ヴァルハルトの甥 ダグザへ征く 作:風神弓雷神刀
第1話 翠風の章 翠雨の節 大地の夜明け
フォドラ暦1186年翠雨の節 カレドニス台地
さっきからちょこまかとサンダーストームを撃たれて鬱陶しいことこの上ない。おまけに毒沼で戦闘しにくい。沼で足がとられているのは相手も同じであるだろうが……。毒沼にも魔力を感じるため発生源があるはずだ。僕は隣にいる白髪の少女に声をかける。
「リシテア、この毒沼の発生源が誰か調べられるか?」
「分かりました。調べますから、その間にあんたたちは周りの敵を倒してください。」
「相分かった‼︎」
無防備になるリシテアの周りにいる兵を斬り斃していく。その間もサンダーストームが撃たれていくし、リシテアを狙われたら不味い。目を凝らして見ると、サンダーストームは橋の近くの砦にいる奴が撃っているように見える。
「マリアンヌ、サイレスをあの魔法使いに撃ってくれ‼︎」
「はい……。分かりました……。」
マリアンヌのサイレスが届き、一度サンダーストームが止まった。しかし、企みに勘づいたのか竜騎士が僕たち4人の元に近付いてくる。禍々しい槌を持っているが、あれは確か打ち砕くものか……。となると、竜騎士はドミニクなのだろう。飛んでいる以上、上からの攻撃になることに加え、とにかく速い。パッと見た感じだと、ドミニクに魔力はなさそうである。それに槌であるため、大振りになるだろうし、カウンターを狙うか。
「ラファエル‼︎今からあのドラゴンナイトに隙をつくる。そこを叩いてくれ。」
「リゲル君、オデに任せろ‼︎」
ドミニクは槌を振り下ろすが、ギリギリで僕は避けた。もう一度攻撃するために体勢を立て直すためか、一度その高度を上げる。それを待っていたよ……。僕は飛竜目掛けて跳び上がる。ドミニクは一瞬驚いた様子を見せたがもう遅い。背に竜の羽を生やして、ドミニクの高度まで羽ばたく。僕は飛竜の口を掴んでその腕力に任せて地面に叩きつけた。その衝撃でよろけたドミニクを見逃さず、上半身は飛竜を押さえつけたまま、倒立する形で、ドミニクの頭を地面と並行に蹴り飛ばす。
そこを見逃すことなく、ラファエルが籠手で殴りつけた。
「オデも行くぞ‼︎絶好調‼︎どっせい‼︎」
ドミニクは大きく吹き飛ばされ、塵となって消えた。
「ラファエル、良いパンチだったよ‼︎」
「リゲル君もすげぇ力だったぞ‼︎」
十傑の1人を倒したことを讃えあう。すぐに、リシテアから声がかかる。
「リゲル、毒沼の発生源が分かりましたよ。サンダーストームを撃っている魔法使いが作り出しています。」
やっている人物は同じなのか……。このような芸当ができるのは十傑に違いない。複数でかかった方が良いな。
「ありがとう、リシテア。」
「じゃあ、オデたちでその魔法使い倒しに行くぞ‼︎」
ラファエルが腕を空に振り上げる。
「沼が無くなれば、我々の機動力も上がるから、早く倒したいところではある。だがそれは相手も同じだ。フォドラ十傑の力は強大だ。十傑がほとんど居なくなったところで倒したいところだね。」
ここからではどのくらい仲間が十傑を倒したかの戦況が見えない。
「あの……セテスさんがこちらに向かって飛んで来ています……。」
マリアンヌの見ている方向を見ると、セテスさんが降りてきた。
「そちらの戦況はどうだ?」
「ちょうどドミニクを討伐しました。今から毒沼の発生源である、恐らく十傑の魔法使いを討ちに行きますが、他の敵将はどれだけ倒されていますか?」
