ヴァルハルトの甥 ダグザへ征く 作:風神弓雷神刀
1449年2/3 帝都ダグシオン
僕は追加試験のある28日までの間、鍛えようと思い闘技場に行ってみたものの、今は参加者のみが利用できるとのことで、市場まで戻って来た。ま、そりゃ既に参加が決定している人が優先されるかぁ。ダグシオンがどうなっているか探索でもするかと、階段を登って路地に入ろうとした。
「ゴホッ‼︎ゴホッ‼︎」
誰かの咳が聞こえる。重たそうな咳だ。僕は咳の聞こえる方まで近寄る。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ。気にすんな。」
大丈夫だと男性は答えるが、後ろを向いたままだ。大丈夫という割に、こちらに振り返らないことも気になったので、彼の正面に移動する。
彼の服には血が付いていた。比較的新しいものだし返り血ではないだろうから、咳をしたときに出たもののはずだ。
「血吐いてるじゃないですか⁉︎全然大丈夫じゃないでしょ⁉︎一度宿屋まで行きましょう。」
「いや、宿屋はやめてくれ。倅に見られちまう。」
宿屋に息子さんがいるのだろう。息子には隠しておきたいのか。心配させたくないのだろう。これが親心というやつなのだろうか。僕には親に育てられたことはないからよく分からない。彼の肩を担いで、近くのベンチに座らせる。
「すまないな。……⁉︎」
男性は僕の顔を見てハッとした。
「どうかしましたか?」
何か気になることがあったのだろうか。少なくとも僕はこの人に会ったことはない。未来から来たのだから。
「お前さんのその髪の色、その耳……ひょっとすると、神か半神か?ダグザの神でお前さんの姿は見たことはないが……。」
この発言から考えるに神殿で勤めているバルカンなのだろうか……。半神という言葉には聞き馴染みがない。
「少なくともダグザの神ではないですね。種族的には神竜族なので、神ではあると思いますが……。あなたはそのバルカンなのですか?発言からするにダグザの神々を見たことがあるでしょう。」
竜族であるが故に、迫害を受けたことはあるが、神として振る舞ったことはない。ドーマの息子だし、母もドーマとミラの血を持っているから、ほぼ純血の神だと思う。竜に姿を変えられる時点で僕が人であるとは思っていない。
「昔な。もうバルカンじゃないんだ。神をかどわかしたからな。」
「ダグザでそれをしたら死刑じゃありませんでした?でも、収監すらされていませんね。」
ダグザの法は軽く見ていたので、そのことについては知っていた。
「明日収監される。倅が一人前になるまで待ってくれたんだ。」
「寛大な措置ですね。来月から大剣闘祭が開催されますし、神殿が主導しているならハレでしょう。処刑なんていう穢れ事はやらないはずです。それも1年ぐらいは先になりませんか?なら、息子さんも途中で会いにくるかもしれません。病に苦しむ姿を見せたくないなら、治すべきだと思います。」
「どうせ俺は、処刑される身なんだ。むしろこんな長い間息子の成長を見せてもらってありがたかったよ。病気も重くてな医者に罹ったら助かる見込みもないとな。心配はありがたいが後悔はないんだ。」
真っ直ぐな目で僕を見つめる。後悔はしていないといっても助けられるなら、助けたい。
「でも、収監されている間も病に苦しむ姿は見たくありません。僕の勝手ですけど、せめて和らげさせてください。」
「どうして、見ず知らずの俺にそこまでするんだ。」
「困っていようが、いまいが苦しんでいる人は放っておけません。手を伸ばして届く範囲にいるなら助けたい。では、やりますね。」
僕は両手を八の字に前に出して、力を込める。周囲からは柔い光の玉がポツポツと出る。恵をもたらすミラの力だ。右目のミラの聖痕も反応している。光は優しく元バルカンの男性を包んだ。
「嘘だろ。かなり軽くなったぞ……。ありがとうな。」
「いえ、症状を抑えただけですので、病の進行自体は止められていません。すみません、完治はできないです。」
「それでも、ありがたいさ。息子に苦しむ姿を見せずに済むんだからな。あんた、神ではあると言っていたが、何の神様なんだ?癒しの神か?」
何の神か……か……。あまり考えた事なかったな。
「そうですね……。強いて言うなら力と愛といったところでしょうか。」
ドーマの力とミラの愛に誓ってはいるからな。
「はっはっは。そうか、力と愛か。それは良い。何かお礼ができれば良いんだが……」
「構いませんよ。明日収監されるなら、今のうちにやりたいことをやってください。やり残すことがないように……。」
「そうか。すまないな。名前そういや、まだ言っていなかったな。俺はカストールと言うんだ。」
カストールさんと言うんだ。そう言えば、ずっとカストールさんをつけている人がいるな……。逃げないように監視しているのかな。
