんですね」

 

「え?」

 

「いや、だって、五条先生に勝ったって聞いてたから」

 

 三輪の手が止まった。

 

「聞いてたんだ」

 

「先生が、すごく強い先輩がいるって」

 

「それと、お金は別だよ」

 

 三輪は真面目に答えた。

 

「任務のお金はもらえるけど、生活にも使うし、家にも送ってるから。好きなものを全部買えるわけじゃないよ」

 

「そっか……」

 

 虎杖は妙に納得した顔で頷いた。

 

 釘崎が画面へ目を戻す。

 

「じゃあ、予算決めて行きましょう。三人で別のもの頼んで、少しずつ分ければいいし」

 

「四人じゃないのか」

 

 伏黒が言った。

 

「あんたも来るの?」

 

「別に、行くって言ってない」

 

「じゃ、三人ね」

 

「何で最初から外すんだよ」

 

 虎杖が二人を見比べている。

 

 三輪は、思わず笑った。

 

「私、授業が終わってからなら行けると思う。先生にも時間、確認してみるね」

 

「お願いします、先輩」

 

 釘崎が言った。

 

 先輩。

 

 さっきまで少し落ち着かなかった呼び方が、今度は自然に聞こえた。

 

     *

 

 休憩が終わる少し前、伏黒が演習場の端に立っていた。

 

 三輪は隣へ行き、彼の視線の先を見る。

 

 さっき通った林と、建物の入口が見えた。

 

「何か気になる?」

 

「さっき、先輩が入口に立った位置です」

 

 伏黒が言う。

 

「中の俺たちも見えて、外から来るものも確認できる。どっちかを背中にしない場所だった」

 

「うん。中にいる人たちが、私を避けて出られる場所でもあるから」

 

「前から、ああしてるんですか」

 

「どうだろう。人がどこにいるかで変わるけど」

 

 三輪は入口の幅を指で示した。

 

「自分が強くても、見えてない場所までは分からないから。誰かが見てくれるなら、そっちはお願いする」

 

 伏黒は少し考えてから、頷いた。

 

「自分も、周りを見るようにします」

 

「うん。でも、全部一人で見ようとしなくていいよ」

 

 伏黒は三輪を見た。

 

「虎杖くんも、釘崎さんもいるから」

 

「……そうですね」

 

 返事は小さかった。

 

 それから、伏黒は少しだけ視線を落とした。

 

「俺には、姉がいるんです」

 

 三輪は、続きを待った。

 

「今、ずっと眠ってて。病院で療養しています」

 

 唐突な話ではあったが、三輪は驚いた顔をしないようにした。

 

「そうなんだ」

 

「呪いが関係している可能性があるって言われています。でも、まだ分からないことも多くて」

 

 伏黒はそれ以上、詳しく話さなかった。

 

 三輪も尋ねなかった。

 

 自分の傷なら、反転術式で治せる。

 

 けれど、他の人の身体を治せるわけではない。まして、原因も分からない相手に、何かを約束することはできなかった。

 

「話してくれて、ありがとう」

 

 伏黒が顔を上げる。

 

「何か分かったとき、私にできることがあったら、教えてね」

 

「……はい」

 

 遠くで虎杖が二人を呼んだ。

 

「先輩! 伏黒! そろそろ始まるって!」

 

「今行く!」

 

 三輪が返すと、伏黒も歩き出した。

 

     *

 

 実習の最後に、歌姫は全員へ今日の動きを振り返らせた。

 

 虎杖は、驚いたときに周りを見る余裕がなくなったと話した。

 

 釘崎は、声を出したあと、自分がどこへ動くかまで伝えるべきだったと言った。

 

 伏黒は、出口を確保する位置について質問した。

 

 三輪は、三人の話を手帳に書いた。

 

「三輪は?」

 

 歌姫に聞かれ、顔を上げる。

 

「私は……最初、先に説明しようとしすぎたかもしれません。みんなが気づいたことも、もっと聞けばよかったです」

 

「分かった。じゃあ、次はそこを意識しましょう」

 

 五条が頷いた。

 

「いいね。次もまた、お願いしようかな」

 

「日程は確認してからよ」

 

「分かってるって」

 

 歌姫と五条のやり取りに、釘崎が小さく笑った。

 

 実習が終わると、虎杖は真っ先に三輪へ頭を下げた。

 

「今日はありがとうございました、先輩!」

 

「こちらこそ。お疲れさま」

 

「また一緒にやりたいです」

 

「うん。私も」

 

 三輪は笑って答えた。

 

 虎杖は、安心したように笑い返した。

 

 その身体の中に、宿儺がいる。

 

 危険がなくなったわけではない。今日だけで、問題の答えが出たわけでもない。

 

 けれど、目の前の少年が、怖かったことを話し、仲間の声を聞いて、もう一度歩き出したことは知っている。

 

 次に会ったときには、今日より少し、話せることが増えているかもしれない。

 

「先輩、甘いもの!」

 

 釘崎が携帯電話を持ち上げる。

 

「あ、そうだった」

 

 三輪は歌姫の方を見る。

 

「先生、帰る前に少しだけ、外に出てもいいですか?」

 

「場所と帰る時間を教えてくれたらね」

 

「やった!」

 

 虎杖が喜ぶと、釘崎が彼の肩を叩いた。

 

「あんた、お店は私が選ぶからね」

 

「俺も見たいって!」

 

 伏黒は二人の後ろで、面倒そうな顔をしながらついてきた。

 

 三輪は三人と並んで歩き出す。

 

 少し前を行きかけて、歩幅を緩めた。

 

 初めて会った日だ。

 

 先輩らしいことを、全部一度にしなくてもいい。

 

 まずは、同じ店に入って、何を頼むか一緒に考えよう。

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