日車は木槌を高く掲げた。
その瞳に宿るのは、理不尽な世界に絶望しながらも、なお『事実と正義』を手放さない法律家のプライドだった。
「
ドンッ!!!
日車が渾身の力で木槌を叩きつけた。法廷の空気が震え、日車の言葉が一枚の牌となって卓へ放たれる。
その牌は――字牌の「白」。
白い牌面に、何も描かれていない一枚。だが、日車の正義と怒りを背負ったその牌は、刃のように鋭く雀ヶ原へと迫った。
「――ロン」
雀ヶ原は、迷いなく宣言した。
「ありがと。ごちそうさまでした」
カチャリ。
雀ヶ原は手牌を倒した。
三組の槓子。一組の刻子。
そして、最後に雀頭となる一対の「白」。
その手牌は、すでに完成していた。
「なっ……!?」
日車は目を見開いた。
「待て……! お前は立直をしていない。しかも、私が最後に放ったのは――」
「白だろ?」
雀ヶ原は、倒した手牌を指先で示した。
「俺は白単騎。最後の雀頭を待ってたんだよ。お前が攻撃に変えたその一枚で、ちょうど完成ってわけ」
「馬鹿な……!」
日車の視線が、雀ヶ原の手牌を走る。三組の槓子対々和を成立させる刻子。そして、白の雀頭。
「お前は……最初から、この形を狙っていたのか……?」
「最初から全部決まってたわけじゃねぇよ。勝ち筋が見えたから、そこに向かって手を組んだ。それだけだ」
雀ヶ原は肩をすくめた。
「俺の手は、三槓子と対々和。そこにドラが四つ。合計八翻――倍満だ」
【和了形:三槓子】
【和了形:対々和】
【ドラ:4】
【合計:8翻】
【打点:倍満】
打点のアナウンスが飛ぶ。
「8翻……倍満……!」
日車の顔から血の気が引いた。
最初の告発から、ここまでの攻防が頭の中でつながっていく。営業妨害の告発から生まれた牌を、雀ヶ原は攻撃として受けるのではなく、手牌へ取り込んだ。
ポン。
そして、同じ牌の四枚目を加えた加槓。
さらに二組の暗槓。
攻撃を受けながら、雀ヶ原は着実に三槓子を完成させていた。
「最初に私が放った牌を……攻撃として受けるのではなく、利用したのか……!」
「やっと分かったか」
雀ヶ原は口元についた血を、ジャージの袖で拭った。
「お前は俺を追い詰めてるつもりだったんだろうけどな。俺にとっちゃ、使えるもんは全部使う。お前の告発も、攻撃も、ルールもな」
「異議あり……!」
日車は卓に手をつき、ジャッジマンを仰いだ。
「この領域の裁定には瑕疵がある! 手続きの再確認を要求する! 再審を請求する!!」
しかし、ジャッジマンは動かない。雀ヶ原は深いため息をついた。
「あのさぁ、弁護士。再審ってのは、判決が確定してから申し立てるもんだろ」
一歩、日車へ近づく。
「まだゲーム中なのに、都合が悪くなったからって卓を巻き戻せるわけねぇじゃん」
【不服申し立て:再審請求】
【判定:却下】
【システム優先順位に基づき、現局の和了および精算を最優先します】
「しまっ――」
日車の頭脳が、領域のルールを理解してしまった。再審を行うには、今の裁定を受け入れ、法廷を一度終わらせなければならない。
だが、この領域では和了が成立した時点で、現局の精算が優先される。自分が築いた法廷のルールが、自分自身の敗北を覆すことを許さない。
【和了成立】
【対々和:2翻】
【三槓子:2翻】
【ドラ:4翻】
【合計:8翻】
【倍満の因果ダメージを確定】
「完璧な正論ってのも、使いどころを間違えりゃ放銃になるんだよ」
雀ヶ原が指先を鳴らした。
ドゴォォォォォォォォンッッッッ!!!!
倍満の因果が呪力衝撃波となり、日車の身体を直撃した。三つ揃えのスーツが引き裂かれ、呪力防壁が音を立てて砕け散る。日車はコンクリートの床を転がり、壁に激突して血を吐いた。
「が、あああッ……!」
衝撃は肉体だけにとどまらない。術式を維持する呪力の流れが乱れ、日車の領域は崩壊していく。黒い麻雀卓も、法廷の幻影も、ガラスのように砕けて消えた。
やがて、二人を包んでいた領域は完全に消滅した。日車は血のにじむ床に伏せながら、それでも震える手を伸ばした。
「次……だ。次の裁判を……」
だが、呪力は底をつきかけていた。術式を維持する余力もなく、ジャッジマンを呼び出すことすらできない。
雀ヶ原は日車を見下ろした。
「もう無理だろ。今のお前に、次の裁判を始める余力はねぇよ」
日車は答えなかった。それでも、その目から正義への執念が消えたわけではなかった。
正義と詭弁。
法廷と博打。
その勝負は、雀ヶ原の和了によって幕を下ろした。雀ヶ原はコガネを呼び出し、日車のポイントを確認した。
「さて、と。勝負は終わった。こっちはこっちで、精算してもらわねぇとな」
表示された保有ポイントは――102ポイント。
「100ポイントあるんだろ。なら、約束どおりルールを追加してもらうぜ」
日車は血のにじむ床に伏せたまま、雀ヶ原を睨み上げた。
「……私に、ルールを追加しろと言うのか」
「そういう約束だったろ。お前が勝負に負けたからって、話までなかったことにするつもりはねぇよな?」
日車はしばらく黙っていた。
やがて、震える声でコガネを呼び出しルールの追加をした。
死滅回游の総則に、新たな一文が加わった。
【泳者による死滅回遊へのルール追加が行われました】
【《総則》--10】
【泳者は他泳者に任意の得点を譲渡することができる】
ルールの追加が完了する。
日車の保有ポイントは、残り2ポイントとなった。
「で、残りの2ポイントの内の1点を俺に譲渡してくれ」
「……勝負に勝っただけで、そこまで要求するのか」
「勝負に勝ったから要求してんだよ。あんたが納得できるかどうかと、俺が勝ち分を回収するかどうかは別の話だろ」
日車は雀ヶ原を睨んだ。その目には、まだ反発が残っていた。それでも、日車は飲み込み、点数譲渡を黄金に頼んだ。
【ポイント譲渡】
【移動元:日車寛見】
【移動先:雀ヶ原雀】
【譲渡ポイント:1】
処理が完了した。日車の保有ポイントは1。雀ヶ原に1ポイントが加算された。
「よし。これで精算終了っと」
雀ヶ原は端末をしまい、倒れた日車を見下ろした。
「正義も結構。法律も結構。けどな、勝負の結果は結果だ」
そして、大の字に倒れ込む。
「――ごちそうさまでした」
原作基準で行きますか?
-
はい。原作基準でオリ敵、オリ展開無し。
-
いいえ。原作基準ではなくオリ敵オリ展開で