【30話まで投稿予約済み】明治時代をチャッピーと共に成り上がれ!   作:ヅダスキー3世

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第三章 明治成長編
第二十一話 左江内商会発足!


 

 戸口へ札を掛け、通りの端まで下がって眺める。

 少し右へ傾いている気がして戻り、紐を直してから、また下がった。

 

「京介きょうすけさん、それですと今度は左です」

 

 後ろから言われて振り向くと、空箱を抱えた清吉せいきちさんが笑っていた。

 十一月一日の朝。弁天通を通る人の足元へ、細長い日が差し始めている。

 俺は照れながら場所を空け、清吉さんに下から見てもらって紐を掛け直した。

 

左江内さえない商会

 

「今度は、いいですね」

「ありがとうございます。なかなか真っすぐにならなくて」

「字が大きいので、向こうからも分かりますよ」

 

 綺麗な字だとは言われなかったが、俺が書いたものだ。遠くから読めれば十分だろう。

 戸を開けると、おきぬさんも来て、いつもの場所へ包みを下ろした。

 

「おや、表に名前が出たね」

「今日から十一月なので、ちょうどいいかと思って」

「それじゃ、こっちも間違えずに包まないとねえ」

 

 キャラメルは、火を使える今までの場所で朝早くから煮て、冷まして運び込んである。

 蓋を取ると甘い匂いが広がり、おきぬさんが切り台を寄せる。

 四粒ずつ、六十包み。松葉屋へ四十、小野屋へ二十だ。

 棚には、次の薄荷に使う空瓶十二本を分けてある。寝床の横と違い、箱を動かさなくても手が届く。

 眺めている俺へ、おきぬさんが一包み差し出した。

 

「最初の分、これでいいかい?」

「はい、お願いします」

 

 包みの角は俺がやるよりきちんと揃っている。

 手拭いの包みを確かめ、俺も自分の用事へ出かける。

 

◇ ◇ ◇

 

 高瀬屋では、お春おはるさんが店先の台を拭いていた。

 俺を見ると布を畳み、桶を端へ寄せる。

 

「おはようございます。お仕事場の札は、もうお出しになったんですか?」

「はい、二人がかりで真っすぐにしました」

「二人で?」

「清吉さんに見てもらわないと、いつまでたっても傾くので」

 

 お春さんが笑う。

 俺はその顔を見てから、持ってきた包みを差し出した。

 

「それと、これを。ありがとうございました」

「ああ、手拭い……」

 

 お春さんは布の端を開き、折り目を撫でてから俺を見上げる。

 

「今日は、ご自分のをお持ちですか?」

「持ってます。今朝、確かめました」

「では、安心ですね」

 

 その質問をされる気がして確かめてきた、とは黙っておく。

 手拭いをしまうお春さんへ、俺からもう一つ声をかけた。

 

「次のお茶なんですけど、六日の午後はどうですか?」

 

 先に口を開くと、彼女の目が少し大きくなる。

 

「お時間、作れるんですか?」

「その日は午後の用事を入れないようにします。お春さんの方は?」

「お父っつぁんに聞いてみます。……お茶のお金は、今度こそ私が」

「はい、お願いします」

 

 お春さんが嬉しそうに頷く。

 手拭いを返して終わりにならず、また一つ約束が残った。

 

「冬に使うものの話も、もう少し聞かせてもらっていいですか?」

「はい、この前の続きですね」

 

 お春さんは桶を見てから、自分の右手を出す。

 指の節に細かな白い筋があり、親指の脇は少しかさついていた。

 

「水を使った後、拭いても、ここが突っ張るんです。冬になると、もっと」

「油を塗ったりは?」

「寝る前なら。でも、お店ではすぐに紙も触りますし、お客様へお渡しするお品に付いたら困るので」

 

 台の上には包み紙と紐がある。

 前に聞いた、べたつくと困るという言葉が、今はその二つにつながった。

 

「指の先だけ拭いてしまうこともあるんです。そうすると、塗りたいところまで取れてしまって」

「なるほど……。柔らかくて、少しで広がる方がよさそうですね」

「それと、お菓子の包みに香りが移らないものがよいです」

 

 冬には甘い香りがいいだろうと考えていた俺は、紙へ「香りは控えめ」と書いた。

 

「匂いは、あまりない方がいいですか?」

「よい香りも好きですけれど、お仕事をするときは。寝る前なら、また違うかもしれません」

 

 袖へ戻る指を見て、触れて確かめたくなった。手を伸ばす理由をうまく言えず、代わりに紙へ目を落とす。

 

「できたら、感想を聞かせてください。使いにくかったら、そのまま言ってもらえると助かります」

「よいところも、言ってよいですか?」

「それは、ぜひ」

 

 楽しみにしていますと答える笑顔をもう一度見る。

 

 店を離れたところで、道の端へ寄ってスマホを開いた。

 聞いた希望を書き足し、ハリス夫人の相談と合わせて、手に入るか尋ねる原料を並べてもらう。

 そして小野屋へ寄ると、おりんさんには、その紙とは別にお春さんの希望を話した。

 