「僕は、リゲル・アルバイン・ルドルフと申します。それで、あちらにいるカストールさんをつけている方はどなたなのですか。」
「あの距離で気付くとは手練だな。あいつはセントリオンだ。アウロラ神殿のバルカンだ。結構な堅物だ。そうだ、リゲルの神さん今晩空いているか?会わせたい人がいるんだが……。」
「リゲルで構いませんよ。今日は予定はありませんが、それで会わせたい人とは誰ですか?息子さんですか、それともかどわかしたダグザの神でしょうか?」
「ま、宿屋で待って、時間になったらセントリオンと一緒に来てくれ。」
「セントリオンさんとですか?分かりました。」
誰かははぐらかされたが、アウロラ神殿のバルカンであるセントリオンさんと来てくれということは、会わせたいのはダグザの1柱アウロラ殿だろうか……。病気を隠したいのに息子さんと会わせるなんてことは無いと思う。僕と出会った経緯でボロが出るかもしれないからな。
頼まれた時間になったので、宿屋まで向かい、金の鎧を纏った人物を探す。
「あ、いた‼︎セントリオンさん、よろしくお願いします。」
「カストールから聞き及んでいます、リゲル殿。これから、カストールを尾行しながら、案内します。」
「監視しないといけないから尾行は必須ですよね。」
遠くに見えるカストールさん御一行だが、カストールさんと同じ青い髪の色をした子が息子さんだろうか。
「監視大変じゃありません?」
「いえ、それほどでも。任務ですので。」
返答からもカストールさんの話を聞いたようにかなりの堅物と見える。
「あの扉の中は何があるんですか?」
「あそこは下水道に通ずる扉です。それ以外には何もないはずですが。」
「態々通るなら、多分神殿に続く道でもあるでしょう、きっと……。」
「まさか、そんなはずは……。いや、しかし……」
セントリオンさんにも何か思い当たる節があるみたいだ。腕を組んで考え始めた。
しばらく下水道を歩いていると横穴と階段を見つけた。そのまま、歩いて行くとどこかの部屋に辿り着いた。
「これはいったい……まさか、下水道がこんなところに通じていたとは……。」
「ーーむむ‼︎私は見ておりませんぞ。何も見ておりませんからな。」
多分アウロラ殿と思われる方がカストールさんを抱きしめると、セントリオンさんが僕ぐらいしか聞かれることのないのに高らかに宣言した。
「家族水入らずの時間もいるだろうし、僕も聞かないようにしようかな。」
右に倣って僕も後ろに振り返って隠れておく。当然セントリオンさんは2人の前に出されることになるのだが……。
「セントリオン、この子たちを宿に送っておいてもらえないか?」
しばらく隠れているとカストールさんの子供を宿に返すという声が聞こえた。カストールさんは僕がいることを知っているはずだから、子供達が帰った後に紹介するつもりなのだろう。
セントリオンさんは抜け道の存在は放置すべきでないと言っているが、アウロラ殿に許さないと言われてたじたじだ。仕える主に言われてしまってはどうしようもないだろう。
「あ、じゃあ、あたしたちはもう帰りましょ。大人の時間を邪魔しちゃ駄目だからね。」
ティアラという子がそう言うと、抜け道のあるこっちに向かってきた。
「うわっ‼︎あんた誰?」
見つかっちゃった……。
「君のお父さんの知り合いかな……。」
どういう経緯で知り合ったかはカストールさんを尊重して黙っておこう。
「って言うことはあなたもバルカンってことですか?」
「いや、バルカンではないよ。まぁ、君たちは早く帰りなさい。夜は危ないからね。でしょ?セントリオンさん」
「ああそうですな。参りましょう御子どの。」
子供らとセントリオンさんは来た道を戻って行った……。
「俺はちょいと重い病に罹っていたな。もう5年ほど前から患っている。」
「まぁ、カストール⁉︎治る見込みはあるのかしら。」
「正直なところ……治る見込みはないらしい。カイには何があっても言わないでくれ。」
「そんな⁉︎」
「どうせすぐに死刑になる身だ。むしろ、残された時間の中でカイを立派に育て上げて、アウロラに引き合わせることができたんだからな。ここまで持たせられたことを誇りに思うさ。」
優しい表情でカストールさんは語った。やっぱり僕はここで満足せずに生き続けてほしいと願うばかりだ。
「それで、今日は紹介したい人が他にもいるんだ。出て来てくれ。」
カストールさんに呼ばれたため、僕は部屋の中へと踏み入る。アウロラ殿に向かってお辞儀をする。
「お初にお目にかかります、アウロラ殿。リゲル・アルバイン・ルドルフと申します。」
「重い病とは言ってもな、少しでも苦しまなくても良いようにと、このリゲルが症状を抑えてもらったんだ。」
