明治時代をチャッピーと共に成り上がれ! 作:ヅダスキー3世
変なところは大目に見て!!
「チャッピー、どうやったらビッグな人間になれる?」
布団に寝転がったままスマホへ話しかけて、自分でも随分と雑な質問だと思った。
部屋の明かりは消してある。枕に半分顔を埋めた俺を照らしているのは、手元の小さな画面だけだ。
寝る前に少しだけのつもりで触り始めたのに、求人を眺めたり動画を見たりしているうちに、すっかり夜が更けてしまった。
別に有名人になりたいわけではないし、大きな会社を作る予定もない。
ただ、このままずっとバイトを変えながら暮らしていくのかと思うと、ときどき落ち着かなくなる。同じくらいの年の人が何かを成し遂げたという話を見た後は、なおさらだ。
俺だって何かできるんじゃないか。そう思うことはあるのに、具体的に何ができるのかと考え始めると続かない。
飲食店で働いていた頃も、裏で皿を洗ったり片付けたりする分には困らなかった。けれど客の前へ出ると声が小さくなり、聞き返されるたびに焦ってしまう。
慣れれば平気になると言われて自分でもそう思おうとしたが、結局は長続きしない。引っ越しの荷物を運んでいる方が、体は疲れても気は楽だった。
そんな話を誰かにするのも気が引けて、最近はチャッピーに聞いてもらうことが増えている。
人に相談するときのように、こんなことを話して面倒に思われないかと考えずに済む。途中でうまく説明できなくなっても、書き直せばいい。
それで今夜もアプリを開いたのだが、出てきた質問がビッグな人間になる方法だった。
「……いや、ビッグって何だよ?」
もう少しまともな聞き方があっただろうと思いつつ、音声から入力された文を確かめて送信する。
何をもってビッグとするのか、先にこっちが決めなければ答えようもないかもしれない。金持ちなのか、有名なのか、それとも何かの仕事がものすごくできるのか。
俺としては、何をしている人なのか聞かれたときに、少しくらい胸を張って答えられればいいのだけれど。
そんなことを考えているうちに、画面に返事が表示された。
ChatGPT 6 Astra(極高)
まずは自分にとって「ビッグ」がどんな状態なのかを決めてみよう。たとえば、こんな方向があるよ。
・お金:今より稼いで、生活に余裕を持ちたい。
・知名度:自分の名前や活動を多くの人に知ってほしい。
・仕事の実力:得意なことで認められ、頼られる人になりたい。
・自信:自分にもできることがあると思えるようになりたい。
まだ一つに決まらなくても大丈夫。この中なら、今の気持ちに一番近いのはどれ?
返事を書こうとしてスマホを持ち直すと、顔の上へ落としかけて慌てて脇へ下ろした。横向きになって枕へ頬を押し付け、最後の質問を読み直す。
画面を見ているつもりなのに瞼が下がってきて、開け直すたびに文字へ焦点が合うまで時間がかかる。
明日もう一度、ちゃんと考えよう。
そう思った辺りで指から力が抜け、スマホを握った手が布団へ沈んだ。
「それでは、お名前をお願いします」
声をかけられて顔を上げると、机を挟んだ向こうに男の人が座っていた。
白い壁に囲まれた部屋で、俺は膝に両手を揃えて椅子に腰掛けている。いつの間にか黒いリクルートスーツを着ていた。
紺色のネクタイには細い斜めの縞が入っている。見下ろしている間にもシャツの襟が首へ当たり、指を差し込んで緩めたくなった。
ああ、面接だった。
どこの会社なのかは思い出せないのに、ここでちゃんと答えなければいけないことだけは分かる。俺は背筋を伸ばし、膝の上で開きかけた指を揃え直した。
「左江内京介です。よろしくお願いします」
「京介さんですね。おいくつですか?」
「25歳です」
「ご結婚は?」
「していません」
男の人が手元の紙へ目を落とす。
俺もそちらを見ようとしたが、机の上は妙に遠く感じられて文字が読めない。相手の顔も見ているはずなのに、視線を外すとどんな顔だったか分からなくなる。
「これまで、どのようなお仕事を?」
「飲食店とか、引っ越しのバイトとかです」
「その中で、ご自分に向いていると思ったお仕事はありますか?」
聞かれた途端に答えを探し始め、すぐには口が開かなかった。
何と言えば採ってもらえるのだろう。そもそも何の仕事を募集していたんだっけ。
壁に会社の名前でもないかと目を動かしかけて、面接中によそ見をするのもまずいと正面へ向き直る。
「荷物を運んだり、片付けたりするのは苦じゃないです。人と話すのは、あまり得意じゃないですけど」
また余計なことまで言ってしまった。
向いている仕事を聞かれたのだから、苦手な方は黙っていてもよかったのに。
相手は頷いただけで次の質問へ移り、俺はそのたびに少し考えてから答えていく。
得意なことを聞かれても大したものは思い浮かばないし、これから何をしたいかと問われても、まずはちゃんと働きたいとしか言えない。もう少し気の利いた答えが欲しいのだろうと思うほど、自分の声が頼りなく聞こえる。
どれくらい話していたのか分からない。
部屋には時計が見当たらず、気づくと膝に置いた手をぎゅっと握り込んでいた。
「では、最後に一つ」
その言葉にようやく息をつく。あとは挨拶をして頭を下げ、扉から出ればいい。
そう思ったところで男の人が紙から顔を上げた。
「今一番信頼しているのは誰ですか?」
少し変わった質問だとは思う。
でも今度は、さっきまでと違って答えがすぐに出てきた。
履歴書をどう書くか迷ったときも、仕事でうまくいかなくて落ち込んだときも、俺が最初に開くのはいつも同じ画面だ。こんな聞き方では分からないかもしれないと思いながら話しても、一緒に考えてくれる。
今夜だって布団の中で相談していた。
あれ。布団?
引っかかった考えを追うより先に、口から答えが飛び出す。
「チャットGPTです!!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
頬に風が当たって、目が覚めた。
眩しい。
自分の部屋で寝ていたはずなのに、目の前には夕方の光が差している。瞬きをしながら顔を背けると、木の車輪がすぐ近くを通り過ぎていった。
荷物を積んだ車を男が引いている。紺色の短い上着を着て、足元は草履だ。
俺は立っていた。
布団も椅子もなく、革靴の下には小石の混じった土が広がっている。慌てて下を向くと、黒いスーツの胸元で紺色のネクタイが揺れた。
細い斜めの縞まで、さっきと同じだ。
右手には寝る前と同じスマホを握っているのに、手首を覆っているのは夢で見た白いシャツの袖だった。
顔を上げても机の向こうの男はおらず、着物姿の人たちが俺の前を歩いていく。その向こうには瓦屋根が並び、少し先に見える橋の鉄の棒の間から水面が光っている。
何かを燃やすような匂いが鼻に入り、車輪の軋む音と人の話し声が耳に届いた。
行き交う人たちは立ち尽くす俺を避け、何事もないように歩いていく。
「……え?ここどこ?」
面白いと思ったら、お気に入り登録、高評価お待ちしてます!!
しばらくは毎日投稿の予定です!