「手に塗るものですか。でしたら、うちのお客様にも欲しい方がいらっしゃると思います」

 

 おりんさんは、薄荷を入れるものに似た細口の陶器瓶を取る。

 

「これにお入れになるおつもり?」

「ある瓶を使えれば、安く済むかと」

「最後まで、どうやってお出しになります?」

 

 差し出され、口へ指を近づけてから止めた。

 入れるときのことしか考えていなかった。

 

「……逆さにしても、落ちてきませんね」

「柔らかければ出るでしょうけれど、今度は多く出てしまいそうです。小さな蓋物の方がよろしいのでは?」

 

 おりんさんは自分の指で、浅い器の形を作る。

 口は広く、底まで届き、蓋がきちんと合うもの。持ち歩くなら蓋が外れない工夫も要るが、最初は家に置く品として考えてはどうかという。

 俺は頷きながら、瓶という字に一本線を引いた。

 

「中身は、どのくらい欲しいですか?」

「初めて買うなら、小さい方を。使って気に入ったら、次は多いものが欲しくなりますね」

「少なくすると、器の代金の方が目立ちませんか?」

「目立ちますよ。ただ、大きい方を買えば割がよくても、初めのお金が出せない方もいらっしゃいます。まず、一つ買えるお値段にできるかです」

 

 エレンさんが、自分の財布から陶器の薄荷を買ってくれたことを思い出す。

 夫人のための上等な瓶だけでは、あの一本は売れなかった。

 

「四匁ほどの小さいものと、倍の八匁ほど。その二つで器を探してみます。値段は、中身の費用が分かってから相談してもいいですか?」

「ええ、ただ、どちらも底まで使える形にしてくださいね」

 

 四匁なら、およそ十五グラム。

 換算した重さを頭で確かめ、紙へ二つの丸を描く。

 中身がまだ一匙もないのに、器だけはもう、最初に考えたものと違っていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 薬種商の主人へ紙を見せると、初めに油の名を聞き直された。

 俺はチャッピーに書いてもらった英語も横へ添える。

 欲しいのは甘いアーモンドから搾る油で、強い匂いを付けるための精油ではない。瓶を出してもらうと、思っていた杏仁のような香りはほとんどしなかった。

 白くした蜜蝋と、鯨蠟げいろうも見せてもらう。鯨から取れる蝋のようなものまで化粧品になるとは、調べるまで知らなかった。

 主人に調合用の品を見せてもらって状態を確かめ、買った材料の控えも残す。

 甘扁桃油五十匁が三十銭、白い蜜蝋五匁が四銭、鯨蠟五匁が十銭。蒸留した水十匁に二銭を払い、見本用の小さな蓋付きの器を六つ、合わせて十二銭で買った。

 器は内側まで釉薬の掛かったものを選び、ひびと蓋の合い方を一つずつ見せてもらう。

 明日と明後日の半日ずつ、化粧品用の器具と場所、秤、温度計、燃料も使わせてもらう分が十二銭。

 全部で七十銭になった。

 

 主人へ金を渡しながら、今朝の菓子の材料や包み紙、燃料の補充に払った五十二銭を思い出す。

 いつもの一仕込みより金が出ていくが、先月瓶を売った分で、揃えたいものを揃えられた。

 原料は薬種商に預かってもらい、買い付けの控えを持ち帰る。主人と話すのは材料の質や器具の扱いまでにして、最後に何をどれだけ合わせるかは自分で管理するつもりだ。*1

 

 仕事場へ戻り、おきぬさんに半日分の十銭を渡した。

 清吉さんには二店への納品と、高瀬屋で次の注文を聞いてきてもらう半日分の六銭を払う。

 俺が材料を探している間にも、菓子は店へ届いている。

 

 その晩、買った量と値段、借りられる道具をチャッピーへ伝えた。

 使う人と売る人から聞いたことも、もう一度整理して送る。

 

京介 甘扁桃油と白い蜜蝋、鯨蠟、蒸留した水が揃った。薬種商の場所と秤、温度計を二度借りられる。お春さんは水仕事の後に使えて、包み紙や紐を触れるものが欲しい。香りは付けなくていい。おりんさんからは、浅い蓋物で少量から買えるようにと言われた。まず十匁くらい試したい。配合と作り方を理由も含めて詳しく教えて。油と水なのに、どうして混ざるの?

