俺以外の登場人物が強くてニューゲーム状態で始まる終末世界のヤンデレもの。 作:走れ、ヤンデレ
下らない夢。
そう断じていたら、どんなに不幸だったか。
空っぽだった私に植え付けられたのは、確実に存在した別の自分の記憶。
指揮官に助けられて、共に苦難を乗り越えていく事で信頼関係を築き……最後に、彼が死ぬ。
悪趣味極まりない記憶。
目を覚ました私には、力があった。
前世の私が必死になって磨き上げた力。
自らに与えられた贈り物の詳細を確認した私はすぐさま、基地を飛び出した。
これは競争だと、瞬時に理解したから。
先着一名限り。
誰が先に彼を手に入れられるかの競争。
その結果、私は敗北した。
忌まわしき宿敵が、指揮官と抱き合う姿を見てしまった。
絶対に、殺してやる殺してやる殺してやる。あいつから指揮官を奪い取ったら、絶対に離れないし、離さない。朝起きてから夜寝るまで、一挙手一投足を監視して、私が指揮官を守る。好奇心旺盛で目を離すとすぐに何処か行ってしまう指揮官。そんな彼も愛おしいが、それでも永遠に私のそばにいるべき。記憶の中の私は自主性を重んじていた。自分と指揮官の間にある信頼関係はそう易々と崩されるものではないと、悠長な考えを有していたせいで、指揮官はヴィザードに誑かされた。綻びが生まれて、歯車がうまく回らなくなった。そして、私達はあんなにも凄惨な結末を迎えたのだ。だから、信用できるのは私だけって早く分からせてあげないと。どんな人よりも純粋な指揮官は色んな人に手を差し伸べてしまう。それは私にとってコアを抉られるよりも辛くて痛くて苦しいこと。嫌な思いをしなくても済むように、現存するヴィザード全てを殺して、私が指揮官の一番になる。そう心に誓う。秩序が無くなって、混沌が蔓延する世界でも私が指揮官を守る。絶対に絶対に守るから、私達以外存在しない世界を二人きりで生きて行こうね、アキ……
「うわああああああああ!!!」
深い眠りから目を覚ますと、昨日出会った少女の小綺麗な顔がすぐ近くにあった。
驚きのあまり、飛び上がるように起きた俺はすぐに布団から脱出する。
「んう……指揮官、うるさい……」
「お、おまっ、お前っ! なんで……俺のベッドの中にいるんだよ!」
眠りまなこを擦りながら、昨日出会ったばかりの少女……ランゼは起き上がる。
「ずっと一緒にいるって約束したでしょ?」
俺の言葉が理解できない、とでも言いたげに首をこてんと傾げたランゼはそう呟いた。
言いたいことはあるが、何も言えない。
ここで反論して、ランゼの機嫌を損ねる訳にはいかないから。
指揮官モドキである俺はヴィザード達にとって、理想的な存在で有らなければならないのだ。
……それにしても、指揮官とやらは、毎日のようにヴィザードと添い寝してたのかよ。
とんだロリコン野郎じゃねぇか。
「お腹すいた。朝ごはん食べよう。指揮官」
「おう。食堂に行くか」
ふわぁと欠伸をしたランゼは、ぴたっと俺にくっ付く。
まさか、本当に四六時中一緒にいるつもりなのか?
プライバシーもクソも無いな。
だが、我慢するしかないだろう。
これも、指揮官としての務めなのだから。
「な、なななっ、何してんのよ、アンタら!」
「指揮官にくっ付いてるだけ」
「破廉恥すぎるわっ! さっさと離れなさいよ!」
「やだ」
食堂に辿り着くと、先客であるリッカが待っていた。
彼女は密着する俺とランゼの姿を見て、顔を真っ赤に染めながら引き剥がそうとする。
そうだよな、変だよな!
普通、こんなにくっ付かないよな!
