ヴァルハルトの甥 ダグザへ征く 作:風神弓雷神刀
抜け道を通ったは良いものの、違う道に出て来たかもしれない。引き返しても良いが、それよりも好奇心が勝った。いざというときの逃走経路に使えるかもしれない。
しばらく歩くと明るい場所に出て来た。地下であることは確かだが、檻がいくつか見える。ということは、牢屋か。牢屋なら見つけられたのは運が良かったな。明日から牢に入れられるカストールさんの様子を見に行くことができるだろう。色々考えていると、腰を曲げたご老人に声をかけられる。
「なんだね?お前さんは。」
「すみません。迷い込んで来てしまったもので……。」
「迷子か。なら、そこの扉から地上に出られるから、帰りなさい。ここは、若いもんが来るようなところじゃねえんだ。」
帰るように促される。ま、そうだよな。
「ちなみに、もし牢に入った誰かと面会するとしたら、あなたに許可を得る必要があるんでしょうか?」
お爺さんは怪訝な目で見てくる。
「まるで、これから知り合いが投獄されるかのような言い方だな。悪いが、神殿からの特別な許可でもない限り通せねえんだ。勝手なことをしてたら、ワシまで出入り禁止にされちまう。」
神殿ね……。アウロラ殿に頼めば、許可を取れるか……。目的はカストールさんの容態の確認だし。
コツコツと足音が聞こえてくる。その足の音の方を向くと、赤い目をした女性が、熊のぬいぐるみを持っていた。おまけに、そのぬいぐるみにはゴーティエの紋章が描かれている。後ろに仮面をした巨体の男を連れている。
来た瞬間、お爺さんは彼女に胡麻をするような手振りで話しかける。おそらく、偉い人、それこそ神殿の関係者か……?
「こいつは君子蘭夫人……。もう用事のほうは終わったんで?」
「ええ。白髪鬼は何の問題もなかったわ。安心して大剣闘祭の特別試合は見れそうだわ。ねぇ……そうでしょう?オットーちゃん。」
君子蘭夫人と呼ばれた人は、ぬいぐるみの方を向いて、それを撫でる。
「あら?あなた……。」
そういうと、僕の顔をまじまじと見てくる。
「その髪の色、耳、忌々しい赤い目……。あなた一体何者なのかしら?」
歯を食いしばり憎たらしく感じている物言いだ。
「おいおい、初対面で憎まれるようなことをした覚えはないんだけどな。それに、僕に誰を重ねているのか知らないが、君もその忌々しい目の色によく似たようなものじゃないのか?ご老人。この君子蘭夫人なる人は何者ですか?あなたの態度を見るに君子蘭夫人は身分の高い方とお見受けできますが。」
僕は、目の前の存在が流石に人ではないということを本能で感じている。恐らく、ソティスに連なるもの。だが、ダグザの神の彫刻を各神殿で見たが、ダグザにこのような姿の神はいなかった。いや、ユ・ファス神殿には入れなかったから、もしかするとユ・ファス殿かもしれないが。昔に、神威大帝ダグザの手でダグザの大釜なる物を使い処刑されたって聞いたからな。その線はないか……。
「ガブリエル?」
まるで、言うなと言っているように圧を、ご老人、ガブリエルさんにかける。
「ガブリエルさんのお立場が危うくなるなら、構いませんよ。」
アウロラ殿の話した時に、下手に情報を出すのは止めようと決めたが、目の前の怪しい女性を前に探りを入れたくなってしまっている自分がいる。
「多分、ナバテアの民だよね、君子蘭夫人?」
かつて、レアさんが自らのことをそういうように一瞬言っていた。考えるにソティスに連なる眷属たちはナバテアの民と呼ばれるはずだ。少し、カマをかけた。彼女がナバテアという単語を知っているかは分からないが。
「はて?一体何のことかしら?」
君子蘭夫人はピクッと動いていた。憎むべき対象がいると、感情が昂ってボロが出やすいように見える。
「まぁそれについては一旦いいや。あなたについても気になっているだよ。」