ChatGPT 6 Astra(極高)

 今回の目標

 

 作りたい品の条件が具体的になったね。完成目標は、少量でのび、油っぽさが残りにくい、仕事の合間にも使いやすい保湿クリーム。

 

 そのための比較用として、まず手元の材料で古典的なコールドクリーム型を小さく作ろう。これは油と蝋の感触を知る出発点で、最終処方ではない。

 

 紙を扱う用途に合わなければ、乳化の仕組みから変えていこう。

 油と水を混ぜる仕組み

 

 油と水が、一つの物質になるわけではないよ。細かな水滴を油の中へ散らし、冷えてできる蝋の構造などで動きにくくする。

 

 今回のような処方は、現代の専用乳化剤を使うクリームほど安定性を期待できない。作った直後に白くなっても、それだけで分離しないとは判断しないでね。

 乳化は、片方の液をもう片方へ細かな滴として散らすこと。現代には油を水の中へ散らす型も、水を油の中へ散らす型もある。

 

 水が多ければ必ず軽い、水が少なければ必ず重いと単純には決まらず、外側に連続している相や、油と乳化剤の種類でも感触が変わる。

 手元の材料について

 

 君が持っているグリセリンは水を引きつける側の材料だけれど、それだけで油と水を安定して混ぜる乳化剤にはならない。

 

 今回は入れるものを増やさず、四つの原料から始めよう。薄荷の化粧水をそのまま水の代わりに使うのも、配合や香りの条件が変わるので避けたい。

 原料の役割と注意点

 

 原料の役割は、甘扁桃油がのびと油性の膜、白蝋が硬さや構造、鯨蠟が硬さと感触の調整、水が水分のある使い心地を受け持つ、という整理になる。

 

 油性成分は皮膚から水分が逃げるのを抑える助けになるけれど、手荒れの原因を何でも治す薬ではないよ。

 

 強い赤みや傷、痛みがあるところへ、試作品を使って確かめることはしないでね。

 参考にする製法

 

 1857年のPiesseの本にも、甘扁桃油、薔薇水、白蝋、鯨蠟を使い、湯煎で溶かして水を加えながら混ぜる製法がある。

 

 ただし、以下はその処方の忠実な縮小ではなく、香りを外し、水の割合も変えた比較試作の案。その本の保存年数の記述を君の製品の期限へ流用することもできない。

 試作・甲 一回十匁、換算では約37.5グラム

 ・甘扁桃油:六匁(約22.5グラム、60%)。

 

 ・白蝋:五分(約1.875グラム、5%)。

 

 ・鯨蠟:五分(約1.875グラム、5%)。

 

 ・蒸留した水:三匁(約11.25グラム、30%)。

 

 すべて体積ではなく重さで量る。ここでの「分」は重さの単位で、一匁の十分の一だよ。

 グラムの数字は計算上の換算だから、器具が千分の一グラムまで正確だという意味ではない。現地では同じ秤を使い、五分をきちんと量れるか、主人と扱いを確かめよう。

 

 別の秤で作るときも、同じ分銅や基準との比較が必要になる。

 作業の順序

 一、器具の準備

 

 一、器、へら、秤に載せる容器を洗浄し、十分に乾かす。食品や塗料の器具とは分ける。

 

 水と原料の由来も記録し、古い油、混入物のあるもの、用途の分からない蝋は使わない。洗って見た目が綺麗になったことと、無菌であることは別だよ。

 二、原料の計量

 

 二、空の器の重さを控え、四つの原料を別々に量る。油と二種類の蝋を一つの耐熱容器へ入れ、水は別の容器へ。

 

 湯煎の水が原料へ入らない深さにする。

 三、湯煎で温める

 

 三、油と蝋を湯煎で温め、蝋の粒が残らず溶けるまで静かに混ぜる。今回の出発条件は摂氏70〜75度程度を目安にし、むやみに高くせず、実際に溶けた温度と状態を控える。

 

 水側も近い温度に温める。

 

 これは試作のために設定する条件で、Piesseの本文からその数値を引用したものではない。

 四、水を加えて混ぜる

 

 四、油側を混ぜながら、温めた水を少量ずつ加える。一度に注がず、入れた水が散ってから次へ進む。

 

 へらで底と側面もさらい、湯煎から外した後も、冷めて粘りが出るまで混ぜ続ける。周りだけ先に固まったら中央へ戻し、空気を泡立てて見かけの量を増やさない。

 五、容器へ分けて観察する

 

 五、同じ状態で小さな容器へ分け、冷めてから蓋をする。容器内へ結露や異物が入らないように扱い、甲、日付、材料の控えを対応させる。

 

 取り分けた重さと器に残った分も記録する。一つは開けずに観察用として残し、翌朝の硬さ、水のにじみ、表面の油、匂いの変化を見る。

 硬かった場合の比較案・乙は、甘扁桃油六匁二分、白蝋三分、鯨蠟五分、水三匁。合計は同じ十匁で、重さの割合は62、3、5、30%になる。

 

 白蝋を二分減らした分だけ油を二分増やす。水の量と作業条件は揃え、同じくらい冷めてから甲と比べよう。

 

 軟らかくなっても油っぽさまで消えるとは限らないし、分離しやすくなる可能性もある。

 使い心地の確認

 

 香料を付けない今回の試作なら、材料そのものの匂いや感触を比べやすい。

 

 使った人には、好きか嫌いかだけでなく、取りやすいか、少量で広がるか、紙を触るまでにどのくらい待ちたいかを聞くと、次に直すところが見えてくる。

 保存と販売について

 

 なお、水入りの化粧品は原料や容器、指などから微生物が入る問題もある。

 

 今回は販売用とは分け、保存剤や製造・容器の管理、期限をどう確かめるかも並行して検討しよう。数日見た目が変わらないことや、少人数が一度使えたことだけで、安全な販売期限を決めないようにね。


