俺以外の登場人物が強くてニューゲーム状態で始まる終末世界のヤンデレもの。 作:走れ、ヤンデレ
深夜。
起床した俺は、周囲を見渡す。
念入りに俺以外いない事を確認する。
ベッドの下に隠れていたり、天井の隅に張り付いてたりもしない。
安心した俺は、ふぅと一息つく。
鏡の前で自慢のモヒカンをセットして、テーブルの側に置いてあった鞄を手に取る。
…‥よし、準備万端。
死ぬ気で、ここから逃げよう。
音を立てないように細心の注意を払いながら扉を開けた俺は、人気のない廊下を歩く。
俺が何故、この場所から逃げようとしてるのか。
理由は、至極単純。
大本営の管轄内である第4基地に居たら、身柄を拘束されるから。
今日、参加した会議で、俺は……自分が、大本営に目をつけられている事を知った。
そして、大本営の部隊長のヴィザードは、俺の存在を隠匿した人間は、全力で始末すると口にした。
きっと、その言葉に偽りはない。
大本営の奴らは、ありとあらゆる手段を用いて、俺を捜索するだろう。
その手は、いつか第4基地にも及ぶ。
だからこそ、大本営の奴らが第4基地を訪れる前に、すたこらさっさと逃げるのだ。
……何よりも、上記の連絡事項を伝えている時の、大本営の部隊長のヴィザードの目。
ドロドロと濁り切った、悍ましい瞳。
あれは、ヤバい。
あの目をしてる奴に捕まったら、絶対にヤバいことになると、俺の本能が告げていた。
無論、心残りはある。
精神がおかしくなっている故であるものの、俺を指揮官と呼んで慕ってくれた少女達。
3名のヴィザードを置いていくのは、忍びない。
だがしかし、背に腹は変えられん。
出会って数日しか経ってない彼女らのために、命を張れるほど俺は出来た人間ではないのだ。
割とマジで申し訳ないが……ここで失礼する。
「こんな時間に、そんな大荷物で、どこにいくつもりなのかしら」
「魔物が活性化する夜更けの外出は、感心しませんね」
「指揮官、居なくなるの?」
後方から聞き覚えのある声がして、びくりと肩を振るわせる。
ゆっくりと振り返ると、そこにはヴィザード三人娘が居た。
いつから、後ろにいたのだろうか。
細心の注意を払っていたにも関わらず、気配すら感じ取れなかった。
「ねぇ、教えなさいよ……指揮官」
腕組みをしながら、リッカは俺を見つめる。
どことなく、圧力を感じるのは気のせいだろうか。
気のせいだと思いたい。
「理由を説明してくださらないと、納得できません」
にこりと微笑みながらも、ニーナは俺を見つめる。
どことなく、目が笑ってないのは気のせいだろうか。
気のせいだと思いたい。
「居なくならないで、指揮官」
無表情のまま、ランゼは俺を見つめる。
俺の真意を悟ってそうなのは気のせいだろうか。
「指揮官は不安なんだよね。ここにいると大本営に捕まるんじゃないかって」
……こればかりは、気のせいじゃなさそうだ。
ランゼの言葉を耳にした俺は、自分の考えが筒抜けであることを理解する。
変態指揮官の部屋で、最低な趣味のDVDを見てから、薄々勘付いてはいた。
けれども、今この瞬間に確信に変わる。
恐らく、三名のヴィザードは、俺を俺として認識している。
少なくとも、ヴィザードに暴行を加えていた変態指揮官と同一視してるわけではない。
あくまで、俺という一個人を指揮官と呼び、慕ってくれているのだ。
だがしかし。
それだと、新たな疑問が生まれる。
何故、彼女達は、初対面である俺と面識があるかのように話し、親交があるかのように振る舞うのだろうか。
いくら記憶を辿ってみても、三人と出会った過去なんて存在しないのに。
もしかして、俺を俺と認識してはいるものの、彼女達が理想とする指揮官像を投影してるのか?
