ヴァルハルトの甥 ダグザへ征く 作:風神弓雷神刀
ダグザ暦1449年2/4
「ふぁぁぁ。」
「何ですか、その大欠伸は。」
「俺は、深淵より神々の動向を探っていたのだ。血が騒ぐ故、そっとしておいてくれ……。」
「ウード。その話し方をやめてください。こちらとしても、言動一つ一つを咀嚼するのに時間がかかってしまいます。共に戦う仲間なのですから、戦場では円滑な会話の方が好ましいです。」
欠伸をしたのはウードである。ウードもダグザの神話なり、武器なりを夜遅くまで調べていたのだろう。そして、イングリットの前で欠伸をしてしまったのだ。僕もクロードも、イングリットの前で欠伸なんてしたらどうなるかなんて分かっている。と言うか、クロードの時はその発言の適当さもあったから注意されていたが。ウードもその話し方の方にシフトチェンジされている。
「ウードのそれは昔からずっとそうなんだ、イングリット。魂まで刻まれているから、それ以上の追求はやめてあげて。ウードが凹んじゃうからさ。」
なんでそう言う言動をするようになったのかは本人に聞いたことないけど、きっとあの絶望の中で、己を鼓舞するためじゃないかと思っている。
多分、ウードが王族って言ったら、イングリットがもっと怒ってしまう気がする。クロードの大欠伸の時は貴族の品性が、と言われていた。
「そうなのですか。ですが、私としては普通に話しかけてくれる方がありがたいです。」
それは本当にそう。こっちもウードの発言を感覚で感じ取っているだけだ。戦闘指示は分かりやすし頼りになるからまだ良いんだけど、アズールやセレナみたいに適当にあしらうのが、ちょうどいいんだろう。
「いやあ、ウード。イングリットの前では御法度だぜ。俺も夜更かししてたが、イングリットの前では欠伸しないように努めているんだ。」
「クロード……。あなたって人は……。」
クロードに矛先が向いた。
「おっと、急に眩暈が……。話はまた、後で、な」
クロードは撤収した。眩暈がするのに宿の反対方向に走って行った。
「待ちなさいっ‼︎もうっ、また適当なことを……。」
「朝から賑やかだね。ウードも元気だしなよ、ほら。さっき、サラミス王国の船が港に着いたらしいよ。これから、列をなして、ダグザ神殿に行くみたいだよ。サラミスの行列は有名だそうなんだ。」
「何?それは本当かアズール……。」
「本当だよ。」
「そうか……。ならば、見に行かねばならないな。」
アズールのお陰で、ウードは調子を取り戻した。
「終わったら、サラミスの女の子に声かけよー。どんな子がいるかな。」
「アズール、あなたも口説いて回るのをやめなさい。」
「ごめん、僕も女の子が待ってるから行くねっ‼︎」
「ちょっと、アズール‼︎はぁ。いつか女性に刺されるんじゃないかしら。」
アズールは実際、ナンパした女性に騙されて身ぐるみを剥がされたこともある。彼の名誉のため黙っておくが。
「イングリットも災難だね。周りの人達がこうも騒ぎを起こすと。」
フェリクスや、シルヴァンはじめ、クロード、ウード、アズールと……。
「あなたもどちらかと言えば騒ぎを起こす側ですが……。昨日、宿に遅くまで居なかったですし、何か問題を起こしてはいないですよね?」
「人助けしていただけだよ。それよりも、サラミスの行列を見に行こうよ、イングリット。」
「はぐらかされた気もしますが、まぁ良いでしょう。私も見てみたいので……。」
「あんたたち、騒がしいわね。」
「……みなさん、どうかされたんですか?」
「あぁ、セレナ、マリアンヌ。僕たちの問題行動をイングリットに咎められていただけだ。2人は気にすることでもない。」
ぶっちゃけセレナもこっち側だけど。
「もう人溜りができている……。疾く行かねば、近くでダグザの盾を見れないぞ。」
ウードなりの表現なのか、はたまた実際にサラミス王国はそう呼ばれているのか……。
「分かったよ。それじゃあ見に行くか。」
ということで、5人で闘技場前まで来た。クロードとアズールはいないが、どこかで見ているだろう。ふと周囲を見渡すと、櫓に登っている子たちが見えた。昨日の子供たちだ。父は牢に収監され、母は神殿で謹慎……。カストールさんに、アウロラ殿に手を貸してくれと言われたが、両親が側にいなくなったカイの方も心配である。
「おい、本当にサラミスの連中だぜ……」
「サラミス王のお通りである‼︎前を開けよ‼︎」
サラミス兵の声で、物珍しく見る見物人たちは道を開ける。
「あいつら、あのダマスカルの末裔なんだろう?なんとまあ、豪華なもんだなあ。」
「あれがセオドラか。」
「セオドラ様……なんという美しさだ。」
「サラミスのセオドラといえば、片手で象も持ち上げる豪傑だって話だぜ。」
