TRPGクリエイターカオスくんのGM日記 作:TRPGクリエイターカオスくん
イベントである!
「今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくね」
先日のイベントで知り合ったメガネの女の子、桜さんに挨拶をして、せっせと設営を手伝う。
今日は桜さんのサークルにお邪魔して、交代で売り子をさせてもらう予定だ。
そして空いた時間には買い物をする。
何を買うかって?
もちろん、バグズ本である!
ファーストコンタクトからまだ大して時間も経っていないというのに、人類は逞しかった。
あるわあるわ、バグズ本。
一番人気は船蟲同士のエッチな本らしい。
ドラゴンカーセックスのノリでバグシップセックスなるジャンルが早くも生まれており、船蟲が船を同類と勘違いしてエッチする話まである。
業が深い。
人類、業が深い。
他にも自衛隊員×頭脳蟲なんて本まであった。
早い。
何もかもが早い。
俺は大変感心しながら買った。
資料だからね。
バグズの今後を考えるためにも、世間からどう見られているのか知る必要があるからね。
決してエッチな本が欲しかったわけではない。
たぶん。
桜さんのスペースへ戻ると、今度は俺が表紙を描いたことを知っている人からスケブを頼まれた。
「バグズお願いします!」
「はい」
さらさらと描く。
「船蟲もいいですか!?」
「いいですよ」
描く。
「すごーい! ニュースで見るより細かい!」
「いっぱい資料を見たので」
「愛ですね!」
「そうですね!」
本物を見たからね!
自分もなったしね!
危ないので余計なことは言わない。
その後も売り子をしたり、スケブを描いたり、買い物に走ったりと忙しく過ごした。
昼食は交代で慌ただしく済ませたものの、イベントが終わった後は桜さんとファミレスへ入り、ようやくゆっくり食事をすることが出来た。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ。楽しかったですよ。また誘ってください」
「ぜひ!」
イベントの話から創作の話になり、やがて当然のようにバグズの話になった。
そこで桜さんが、少し照れくさそうに笑った。
「私、子供の頃は宇宙飛行士になりたかったんです」
「おお」
「無謀にも憧れてたんですよ。宇宙って、とっても夢がありますよね」
「ですよね!」
分かる。
俺なんて今、実際に宇宙を飛び回っているからな!
「でも、虫歯があって。子供の頃、宇宙飛行士は虫歯があるとなれないって知って、凄くショックだったんですよね。まあ、成績からいっても絶対無理だったんですけど」
桜さんが笑う。
「結局、挑戦すら出来ずに終わっちゃったなあって」
「今でも宇宙に行きたいと思います?」
「それはもちろん!」
即答だった。
「宇宙には行ってみたいですよ。いつか本物のエイリアンにも会ってみたいです!」
俺は深く頷いた。
「じゃあ、エイリアンさんも見たいって思えるくらいの作家さんにならなきゃですね」
「え?」
「桜さんの本が宇宙まで届いたら、エイリアンさんが読んでくれるかもしれないじゃないですか」
桜さんが目を見開いた。
それから、少し困ったように笑う。
「挑戦、していいんでしょうか」
「挑戦した方が、失敗した時に盛大に悔しがれますよ」
「……ですよね!」
桜さんが笑った。
いい笑顔である。
「今度、一緒にまたイベント出ませんか? いつがお休みなんです?」
「基本、日曜日ですね」
「なるほど」
日曜日か。
俺も男だ。
女の子の願いを叶えるのはやぶさかではない。
次のキャンペーンの参加者が一人決まった。
その日の食事はとても楽しかった。
別れ際には桜さんからバグズのいちゃらぶ本までもらった。
今日は実に良い一日だった。
◇
帰宅して風呂を済ませた俺は、早速バグズ本を堪能した。
「いいねえ……」
いちゃらぶ、いいねえ。
たっぷり堪能したところで、本物のバグズるるぶを開く。
次のキャンペーンを始める前に、まずはこちらを終わらせよう。
そして桜さんの休日に合わせて次の予定を立てる。
狙い目はシルバーウィークと正月だな。
まずは今のメンバーを招集しよう。
◇
「今回は早かったですね」
「いよいよラストシナリオか……」
「女王様に目通りするのね」
「緊張するな」
四人が白い部屋へ揃った。
今回も移動中に出来ることはほとんどない。
燃料と食料だけはしっかり減っている。
残量はかなり心許ない。
全員が確認を終え、『済』のハンコをキャラクターシートへ押す。
そしてゲームが始まった。
「皆さん、お久しぶりです!」
【よっ、ワーカー!】
「女王様に御目通りする前に、積荷に蜜を補充していきましょう。かなり空きがありますからね」
【そうだな。船二隻分あるしな】
「ついでにバグズ星で買い物したいわ!」
「クエスト終わるのに必要ないだろ」
「女王様に認められれば、次の旅にも出発出来ますよ。予算もありますしね」
使ってなかった初期資金がな!
