ヴァルハルトの甥 ダグザへ征く 作:風神弓雷神刀
フォドラ暦1186年赤狼の節 ヴァルム港
「ふぅ……。5年ぶりのヴァルムへの帰還だぁ。」
僕は背を伸ばし、ヴァルムの地へ降り立つ。
「3人は大丈夫か?」
振り返って3人に問いかける。
「俺は問題ないぜ。ま、別の大陸を見れるとなると楽しみで仕方なかったよ。」
「……はい。私も特に大丈夫です……。」
「そのまま、陸路で移動を始めても構いませんよ。」
「よし、じゃあこのまま馬車で西に向かって帝都に向かうとしようか」
クロードもマリアンヌもイングリットもヴァルムに着いたばかりだが、特に疲れている様子もない。
3人が僕の帰路に付いてきた経緯はこうだ。フォドラが統一されることで、外の国とも交易が増えると踏んだエドマンド辺境伯が、フォドラに留学していたヴァルム出身の僕に目を付けて、マリアンヌを同行させてくれと頼んだということだ。流石はやり手。クロードは面白がって付いてきただけだ。本当は野望のためにフォドラとパルミラ以外の外の世界を見たいという真面目な理由だろうけど……。イングリットはクロードがやらかさないか監視役という体で付いてきている。
「陛下が帰って来たぞー‼︎」
「お帰りなさい陛下!」
「立派に成長なされて……」
「陛下‼︎さっき取れた新鮮な魚食べてってくれよ」
僕の存在に気付いた港の住人たちが出迎えに来た。フォドラへ向かったときもそうだが、暖かく迎えてもらい嬉しいことこの上ない。子供たちが手を振るので振り返す。
「ただいま帰った‼︎定食屋のおじさん、今から行くから4人前お願い‼︎」
「国からの出迎えはないが、国民からはえらく好かれているんだな。」
「はい……。とてもここの人たちはとても暖かいです……。」
「皇帝ということは、嘘じゃなかったんですね。」
「10数年前までは、この国の人たちは怯えてばっかりだったんだけどね。伯父様がクロム聖王に敗れてから、少しずつ活気を取り戻していったんだ。」
そんなこんなで、昼食をとるために街の定食屋に入って席に着く。
「リゲルさん、本当に街の人たちとの距離が近いんですね……。」
「最初に会ったときなんかただのジェラルト傭兵団所属の傭兵かと思ったからな。きょうだいの弟名乗ってな。それが、皇帝なんだからさ。」
「あれだけ慕われているのですから、良い皇帝なんでしょう。」
「エーデルガルトみたいな威厳とか威光とかなんて何もないからな、僕には。それに即位するまでは、ヴァルムには居なくてね。しかも即位してすぐにフォドラに留学したから、皇帝とはなんたるかなんて学んでいないし。」
絶望の未来でも、今の世界でも、即位するまでの間、神竜の大地やソンシンでチキ様に育てられた。絶望の未来だとレンハ王もいたんだけど。伯父様の妹である母は、僕を産んですぐに亡くなったらしい。そして僕を抱えた父はチキ様の元にやって来て、もう一度眠りにつくから育ててくれと頼んで、何処かへ行ってしまった。
「すぐにフォドラに行ったならどうやって、街の人と仲良くなったんだ?」
「どうしてこうなったかというと近年のヴァルムの話をすることになるんだけど……。先代の皇帝ヴァルハルトは小国にまで衰退していたヴァルム帝国の領地を建国時代より少し狭いぐらいにまで武で統一したんだ。抵抗する力も無くなるまで徹底的に。当然反発も出るし、最終的に解放軍とイーリス・フェリア同盟軍の手によって伯父様の覇道は潰えた。皇帝不在になって、領地や政をどうするかという話になったんだ。皇帝の妹、つまり僕の母は行方知らずになっていたから。それでかつての諸国の貴族たちは、国を分解せずにヴァルム帝国のままにした。」
「つまり……、1つの大陸の中で各々の法や通貨を使うよりも1つの国で動かした方が良いということですか……?」
「アドラステア帝国の七貴族の変の後や、同盟の形をヴァルムの貴族たちは選んだということか……」
「あぁ、その通りだ。大陸全体が繁栄した方が最終的に自分の領地もより栄えるということだ。そうなれば、僕が14のときに皇帝として即位するころには……」
「アドラステア帝国のイオニアス9世と同じように皇帝としての力は何にもなかっんですね……」
「そ。そういうこと。お飾りの皇帝ってわけ。ただ、黙って見ているだけなのも嫌だったからさ、帝国領内の村や街を訪ねて、困ってることがあったら手伝ったり、盗賊を捕まえたりやり始めたんだ。それがきっかけで民たちと親しくなったんだ。」
「齢14で皇帝としての権力よりも先に、民たちの安寧を選んだのか、立派なこった」
「祖先の興した国を護り育てるは王の喜びだからね。それにクロム聖王自ら自警団を率いていたのを見ていたからかな。」