その上で、記憶を捏造しているのかも……。
「混乱する気持ちは分かります。指揮官さん、これからする話を落ち着いて聞いてください」
頭がごちゃごちゃになってる俺を見かねて、ニーナが優しく声をかける。
ヴィザード達にバレずに基地を脱出する作戦が失敗した以上、話を聞く以外の選択肢は無かった。
そして、ニーナの説明を最後まで聞いた俺は。
「……なるほど。つまり、俺とお前達は、前世で出会っていたんだな?」
「はい。その通りです」
「紆余曲折あって、俺がお前らの指揮官となり、様々な困難を乗り越えて、魔王を倒したと」
「そうよ。四人で力を合わせたの」
「しかし、最後の最後に俺が魔王に殺されてしまい、三人が絶望して自決した結果……三人だけが、前世の記憶を継承して、今こうやって何も知らない俺と会話してると」
「そうだよ。すごいよね」
「こんなの……こんなのっ、信じられるわけないだろうがっ!」
基地中に響くほど大きな声で叫ぶ。
正直、信じられない。
やはり、精神的なショックで、俺を指揮官だと思い込んでる理論の方が現実的に思える。
第一、なんだよ魔王討伐って。
俺、そこまでスペック高くねぇぞ。
うっかりして、食虫植物みたいな魔物に殺されかけるくらいの雑魚が、魔王と戦えるわけがない。
もっと言うと、自分が魔王と対峙する未来が、微塵も想像できない。
俺という人間は、小物の中の小物。
よっぽどのことがない限り、命を賭けて魔王と戦う選択をするとは思えない。
「でも、信じざるを得ないわよね。だって、何もしてない今世の指揮官を、あの大本営が血眼になって探し回ってるんだから」
「ぐっ……!!!」
リッカに痛い所を突かれた俺は、呻き声を出す。
確かに、そうだ。
今の俺は、どこにでもいるただのモヒカン。
そんなモヒカンに懐きまくるヴィザードと、そんなモヒカンを必死になって探す大本営。
この二つの点を組み合わせると、前世の俺が凄い奴だった説に信憑性が湧いてくる。
本当に……マジで、世界を救うタイプの英雄だったのか、前世の俺。
それならそうと、一言言ってくれよ。
せめて、少しくらい記憶を残してくれよ。
そうすりゃ、困ることはなかったってのによ。
「納得、してくれた?」
「したくねーけど、受け入れざるを得ないって感じだな。つーか、それならそうと、出会った時に言ってくれよ」
「出会ったばかりの頃の指揮官さんは、この話を信じてくれますか? 今だって、信じるに足りうる状況証拠があるから、納得してくれているのでは?」
「はい。そうです……すみません」
悪いが、絶対に信じなかっただろうな。
それこそ、荒唐無稽な話をするヴィザード達は手のつけられないくらいに精神が壊れていると判断して、逃げ出していたに違いない。
「逆に聞いてもいいかしら? 今まで、指揮官は私達を何だと思ってたの?」
「精神的なショックで、俺を指揮官だと思い込んでる可哀想な奴らだと思ってた」
「酷いです」
「とても悲しい」
「いや、これに限ってはしょうがなくねーかっ! 初対面の俺を指揮官と呼んで、擦り寄って来られたら誰だって、この子達は可哀想な生い立ちのヴィザードなんだな……って思うだろ!」
悲しげな表情をするニーナとランゼを前にして、露骨に必死に弁明する俺。
必死すぎる俺を哀れんだのか、リッカが助け舟を出してくれた。
「大丈夫よ、指揮官。それについては、あえて……そう思われるように振る舞っていただけだから」
「え? マジで?」
「ええ、大マジよ。指揮官に近づくために、あたし達は精神的に壊れたヴィザードの演技をしていたの。そうすれば、指揮官なら拾ってくれると思ったから」
「……私は、壊れたフリなんかしてないよ」
「そうね。前世の指揮官と接する感覚で、今の指揮官と触れあっていたものね」
「嫉妬してるの?」
「はぁ!? ししし、してないけどっ!」
頭の中でピースとピースがハマっていく。
俺はこいつらを手玉に取ってるつもりが、逆に手玉に取られてたって訳か。
よくよく考えると、おかしな点はある。
とっくの昔に基地が廃棄されたって聞いたのに、俺は定例会議に参加していた。
普通なら、廃棄された基地の指揮官が、大本営の会議に出るなんて変だよな。
ランゼの発言と現実との食い違い。
これは、事前に決めた設定を遵守するニーナとリッカと、設定を無視するランゼの立場の違いによって発生したものなのだろう。
定例会議の時は、色々と焦りすぎて全く頭になかったけれども。
「……はぁ。計画はもう滅茶苦茶ですよ。本当はもっと、時間をかけて指揮官さんと親交を深めるつもりでした。なのに、こんなにも早い段階で種明かしするだなんて」
「やっぱり、定例会議のアレが効いたのか」
「そうですね。アレによって、私達以外のヴィザードにも、前世の記憶がある事が判明しましたから。悠長に構える時間が無くなってしまったんです」
そう考えると、今の状況、結構ヤバくね?