今度こそ忘れてはいない。
俺たちはバグズ星へ降り立つと、まず巨大な花が咲き乱れる場所へ向かった。
そこではバグズたちが当たり前のように花から蜜を採っている。
俺たちも空いた貨物スペースへたっぷりと蜜を補充した。
その後は観光である。
俺自身も、設定として書いただけで実際のバグズ星を見るのは初めてなので、普通に楽しい。
巨大な花。
巨大な虫。
あちこちを行き交う船蟲。
地球ともナーロッパともまるで違う。
「服を着てる人と着てない人がいますね。違いはなんなんですか?」
店へ入ったところで、スタンが店主へ尋ねた。
「服を持たないのは、生まれたてで知識も財産もない奴だな」
「え゛」
俺たちは揃って自分の体を見た。
裸である。
「なんだ、お前ら。もしかして支度金で服を買おうってのか?」
「そのつもりでした」
「駄目だ駄目だ。支度金は旅のために女王様から預かった金だぞ。まず女王様へ貢ぎ物を納めろ。旅の成果を認められて報奨金をいただいてから、自分の物を買うんだ」
「……貢ぎ物をして、また来ます」
「そうしろ」
なんと。
そんな文化があったのか。
つまり俺たち、今までずっと、
生まれたての無一文。
という格好で宇宙を飛び回っていたらしい。
「…………」
考えないことにしよう。
俺たちはすぐに城へ向かった。
いよいよ女王様への謁見である。
ドキドキしてきた。
どんな女王様なんだろう。
巨大なのかな。
それとも綺麗な蜂っぽいのかな。
ドキドキ。
ドキドキ……。
「では、こちらへ納品を」
納品係だった。
女王様には会えなかった。
ですよね。
いちいち新人商人全員と謁見なんてしていられないよね。
しかも納品するのは、今回の旅で手に入れたものだけではなかった。
持っているもの全て。
地球で手に入れたもの。
ナーロッパで手に入れたもの。
買ったもの。
貰ったもの。
蜂蜜も、道具も、全部である。
それらを引き渡して、待つ。
一日。
二日。
三日。
三日後、ようやく俺たちは呼び出された。
「今回の交易、ご苦労であった。量は少ないが、いずれも珍しい蜜である。女王様は大変お喜びだ」
「ありがとうございます!」
「功績を認め、勲章、制服、報奨金を下賜する」
「ありがとうございます!!」
やった!
ようやく服が着られる!
船蟲であるディーとアルスにも、ちゃんと専用の制服が用意された。
船に服ってどうやって着せるんだと思ったが、ちゃんと着られた。
格好いい。
報奨品について希望も聞かれたので、地球で便利だったデジカメとスマホを希望すると、それも改めて下賜された。
これで俺たちは、ようやく一人前のバグズらしい。
「さらに十日間の休暇を与える。ゆっくり羽を休めるがいい」
「ありがとうございます!!」
十日か。
それが終われば、このキャンペーンも本当に終了である。
「十日後にはお別れですね。寂しくなります」
【そうだなあ】
「色々買い物しても、無駄になっちゃうってこと?」
「地球にデジカメ渡したかったわ」
そうだ。
前回、地球でもらったデジカメには、ナーロッパで撮った写真がたくさん入っている。
火山。
巨大な花。
森。
エルフ。
妖精。
マシーナ。
そして、三つ目の人々と馬。
「では、休暇中に地球へ行きますか? これだけ報奨金があれば往復出来ますよ」
【行く】
【行こう】
「行きたいわ!」
「賛成です」
即決だった。
俺たちは買い物を済ませ、ギリギリまでバグズ星を観光した後、再び地球へ向かった。
◇
地球へ近づいたところで、スマホを取り出す。
前回もらった連絡先が残っていた。
日本語を自由に使えることは知られていないので、難しい文章は送れない。
悩んだ末、スタンが『これから行くよ』とだけ送った。
よし。
伝わるだろう。
たぶん。
日本へ到着すると、以前と同じ基地へ向かう。
今回は戦闘機に囲まれることもなく、すんなり誘導された。
基地へ降りると、大勢の自衛隊員が待っていた。
前に会った人もいる。
向こうも俺たちを覚えていたらしく、大きく手を振っている。
俺たちも手を振り返した。
そして。
「…………」
ディーとアルスが固まった。
基地の向こうから、五隻の小さな船蟲がやってきたのだ。
宇宙。
青空。
流星。
キラリ。
漆黒。
ディーとアルスが産んだ卵から孵った子供たちである。
【…………】
【…………】
小さな船蟲たちが、二隻の周囲をぐるぐる回る。
ディーとアルスも何か鳴いている。
何を話しているのかは分からない。
でも、まあ。
再会出来て良かったな。
周囲の自衛隊員も嬉しそうだった。
写真を撮っている人までいる。
残念ながら、こちらにはあまり時間がない。
俺たちはイラストでそれを伝えた。
十日の休暇を使い切る前に、バグズ星へ戻らなければならない。
事情を察した自衛隊員たちは一斉に動き出した。
蜂蜜!