そう、絶望の未来で状況を打破するために神竜王ナーガ様の力を借りて、過去へ遡り運命を変えた。ギムレーを討ち、因果が収束することで、人生2周目のような状態だったからこそできたことだ。絶望の未来では、皇帝に即位したとて、屍兵やギムレーの対処で戦場に身を投じることでしか民を守る道はなかった。
「でもね、やっぱりそれだけじゃ足りないから、政治とか指揮とかを学ぶためにフォドラに行こうって決めたんだ。貴族たちもあんまり僕の動向気にしてないから、身一つでフォドラに行った。」
「それで、どうやったらジェラルト傭兵団に入ることになるんだ?士官学校に連絡入れてなかったのか?」
「連絡は入れていたよ。多少前後するけど、到着次第入学するって。フォドラに着いて右も左も分からなかったときにジェラルトさんに出会ってね。傭兵団で厄介になってたんだよ。入学が遅れたのはほら、ジェラルトさんガルグ=マク避けてそうだったから。そしたら、ルミール村でクロードたちが来たから、それでそのまま入学って訳だ。ジェラルトさんには、レアさんの目的が分からんから、ベレスの弟という体で入学しろって頼まれたけど。」
弟と名乗った僕という存在が、余計にセイロス聖教会との話をややこしくした気もするが、今となっては悲しい記憶も楽しい記憶もひっくるめて良い思い出だ。
そう言って時間を確認する。
「さてと、もうすぐ馬車の時間だ。おじさん、ごちそうさま。お代置いておくよ。」
卓に代金を置いて、駅へ向かった。
そして馬車に乗ってヴァルムの旅が始まった。合間合間の村や町を食事や宿泊のために訪れながら、1週間が経った。
「すまない、3人とも。帝都に行く前にどうしても寄りたい場所があるんだ。」
「私は構いません……。どこの景色も新鮮ですので……。」
「俺も構わない。何処に行くんだ?」
「このヴァルムで最も神聖な場所……、ミラの大樹だ。かつて信仰されていた兄妹神ドーマとミラの眠る地だ。その樹の頂上には神殿がある。ほら、見えて来た。」
僕は馬車の小窓から指し示す。
「大樹……ですか……。騎士物語にもよく出てきますね。」
「おいおいあれか……。フォドラでもあんなに大きな木はなかったぞ。」
「とても圧倒されます……。聖なる気で満ちている…‥。」
イングリットは騎士の物語を思い起こしていて、クロードとマリアンヌは驚嘆しているようだ。僕も初めて見た時はそうだった。あの時は、屍兵に占拠されていたが……。もちろん全員斃した。聖なる場所を穢すわけにはいかない。
「この橋を渡って、階段を登って行くんだ。」
ということで、僕たちは階段を登り始める。
「はぁ……。はぁ……。本当に頂上にあるんだよな……」
「もう何段登ってきたのでしょう……。」
「あと……どれくらいですか、リゲル。」
「あぁ、もうちょっとだ。っ⁉︎」
頂上から異様な気配がする。
「どうかしましたか、リゲルさん?」
「何かが、頂に座している……。」
頂に座すものがいる。
「眠っていた兄妹神が起きたんじゃないのか?」
「いや、その気配とは異なる気配だ。だけど、何処かで感じたことのあるような……?」
僕は過去に戻ったときに、ヴァルハルトとクロム聖王の決戦で、城の隠し扉からドーマの塔へ行く母にこっそり付いて行ったのだ。そこで、目覚めていた力の神ドーマを……、父を見たのだ……。なので、父の気配ならはっきりと分かるのだ。
頂に座すものの気配は何処かで……、いやフォドラで感じたことがある気がする……。
「着いたな……。頂上に……。さて、何者か見ようじゃないか。」
息も絶え絶えでクロードが顔を上げた。
そこには、全体的に黄色と橙色を纏った髪の長い少女がいた。
「おぬし……大いなる因果を変えし焔将がひとり、"黎明覇リゲル"に相違ないな?」
「は?いや、確かに僕はリゲルですが……。」
黎明の覇って何だよ。二つ名か?
「何だ、このちんちくりんの少女は?」
「クロード、今敢えて言ったでしょ?面白がりたいから。」
これはいつものイングリットによるクロードへのお説教タイムが始まるか?
「おい、おぬし。今吾をちんちくりんと言うたな‼︎ちんちくりんとはなんだ‼︎ちんちくりんとは‼︎」
「この人……、何処か先生のような感じがします……。」
「確かに言われてみればそうかもしれませんね、マリアンヌ。」
「そういや、きょうだいが前に言っていたが、頭の中にいた少女もこんな話し方だったらしいぞ。」
「じゃあこの人は、義姉さんと同じでソティスの器とか力を継いだ人なのかも知れないか。」
「……つまり、主に近い存在では……。」
「ええーい。吾の話を聞けーい‼︎」
「あの……、そろそろ話を聞かないとバチが当たる気がします……」
「そうだな、マリアンヌ。で、俺たちに何の用だ?」
「リゲルの名前も知っているようですし……。」
「なんじゃ、おぬしら。全く不敬な‼︎まぁ、よい。吾はフォトナ、”頂に座すもの”と呼ばれておる。」
ということで、クロード、マリアンヌ、イングリットが同行します‼︎