TRPGクリエイターカオスくんのGM日記 作:TRPGクリエイターカオスくん
「久しぶりですね」
「一週間ぶりね!」
「凄いことになっちゃいましたね……」
「念のため、日本語を使わなくて良かったです」
一週間ぶりに白い部屋へ集まった四人は、前回のセッションについてひとしきり話した後、それぞれ自分のシートを確認し始めた。
なお、地球からナーロッパ星へ向かう航行中に出来ることは、成長点を割り振ることくらいしかない。燃料と食料だけはしっかり減る。
我ながら、なかなかのクソ仕様である。
「次はナーロッパ星か。えーっと……火山に咲くフレアフラワーの蜜、海中に咲くフィッシュフラワーの蜜、森の奥深くにあるミラクルフラワーの蜜、もしくはダンジョン最深部にあるマジカルフラワーの蜜を手に入れる、と」
「出来るの? なんか凄く難易度高そうだけど……」
ディーが読み上げる横で、アルスが早くも不安そうな声を上げた。
「どれか一種類でいいみたいね」
「最悪、現地の冒険者に依頼すればいいでしょう。そのために私も技能を取りました」
サクラが言えば、スタンが早くも正攻法を見つけ出す。
「頭脳蟲は言語理解にボーナスがあるんだっけ?」
「ええ。初期技能に加えて、前回得た成長点も全て言語関係につぎ込みました」
「今回は見落としがないように、隅々まで確認するぞ」
頼もしい。
前回、初期資金すら設定し忘れたGMとしては耳が痛いが、今回はちゃんと修正したから大丈夫なはずだ。たぶん。
「現地の主な種族は、エルフ、ドワーフ、獣人、人間、妖精、マシーナの六種族ね」
「エルフの協力を取り付けられれば、ミラクルフラワーの蜜が手に入りやすいとあるわ」
「ドワーフならフレアフラワーか。フィッシュフラワーは海中だから難易度が高いんだな。マジカルフラワーはダンジョンだから、どの種族でも冒険者を雇えばいけそうだ」
「まあ、とにかく行ってみてからだな」
全員の準備が終わったところで、ゲームを開始する。
◇
「ああ、皆さん。ナーロッパが見えてきましたよ」
船内から前方を眺めれば、青い海の向こうに緑豊かな島が見えていた。
【よっ、ワーカー。おおー、あれがナーロッパか。だいたい北海道くらいか?】
「目的の花はどこにあるのかしら」
「地図はこちらになります。どこに降りますか?」
【うーん。せっかくだから全部見て回りたいが……】
「一番場所が分かりやすいのはフレアフラワーですね」
「じゃあ、まずはそこを見に行きましょう」
最初に向かったのは火山地帯だった。
赤黒い山肌から煙が上がり、その中に、炎をまとっているとしか思えない巨大な花が咲いている。
【すげー……って、あっつ! これは無理! 蜜の回収なんて出来るか!】
【そうだね。見るだけにして、森の方へ行ってみようか】
せっかくなのでデジカメで写真だけ撮って、早々に撤退する。
次に向かったのは、島の大部分を覆う巨大な森だった。
上空から森を眺めながら、どこに降りようか相談していると――。
【げっ、なんか痛い!】
【痛い痛い! 攻撃されてる!】
船体に次々と何かが突き刺さる。
慌てて高度を下げると、森の中から弓を構えた人影がこちらを取り囲んでいた。
【なんか囲まれてる! 交渉担当!】
「分かりました。なんとかやってみましょう」
スタンを先頭に、全員で船の外へ出る。
待ち構えていたのは、長い耳を持つエルフたちだった。
「■■■■■!(ひっ、化け物! モンスター!?)」
おお。
GMだからか、NPCの言葉は普通に意味が分かるらしい。
「どう? どう? スタン!」
「いや、さすがに一言だけでは無理ですよ。もっと話してもらわないと。出来れば読み書きの情報も欲しいですね」
スタンは慌てることなくスケッチブックを取り出した。
二人が笑顔で手を握っている絵を描き、その下に『友達』と日本語で書いて見せる。
「■■■■? ■■■■■■(絵だと……? 魔物ではないというつもりか?)」
エルフたちは警戒しながらも、興味を示した。
スタンが何枚も絵を描いて見せ、やがてペンとスケッチブックそのものを相手に渡す。エルフ側も絵や文字を書き始め、なんとか意思疎通らしきものが成立した。
その間、サクラは負傷者の治療である。
驚いたことに、傷口を塞ぐために自分の体から糸を出していた。
