ヴァルハルトの甥 ダグザへ征く 作:風神弓雷神刀
2/7 帝都ダグシオン市場
あたしは市場にいい商品がないか買い周りに来ていた。
「これも良いわね。」
「買いすぎじゃない?セレナ。」
リゲルは言ってくるが、全員で共有しているお金は使っていない。あたしたちは無一文で来たから、グザランの元、魔物退治などでお金を稼いで、ダグシオンに来てからも討伐依頼などをこなしている。一部のお金を各人の分にして残りは全員で共有している。
「別に良いじゃない。私の分のお金で買ってるんだから。あ、これも買おっと。」
「何かあったときのために多少は残しておきなよ。僕はこれから訓練しに行くから、じゃあ。」
あいつは歩きながら軽く手を挙げて去っていった。ここに来てまで、ロランみたいなことを言わないでほしい。カミラ様にも言われたことがあるけど。どうしてるのかな、カミラ様……。あと、ベルカも。
お金の管理はしっかり者のイングリットがやっているけど、そもそも、宿代や食事代などの必要な費用以外は分配しようと言い出したのは、リゲルだ。予算を決めたときに、個人の余計な出費で、予算の帳尻合わせが大変になるだろうからって。あいつ、青臭いこと言う割に、予算とか不要だとか理屈っぽくて面白くないことも言うのよね。
「これください。」
女神アウロラの彫り物が売られていたので、買った。リゲルはアウロラさんに会ったって言ってたわね。そういえば、クロードの装備している盾もアウロラの盾って名前があるけど、関係あるのかしら。階段を登り終わったとき、誰かにぶつかった。咄嗟に手すりを掴む。
「痛っ‼︎」
「ちょっと前見て歩きなさいよ。階段に転げ落ちるところだったじゃない。買ったものがどこにも傷付いていないからいいけど。」
買ったばかりのものに傷がないか確認する。
「あんたも見てなかったじゃん。うげっ‼︎」
「あたしの顔を見ていきなりうげってなんなのよ。」
「ペレジア王国国王の孫って言ってた、サラミスに剣抜いてた人じゃん。面倒だなーって。」
「あたしのどこが面倒なのよ。あんたサラミス兵?」
彼女の容姿を見る。ワインレッドの髪色で肩が出ている軽装だ。
「そうですけどー。だって、セオドラ様のパンチを片手で受け止める奴の仲間じゃん。あの数のサラミス兵相手に剣を抜けるほどの度胸もあるしー。あんたら相当な手練でしょ。」
1つの国にあそこまで言ったんだからそりゃ警戒はされるわよね。
「あんた、あんたって。あたしにはセレナって名前があるの。」
「そー。あたしはリリアンですケドー。」
「あいつ、あの時の行軍を邪魔したやつといるぞ」
「やっぱり通じているのよ。裏切りものなんだわ。」
恐らく、リリアンに対する陰口が聞こえる。
「リリアン。あんた、愚痴言われているけど、放っておいていいわけ?」
「あいつらが勝手に言ってるだけだしー。好きに言わせておけばいいよー。」
あたしは好き放題言われるのは納得いかないけれど……。
「あたしの家、セオドラ様の弟の派閥について、取り潰されたんだ。それで変に勘ぐられているだけー。」
「そう……。あたしは出自がどうとか気にしないわよ。大切なのは、リリアンがどう生きて、どうしたいかだと思うわ。」
「そ、そう?」
あたしがこんなこと言うなんて、リゲルのせいだわ、きっと。
そういえば、あの地獄のような世界で、あたしにリゲルが同じことを言っていたわね。ギムレーの娘かどうかなんて関係ないって、あたしの目を真っ直ぐ見てきて。小さいときに父に攫われて、何年か経って、妹のマークを連れて、父から逃げてイーリスに来たばかりのころ、邪竜の娘がいるだのなんだので、白い目で見られていた。そんなときにリゲルと出会った。彼は似たもの同士だって言っていたし、あいつもきっと追放された神竜族の血を引くからって迫害されていたのかしら。実際、かつて邪神と呼ばれたドーマの子だったわけだし……。あいつは自分の力に向き合って、モノにした。あたしも、この力と向き合うべきなのかもね……。
「ちょっとー。何もの思いにふけているんですー。」
「え、えぇ……。昔、似たようなことがあったなーってね。せっかく知り合ったんだし、荷物持つの手伝ってくれない?」
「えー。お給金貰えるならいいけどー。」
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2/8 帝都ダグシオン中層