「ドミニクを倒したか……。君たちよくやった‼︎それで残る敵将だがネメシスとフラルダリウス、リーガン、ラミーヌだ。君たちがこれから向かうのはラミーヌであろう。私は君たちの援護を頼まれて来た。ここからは私も共に戦おう‼︎」
「ありがとうございます‼︎セテスさん‼︎」
あの兵法に優れた聖キッ……セテスさんが来るとは百人力だ。油断ならないが安心して戦うことができる。
僕たち5人は砦の中に入って、敵を倒して屋上に着いた。
そこには美しき魔法使いラミーヌが佇んでいた。所持しているものは死神騎士が所有していたラファイルの宝珠に似ている。厄介なことに倒すのに骨が折れそうだ。だが、魔法使いなのだから魔法さえ封じればなんとかできるだろう。
「やってみます。はぁっ‼︎」
マリアンヌがサイレスを使った。これで袋叩きだ。
僕は剣を抜こうとするが、何か違和感がある。魔法を封じたぐらいで簡単に斃せる相手なのか……。
突然ラミーヌの方向から刃が鳴る音がした。
ラミーヌが背中から剣を取り出した。その剣の刃の先には何本か棘のようなものがあり、英雄の遺産のように見える。だとすると、今まで見たことがない遺産になるが。その剣は震えている。
「セテスさん、あの剣も英雄の遺産なんですか?」
リシテアがセテスさんに問う。
「そうだ。銘はアンスウェラーだ。いや、実際にはアンスウェラー本物ではないから、アンスウェラー闇といったところだろうか。あの剣は強者を求めて刃鳴りを起こす。」
「要は、逸楽を求めて死合っているとことですか。」
ラミーヌは他の十傑同様、一言も話さないが、目が死合えと言っている……。ラミーヌ家って戦闘狂の一族か何かなのか?
「……あぁ。そうだ。」
僕の問いかけにセテスさんは何かを思い出しているかのように答えた。
「来るぞ‼︎構えろ‼︎」
ラミーヌは剣を構える。
こちらを目掛けて突いて来た。僕は回転して避けてラミーヌの首に肘打ちをするが、ラミーヌもよろけながらかなり無理な体勢の中で殴りかかる。そこを見逃さずラファエルが籠手で殴りつけ、ラミーヌはアンスウェラーを地に刺して後退りする。ラファエルの良い一撃が入って、こちらが優勢にも見えるが、手応えはあまりない。
「堅すぎるだろ‼︎」
「流石はラファイルの宝珠といったところだな」
セテスさんは槍で突くが、ラミーヌは体を宙返りしてかわして、斬り込む。しかし、ラファエルがラミーヌの手を押さえて斬らせない。
僕は隙のできた背中に向かって、腰から太陽を抜いて斬る。しかし、ラファイルの宝珠の影響で致命打にはなり得ない。
ラミーヌはラファエルとセテスさんを飛ばして、僕に向かってアンスウェラーを下から斬りあげる。僕は跳んでかわして、その勢いでラミーヌの頭を蹴る。そこをラファエルが殴り、セテスさんが突く。ラミーヌの周りに僕たち3人が集まったところで、ラミーヌは横に剣を薙ぐ。屈んで、ラミーヌの踵を蹴り込む。ラミーヌの体勢を崩す。後ろの気配を察知して僕はしゃがんで後退する。
「急いでるの‼︎てぇぇい‼︎」
「この血が戦えと……‼︎やぁっ‼︎」
後ろからリシテアがハデスΩを、マリアンヌがフィンブルを叩き込んだ。
それによってラミーヌは塵となって消えた。
「良い一撃だ、リシテア‼︎マリアンヌ‼︎」
「あれを見てくれ‼︎」
セテスさんが砦の外を見ろと僕たちに声をかける。
「毒沼が引いていく……。」
「フォドラの夜明けまであともう少しだ……。みんな‼︎他のみんなのところに行こう‼︎」
いよいよネメシスたちとの戦いも終着に向かっている。