てっきり、俺の感覚がおかしいのかと思っていたが、おかしいのはランゼの方だったようだ。
これで、一安心。
「だってよ。悪いが、密着タイムはお終いだ」
「残念無念」
「……ランゼばっかり、ずるいわ」
「指揮官さーん。リッカちゃんも、ランゼちゃんみたいにくっ付きたいみたいですよー」
「ち、ちょっと。何言ってんのよ、ニーナ!」
やいのやいのと騒いでいると、お盆を手に持ったニーナが現れる。
彼女は、手慣れた所作で席につく俺たちの前に、朝食を配膳した。
「今日は、サンドイッチを作りました。おかわりもあるので、ご自由にどうぞ」
目の前に置かれた朝食を見て、俺はごくりと生唾を飲み込む。
卵のサンドイッチ、ハムレタスサンドイッチ、ツナサンドイッチ、照り焼きチキンサンド。
終末世界では中々お目にかかれない生の食材。
今まで、俺が食いたくても食えなかった物が、パンに挟まれてズラリと並ぶ。
「た、食べちまって良いのか?」
「勿論です。指揮官さんのために作ったので。食べて貰わないと困ります」
「指揮官の帰還祝いだもの。このくらい、豪華にしないとダメよね」
「……それじゃあ、みんな声を合わせて」
「「「「いただきます」」」」
ランゼの音頭に合わせて、食材と生産者への感謝を告げた俺は、サンドイッチを貪り尽くす。
レタスの瑞々しさとハムの肉肉しさのハーモニーを味わい、卵と照り焼きを食べて、ニワトリという存在の素晴らしさを実感する。
最後に、ツナサンドイッチを食べて……おかわりのサンドイッチも食して、ごちそうさま。
まさに、最高のひとときだった。
「ニーナ、このサンドイッチはお前が作ったのか?」
「はい。お気に召しましたでしょうか」
「こんなに美味いもんを食べたのは初めてだ……ありがとう。本当に、ありがとう……!」
「指揮官が泣いちゃった……」
「大袈裟……って言いたいけど。こんな世界だもの、しょうがないわよね」
俺は、咽び泣く。
本来の指揮官ならば、こんな大袈裟な反応をしないことは理解してる。
それでも、溢れ出る感情を抑えきれない。
……なんちゅうもんを食わせてくれたんや。
これまでの人生で、俺は生の食材を食った事が無かった。
賞味期限だけが長い、無駄に固いパン。
賞味期限が過ぎた、よく分からない缶詰。
腐っていると分かりきっていながら、我慢できずに食べた謎の肉。
ニーナのサンドイッチと比べると、あいつらはカスだ。
食べ物と認めたくないくらいのカス。
これじゃあ、もう、元に戻れない。
崩れかけた廃ビルの中で、食べ物未満の飯を食べてた生活には、戻れないではないか。
「ニーナ、ランゼ、リッカ。お前らは絶対に……俺が
(……チョロい)
(チョロすぎるわね)
(チョロすぎますね)
ヴィザード三人の温かい視線を浴びながら、俺は決意を新たにする。
俺は今の生活と、生活を支えてくれるヴィザード三人を守るためなら、何でもすると。
そして、これから先、何があろうとも、指揮官の座にしがみついてみせると。
そう、心に誓ったのだった。
「それでは、指揮官さん。真剣な話を始めても宜しいでしょうか」
「あ、ああ。構わんぜ」
「指揮官さんが帰投して早々、申し訳ないのですが……こなして頂きたいタスクがありまして」
ニーナが口を開くと、和やかな雰囲気が一変。
場の空気が、ピリついていく。
今となっては、ランゼもリッカもニーナも、笑顔を浮かべていない。
三人揃って、真剣な眼差しを俺に向けていた。
なんていうか、流石はヴィザードだな。
緩める時は緩めて、締める時は締める。
いかにも、御国の為に戦う軍人って感じだ。
ちゃらんぽらんな俺の肌には合わないが、嫌でも適応していかなきゃな。
「指揮官さんには……各基地の責任者が参加する定例会議に出席して頂きたいのです」
その言葉を聞いた途端、ゾッとした。
俗に言う、虫の知らせって奴だろうか。
嫌な予感が、プンプンする。
「ちょっと待て、大本営とは連絡が取れないって聞いた覚えがあるんだけど」
「はい。昨日までは連絡が取れなかったのですが……一晩で、システムを復旧させました」
「だ、誰が?」
「私が、ですね」
優秀すぎるだろ。
本来なら、喜ばしい事だが、俺にとっては最悪。
鬼の居ぬ間に洗濯しようと思ってたのに!
