ふー……。うまくいった。良いセッションになったんじゃない?
コメント欄を確認しても相当な手ごたえを感じられる。1曲目でライブと何の関係もないユニットが出てきた割には、十分盛り上がっている。
ま、私にとってはとても縁のあるユニット、なんだけど。
今日2人に来てもらった理由はいくつかあった。
まず一つは、マキの動きが少し気になったこと。
マキが将来的にプロの音楽を志すとは思っていないが、名刺を貰って心が揺れるのなら、その未来はまだあるということだ。
それならば先手を打っておきたかった。他の芸能関係者に、"私が目を光らせている"ことを知らせておきたかった。これで悪い虫は付きづらくなるだろう。
それによってもし2人の進路が狭まったのであれば、私が責任を取る。もっとも、2人のアカウントには今頃オファーが大量に届いてるだろうけどね。惑わされないように釘は刺しておこう。
二つ目は、マキがあれ程陶酔した人間の実力を確かめたかったこと。
宮舞モカ――。
今でも思い出す。マキの心を奪い去り、そのまま行方を眩ませたあいつ。
いつも私と手を繋いでいたマキが、知らない女の子に取られてしまった時のあの衝撃。
子どもながらにショックだった。永遠はないのだと、その経験で強く理解した。
毎日のように2人で遊んでいる様を、公園の入り口で眺めていた。マキのお母さんにも気を遣われる有様だった。それがまた、惨めだった。
居なくなってからも、しばらくマキの後ろ髪は引かれていた。抜け殻のようなマキの隣で私は強く誓った。
この声で世界を取り、そしてマキを振り向かせると。
仮にも私は
だから確認しておきたかった。その目的自体は達成した。
「ふん」
まあ、正直度肝を抜かれた。なるほど、マキが選んだだけはある。
幼い頃の私には見えていなかった、あの伸びやかな声の魅力。歳を重ねて良い方向に進化していた。あの声を出せるアーティストがどれ程居るだろうか。
マキの審美眼には感心する。
そして三つ目は……。
まあ……、あの2人の物語の続きを、
そしてあの声を聴くことで、あの日の自分の気持ちももう一度確かめたかったんだろう。
観てましたか?真里さん。不憫に思って私に掛けてくれた言葉に、今なら答えを返せるかもしれないですね。
「それで良いんだと思う」
……笑われた気がする。私も笑ってしまった。まだまだ私は素直になれそうもないね。
マキが果たしてどちらを選ぶか。私を選んで欲しい。選ぶという選択肢をわざわざなくしておいて尚、私を選んで欲しい。率直に言えばそうだろう。
マキにとって、私はまだ大切な存在だと言って欲しい。
そんなことはね、態度にすら出したくない。そういうものだ。あの日と想いは変わらない。
でもね、この気持ちがあることも信じて欲しいんですよね。率直な、"音による縁を貴ぶ気持ち"を。
歌声によって惹かれ合い結ばれた2人。その過程を知っている私が、果たしてその続きを知りたいと思わないだろうか。
今日の2人のセッションは、私が観たかったあの日々の続きだった。貴方もそうですよね?
呼んで良かった。私も大いに刺激を貰ったよ。
うん……?ちょっと作業の取りかかりが遅いな。なるほどね。みんなもそう思ってるんだろうね。
「ちょっとみんな、一旦作業やめようか。映像止められる?」
出てきなよ。もう一回。みんなが待ってるから。
そう、それで良い。まだ泣いてるわ。随分とまあ、綺麗な涙を流してくれる。そのままで良いよ。
感じていきなよ。得意でしょう?聞こえない音を感じ取るのがさ。
見えてる?世界中から降り注がれるこのスタンディングオベーション。気持ち良いでしょう?
あーあー抱き合っちゃってまあまあ。ごめんね、あんなに泣くとは思ってなかったから。せっかくならあの日みたいに笑顔にしたかったね。
良かったね、マキ。本当に。まさかまた会えるなんてね。これも"音の縁"の力ってやつかね。
次の機会もきっとある。その時はきっと笑顔で終われるだろう。もし貴方たちにその気があるなら、あらゆる支援を惜しまない。
どんな音でも紲いでみせるから。
……おい、カメラ。私を映すな。それは指示してないよ。