*2

*3

 

 読み終えてから、画面を少し戻した。

 硬ければ何を変え、変えた後に何を見るか。手元の道具でできるところまで、順序が見えている。

 

「……よし、明日やろう」

 

 配合の控えをほかの注文書と分け、手元にしまう。

 続けて、八日の支払いまでに渡す翻訳を読み直した。今までの仕事も、俺の大事な収入だ。

 

◇ ◇ ◇

 

 二日の薬種商の奥は、店先より静かだった。

 借りる道具の扱いを確かめてから、俺は袖をまとめる。温度計は摂氏の目盛りで、湯煎の器へぶつけないよう主人にも念を押された。

 秤に載せた白い欠片は、見ているうちに少なく思えてくる。

 これだけで硬さが変わるのか。

 足したくなるのをこらえ、控えの数字をもう一度見る。

 油に沈めた蝋が熱で透き通り、へらで底をさらうと、最後の小さな粒も見えなくなった。

 俺は温度を控え、別に温めた水を寄せる。

 

 最初の少量を加えた途端、油の中へ白い筋が走った。

 底をさらい、側面に残った分を戻しながら混ぜる。

 水を足すたび、半透明だった中身が白く濁っていく。白粉を入れたわけでもないのに、目の前で色が変わるのが面白い。

 湯煎から外しても、手は止めなかった。

 冷めるにつれ、へらが通った跡がすぐには消えなくなる。

 

「おお……」

 

 声が出た。

 まだ温かいが、これはもう、油の瓶の中にあったものとは違う。

 クリームだ。

 俺の知っている洗面台の横に、こんな白いものが置いてあった。

 

 器へ分ける途中で、少し縁へ付けてしまう。

 拭き取った分を惜しみつつ、詰められた重さも控えた。甲の札を付けた三つの器を並べると、誰かに見せたくなってくる。

 

 残りの時間は道具を洗い分け、薄荷の化粧水を十二本仕上げる作業に使った。

 ガラス四本、陶器八本。先月買っておいた空瓶から出したので、瓶の代金は今日また払わない。材料と原料処理、こちらの製造に使う場所や器具の分として、別に四十八銭を支払った。

 午後は仕事場でお春さんに包装と注文の照合を半日頼み、終わってから六銭を渡す。

 薄荷十二本を高瀬屋へ運び、白い方は冷めるまで待つことにした。

 

 翌三日の朝、蓋を開けると、白い面には艶が残っていた。

 分けておいた確認用から、へらで少し取る。

 冷めた甲は、昨日よりずっとしっかりしている。自分の手の傷のないところへ薄くのばすと、指が途中で引っかかった。

 擦れば広がるが、お春さんに、強く擦ってくださいとは言いたくない。

 しかも、たくさん取ると手の上がいつまでも光る。

 紙を押さえた端に、薄い跡まで残った。

 

「これは……店番には困るな」

 

 硬さと取った量、紙に跡が付いたことを写真と一緒にチャッピーへ送る。

 返ってきた助言を読み、昨日と同じ場所で、用意してあった乙の配合を試すことにした。

 

 ただし、その前にいつもの菓子だ。

 もう一度六十包み分を煮て、新しい仕事場へ運ぶ。今度も材料などの補充は五十二銭、おきぬさんの半日が十銭、清吉さんの半日が六銭。今日の分も、仕事が終わったところで払う。

 おきぬさんが切り台へ向かうのを見届けてから、俺は小野屋へ足を向けた。

 

◇ ◇ ◇

 

「今朝は、少しお疲れのお顔ですね」

 

 おりんさんに言われ、俺は頬を触った。

 

「分かりますか?」

「何かできた方のお顔か、眠らなかった方のお顔か、迷っております」

「両方かもしれません」

 

 笑ってしまってから、白い試作品ができたことと、少し硬かったことを話す。

 おりんさんは残念そうにせず、では次は柔らかいものですねと返した。

 

「初めから何でも思いどおりでしたら、ほかの人もお作りになりますもの」

「そうですけど、今度はうまくしたいです」

「ええ、できましたら私にも見せてください」

 

 俺が頷くと、おりんさんは俺の手元の封書へ目を向けた。

 今朝、高瀬屋で受け取ったハリスさんからの返事だ。昨日付の手紙と、塗料を扱う商人の品書きの写しが入っている。

 

「場所をお借りしてもいいですか?塗る品物の値段を見せていただけたんです」

「どうぞ。こちらでしたら、荷の邪魔にもなりませんから」

 

 端の台を借りて紙を広げる。

 手紙には、見慣れてきた細い筆記体が並んでいた。

 

Yokohama, 2 November 1875

Dear Mr. Saenai,

I enclose a copy of a dealer's memorandum concerning paints and oils. I shall be pleased to introduce you if you wish to examine his goods. The prices are in yen, for collection, and the weights are Japanese kin of 160 momme. No goods have been ordered or reserved. My wife will be glad to hear when your cream is ready.