「ええ。本日の午後6時ちょうどに、各基地の指揮官がリモートで集まる会議が行われるのです……」
淡々と続くニーナの説明を聞きながら、俺は心の中で大騒ぎする。
……定例会議だって。
そんなんがあるなんて、聞いてねぇぞ!!!
どうしよう。
どうしようどうしようどうしよう。
当然ながら、俺は本当の指揮官じゃない。
精神がやられていて、俺を指揮官だと思い込んでるヴィザード達はともかく、大本営のお偉いさんを騙せる訳が無い。
全くの別人が、何食わぬ顔で定例会議に参加したらどうなるか……馬鹿な俺でも想像がつく。
「うおおおおおおおおお!!!」
朝食を終えて、ヴィザード達と解散した後。
無我夢中になって、自分の部屋を漁る。
探しているのは、本物の指揮官の顔写真と映像。
これさえあれば、多分なんとかなる。
俺の魔法は、変化。
文字通り、対象の特性を変化させることができる。
この魔法のポイントは、自分の特性も変化できること。
つまり、指揮官の顔写真と映像さえあれば……自分の姿と声を、指揮官の姿と声に変化させることが出来るのだ。
無論、魔力が尽きたら魔法が解けてしまうため、時間制限はあるが、リモートならば問題ない。
「整理整頓くらい、しっかりしろよっ!」
本物の指揮官は物の片付けが下手なようで、収納の中には乱雑な物がぶち込まれている。
旧型のゲーム機やら、ボードゲームやら、アニメのDVDやら、オモチャばっかり。
しっかりと仕事してたのかって聞きたくなるくらいには、娯楽ばかりが詰め込まれていた。
これで、あんなにもヴィザード達に慕われてるんだから、指揮官って役得だよな。
「お?」
俺が手に取ったのは、一つのDVD。
DVDが入っていた無地のパッケージには、調教記録と書かれていた。
「……なんだ、これ? むっつり指揮官が隠し持ってたビデオか何かか?」
今、こんな物を見てる暇はない。
分かってはいても、好奇心を抑えられない俺は、部屋のノートパソコンを使ってDVDを再生する。
そして、思わず、言葉を失った。
「いいか? 貴様らは道具なんだ! 黙って、俺の命令を聞いてりゃ良いんだよ!」
薄暗い部屋の中で、禿げ散らかしたオッサンに見知った少女が殴られている。
恐らく、殴ってるオッサンが指揮官であり、殴られている少女はリッカだった。
「……っ」
「はは……なんだ、その目は? 俺が憎いか、殺したいか?」
「無能指揮官。いつか、絶対に殺してやる……!」
「口だけは達者だな、クソガキ! 殺せるものなら、殺してみろ! もっとも、俺が死んだら、お前らも死ぬがなァ!」
見ていられなくなった俺は、再生を止める。
悪趣味すぎるDVDだ。
無抵抗な少女達をぶん殴ってる自分の姿を見て、マスをかいていたのだろうか。
とんだサディストである。
だが、変態指揮官の事はどうでも良い。
今、気になるのは二つ。
一つ目は、想像よりも変態指揮官がクソ野郎だった点。
てっきり、俺は本物の指揮官は良い奴とばかり思っていた。
何故なら、三人のヴィザードは、異常なほどに指揮官という存在に信頼を寄せていたから。
けれども、映像の中で登場したリッカは、変態指揮官を憎悪しているように見えた。
このズレは、一体なんなんだ?
何より、重要なのは二つ目。
映像の中の変態指揮官は「もっとも、俺が死んだら、お前らも死ぬがなァ!」と口にしていた。
今の状況的に考えて、変態指揮官は、魔物の襲撃にあって死亡している筈。
それならば、何故……ランゼとリッカとニーナの三人は、今も生きているんだ……?