蜘蛛だったんか、お前。
蜜食ってたじゃん。
気になって聞いてみたが、サクラ本人にも分からないらしい。
スペースバグズ、謎が多い。
スケッチブックを二冊使い切る頃には、言語特化したスタンは簡単な会話が出来るまでになっていた。
「超高級な花の蜜が欲しいのか? 取りに行くのは大変だぞ」
「姉様、こんな奴らを信じるのですか?」
「信じるというか……どう見ても蜂だろう。花の蜜が欲しいというのなら納得は出来る。それに、里へ案内しろと言っているわけでもない」
どうやら、巨大昆虫の外見が逆に説得力になったらしい。
『森の奥にあるという、ミラクルフラワーの蜜が欲しいのですが』
「ふむ。いいだろう。採取を手伝ってやる。ただし、一つ条件がある」
『どのような?』
「私は、この島の先を見てみたい。お前たちが乗ってきた使い魔に、私も乗せてくれ」
『それだけで良いなら、喜んで』
「ならば依頼の魔法契約を結ぼう」
予想以上に交渉がとんとん拍子に進んだ。
エルフの女性はミララと名乗り、彼女の案内で森を抜ける。しばらく歩いて大きな街へ入ると、当然ながら大騒ぎになった。
人々が遠巻きにこちらを眺めている。
まあ、巨大な虫人間がぞろぞろ歩いていたら、俺だって見る。
その後、街の責任者も交えて正式な契約を結ぶことになった。
「それでは、ミララさんがミラクルフラワーの蜜の採取を手伝う代わりに、スタンさんたちはミララさんを海の向こうの大陸まで送り届ける。帰りの便は三日後。それまでに戻れない、もしくは本人が帰還を拒否した場合、スタンさんたちに帰還させる義務はない。これでよろしいですね?」
「うむ。だが、お前たちは見るからにへっぽこだからな」
ミララが俺たちを見回した。
失礼な。
事実だけど。
「同じ条件で、我こそはという者はいないか! 島の外を見たい者は名乗り出ろ!」
ミララが声を上げた途端、周囲がざわめいた。
「島の外の種族か……」
「めちゃくちゃ怖いな。島の外の人間は化け物なのか?」
「ゴブリンより怖い種族、初めて見たわ」
「ワタシ、行きたいデス! 世界を巡る吟遊詩人になりたいのデス!」
「ならば私に任せるがいい!」
「お待ちください、王子!」
最後の一人のせいで、さらに話が大きくなった。
なんだかんだと揉めた末、今回の同行者が決定した。
弓と魔法は任せろ、エルフのミララ。
「森の案内はお手のものだ」
近衛兵にしてソードマン、人間のアレン。
「戦闘ならお任せください!」
吟遊詩人志望、マシーナのユメ。
「伝説を私が紡ぎます!」
面白いことが大好きな妖精、リン。
「楽しそうだから行くー♪」
そして、なぜかついてくることになった王子、トール。
「未知の大陸! この目で見ずして何が王族か!」
「お待ちくださいと言っているでしょう、王子!」
アレンが頭を抱えていた。
ともあれ、以上のメンバーでミラクルフラワーの蜜をゲットだぜ!
運搬料だけではこちらが申し訳ないので、地球でもらったサバイバルグッズをいくつか渡すと、大変喜ばれた。
お金?
蜂だからね。
異文化だから仕方ないね、で納得してもらった。
◇
そうして意気揚々とミラクルフラワーの蜜を採りに出発したのだが、ここで重大な問題が発覚した。
スタンは頭脳特化。
サクラは医療特化。
ディーとアルスは宇宙船。
俺はNPC。
戦闘係が一人もいない……!
結果。
おんぶに抱っこだった。
魔物が出ればミララが射抜き、アレンが斬り、トールが魔法で吹っ飛ばす。リンは周囲を飛び回り、ユメはその様子を楽しそうに記録していた。
俺たちは、その後ろを必死についていく。
二日かけて森の奥へ到達した頃には、全員すっかりグロッキーだった。
その甲斐あって、目的地では無事にミラクルフラワーを発見した。
大木すら覆い隠す巨大な花から、ミララが慎重に蜜を採取していく。
目的の蜜を十分に積み込んだところで、今回の依頼は達成である。
そして今度はこちらが約束を果たす番だ。
ユメ、リン、アレン、ミララ、そしてトール。
五人を船に乗せ、島を離れる。
嬉しい誤算もあった。
地球でもらったらくらくホンをユメに見せたところ、マシーナである彼女はどういうわけか端末と接続出来たのだ。
これなら離れていても連絡が取れる。
どういう仕組みなんだろう。
まあ、便利だからヨシ!