Yours faithfully, Harris

 

添えられた品書きの写し

Linseed oil5 kin — Yen 1.20
Oil of turpentine1 kin — Yen 0.30
Prepared black paint1 kin — Yen 0.40

 

 写真を送って訳を確かめる。

 最初の油が何の油かは、まだ自分の英語だけでは分からなかった。

 

京介 ハリスさんから返事が来た。この三つの名前と値段を教えて。ここへ行けば買えるという話で、まだ注文にはなってないよね?【手紙と品書きの写真を添付】

ChatGPT 6 Astra(極高)

 ハリス夫人からの返事

 

 うん。注文も取り置きもしていないと明記されている。

 

 品を見たければ、扱う商人を紹介するという返事だよ。奥さんはクリームができたら知らせてほしいとも書いている。

 品名・価格・単位

 

 上から、亜麻仁油五斤で一円二十銭、テレビン油一斤で三十銭、調製済みの黒い塗料一斤で四十銭。この一覧は円建てで、斤は百六十匁の日本の斤だと説明されている。

 

 別の商人の品書きでも同じ単位とは限らないので、単位の指定は写して残そう。

 取引条件と未確認の点

 

 価格は引き取りの条件。配達代を含むとは書かれていないし、少量へ分けてもらえるかも未確認だね。

 

 亜麻仁油が未処理か加工済みか、黒い塗料が何向けで、どんな下地へ使うものかも、この三行では分からない。

 

 現物と説明を見せてもらう価値はあるけれど、これは防火性能を示す資料ではないよ。


 

 亜麻仁油、と自分の紙へ書く。

 同じ油でも、今朝手に塗ったものとは用途が違う。買い付けの控えも、化粧品とは別の束にするつもりだ。

 おりんさんには訳した品名と値段だけを伝え、今度、現物を見せてもらうと話した。

 

「船にも使うものをお考えなんでしたね?」

「はい、まだ使い道から調べているところですけど」

「それでしたら、兄も、そういうお話は好きだと思います」

 

 紙から顔を上げる。

 

「お兄さんですか?」

「横須賀で、船を造る方のお仕事をしております。海軍のお役所の、造船所です」

 

 海軍、と聞いて、つい軍服姿の人を思い浮かべた。

 おりんさんは俺の顔を見て、兵隊さんを率いる方ではありませんよと付け加える。

 

「図面や、物を作る方です。帰ってきても、店の棚の傾きを直したりしております」

「それは、一日の朝にうちにいてほしかったですね」

 

 札を掛け直した話をすると、おりんさんが声を立てて笑った。

 遠かった船の仕事が、小野屋の家族の話になっている。不思議な気持ちで紙を畳んだ。

 

「お兄さんも、こちらのお店を手伝っていらしたんですか?」

「長男ですから、父はそう思っていたようですけれど。兄には、こちらより向いた仕事があったのでしょうね」

 

 おりんさんは、父親のいる奥を一度見る。

 責めるような声ではなかった。

 

「ですから、お店の方は私が。兄が戻りましたら、そのうちお会いになることもあると思います」

「そのときは、ご挨拶させてください」

「ええ、きっとお話が合いますよ」

 

 そう言われると、会ってみたくなる。

 どんなものをどう作っているのだろう。図面に向かう、まだ顔も知らない人を想像する。

 借りた台を空け、お礼を言ってから薬種商へ向かった。*4

 

◇ ◇ ◇

 

 乙は白蝋を減らした分だけ、油を増やして作った。

 昨日と同じ水の量、同じ器、同じ温め方。変えたところへ印を付けてから、もう一度へらを動かす。

 白くなり始めるところは、分かっていても面白い。

 今度は側面へ付いた分も早めに戻し、泡を増やさずに混ぜられた。器へ移すときのこぼし方まで昨日と同じにする必要はない。

 冷ます間に、ハリスさんへの礼を書いた。

 チャッピーに文を整えてもらっても、俺の筆先からあの流れるような字が出るわけではない。いつものように、一文字ずつ離して写す。

 

Thank you for the memorandum. I should be grateful for an introduction to the dealer. I would first like to examine the goods and ask about small samples.

 

 最初は、渡された手紙の意味も分からなかった。

 今は自分の聞きたいことを紙にして、返事を待てる。

 

 四日の午前、高瀬宗兵衛たかせそうべえさんから戸籍の件で追加の問いを預かった。

 今の寝起きする場所と、商会の仕事場が同じか。松葉屋にいた間と、その後の住まいについて、誰がどの範囲まで知っているか。

 

「名前の札が出たから、あそこへ住み替えたのかと思われたのかもしれないね」

 

 高瀬さんの言葉に、俺は首を振った。

 

「借りた部屋は、そのままです。弁天通は荷を置いて、包むところだけです」

「そのことも、書いておこう。松葉屋さんの話と合わせて、もう一度持っていくよ」

 