花粉団子!
その他のお土産!
物資が次々と積み込まれていく。
その間に、俺たちはデジカメを差し出した。
学者さんたちの目の色が変わった。
データを吸い出す。
吸い出す。
ひたすら吸い出す。
ナーロッパの風景が画面に映った瞬間、周囲が騒然となった。
三つ目の人間。
三つ目の馬。
エルフ。
妖精。
マシーナ。
魔法。
知らない植物。
知らない街。
学者さんたちが凄い顔をしている。
説明してあげたい。
だが時間がない。
それに日本語を喋れないことになっている。
ごめんね!
データのコピーが終わり、積み込みも完了した。
宇宙ちゃんたちと別れ、俺たちは再び地球を離れる。
船内では、地球でもらった蜂蜜を開けた。
最後の蜂蜜パーティーである。
◇
バグズ星へ帰還したところで、視界が白く染まった。
気がつけば、最初の白い部屋にいた。
中央には大きなテーブル。
その上には端末が置かれている。
「リプレイを書こう……?」
表示に従って、今回のキャンペーンで起きたことを書いていく。
地球へ行ったこと。
交易したこと。
卵を渡したこと。
ナーロッパへ行ったこと。
ミラクルフラワーの蜜を手に入れたこと。
島の人々を大陸へ運んだこと。
そしてバグズ星へ帰還したこと。
書き終えて決定を押す。
端末が光に包まれた。
「おお……」
光が消えると、そこには一冊の本があった。
今回の旅をまとめたリプレイ本だ。
本はひとりでに浮かび上がり、壁に現れた本棚へ収まった。
続いて、四人のキャラクターシートとアンケートが現れる。
経験点。
そして大量の褒賞点。
「莫大な褒賞点を貰えるのはいいんですが、使い道がね……」
「あら。もしもの時のためにポーションが買えるのは大きいわよ」
「スペースバグズの蜂蜜も凄そう」
「蜂蜜にポーション、それから妻への贈り物の宝飾品。十分ですよ」
スタンは相変わらず奥さん思いだな。
最後にアンケートを見る。
『次もあったら参加したいですか?』
四人とも迷わず、
『YES』
に丸をつけた。
なんだか嬉しい。
全員が『済』のハンコを押す。
「それじゃ、また」
「次があったらよろしく!」
「楽しかったわ!」
「ありがとうございました」
一人ずつ姿が消えていく。
そして最後に俺だけが残った。
『キャンペーンシナリオを終了しました』
「終わったー!」
テストプレイ、完了!
メニューを確認すると、新しい項目が増えていた。
GMとしてプレイヤーを選ぶ際、今回参加した四人を直接選べるようになっている。
「なるほど。一度クリアした人は登録されるのか」
これは便利だ。
また遊びたくなったら呼べる。
さて。
最初のキャンペーンは終わった。
次は桜さんだ。
夏休み最後の土日は、八月三十日と三十一日。
そこからシルバーウィーク。
さらに正月。
今度はもっと余裕を持って、ゆっくり遊べるキャンペーンにしよう。
まずは桜さんの予定を確認。
参加出来そうなら、キャンペーンシナリオ参加用のURLを送る。
「宇宙に行きたいって言ってたもんな」
俺は機嫌よくスマホを取り出した。
今度は、どんな旅になるだろう。