Purple Moonlight   作:真夏歩

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第7話 ルーフト○プ

 雨の中の卒業ライブは2曲で終了。

 2人とも圧巻のパフォーマンスだった。2人が生み出す音の渦は、会場を狂乱させ、そして感動へと誘った。

 壇上での2人の熱いハンドシェイクは、胸にくるものがあった。本当にこれが最後だったんだなあ。

 ライブ後の舞台裏は見ない方が良いような気がしたので、そそくさと降りる。

 ……というか、直視できるだけの自信がなかった。

 

 演奏中の2人の掛け合い、目と目でする合図、弾けるような笑顔……。

 印象的なシーンがフラッシュバックする。

 これ以上2人の関係を肌で感じてしまうと、今までの人生で味わったことのない感情が芽生えそうで怖い。

 いや、既に芽生えている。蝕まれている。これは羨望?はたまた嫉妬?

 誰に?結月さんに?

 そんなはずは……。何を取っても対等であるはずもない相手に、嫉妬なんてあるはずが……。

 

「いえーいモカちゃん、どうだった?」

 

 後ろからマキちゃんの声が聞こえる。去る前に引き止められてしまった。

 歩み寄ってくる。にかにかと笑っている。隣には結月さんが居る。

 

「マキちゃん、本当に凄かったです。歌も音も心臓までバックバク届きました」

「えへへーありがとー」

「やっぱりああいうギターが良いですよね。唸る感じの」

「そうだねー。弾いてて気持ち良かったよ。久々にぎゅんぎゅんできて楽しかったー」

 

 ということは2曲とも作曲したのは結月さんか。ふと見た結月さんの眼差しが刺さる。怖い。

 

「あ、あー……」

「この人が前言ってた宮舞モカちゃん」

 

 前言ってた、って何!?知らないうちに紹介されてる!?

 極度の緊張に陥る。

 

「あっ、あじめまして!みゃーまいモカと言います!」

「結月ゆかりです」

「あっははは、はい、大変良く存じております……」

 

 怖い怖い怖い。そのままナイフで刺されそうだ。

 ……いや、何故?

 

「よろしくお願いします、あはははは……」

 

 何をよろしくするのかわからないが、頭に手をやりながらとりあえず言っておく。

 結月さんの目が一層厳しくなったような気がした。思わず声にならないような金切声が漏れてしまった。正解のコミュニケーションがわからない。

 彼女は一瞬物悲しいような表情を見せた後、一言。

 

「……なるほどね」

「へっ?」

「よろしく」

 

 手を差し出された。えっ!?

 目は笑っていない。冷や汗にまみれた右手をタオルで拭いつつ、握手に応じる。

 冷たい。じっと目を見られている気がする。視線を合わせることができない。

 この人が結月ゆかり――。1つしか歳が違わないはずなのに、既に世界中で活躍している。

 私と一体何が違うのだろう。いや、人生を浪費し続ける私とは、人間であるということ以外全て違うのだろう。

 一秒でも無駄にしなければ、こんな立派な人間になれたのだろうか。マキちゃんともっと仲良くなれていたのだろうか。

 か細い手だ。しかし既にこの掌で世界を支配していることが伝わるような、その圧倒的な貫禄に気圧されてしまった。

 ついさっきまで、あんなに無垢な笑顔を振りまいていたのに……。

 

「ほいゆかりん、撤収作業の邪魔になるから移動しよう」

「そうね」

「じゃあモカちゃん、またメッセージ送るね!来てくれてありがとね!」

「あ、はい……」

 

 マキちゃんが急き立てる。2人は校舎の中へと消えていった。

 ……手を繋いでいるようにも見えた。

 

 騒めきが収まらないグラウンドの隅を、縫うようにして帰路につく。重い足取り。

 苦い。苦いなあ。

 2人の関係性をまざまざと見せつけられたようだ。

 幼い頃から一緒なら、そういうものではないか。何を妬くことがあるだろうか。

 しかしこの何とも言いようのない感覚……。

 あの弾けるような笑顔が脳裏に蘇る。

 

「あー……」

 

 私が曲を作ったところで、結月さんのようにはなれっこない。あんなパフォーマンスもできやしない。そんなの当然だ。

 なのに何故マキちゃんは、結(・)月(・)さ(・)ん(・)で(・)は(・)な(・)く(・)私(・)を(・)選(・)択(・)し(・)た(・)?

 結月さんとのライブ活動を辞める理由は?この街を離れるから?私とだって離れるのに?そもそも結月さんはこの街にほぼ居ないのに?

 私は何を期待されている?私にできることは何だ?曲を作ることなのか?結月さんのようになることなのか?それは無理だ。

 無理ならば私には、マ(・)キ(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)を(・)心(・)か(・)ら(・)笑(・)顔(・)に(・)す(・)る(・)こ(・)と(・)は(・)で(・)き(・)な(・)い(・)のではないか?

 

「全然わかんない……」

 

 ――――私とライブをやりたいなんて、ただの建前だったのかな。

 そんな気がしてきた。そうかもしれない。惨めに思われてるだけなのかもしれない。再生数見られちゃったから。

 

「あ痛っ」

 

 電柱にぶつかった。ふと空を見上げる。既に雲はほとんど晴れている。

 恥ずかしさからか、何かに見られているような感覚を抱き、付近を見回す。

 校舎の上には月が昇っている。そして同じ視界の中に、屋上で黄昏れるあの2人の姿が映る。

 どんな話をしているのだろう。今日のライブを、今までの思い出を、人生を、きっと飛びきりの笑顔で話しているのだろう。

 

 早く家に帰ろう。今日は早く寝よう。

 悔しい。悲しい。

 握りこぶしも作れないほど、この右手はひどくかじかんでいた。

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