 俺は借りたときの控えを開き、日付を確かめる。

 昨夜チャッピーに見てもらった来歴の紙も、住まいと仕事場を別の行にしていた。読み返しておいてよかった。

 徳蔵とくぞうさんにも確かめ、高瀬さんへ返す紙を揃える。登録には至らなくても、答えるために動けることはある。

 紙へ新しい嘘を一つ足すより、知っている人のところへ歩いていく方が、今の俺には楽だった。*5

 

 午後になって、確認用の乙を開けた。

 甲と並べてへらを入れると、同じくらい冷めていても、乙の方が軽くすくえる。表面へ水が浮いた様子も、今のところはない。

 自分の手の甲に少しのばすと、昨日より薄く広がった。

 量を取りすぎなければ、いつまでも擦り続ける必要もない。

 俺は二つの器と記録を撮り、チャッピーへ送った。

 指先が、何度も自分の手の甲へ戻る。

 白い蝋の小さな二分が、ちゃんと分かる違いになっている。

 

 高瀬屋へ見本を持っていくと、お春さんは思わず身を乗り出した。

 

「これが、あのお話の?」

「はい、まだ試している途中です。使うものとして渡す前に、感触を少し見てもらえたらと思って」

 

 傷や赤みのあるところには付けないこと、合わなければすぐ落とすことを伝えた上で、どうしますかと尋ねる。

 お春さんは頷き、手を綺麗にして戻ってきた。

 乾いた清潔なへらで、少量を取り分ける。荒れている指先ではなく、傷のない手の甲へ自分でのばしてもらった。

 

「冷たい……。でも、油だけみたいには垂れませんね」

 

 指が手の甲をゆっくり滑る。

 その動きを見ていたら、俺まで息を詰めていたことに気づいた。

 

「どうですか?」

「少しで広がります。もっと取るのかと思いました」

 

 お春さんは指を止め、光の方へ手を傾ける。

 

「ただ、これを塗った指で、すぐにお品を包むのは……」

「やっぱり、難しそうですか?」

「ええ、でも、手の甲どうしでこうしたらどうでしょう?」

 

 お春さんは両手を返し、手の甲をそっと擦り合わせた。

 指先へ広げる前に、よく乾くところへ薄くのばしていく。

 

「お仕事の合間はここだけにして、指の周りは、おしまいになってから。今まで、手のひらへ取って全部に塗るものだと思っていたので」

 

 なるほど、今の試作品でも使い方は工夫できる。

 ただ、お春さんが困っていたのは指先だ。そこへ塗れないままでは、最初に聞いた希望へ届かない。

 

「教えてくださってありがとうございます。中身も、もっと軽くできないか試しますね」

「私が教えるほどのことではありませんよ」

「俺は気づかなかったので」

 

 そう答えると、お春さんは手を見つめたまま、嬉しそうに口元を緩める。

 

「これ、おせいさんにも喜ばれそうですね。お水を使うお仕事が多いですから」

「そうですね、ちゃんと売れる品にできたら持っていきます」

「私の分も、お願いします」

 

 予約を受けた気がして、俺は頷いた。

 まだ値段も決めていない。それでも、欲しいと言ってくれる人の顔が目の前にある。

 お春さんは器の蓋を眺めてから、少し声を落とした。

 

「六日の午後、大丈夫だそうです」

 

 一瞬、何の六日か考えてしまった。

 気づいて顔を上げると、お春さんがこちらの反応を待っている。

 

「お茶ですね。よかった、楽しみにしています」

「はい、楽しみにしております。……その日は、見本の器はお持ちにならなくてよいですから」

 

 図星を突かれたようで、俺は笑った。

 うまくできたら見せようと、少し考えていたのだ。

 

「分かりました。手拭いだけ、忘れずに持ちます」

 

 お春さんも笑い、蓋を閉じた器を返してくれた。

 

◇ ◇ ◇

 

 続いて小野屋でも、説明してからおりんさんに乙を確かめてもらう。

 思ったより少量で足りると、彼女も驚いた。

 

「でしたら、小さい器でも何度か使えますね。ただ……」

 

 おりんさんは、試作用の器の縁へ指を近づける。

 

「ここへ付いた分を取るときに、爪が当たります。売る器は、もう少し浅い方が」

 

 底まで使えるもの。

 一日に言われた条件が、実物を前にするとよく分かる。

 俺が頷くと、おりんさんは、器を扱う知り合いへ小さい蓋物を聞いてみると言ってくれた。まだ数を頼まず、まず形と一つの値段を確かめる。

 

「お代は、かかった分をお知らせください。見本を借りられるなら、その条件も」

「ええ、勝手に一箱買っておいたりはいたしませんよ」

「それは助かります」

「京介さんでしたら、中身の方は一箱分お作りになりそうですけれど」

 

 そう言って笑う目に、こちらをからかう色と、期待する色が重なって見えた。

 次の器の話をしてもらえると、もう一度作ろうと思える。

 

 その日のうちに、一日と三日のキャラメル百二十包みと、薄荷十二本の売上を受け取った。

 菓子は店の口銭を引いて四円三十二銭、薄荷は高瀬屋の口銭十二銭を引いて一円二十四銭。いずれも売れた分の代金で、まだ白いクリームからは一銭も入っていない。

 帰ってから帳面を撮り、チャッピーと数字を照合する。

 