ユ・ファス神殿で書物をいくつか見ることができたが、バロールに関するものはあまりなかったし、ミトラス修道会もめぼしい情報はなかった。あったのは、バロールの娘が4人いて、みんな仮面を付けていたそうな。嘆きの島で、墓を管理していたらしいが、どうやらバロールの墓が発かれ、娘たちもいなくなっていたらしい。ユ・ファスもバロールの娘の1人だが、ソレルに迎え入れられたとか、白き卵の民をダグザの手から救ったとか、ダグザに処刑されたとかだ。
もし、娘たちがバロールの復活を企てているのならば、このダグシオンにいるのかもしれない。リゲルが曰く、イリアナという人物が、ユ・ファスにそっくりなんだとか。現状は、そこから調べていくしかないか。
ま、何か面白い情報が出てくるかもしれない。俺は中層の本屋に向かうことにした。
ふーん、『闘技場の白髪鬼』ねぇ。どうやら、この本がこのダグザで今人気なのか。何か話の種になるかもしれない。買ってみるか。
俺は本屋の奥に進む。こういったとこに掘り出し物があるんだよな。何々、『大アウグスト戦術』……。戦術書か。この時代の戦略がどういったものか気になるな。俺は本を取ろうと手を伸ばしたとき、同じ本を取ろうとしたのか、誰かの手と当たる。
「ごめんなさい‼︎」
「おっと、すまない。」
そこにいたのは、メガネをかけた黒髪の少女だ。
「あのあなたも、この本が欲しいのよね?」
「あぁ、そうだとも、お嬢様。俺はこの戦術書が見たい。」
「あっ!」
少女は俺を見て何かを気付いたようだ。
「どうした?俺の顔に何かついているか?」
「あなたはサラミスの行列のときの……」
「あれを見ていたのか。ま、目立つようなことやっていたからな。」
「いえ、あの時はカイを助けてくださってありがとうございました。」
「いいぜ。ま、俺は面白半分で途中から来ただけだから特に何もしていないがな。気持ちはしっかり受けっとっておくよ。君は、あの少年の仲間か。」
「はい。私、ティアラって言います‼︎」
「クロードだ。よろしく頼むよ。」
「あの時は、レスター諸侯同盟の盟主だって言っていましたけど、私が聞いたことない国で一体どこにあるんですか?」
ティアラは訝しむような、興味本意のような目でこちらを見る。ま、この時代はアドラステアだけだからな。知るはずもない。
「そういうのは、しっぽりと親睦を深めていってからだな。戦術書を取る様子からして、軍略とかが得意なのか。」
「本に載っていなかった国の文化とか聞きたかったんだけどな……。」
しょんぼりするティアラを見るに、どうやら純粋な興味だけだったようだ。
「はい。ダグシオン大剣闘祭に出るために、おじいさまの本をまた読もうと思って。」
「ティアラはこの本の著者の孫なのか。アウグストって確かアラゴの軍師だった人だっけか。それで、ダグシオン大剣闘祭に軍師として出る感じか、あの少年と。」
「はい。カイの願いを叶えるために私、頑張りたくて……。まずは追加募集の試験に受からないといけないですが……。」
「俺たちも大剣闘祭の追加募集に参加するつもりだ。俺たちとはその枠を争うライバルってとこだな。」
「私、負けません‼︎例え、セオドラ女王のパンチを片腕で受け止める人がいるところが相手でも‼︎」
「俺たちも譲るつもりはないぜ。両方、通るのが1番良いけどな。俺もあいつらの軍師的な立ち位置だ。どうだ、盤上遊戯でもやりながら、戦術でも語り合おうぜ?」
俺が戦術を組み上げるが、指揮を執れる奴らが多いから、軍議で色々詰めていくことになるだろうな。特に、セレナは神軍師の娘とかで、父から多少は学んでいるらしい。リゲルやウードは王族なだけあって、先頭に立つことも多い。アズールも踊りで仲間を鼓舞する関係上、1人で状況を判断する場面もある。イングリットは、幼馴染がフェリクスやシルヴァンとかで、勝手に動かれることが多かったからか、歯止めをかけて修正するのは得意だ。マリアンヌは、後方支援だけあってアズール同様に1人で動くことになる。もう少し仲間がいれば、マリアンヌの側に誰か付ける余裕もあるんだがな。あとは、依頼の交渉は俺とマリアンヌで基本的にやっている。そっち方面はマリアンヌも結構辣腕だから、正直助かる。交渉をリゲルに頼んだら無償でやることも多くなって稼ぎにならん。
「はい‼︎レスターの戦術を学ばせてもらいます‼︎」
軍師アウグストの戦略もティアラの動きから学べるだろう。
ちなみに、『大アウグスト戦術』の値段を見たところ、俺たちの資金よりも2桁多かった。プレミアものか……。
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2/9 帝都ダグシオン下参道