そう、後ろの巨漢だ。すぐに彼との間合いを詰めて彼の胸に耳をあてる。その心音が聞きたかったのだ。やはり、思った通り……。フォドラの戦争でどれだけ君たちと戦ってきたか。勘が当たるなぁ。
「あなた、アガルタの民でしょ?その心臓の音から察するに。」
「っ‼︎」
分かりやすいように動揺している。寡黙なように見えて、案外読みやすい人みたいだ。義姉さんが斬ったソロンや、シャンバラで瓦礫が落ちて亡くなったタレスには心臓がなかった。代わりに玉が入っていた。それを回収して、クロードと調べたところどうやら玉が心臓代わりだと判明した。それで、アガルタか判別するためにこの玉があるとして、心音が違うのでないかと考えた。そして、ネメシスたちとの戦いでクロードがオデッセという人物を捕まえて、心音を聞いたところやはり違ったそうだ。僕はクロードからどういった特徴の音かは聞いている。過去に戻って、アガルタの転移装置を使う気でいたので、現存しているアガルタの勢力に狙われる可能性もあるからだ。
「そうだ‼︎アガルタは僕たちが壊滅させたよ。」
「……本当か⁉︎」
彼の目は見開く。
「あぁ、本当だとも。」
ただし、未来でだが。
「タレスも、ソロンも、ミュソンも、クレオブレスも、オデッセもみんなね。シャンバラはタレスが自らの手でアルテミスの矢を使って、崩壊させたよ。」
これで、アガルタを滅ぼした僕たちに手を出すなと警告したいがな。
「感謝する……。」
「は?」
思わず声が出た。何に感謝しているんだ、この人は⁉︎
「彼らの名もシャンバラも知っている以上、本当のことなのだろう……。私は、アガルタから逃亡した身。同胞が滅ぼされたならば、追手に怯える必要はない……。」
「そ、そうかい。役に立てたようで何よりだよ。でも、僕たちはアルテミスの矢の制御権を手に入れている。これが、どういう意味か分かるよね?」
まぁ、アガルタ滅んだって騙せたから良いや。もちろん、アルテミスは使うつもりはない。被害が甚大になるからだ。
「あ、あぁ。勿論だ……。イリアナ様……、この男に手出ししない方が良いかと……。この男は、簡単に世界を灼くことができます……」
「ガンシン……。玩具の分際で私に命令してもよくって?」
このガンシンという男はイリアナから凄まれる。僕は、ガンシンの肩に手を乗せ、真横に立つ。
「ガンシン、ありがとう。この人、イリアナ殿というんだね。君は、共にアガルタと対立する良い仲間だ‼︎」
ちょろいなぁ、この人。そのイリアナ自体も偽名の可能性もあるが。
「クッ‼︎まぁいいわ。好きに世界を灼いてはどうかしら?」
「別に灼いても良いという態度……。そっちの方が君にとって都合が良いんだね。」
冥界に引き込むために、多くの人が亡くなる方がいいと考えているなら、そういう反応になるだろうな。やっぱりイリアナはバロール復活に大きく関わっていると見た。
「もう行くわ‼︎」
そう言って、足早に帰って行った。
「わ、ワシを殺す気かっ‼︎」
「すみません、ガブリエルさん……。つい、探りを入れたくなっちゃって。それで、神殿から許可を得ることができたら、中に入ることができるんですね?」
「いや、お前さんは入ってよい。お前さんは、何を仕出かすか分からん上に、怖いわ‼︎」
「えっ!良いんですか?」
怖いって言った?ガブリエルさん。エーデルガルトのような威厳なんて何もないから怖くないと思うけどなぁ。イリアナとガンシンの気配が消えたことを確認する。ガブリエルさんはこれから牢に来るたびに関わる人だ、名乗っておかないと。
「ガブリエルさん、ありがとうございます。改めて、ヴァルム帝国皇帝、リゲル・アルバイン・ルドルフと申します。以後、お見知りおきを。」
怖いという印象を払拭しないといけないから、笑顔を作って手を差し出す。
「ひっ‼︎皇帝……じゃと‼︎」
ガブリエルさんは手を取ってくれた。なんかさっき以上に怖がってない?