◇
「指揮官さん。準備は宜しいですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
ニーナが側に控えている状態で、俺はノートパソコンを操作する。
間も無く、定例会議が始まる。
無論、今の姿は、変態指揮官そのもの。
姿と声のサンプルを獲得した俺は、変化の魔法を使って成り代わっているのだ。
DVDの二つの謎は気になるけれども、今は演技に集中せねば。
「これより、定例会議を始めます」
定刻を過ぎると、凛とした声が聞こえてくる。
ノートパソコンの画面には、数人の顔が表示されていた。
指揮官らしき年配の男もいれば、ヴィザードらしき少女もいて。
画面の中央には、凛とした声の主である黒髪ロングの少女が、映し出されていた。
ニーナによると、彼女こそが大本営を防衛する部隊の隊長らしい。
ヴィザードなのにも関わらず、人間の指揮官と変わらない権限を持っているのだとか。
「第一基地から、報告を始めなさい」
「はい。我が第一基地における新たな死者数はゼロで、エリア制圧率は70%ほど。あと1ヶ月もすれば、母体討伐の準備が整うかと」
「目覚ましい戦果をあげているな。何らかの施策を行ったのか?」
「さあ? 私は何もしていませんよ。なんといいますか、ヴィザード達が重い腰を上げたと言いますか。まるで、生まれ変わったかのように、一部のヴィザードの基礎スペックが上昇しているのです」
「それでは……」
第一基地の指揮官と大本営の部隊長の会話を聞きながら、俺はぼーっとする。
はえー。
小難しい理屈は知らんが、ヴィザードって急に強くなったりするものなのか。
脆弱な人間とは違って、魔物を殺せば殺すほど強くなると聞いた事はある。
でも、何もせずとも強くなるのは初耳だった。
やっぱ、ヴィザードって凄い。
「第4基地、報告を始めなさい」
なんて事を考えてると、あっという間に俺の番がやってくる。
バクバクと高鳴る心臓を抑えて、ゆっくりと口を開いた。
「はい。我が第4基地における死者数は5。先日発生した魔物の大侵攻により、15体のヴィザードが戦闘不能になりました。エリア制圧率は、50%」
「ふむ。そちらが希望するならば、大本営から増援を送りますが」
「いえ、必要ありません。じきに戦闘不能になったヴィザード達も目覚めます。現状の戦力で十分ですとも」
「そうですか。では……」
事前にニーナが用意してくれた資料を見ながら、大本営の部隊長の質問に答えていく。
いつボロが出てもおかしくないから、ヒヤヒヤしちまう。
「……第5基地、報告を始めなさい」
だが、良い感じに終わってよかった。
増援なんか絶対に要らない。
大本営のヴィザードが俺を見たら、速攻で成り変わりがバレちまうからな。
「では、最後に連絡事項を伝えます」
ようやく、定例会議が終わる。
やっと、正体がバレるかバレないかでドキドキする時間が終わりを迎えるのだ。
今日は、精神的にめっちゃ疲れた。
会議が終わったらシャワーを浴びて寝よう。
……そう思っていた矢先。
「今、画面に表示されている人物を発見した場合、即座に大本営に連絡してください」
俺は、ノートパソコンの画面を凝視する。
映っていたのは、一人の男。
鋭い三白眼、小悪党みたいな面構え。
そこそこ高い背丈と広い肩幅、鍛えられた体。
何よりも、特徴的すぎる髪型。
世紀末にぴったりの、金色のモヒカン頭。
モノホンの写真ではなく似顔絵ではあるが……間違いなく、俺だった。
画面に映っているのは、大本営が探しているのは、他でもない俺。
見間違いでも、何でもない。
世界広しといえど、髪型をモヒカンにしてる奴なんて、俺しか居ないだろう。
「報告義務を果たさなかった場合、大本営の全戦力を率いて、秘匿した基地の人員を殲滅します。あの方は……指揮官こそ、世界を照らす光。一個人が占有する事は、許されません」
大本営の部隊長の目から、光が消える。
彼女の瞳の中には、ドロドロとした得体の知れない感情が渦巻いていた。
見ているだけで、本能的に恐怖を感じる。
……訳がわからない。
何故、俺が大本営に狙われているのだろうか。
俺は、特別な人間でも何でもない。
ついさっきまで、瓦礫の山を漁って生きながらえていたニワトリ頭だってのに。
何故、どうして……。
「…………」
俺は、側に控えていたニーナの様子を伺う。
すると、彼女は無表情だった。
まるで、今の状況が想定通りとでも言わんばかりに、ノートパソコンの画面を見下ろしていた。
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