僕は女の子が多くいるだろうと踏んで、遊行区に来ている。テルマエは、は、恥ずかしいから、一緒にお茶や観劇しようかな。辺りを見回して、女の子を探す。劇場の奥の方に1人で何か考えながら突っ立っている子がいるじゃないか。赤髪で羽ペンを持って腕を組んでいる子が。
「刺激が足りない……。ぼくの創作活動を刺激するものが……。大剣闘祭も間近だというのに、題材とする争いが足りない……。」
「やぁ、君は何か困っているのかい?僕でよければお茶でもしながら相談に乗るよ?」
「む。誰だい、君は?ぼくの邪魔をしないでくれ。」
「僕はアズール。君の名前はなんていうの?ほら、眉を顰めないで笑顔。女の子は笑顔が1番だよ。笑顔でいる方が、色々思い付くと思うよ。」
「それもそうかもしれないな。人の感情でこそ物語は育まれる。おや、君は確か……。そうだ、サラミスの行列でサラミス王国と敵対した一味ではなかったか?」
「うん、そうだね。」
正直やらかしがちなリゲルやウードとは一緒にはされたくないけど。え、誰か僕も同じだって言った?そんな、まさか。僕は女の子の笑顔が見たいだけだからね。
「確か、外の大陸出身のものたちだと言っていたか……。そうだ‼︎その手があるじゃないか。外の大陸の戦いを題材にすれば良かったじゃないか。運良く外の大陸の者がいて良かった。確か君の一味は様々な国の出身だったか。ヴァルム、イーリス、ペレジア、レスター……。色々な国の話が聞けるぞ。よし、ぼくはダンテだ。アズール、君を取材させてほしい‼︎」
正面から見つめられて捲し立てられると恥ずかしいな……。
「もちろんいつでも構わないよ。君の表情が良くなったしね。」
「いつでもって言ったね。なら、今からだ。みっちり聞かせてもらうからな。」
お茶しようにもどこも埋まっていたので、宿屋のテラスで行くことになった。ダンテの表情が柔らかくなっている。
「じゃあ、3つの国の争いについてからで良い?」
「どこからでも構わないとも。」
僕は、まずはイーリスとフェリア、ペレジアの戦争から話始めた。そして、ヴァルムとの戦争。ギムレーの復活、絶望の未来、過去に戻ったこと、ギムレーを1人の神軍師が犠牲となり倒したこと。僕たちにとっては辛い思い出も多いけど、ダンテは真剣な眼差しで書き連ねていく。
「亡者を従え、生者と争わせるとは……、まさに悲劇だ。」
「じゃあ、次は2つの国と見えざる国の話をするよ。」
「見えざる国……?実に興味深い‼︎」
つぎに、ハイドラさんに依頼された戦いを話す。白夜王国と暗夜王国、透魔王国とカムイ様との話……。ハイドラさんの願いを叶える戦い。あの頃も3人でバカやって、楽しかったなぁ。もちろん、透魔王国まわりのことは多少ぼかした。
まさか、2日徹夜で話すことになるとは思わなかった。まぁ、喜んでいたしいっか。
「感謝する。そういえば、君は踊り子なのだろう。君自身は、踊りでその物語を表現しないのかね?」
「仲間たちとやっていたよ。踊りとバイオリンと口上でね。ダグザではどうしようかなぁ。」
ヴァイオリンがブレディで、歌劇仕立てにするのが、ウードだ。ブレディが泣き出したり、ウードが知らない誇張をしたりで大変だったけど。
「ぼくが演出しようか。仲間たちというのは、今ダグザに来ているものたちでかい?」
「ダンテに演出してもらえるなんて、恥ずかしいな。口上やってた人は来ているけど、演奏している人は来ていないね。見つけたいな。」
まさか、ビウエラを弾いてもらえる人が現れるなんて、このときは思ってもいなかった。
「口上役がいるのか。その者にも取材しなくては……。いや、同じ話になるよな。だが、別視点から語られることによりより忠実に……。アズールの他の仲間たちの国の話も良いな……。ありがとう。これで失礼するよ。」
「今度、お茶しようね、ダンテ。」
お金を貯めたいリリアンと浪費家セレナでした。ロランとの支援会話、カミラとの暗夜祭を参照。リリアンは浪費家が嫌いですが、呆れつつ何やかんや世話を焼いてくれはしそうですよね。
次に、同じ戦略を立てるクロードとティアラでした。アウグストの本が高いのは、自称将軍と将軍の娘の支援会話参照です。
そして、アズールと文豪ダンテでした。アズールはレダやオリンピアと絡ませたいですが、あの人たちは3月にダグシオンに来るのでまだ会えません。大剣闘祭では3000組も参加しているのに、まとめて行うことあれど、再現するダグザの戦争足りるのかと思っていました。アズールが話したことでどうなることやら。