「では、僕はこれで。また、会いましょう。」
「えぇ、達者で〜。」
急に手を組んで揉み出してどうしたんだろう。まぁ良いか。僕はガブリエルさんに最初に教えられた道を辿って外に出た。すると、相変わらず夜中に出歩いている男がいた。
「クロードじゃないか。こんな遅い時間に何しているんだ。」
「リゲルか。神殿の書庫でも漁ろうかと思ってな。侵入が難しそうだったから戻って来たんだ。神殿には禁書もあると聞いたんでな。ダグザの歴史なんか調べようと思ったんだが、収穫なしだよ。リゲルは夜更けまで何してたんだ。逢瀬なんて訳でもないだろ?」
「アウロラ殿に会って来た。」
「ほう……。女神アウロラは神威法王ソレルの手によって外出を禁じられているから、神殿に勤めるものでしか会えないって噂だろ?何を使ったんだ?」
「人助けしてたらね。会わせたい人がいるって言っていたから付いて行ったら、それがアウロラ殿だったんだ。偶々だよ。」
「そうか。俺も人助けしたら、神殿の書庫に連れて行ってくれないかな?」
「かなぁとか言って、運任せ嫌いだろ、クロード。クロードがそれ言ったら狙い撃ちでやる気にしか見えないよ。ルミール村に来た時も日頃の行いが良いとか言っていたけど、あれも全部事前に調べておいた計算ずくなの知ってるからな。」
「ははっ、やっぱりお前にはバレていたから。それはまぁ、置いといてだ。どんな人柄だったんだ、女神アウロラは?」
「そうだなぁ、箱入り娘といったように感じたよ。そうだクロード、神祖ソティスの名は出さない方が良い。限られたものしか知らない名前らしい。」
「ということは、女神アウロラの前で1度出してみたんだな。」
「あぁ。加えて、ダグザの眷属とフォドラの眷属の間で情報の欠落があるように見える。ダグザの神々と話すときは慎重に情報を開示するべきだ。」
そうは言っても、イリアナ相手に危ない橋渡ったけどね。
「それも、何か言ってやらかしたな。まぁ、ダグザの神々の1柱とお近付きになれたのは大きい収穫か……。」
「それともう1個。いや、2個かな。イリアナという眷属にも地下牢で会った。ゴーティエの紋章模様のぬいぐるみを抱いている女性だ。」
「ほう?」
「話を聞くに、バロールの復活を企てていそうだった。」
「根拠は何かあるか?」
「もう1個にも関わってくるが、ガンシンというアガルタの民にも出会った。どうやら、アガルタから追われているらしく、アガルタを滅ぼしたと言ったら信じてくれた。でだよ、一応手を出したらアルテミスの矢を使うぞと脅したんだよ。そしたら、イリアナが好きに世界を灼けと言うんだよ。断定はできないが、冥界に多く引き摺り込みたいからじゃないかな。それか、単に殺戮を好んでいるか。」
「ま、警戒しておくに越したことはないな。俺の方も興味深いことがあったんだ。構成員も何をやっているかも分からないミトラス修道会ってのがあるらしい。それも随分古くから活動しているみたいだ。」
「ミトラス修道会ねぇ……。イリアナもそこ所属かもね。今後は、イリアナとミトラス修道会の動きに要警戒ってことだな。」
「そうするか。俺もまた情報集めるよ。神殿にでも潜ってな。」
「そろそろ宿に戻ろうよ、クロード。明日欠伸なんてしていたら、またイングリットからどやされるぞ。」
「ははっ。それもそうか。今日のところは引き上げるか。」
さぁ、イングリットからの小言は誰になるのやら。
ガンシンって、ファビオとの出会いを見るにちょろそうですよね。
クロードとリゲルが教団に黙って解剖なんて禁書レベルのことをやっているって?ちょっと変だなって思ってほんの少し調べただけだから……。
リゲルコレクション③
月光 アルムも使っていたらしい弓。槍も持って来ている。相手の守備をカットして攻撃できる。