僕たち5人がネメシスの所へ到着するとクロードと義姉さんはネメシスが戦っていた。我々の軍勢も、ネメシスらの軍勢も闘いの行く末を見守る。
「今のは効いたみたいだな……!終幕だ!行くぞ、きょうだい!」
ネメシスと義姉さんは剣を交える。
ネメシスが義姉さんを飛ばして蹴るが、義姉さんは身体を逸らして避ける。そこにクロードの弓が割って入る。
「若造ガ……!」
「千年前に生まれたあんたからしたら、誰だって若造だろ」
ネメシスは天帝の剣を持ち2人に向かって刃渡を伸ばして振る。クロードは跳んで、義姉さんはスライディングしてそれを避ける。
義姉さんはその勢いで、ネメシスに斬りかかる。
そこに後退したクロードからの矢が飛んでくる。しかし、ネメシスは矢を払い、義姉さんも転がす。
「群ガル事デシカ……戦エヌ弱キ者ドモヨ!」
「そうさ、俺たちは弱き者だ。だからこそ壁を乗り越え、手を取って、心で触れ合う――」
クロードはフェイルノートを引いて空へ放つ。あの矢、多分ネメシスに当たるようにわざと上に放ったな……。
「生きるために!」
クロードはネメシスに突っ込む。しかし、ネメシスに吹き飛ばされる。
義姉さんはそのタイミングを見て、天帝の剣を大きく振りかぶる。ネメシスも同じように振りかぶる。
「ハハっ」
いよいよ決着かと思ったそのとき、クロードが僕に向かってニヤリと笑った。なるほど……。空に放った矢をネメシスに刺したいからネメシスの場所を固定させろと。僕が割って入るのは無粋だと思うんだが、クロードとしては少しでもネメシスに勝つ確率を上げたいんだろうなぁ……。僕は拳を地に叩きつける。シンシアやウードが熱く語っていたヒーロー着地の体勢だ。
「メガクエイク」
いよいよ、義姉さんとネメシスの剣が交わりそうになるその瞬間、ネメシスの動きが止まる。
「ナッ!」
メガクエイクでネメシスの動きを封じ、その瞬間にクロードの放った矢が腕に刺さる。そして、義姉さんは剣ごとネメシスの胸を斬り裂いた。
「うおっーー‼︎」
我々の軍に歓声が上がる。そして、ネメシスの軍勢は塵となって消えていく。
義姉さんは剣を鞘に収めた。
「後世の歴史家たちは今日のこの日を、こう呼ぶだろう“フォドラの夜明け”、と」
義姉さんはクロードに手を差し出す。
「任せたよ、先生。俺は――」
クロードは義姉さんの手を掴んだ。
歴史は時のよすがを辿り、フォドラの大地に新たな炎が灯される……
野望に満ちた邪王ネメシスを討ち、フォドラ最大の危機は回避された。
ここに、5年半に及んだ戦乱は収束し、次なる時代が幕を開けたのである。
国家、信仰、歴史……これまでの秩序を形作っていたすべてが白紙に戻り、フォドラを救った英雄たちの手によって新たな秩序が築かれようとしていた。
統一されたフォドラの新たな指導者は、民族や信仰の違いを乗り越え、誰もが平等に生きる世界を実現するため、終わりの見えぬ道を皆と歩き始める。
その道はフォドラのみならず、遠く大海を越えてダグザへ、あるいは喉元を越えてパルミラへ、やがて到達することを希って。
そして、3ヶ月後赤狼の節……。イーリス、ペレジアへ渡り、海を越えてヴァルムへと辿り着いた者たちがいた。
リゲルは訳あって、ベレスを義姉さんと呼んでいます。リゲルの容姿ですが、耳は尖っていて、目は父親と同じ赤色、髪色はソティスとエンゲージしたベレスと同じ若緑色です‼︎格好は先祖のアルムと似た鎧を纏っています。伯父のヴァルハルトとはあまり似ていません。リゲルはヴァルハルトの妹の子です。