他のヴィザードにも前世の記憶があるって事は、俺の情報は筒抜けってこと。
つまり、俺が変化の魔法で他人に成り代われる事もバレてるって訳だ。
大本営も馬鹿じゃない。
どっかの基地に潜んでいるかもしれない俺を見つけるために、人員を送り込んできたりするんじゃなかろうか。
そしたら、俺はあっさり捕まっちまう。
……やはり、逃げとこうかな。
そう考えていると。
「指揮官さん、そこで私に一つ提案があるのですが……仲間を集めませんか?」
「結論から先に話すのは良い心がけだな。続きを話すが良いぞ」
「…………このままでは、大本営に指揮官さんの存在が露呈するのは時間の問題です。ならば、指揮官さんの所在がバレた時、大本営と戦う時のために。少しでも、戦力を集めておきたいんです」
「前世の指揮官は、多くのヴィザードと親交を深めてたわ。大本営に密告されるリスクを鑑みながら、慎重に動かないといけないけど……きっと、助けてくれる子はいる筈よ」
「そ、そうかぁ? 大本営を裏切ってまで、俺に味方してくれるヴィザードなんて居んのか?」
「私達が実例。心配しなくて大丈夫。それに今、指揮官のフェロモンに惹かれて……一匹、来たよ」
何処となく真剣な表情を浮かべるランゼが、意味深な発言をした瞬間。
襲撃者がやってきた事を知らせるアラートが、基地全体に響き渡る。
何故か、ゾクリと背筋が凍った。
まだ、何も見ていないというのに、どうしようもなく本能的な恐怖を感じる。
「アキラアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアキラアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアキラアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテル」
屋外に出た俺が目にしたのは、異質な光景。
アイシテルと連呼する食虫植物の集団が、津波のように第4基地に向かって押し寄せてくる。
その中に、一際目立つシルエットがあった。
「しーきーかーんーっ! また、会えたね。嬉しい、嬉しい、とっても嬉しいなぁ。再会するにあたって、ニンゲンの姿を作ってみたんだよー。可愛いでしょ、褒めて、褒めてっ!」
距離は遠い筈なのに、甘ったるい声が耳に届く。
声の主は、愛らしい容姿をしていた。
ふわふわした桃色の長髪、利発そうなはっきりとした顔立ち、幼子のように低い背丈。
一見すると、端正な容姿の少女に見えるが、決して人ではない。
彼女には手がなく、植物のツルを幾重にも編んで代用している。
彼女には下半身がなく、鮮血のように真っ赤な花が代わりに咲いている。
ニンゲンの姿を模した魔物に過ぎなかった。
「今度こそ、離さないからね〜っ。宿敵も取り巻きもぜーんぶ殺して、誰にも取られないように、私の中で保管してあげる。永遠に、ずーっと、二人でドロドロに溶け合おうねぇ」
前世の俺に、言いたい。
ヴィザードは、まだわかる。
全然、理解できるとも。
でも、なんで、どうしてっ!
明らかに話が通じなさそうな魔物にまで、好かれてるんだよっ!!!
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