「あら、そうなの?それはありがとうございます……っ⁉︎」
アウロラ殿は僕の顔を見て驚いた様子だ。
「あなた……、ソレルとおさまの髪の色に、ユ・ファスかあさまの目の色、それにその尖った耳……。もしかして、あなたわたくしと同じ、とおさまとかあさまの子なのですか?」
どうやら、僕はアウロラ殿の父君と母君の容姿を組み合わせたみたいらしい。実際のところ違うので、否定しなければ……。
「いえ、僕はソティスに連なるものではありませんので……。アウロラ殿のご兄弟ではございません。」
するとさらにアウロラ殿は訝しんだ表情をする。
「あなた、どうして神祖の真名を知っているのかしら。その名を知っているものはごく一部しかいないはずなのですが、あなたはいったい何者ですか?」
ダグザの神々もソティスに連なるものだと言うことはレアさんから聞いていたので、ソティスの眷属でないと否定したが、どうやらソティスという名は限られた存在しか知らされないみたいだ。へまったな。どう言い訳しようか……。
「彼女の最後の眷属とそれなりの交流がありましたので……」
嘘は言っていない。レアさんと話したことがあるし、レアさんがソティスという名を口にしたところも見ている。
「最後の眷属……ですか……。何者かという答えになっていませんわ。」
そうですよね。ソティスという名前を知っている理由言っただけだもん。最後の眷属も言っちゃダメだったかも。ダグザ暦とフォドラ暦は大体1000年ほど数字にズレがあるから、すでにガルグ=マクがあるはずで、となるとレアさんは誕生していると思うのだが……。同じ眷属同士でも情報の共有などは何かしらの理由で無いのかもしれない。ダグザとフォドラの間で欠落が存在する以上、これ以上ソティス関連の話をするのはやめておこう。
「まぁ、アウロラ。こいつは見ず知らずの俺を助けてくれるようなお人好しだ。怪しい奴じゃないさ。」
未来から来ているため、怪しいは怪しいと思うが、カストールさんが僕について弁明してくれる。
「僕は神竜族という種族です。ダグザの地でソティスの眷属たちが神として祀られているように、僕の種族も別の地域で神として信仰されることもあります。」
ナーガ様やチキ様はイーリスやヴァルムで広く信仰されている。父であるドーマやミラ叔母様は今日では信仰が薄れている。それは、神の手がなくても人々が歩いていけるようにと望んだ2柱の通りになっているとも言えるが、ヴァルムの人々がチキ様、ナーガ様を信仰するようになったことを考えるに、かつての姿に戻っているとも言える。それを咎めたのがヴァルハルト伯父様というわけだが、伯父様のそれはいかんせん行き過ぎたのだ。
「カストールに免じて、これ以上の追求はやめておきます。」
「リゲル、あんたに頼みたいんだが、何か目的があってダグザに来たかも知れないが、偶にでも良いから、アウロラに力を貸してほしいんだ。」
「ええ、それは構いませんよ。先程から気になっていたのですが、部屋の扉に檻があるということは、アウロラ殿は閉じ込められているのですか?」
「ソレルとおさまの命で外出が禁じられているのです。一度カストールが連れ出してくれたのですが、連れ戻されてしまって……。あなたはお強いのですか?」
要はカストールさんがかどわかす前から外出禁止だったってことか。
「強いて言うなら力と愛の神と言っていたからな。力の神というくらいだ。隙も全然見せないし、かなりの手練と見える。」
「まだまだ浅学非才の身ですが、よろしくお願いします。ダグシオン大剣闘祭に出場するために、ダグシオンに来ており、試合の日以外は基本的に空いているので、いつでも呼んでください。」
まぁ、出場すら確定していないけど……。
「あら、ダグシオン大剣闘祭に出場するの?」
「優勝したら何を願うつもりなんだ?」
願い……か。そう言えば、考えてなかったな。
「その顔は考えていなかったな。まぁ、大剣闘祭は長いからな。ゆっくり考えていっても良いと思うぞ。」
「そうですね。仲間とも話し合うことにします。」
多分、バロールの討伐のための何かとかになるだろう。ドーマ教団やギムレー教団みたいにバロールを崇める存在がダグシオンにもある気がするので、神威法王ソレル殿に言うまでは黙っておこう。ダグシオンに来て3日では内部勢力について何も分かりやしない。
「そうよね。仲間がいらっしゃるわよね。どんな方なの?」
「そうですね……」
そんなこんなでカストールさんやアウロラ殿と色々話込んだ。2人だけで話したいこともあるだろうからと夜が更ける前に抜け道から戻った。最初は警戒されていたがある程度は親しくなれたと思う。
リゲルコレクション②
復讐 自身が傷を負っていれば負っているほど威力の上がる斧。クラスがブレイブヒーローのアズールに貸すつもりで持ってきた。