十一月四日 手元の控え

月初の現金 五十一円三十七銭二厘

受取 菓子四円三十二銭/薄荷一円二十四銭

支払 菓子の補充一円四銭/包装二十銭/配達十二銭

支払 薄荷の材料・製造四十八銭/包装六銭

支払 新しい試作七十銭/紙と灯油二銭

現金 五十四円三十一銭二厘

うち返瓶用 六円八十銭/それを除く現金 四十七円五十一銭二厘

 

 返ってきた瓶の買い取りは、この四日間にはなかった。新しく売れたガラス四本と陶器八本の分、二十八銭を返瓶用の取り置きへ増やす。

 家賃と八日までの飯代は払い済みで、翻訳の次の報酬はまだ受け取っていない。

 新しいことへ七十銭を使っても、手元の現金は月初より増えている。

 いつもの甘い菓子と薄荷が稼いでくれた金だ。

 だからこそ、次も作れる。

 

 机の端には、塗料の品書きが置いてあった。

 ハリスさんへの返事は高瀬屋へ託し、紹介の返答を待つことになっている。おりんさんの兄のこともチャッピーに伝え、会えたらどんな仕事をしている人なのか、まず聞いてみようと考えた。

 手の甲に塗るものと、船に塗るもの。

 同じ商売の中へ置くにはずいぶん遠いが、最初の材料を探すところは、どちらも人に聞くことから始まっている。

 

 試作の記録へ二人の意見を書き足し、乙を少し取って指先にのばす。

 元の世界では、クリームを塗った後もスマホや本を触っていた。白いものができて喜んだが、俺が知っている使い心地は、もう少し先にある。

 スマホを開き、今度はそれを尋ねる。

 

京介 乙は柔らかくなったけど、お春さんはまだ指先で包み紙を触りにくそうだった。手の甲だけに塗る工夫もしてくれたけど、指にも使えるものにしたい。俺が現代で使っていたハンドクリームに、もっと近づけられない?しっとりするのに重くなくて、少しでのびる感じ。今の材料だけに限らず、足りないものを探すところから教えて。

ChatGPT 6 Astra(極高)

 次の試作の目標

 

 うん。次は現代のハンドクリームに近い使い心地を材料の役割と乳化の設計から再現する方向へ進もう。

 

 甲と乙では蝋を減らした分だけ油を増やしたので、柔らかさは変わっても、油性成分の合計は七割のまま。今度はその比率も、油と水を支える仕組みも見直す。

 現代に近い乳化の設計

 

 有力なのは、水の側へ油性成分を細かく分散させる水中油型、O/W型だよ。グリセリンなどで水分を保つ働きを持たせ、油性成分は肌を柔らかく保つことや、水分の蒸発を抑えることへ使う。

 

 乳化剤は両者の境目を安定させ、硬さを調整する成分と組み合わせて、すくったときにはまとまり、塗ると薄く広がる状態を目指す。

 

 O/W型という名前だけで軽さが決まるわけではなく、油の種類と量、結晶の状態、混ぜ方や冷まし方も関わる。

 現代のハンドクリームの公開例

 

 現代の公開例として、DSMの「Fresh Hand Cream」がある。配合表の水は二つの工程を合わせて67.11%、グリセリンは5%。

 

 ほかに油性成分、複数の乳化剤、感触を調整する成分、保存のための成分を組み合わせている。

 

 水分、油分、保湿、乳化、保存へ、それぞれ役割を持たせて作るということだね。

 

 ただし、この処方にはシリコーンや合成高分子などもあり、高速の乳化機も使う。同じ名前の材料と機械が横浜で揃うとは考えず、君が欲しい感触を作るため、どの働きが必要かを読み取ろう。

 次に検討する原料

 

 手元のグリセリンと甘扁桃油は、新しい処方でも候補になる。探したいのは、油と水を安定してつなぐ材料と、蝋を多く入れなくても適度な粘りを持たせる方法。

 

 初めに検討する一案は、ステアリン酸などの脂肪酸と、その一部を中和して作る石けんを使う系だよ。

 

 後世のバニシングクリームの研究にも、脂肪酸とナトリウム・カリウムの石けん、グリセリンなどを含む水相を組み合わせた例がある。硬い蝋で油を固める今回の配合とは、構造の作り方が変わる。

 乳化法を選ぶ際の注意

 

 ただし、これは乳化法の候補であって、そのまま現代品と同じ感触になるという意味ではない。脂肪酸の組成や中和の割合で、硬さや塗り広げたときの感触も変わる。

 

 石けんを使う系ではアルカリ性や肌への刺激も検討する必要があり、弱酸性にすればよいと酸を足すだけでは、乳化を保てなくなることがある。目標に合わなければ、別の乳化剤を調達・製造する案も比べよう。

 薬種商へ確認すること

 

 明日は薬種商へ、ステアリン酸という名で扱う原料と、濃度を確かめられるカリウム系のアルカリについて照会しよう。

 