「すごいぞ、すごいぞ! 見よ、アレン! 我らが国があんなに小さく!」
「はっ。他国は恐ろしい技術力を持っているのですね」
「技術というより、凄い種族って感じだけどな……。おお、本当に陸地があるぞ! でかい!」
海を越えた先には、ナーロッパ島とは比較にならないほど巨大な陸地が広がっていた。
『街の近くに降りましょうか』
「うむ!」
適当に大きな街を見つけ、その近くへ着陸する。
しばらくすると、街の方角から凄い勢いで騎馬の一団が駆けてきた。
そして、俺は目を疑った。
えっ。
三つ目!?
人も三つ目!
馬も三つ目!?
「■■■■■■!」
何か叫んでいるが、NPCではないから俺にも意味が分からない。
向こうも俺たちを見て目を見開いている。
いや、三つとも見開いている。
島から来た五人を見た瞬間には、完全にパニックになった。
「王子、どうします!?」
「こうする!」
トールがいきなり魔法を放った。
大陸側が一斉に武器を構える。
「ぐっ、何をする!」
「翻訳魔法だ! 我らは大陸の外から来た! 三日ほど観光をして帰りたい! 滞在の許可が欲しい!」
通じた。
凄いぞ、魔法。
「大陸の外……!? いくら大陸の外だからといって、そんな種族がいるはずがないだろう! 虫だって目が三つあるんだぞ!」
「実際にいるんだから仕方ないだろう! というか、我らにとっては君たちの方が化け物だ!」
「ぐっ……! しばし待て! 判断を仰いでくる!」
一人が馬を飛ばして街へ戻っていった。
それからが長かった。
最初の報告を信じてもらえなかったらしく、別の人間が偵察に来た。
そいつも俺たちを見て驚き、街へ戻った。
今度はもっと偉そうな人が来た。
やっぱり驚いて帰った。
何度目かには、
「本当に目が二つしかない……」
と呟かれた。
失礼だな。
島側の皆さんも、そっちを見てまったく同じような顔をしているけど。
ようやく話の出来る立場らしい人物が現れた頃には、すっかり日が傾き始めていた。
「それで……何のために我らの大陸へ来た?」
『ご当地蜂蜜ください! あと、観光です!』
スタンが堂々と答えた。
「そうだ! 観光がしたいぞ! それに他大陸の文化や技術にも興味がある。土産も持ってきてあるぞ!」
「ワタシ、歌劇や歌が聞きたいのデス!」
大陸側の偉い人は、トールが王子だと知った瞬間、凄い勢いで頭の中の計算を始めた顔になった。
「……分かりました。受け入れの準備に一日いただきたい。その間、ささやかではありますが宴を用意いたします。ぜひご参加を」
「おお! 宴か!」
なるほど。
宴という名の情報交換会だな。
◇
その夜は、大陸側と島側の双方が質問攻めになった。
翌日には正式に街へ案内され、衆人環視の中で観光と買い物を楽しんだ。
費用はなんと町長さん持ち。
土産として持ってきた島の品物を見せれば向こうが驚き、大陸の品物を見ればトールたちが驚く。
俺たちバグズはというと、予定どおりご当地蜂蜜を探して回った。
美味しい。
実に美味しい。
地球の蜂蜜とも、バグズ星の蜂蜜とも違う味だった。
自衛隊から買った刀を売る事で、何種類かの蜜や保存食、珍しい道具も得られて、貨物へ積み込んだ。
三日目。
一行は元の島に戻る事にした。
「いやあ、楽しかった! また来たいものだな!」
「王子、それを決めるのは国です」
「ワタシ、歌いっぱい覚えました!」
「また来ようねー♪」
「まさか本当に海の向こうに、これほど大きな大陸があるとはな」
「帰ったら報告書が大変ですね……」
全員無事で何よりだ。
五人を島へ送り届けると、ミララから改めて礼を言われ、王子からはフレアフラワーやフィッシュフラワー、マジカルフラワーの蜂蜜まで褒美として渡された。
それぞれ小瓶に一つとはいえ、最高級の蜂蜜だ。
これで目的達成。
買い物もした。
お土産もある。
ご当地蜂蜜も手に入れた。
たくさんの写真をデジカメで撮った。
俺たちはナーロッパ星を離れた。
◇
「あとは無礼さえしなけりゃ楽勝だろ!」
「今回も生き延びられて良かった〜」
「今回は全員大活躍だったわね!」
「経験点も褒賞点もたっぷり貰えましたし、宴会ですね」
全員満足そうにシートを確認している。
スタンだけは、ふと思い出したように顔を上げた。
「……あとは多分、妻が警察に届け出ているので、行方不明者届を取り消さないと」
「あっ」
「あー……」
「そういえば数日経ってるんだった」
全員が納得した。
ゲームの中で過ぎた時間は、現実でも同じように過ぎる。
そして俺にも重要な予定がある。
明日はコミショである。
間に合った。
期限内に帰ってこられて、本当に良かった〜。
今日は早く寝なきゃな。