飛ばされてきたところははじまりの街だった。
「おい、どうなってんだよ!」「何かのクエスト?」
みなは口々に言う。
不意に、空の一箇所が赤く点滅し始める。
そしてそこから血のような液体が流れ出し、ローブを纏った人間を形作った。
「おい、あれってGMじゃないか?」
みなはざわつきだした。
「キリト、あれは何だ?」
「俺にもわからん。」
キリトとタツの会話を見透かしたかのように、それはしゃべりだした。
「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」
「私の?」
「私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の存在だ。」
「なっ!?」「マジ!?」「本物かよ?」
「プレイヤーの諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない。ソードアートオンライン本来の仕様だ。」
「仕様?」クラインがつぶやく。
「諸君は自発的にログアウトすることはできない。また、外部の人間によるナーヴギアの停止、あるいは解除もありえない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する、高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる。魔法による解除が行われようとした際には、魔法の兆候を感知した瞬間、マイクロウェーブが発射される。」
「なん・・だと・・?」
「はぁ?何言ってんだあいつ。頭おかしいんじゃね?」
「いや、信号素子のマイクロウェーブは、電子レンジと同じで、リミッターを外せば、脳を焼くこともできる。」
クラインの問に、タツが答える。
「じゃ、じゃあよお、電源を切れば・・・」
「いや、ナーヴギアの約三割はバッテリーなんだ・・・」
キリトも補足する。
「・・!?っでもよお・・・そんなのむちゃくちゃだ!」
「残念ながら、これまでにプレイヤーの家族、友人、魔法師が警告を無視し、ナーヴギアを解除しようと試みた例が、少なからずあり、その結果、213人ものプレイヤーが、アインクラッドおよび現実世界からも永久退場している。」
「213人もか!?」
「・・・信じねえ・・・俺は信じねえぞ!!」
「ご覧の通り、多数の死者が出たことを含め、この状況をあらゆるメディアが繰り返し報道している。よって、すでにナーヴギアが強制的に解除される危険性は低くなっていると言ってよかろう。諸君らは、安心してゲーム攻略に励んでほしい。」
「・・・!」
「しかし、十分に留意してもらいたい。今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。HPが0になった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に、諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される。」
「・・・」
「諸君らが開放される条件はただひとつ、このゲームをクリアすれば良い。現在君たちがいるのは、アインクラッドの最下層、第一層である。各フロアの迷宮区を攻略し、フロアボスを倒せば上の階へ進める。第百層にいる最終ボスを倒せばゲームはクリアだ。」
「百層?」「適当な事言ってんじゃねーよ!」
「百層?クリア?できるわけねえ。βテストじゃろくに上がれなかったんだろ!?」
「それでは最後に、諸君らのアイテムストレージに私からのプレゼントを用意してある。確認してくれ給え。」
「ん?・・・手鏡?」
「おおおおおっ!?」
「クライン?うわあっ!?」
「・・!お兄様っ!」
「ミユキっ!・・ぐっ・・・」
「大丈夫か?キリト?」
「あ、ああ。・・・お前誰だよ?」
「おめえこそ誰だよ?」
「え・・・お兄様!?」
「なっ・・・深雪か?」
「何?・・・ってことは・・・」
「お前がクライン!?」「お前がキリトか!?」
「・・・で、お前がタツで、彼女がミユキ?」キリトが問い、
「っ・・・ああ。」タツが答える。
「・・・なんで・・・?」クラインが言う。
「・・・スキャン・・・ナーヴギアは、高密度の信号素子で、かおおをすっぽり覆っている・・・だから、顔の形を把握できるんだ・・・!でも身長や体格は・・・?」
「キリト、キャリブレーションだ。」
「・・・そうか、その時のデータを元に・・・」
「でも・・・でもよお・・・なんでだ?なんでこんなことを?」
「どうせすぐに答えてくれるさ。」
「タツ・・・」
タツの言うとおり、茅場はしゃべりだした。
「諸君は今、なぜ、と思っているだろう。ソードアートオンライン、及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのかと。私の目的はすでに達せられている。この世界を作り出し、鑑賞するためだけに、私はソードアート・オンラインを作った。」
「っ・・・茅場っ・・・」
「そして今、全ては達成せしめられた。・・・以上で、ソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る。」
そう言い残し、茅場はノイズとともに消え去っていった。
カシャン
「うわあああああああああああああああっ!!!」
それを合図に、怒号の嵐になった。
「ちょっと来い、クライン、タツ、ミユキ!」
「っえ?・・・お、おう・・・」
「っ!・・・」
「きゃっ・・・」
キリトは街のはずれまで皆を連れてきて、口を開いた。
「よく聞け。俺はすぐに次の村へ向かう。お前らも一緒に来い。」
「ほえっ?」
「あいつの話が本当なら、この世界で生き残っていくためには、ひたすら自分を強化するしかない。VRMMORPGが供給するリソース、つまり俺達が手に入れられる金や経験値は限られている。はじまりの街周辺のフィールドは、すぐに狩り尽くされるだろう。効率良く稼ぐには、今のうちに次の村に拠点を移した方がいい。俺は俺は道も危険なポイントも全部知っているから、レベル1でも安全にたどり着ける。」
「・・でも・・でもよお・・・俺は他のゲームでダチだった奴らと徹夜で並んでこのソフトを買ったんだ。あいつら、広場にいるはずなんだ。おいてはいけねえ。」
「そ、そうか・・・。タツとミユキは?」
「俺は・・・」
タツはミユキを見る。エレメンタルサイトも、魔法もないこの世界で、本当に一人でミユキを守れるだろうか・・・
「私は・・・キリトさんと行きたいです。」
「ミユキっ・・・!?」
「それぞれで動くよりも、人が多いほうが安全ですもの。」
「・・・そうだな。ゲームも初心者だし、頼めるか?キリト。」
「ああ。わかった。・・・クライン・・・」
「俺はだいじょうぶだよ!キリト。前のゲームじゃぁギルドの頭はってたんだ。おめえに教わったテクで何とかしてみせらぁっ!」
「そうか・・・。じゃあ、ここで別れよう、なんかあったら、メッセージ飛ばせよ?すぐにぶっ飛んでってやるからさ!」
「ああっ!・・・キリトっ!」
「なんだよ。」
「おめえ、案外かわいい顔してんじゃねえか!結構好みだぜ?」
「・・・!・・・ふんっ、お前こそ、その野武士面のほうが、十倍にあってるよ!」
「じゃあ、またな!」
「ああ、また会おう!」
「タツもミユキも気をつけろよ!」
「お前のほうこそな。じゃあな。」
「はい。クラインさんもお元気で。」
こうして、タツ達は始まりの街を後にした。
最後、キリトが気を落とさないように変えておきました。