観衆からは好奇の目に見られる。ダマスカルの末裔……。かつて神威大帝ダグザに滅ぼされたところだったか?確かそのときにユ・ファス殿も処刑されたとか。やっぱり、昨日のこともあって、ユ・ファス殿が気になってしょうがない。今日、クロード誘って神殿に忍び込もうかな。彫刻が残っているなら、顔を拝めるかもしれない。色々考えていると、セレナから話しかけられる。
「片手で象ねぇ。リゲル、あんたできるの?」
「象は持ち上げたことないなぁ。できなくはないだろうけどね。」
多分すぐに投げ飛ばして良いなら持ち上げられるだろうか……。象に対抗されたら数秒も持たないと思う。
「リゲルさん、腕力だけで、空飛ぶ飛竜を地面に叩きつけていましたね……」
「嘘?ほんと、マリアンヌ。あたしには無理そうね。非力だから。」
「殿下ならできたのでしょうか……。」
非力だとセレナは言うが、僕は知っている。セレナがその気になれば、竜になって飛竜を地面に叩きつけることはできるだろう……。彼女はそれを気にしているからやることはないだろうけど。セレナの手にある邪痕を見ながら思う。イングリットの言うようにディミトリは絶対できる。
「それよりあの女王様にアズールがナンパしに行きそうで気が気じゃないぜ。」
しんみりした空気になり出したことを察知してか、ウードが話題を変える。
「そうなれば、私たちが尻拭いですか。困ったものです。」
「あたしは見ていないところで起きたアズールのトラブルは放置してることが多いけど。そっちの方が気が楽になるわ、イングリット。流石に目に付くところだと止めているけどね。」
「……サラミス王国では、象に乗って戦うそうです……。」
「確かに、行列の中にも象に騎乗している人もいるわね。」
「ヴァルムやイーリスなら、馬、天馬、飛竜、グリフォン、ダークペガサスぐらいか、騎乗するの……、いやヴァルムがまだリゲル帝国やソフィア王国のときは象になる弓兵がいたな……。」
「ダグザには、オルニウスに騎乗することもあるらしいです……」
「実に豊かな動物たちにまたがるのだな……ダグザのものたちは……」
「ダグシオンの下層にある厩に行けば、動物たちに会えるかもな、マリアンヌ」
「はい……今度行ってみます……」
そんな時に事件は起こった。
「ティアラ‼︎」
カイの叫び声が聞こえる。ティアラが櫓から足を踏み外し、それをカイが助ける形で、サラミス王国の行軍の先頭を遮ったみたいだ。
「うわっ」
すぐにサラミス兵たちがカイを取り押さえる。
「ちょっと、いきなり何なんだよ‼︎」
「おい、あれ斬り殺すつもりだよな、リゲル。」
「あぁ、ウード。」
僕もウードも迷わずカイを助けるために前へ向かう。見殺しは気分が悪過ぎる。サラミス女王セオドラの人物像が分からない以上、向かう方が良い。
「サラミス王の進路を塞ぐ者は、切り捨て御免だ‼︎」
サラミス兵が剣を振り上げたところを、カイを守るようにウードが兵の目の前に割り込みミステルトィンを構える。セレナとイングリットがカイを取り押さえる兵2人を引き剥がす。マリアンヌは櫓から地面に叩きつけられたカイの怪我の治療だ。僕はというと、振り上げた剣目掛けて殴りかかる。手は剣にあたり、剣はへし折れる。その衝撃でサラミス兵は吹っ飛ぶ。まぁ、怪我はしていなさそうだ。
わぁ、前の方のサラミス兵みんな剣抜くじゃん。
「サラミス兵のみなさん。サラミス王への忠義のため、進路を妨害されたから斬ろうとしたのは分からんでもない。面子もあるからな。サラミスの掟がサラミス王国内で、効力が発揮されるならば理解できる。ここは、ダグシオンだ。サラミスではなく、ダグザの法の効力が発揮されるべきだ。その上、侵略目的で来ているわけでもあるまい。そして、」
続きを言おうとしたら、セレナが割って入って来た。
「自分の国の掟が、外に出ても、知られていて当然だなんて思っているわけ⁉︎だとしたら、あんたたち驕りすぎよ‼︎それに、柱から落ちた女の子を身を挺して庇って道に転がっただけの男の子を殺すの?騎士の忠義かなんだか知らないけど、良心は痛まないわけ?」
全然サラミス兵が剣を鞘に納める気配もないし、なんなら女王セオドラがこっちに来てる……。でも、セレナはまだまだ啖呵をきる。
「そっちが剣を納めないなら、こっちにも手があるわ。あんたたちの理屈が通るのならあたしたちのだって通るはずよね?いい、私はペレジア王国国王ファウダーの孫なの、つまり王族なのよ。」
確かにルフレさんの娘ってことはファウダーの孫であってるけど、ペレジア王国の王位継承は世襲じゃないでしょ。まぁ、ダグザの人たちがそんな制度を知るわけないか。というか、ギムレーの子でもあるんだから、神の子と言った方が説得力があがるだろうけど、流石にセレナもそれは言いたくないのも分かる。
