Purple Moonlight   作:真夏歩

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第9話 MY SAD L○VE

 夏まで会えないと思っていたのもつかの間、マキちゃんは想像よりも早く地元へ帰ってきた。

 時季によっては飛行機が安いらしい。LCCってやつかな?

 お呼ばれしたので、久し振りにマキちゃんの家に遊びに来ている。

 思えば、お店でマキちゃんと会ってもうすぐ1年経つんだな。

 

「それでモカちゃん、曲作りの進捗はどうなのかな?」

「あー……、んーまだ全然ですね……」

 

 やばい、やっぱりこの話題を突っ込まれてしまった。

 まだ曲のイメージが固まっていない為、見せられるものも何一つ無い。

 

「前見た曲もそうだったと思うけど、結局1曲に時間掛かる感じ?」

「えーっとー、そうですね。あの曲は2か月掛かりました」

「2か月!やっぱそうなんだー。ちなみに今何処まで進んでるの?」

「えーっとーー……」

 

 マキちゃんの笑顔が、愛想笑いに移っていく様が見て取れる。

 学校で課題を出せなかった時よりきついかもしれない。

 

「あははー良いよ良いよ、ゆっくり考えてもらって」

 

 これ以上何か言うと墓穴を掘りそうなのでやめておく。

 胃が痛い。情けない。しかし今日会うことで、何か吸収できるものがあるのではないか。そう期待している。

 

 紅茶を飲みながら大学での生活振りを聴く。広大なキャンパスで勉強をする様は新鮮らしい。

 新しい音楽友達も増えたようだ。少し、いや、そこそこ嫉妬する。

 BGM代わりに点けていたテレビが、不意に耳に残るワードを流し始める。

 

「今、世界が注目!結月ゆかりとは?」

「うわ」

「出た」

 

 知った顔が出てきた。ネットより一周遅いテレビメディアの特集らしい。

 

「何これ」

「あれじゃない?世界ツアーやってるから、それの特集」

「なるほど……」

 

 結月さんは今、世界の何処かをライブツアーとして周っているらしい。

 

「今ヨーロッパに居るんだって。SNSでも毎日写真上げてるけど」

「そうなんですか」

「何かさー、毎回反応してあげるのがめんどくさいんだよねー。個別でもメッセージやり取りしてるのに」

「あー、はははは……」

 

 笑いながら2人だけのやり取りを教えてくれるマキちゃん。

 やはり、関係が潰えたわけではないのか。あの卒業ライブ以降も、友達であることに変わりはないらしい。

 

「石畳ばっかり歩くから足が痛いとか、変装してもすぐバレて何かめっちゃ声掛けられるとか、表に出てる写真の裏話をいちいち言ってくる」 

「ははははは……」

 

 結月さんに関することは、何でも惚気話に聞こえてしまう。マキちゃんは楽しそうにしているが、私の心は嫉妬で悶えている。

 

「マキちゃん、ずっと気になってること聞いてもいいですか?」

「ん?なーに?」

「結月さんとの音楽活動、もうしないんですか?」

「え?」

「何か、紲星さんが言ってたんですけど……」

「あー……」

 

 どうしても気になる。こんなに楽しそうに話をしている相手と、何故一つ関係を絶ったのか。 

 

「うん、そうだねー。あのライブで卒業って感じ」

「どうしてですか?」

「うーん、そうだね」

 

 言葉を選び始める。ただ、気まずいというよりは、何だろう。隠しごとというわけでもなさそうに思える。

 

「ずっと思ってたのは、わたしと居ると、うん、わたしがゆかりんを地面に縛りつけてるような気がしてね」

 

 縛りつける?

 

「自由に羽ばたけてないなー。もったいないなーって気持ちが強かったの」

 

 テレビの方を見たので私も同調する。海外でのライブの映像が流れている。

 

「ほら、今見てもそうじゃん?画面の向こうであんなに楽しそうにしてる」

「そうですかね……。……私には虚勢を張ってるように見えるんですけど」

「それはまああの子のキャラだから。そういう売り方をしてるんだよ」

「そうなんですか?」

「そうそう。その方が隙が見えるようで可愛げがあるからね。まあその点は私のおかげかもね~」

「……そういうものですかね」

 

 あまり納得できないが……。マキちゃんにしか知らない何かがあるのだろう。

 

「まあ、ゆかりんってさ、優しいから」

 

 今までにはないトーンで、しみじみと語り始める。

 

「昔から、私が苦しんでるとずっと傍に居てくれるんだけど、それが何だか申し訳なくてね。もう自分の為に時間を作って欲しいなって。お互い良い大人になったからさ」

 

 ああ、そうか――。家族ぐるみの付き合いだとしたら、お母さんのことでも、マキちゃんをずっと支えていたのかもしれない。

 ずっと傍に居る友達――。傍に居るからこそ関係を減らす――。

 長い付き合いの友達が居ない私には、その感覚はなかなか理解しづらい。大人になるってそういうことなのだろうか。

 何だろう。そこまで配慮される関係であることが、結月さんのことが、あまりにも羨ましい。

 

「あ!モカちゃんも今一緒に居てくれて嬉しいよ~?モカちゃんと一緒に音楽するのとっても楽しみだよ~?」

 

 私の怪訝な顔を見たからか、良くわからない取り繕われ方をした。とにかく気を遣われたことだけはわかる。

 

「そうですね……。何か、もうすぐ日本ツアーって言ってますね」

「そうそう。だからテレビでも露出を増やしてみたとかじゃないかな?」

「世界ツアーなのに途中で日本に戻ってくるの、面白いですね」

「ずっと家に帰ってないわけでも無いらしいけどねー。そういえば、今度の公演の関係者用のチケットくれるって言ってるんだよ」

 

 関係者用のチケット?招待チケットみたいなものかな?やっぱりそういうのはあるんだ。

 

「モカちゃんもどう?好きなだけ貰えるらしいけど」

「あー、私は――」

 

 結月さんのライブ。特別観に行きたいわけでもないが、断るとマキちゃんとの関係も悪くなりそうだ。

 

「その、行くなら、出来ればお客さんの空気を感じられるような、後ろの方から観たいかなって……」

「おー、一体感を味わいたいってやつ?良いよ良いよ!一緒に観よう!」

「マキちゃんは前からで良いですよ。せっかくですし。他のお友達と一緒に観るのが良いんじゃないですか」

 

 めんどくさいことを言ってしまった。しかしマキちゃんは予想に反して言葉を続ける。

 

「いやいや!モカちゃんと観たい!モカちゃんと観る!前から観るなら配信の方が音良かったりするし!顔は見飽きてるし!」

「ずっと一緒に居たらそうですよね……」

「じゃ、じゃあ決定ね!一般のチケット貰ってくるからね!」

 

 マキちゃんは焦っている。

 また困らせてしまった。つくづく私ってめんどくさい人間だなあ……。

 作り笑いもできない程の情けなさを味わう。

 またマキちゃんと会える理由ができた。それだけでも十分なはずなのに。

 

 贅沢になってしまったこの心は、いつしか満たされることに飢えてしまっていた。

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