 蝋燭の名だけで選ばず、何から作られ、何が混ざっているか、少量の見本と規格や説明があるかを聞く。今の横浜で必要な品質の品が手に入るかは、まだ確認できていない。

 

 君のグリセリンも、原液の濃さを確認して配合へ入れる。

 

 手に入る原料の情報が揃えば、それに合わせた重量比、加熱、投入順、冷却の手順を組めるよ。

 試作品の比較項目

 

 比較する項目は、少量で広がるか、冷えた朝にも取りやすいか、しっとり感があっても油の膜が重く残らないか。紙への移り方は、塗る量と待ち時間を揃えて甲・乙とも比べる。

 

 指先に塗ってすぐ食品へ触れてよいという意味にはしないけれど、日々の仕事で使いやすくする余地はある。

 保存の設計と試作の記録

 

 水の多い処方に進むので、保存の設計も一緒に変える。手に入る保存用の成分が、その処方で働くかを検討し、器具、容器、作った後の管理まで含めて商品にしていこう。

 

 新しい試作は丙として別に記録し、甲と乙は比較の基準に残そう。


*6

 

 紙へ、ステアリン酸と書き写す。

 油を減らして水を足すだけでは、あの感触にはならない。それでも、何を探し、何を比べれば近づけるかは分かった。

 甲と乙の横へ、次の記録用の紙を置く。

 そこには、先に目標を書いた。

 指先にも使いたくなるもの。

 お春さんが手の甲を擦り合わせていた姿を思い出す。あの人に、次は指までのばして喜んでもらいたい。

 それから別の紙へ、六日の午後と書いた。

 

 その日の持ち物に、見本の器は入れない。

 

*1:
甘扁桃油、白蝋、鯨蠟を使うコールドクリームの処方は、G. W. Septimus Piesse『The Art of Perfumery』1857年版、第11節に掲載されている。ただし、本話の架空の薬種商で1875年に各原料や温度計を揃えられるという具体的な調達状況は、その海外の記録を背景に設定した創作。横浜の当該時点の在庫を確認した史料ではない。https://www.gutenberg.org/files/16378/16378-h/16378-h.htm

*2:
古典的な原料と湯煎・撹拌の工程はPiesse『The Art of Perfumery』1857年版、第11節を参照。甲・乙の配合、温度の目安、作中の試作結果は、古典的処方を参考に構成した創作上の開発条件であり、1875年の横浜での実施記録や、現実に安全性・安定性を検証済みの製品処方ではない。https://www.gutenberg.org/files/16378/16378-h/16378-h.htm 化粧品への微生物混入と容器・使用時の管理はFDA「Microbiological Safety and Cosmetics」を参照。https://www.fda.gov/cosmetics/potential-contaminants-cosmetics/microbiological-safety-and-cosmetics 保湿剤と手の乾燥については米国皮膚科学会「4 skin care tips for your hands」を参照。https://www.aad.org/public/everyday-care/skin-care-basics/care/skin-care-tips-hands

*3:
本文のグラム数は一匁を約3.75グラムとして計算した説明用の換算値。当時の秤の精度や、後年のメートル法との厳密な関係が既に定められていたことを示さない。貫がキログラム原器に基づいて定義された1891年の度量衡法については、産業技術総合研究所「キログラム原器についてやさしく説明しています」を参照。https://staff.aist.go.jp/n.kuramoto/Prototype.html

*4:
横須賀造船所が1872年に海軍省所管となったことは、アジア歴史資料センター「横須賀造船所」を参照。おりんの兄は本作の架空人物で、この時点では文官の技術者として設定している。海軍所属という理由だけで、後年の技術武官の階級を当てはめてはいない。https://www.jacar.go.jp/exhibition/glossary/term3/0010-0080-0110-0080-0010.html

*5:
戸長が戸籍関係事務にあたる制度の背景は、国立公文書館「明治4年(1871)4月 戸籍法が制定される」参照。本話の追加照会の内容や、高瀬らを通じて書付を揃える具体的な経過は、特殊な来歴を持つ主人公について設定した創作であり、同様の事例の標準手続きを再現するものではない。https://www.archives.go.jp/ayumi/kobetsu/m04_1871_02.html

*6:
現代の公開モデル処方の例はDSM「Fresh Hand Cream」(SK-E-800040-1)を参照。水67.11%は別工程の32.11%と35%を合計した値。現代品の設計を考える資料であり、掲載原料や乳化設備が1875年の横浜で調達できる根拠には用いていない。https://www.dsm.com/content/dam/dsm/personal-care/en_us/documents/formulations/bodycare_formulation_hand%20cream.pdf 脂肪酸・石けん系の構造と物性については鈴木一成「Rheological Study of Vanishing Cream」『Journal of Japan Cosmetic Chemists Association』9巻2号、1975年、33〜40頁を参照。https://www.jstage.jst.go.jp/article/sccj1970/9/2/9_2_33/_article/-char/en 同論文は100年後の研究であり、当時の横浜での製造実績を示さない。本話では新処方の候補を選び原料照会へ進む段階とし、丙の配合・性能・材料入手はまだ確定していない。

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