「それに、さっき剣をへし折ったやつはヴァルム帝国の皇帝だし、隣で剣を構えているのはイーリス聖王国の王子よ。」
「後、レスター諸侯同盟の盟主もいるぜ。」
「クロード、アズール、来たのか。」
「面白そうなことなっていたからな。一触即発ってところだな。」
「セレナもリゲルも面倒事起こすよね。」
アズール、君はそれが言える立場じゃない。
「あたしたち、王族の進路を塞ぐあんたたちは今から掟に従って切り捨てるって言われたら、納得できないでしょ?」
セレナが色々言っている間に女王セオドラがここまで来た。しかし、僕たちのところを通り過ぎる。
「お前たちが王族であるかは分からんが、最初の目的はそこの孺子だ。」
「あの……」
おい、女王セオドラ、殴る体制に入ったぞ。
僕は咄嗟に腕を伸ばして右手の拳を受け止める。片手で象を持ち上げられるらしいだけあって力が強いな。
「おい、どういうつもりだ‼︎それになぜ私の拳を平然と受け止められる。」
「僕がなぜ貴女の拳を受け止められるかは関係ない。おおよそ、セオドラ女王自ら、少年を殴ることで、兵士たちにそれ以上の手段を取らせないためにやっているというように思います。面子のこともあるでしょう。けどね、それでも僕は人を守った少年が殴られるところを見逃せるわけじゃない!」
「あの女曰く、お前は皇帝だそうじゃないか、国を守るための威厳はないのか?」
「あぁ、確かに皇帝だ。だけどね、面子のための威厳なんてものはいらない。覇道も王道も歩めない半端な道だけど、それでも半端者なりに正しいと思ったことをやっているんだ。ここは引いてくれ、セオドラ王……。」
その瞬間、何かに反応しているかのように女王セオドラの右腕が光る。
「その右腕、セオドラ王自身のものではないな。禍々しい気配も感じる。」
「お前に教える筋合いはない。その目、覚悟の決まった目だな。実に青臭い。……分かった。引いてやる。お前たちもその孺子を連れて引け。」
女王セオドラはそう言い残して去って行った。
「行きましたか……。」
「俺たちも噴水の方へ立ち去るか。」
「あの、カイを助けてくれてありがとうございます‼︎ごめんね!本当にごめんね。あたしのせいで……カイ。」
ティアラがお礼を僕に言う。
「俺は大丈夫だよ。兄ちゃん、庇ってくれてありがとう。兄ちゃんさ、昨日、神殿に居たよね。親父の知り合いって言ってたけど?それに皇帝だって姉ちゃんに言われていたけど、親父に皇帝の知り合いいた記憶ないんだけれど……」
「カストールさんとは、昨日知り合ったばっかりだね。困っているところを助けたら、君の母君に会わせたいってことで、神殿にいたんだ。」
「えぇ、昨日知り合ったばっかりなの⁉︎あの、俺、カイって言います‼︎お兄ちゃんはなんていうの?」
「よろしくな、カイ。僕はヴァルム帝国皇帝リゲルだ。」
「ヴァルム帝国……、ヴァルム帝国……どこかで聞いたことあるような?」
ティアラはヴァルムの名前に聞き覚えがあるようだ。
「そうだわ‼︎おじいさまの本で読んだことがあるわ。確か、邪神を討った英雄アルムが興した国じゃなかったかしら?あのときイーリス聖王国というのも出て来たけど、それはヴァルムの隣の大陸の国だわ。確か、邪竜を封印した国だったはずよ。」
うわ、当たってる。物知りだな。
「よく知ってるね。ダグザじゃ、僕たちの国のこと知っている人なんていないと思っていたよ。」
「でも、あなたの容姿……、ダグザで人と呼ばれる特徴ではないですよね。ダグザの外の……ヴァルム人の特徴なのかしら……。」
「いや、ヴァルム人の特徴ではないよ。僕は神竜族なんだ。ダグザでいうところの、神々と一応似た立場なんだ。」
立場は同じだが、僕は神として振る舞うことはない。ナーガ様と謁見してるときぐらいだ。もしかしたら、ダグザの神々と対峙する時にそう言った態度を取る必要が出てくる場合もあるかもしれないが。
「ええ‼︎神様であり、皇帝ということは……、ダグザ大帝と同じってこと⁉︎」
「ははっ!確かにそうだな、ピーテル。ここはダグザだし、個人的に来ているだけだから、気軽に接してもらって構わないよ。僕はそろそろやることがあるから行くよ。何かあったら声かけてくれ。手を貸すよ‼︎」
「うん‼︎ありがとう、リゲル兄ちゃん‼︎」
子供たちが手を振ってくれた。いやぁ、健気だね。遠くから、ピーテルがサラミスは大剣闘祭に参加するために来たと聞こえる。
そうか……。ならば、いずれ戦うこともあるだろうな。さてと、クロードを探すとするか。
セオドラと初邂逅でした。ディートリヒやレダは3月から来るので、まだ先です。
リゲルコレクション④
流星 5連撃を繰り出す剣。ファルシオンを使わない場合は、流星と太陽の2振りを交えたソンシンの剣術を用いる。