許せカビゴン、お前の21時から21時までやれんかった。
東京第2結界、臨海公園
臨海公園の観覧車の足元。その一角で、秤金次は自分の手のひらを眺めていた。
リンゴンリンゴンリンゴンリンゴン!!!
【泳者による死滅回遊へのルール追加が行われました】
【《総則》--10】
【泳者は他泳者に任意の得点を譲渡することができる】
【ポイント譲渡完了】
【譲渡者:雀ヶ原雀】
【譲渡ポイント:1】
【秤金次:所持ポイント1】
「……お?」
目の前に現れたコガネに写る秤の欄に、所持ポイントが確かに“1”増えている。雀からのポイント譲渡。
その事実を確認した瞬間、秤は口元を吊り上げた。
「ははっ!来た来た来た!さすが雀!こういうところは抜け目ねえな!」
離れた場所に立つ男が、胡乱な目を向ける。
シャルル・ベルナール。
漫画家を志し、そして漫画家という夢に呪われた男。手には、ペンのような形状をした呪具――『G戦杖』が握られていた。
「……何を喜んでいるんですか。戦闘中ですよ」
「いやあ、仲間からの差し入れってのは嬉しいもんだろ?」
「ポイントを一つ受け取っただけでしょう。そんなことで喜ぶなんて、随分と安い人間ですね」
「安くて結構。俺は安くても儲かる勝負が好きなんでね」
秤は表示されたポイントを確認すると、手を振って画面を閉じた。
「それに、これでツキも回ってきた」
「ツキ?」
シャルルの眉が動く。
「あなたは、運に頼る人間なんですか?」
「まさか」
秤は笑った。
「運が来るまで、ぶん回す人間だよ」
シャルルの表情から、わずかに余裕が消えた。次の瞬間、彼の瞳が変わる。
ペン先に秤の血が触れる。呪力が走り、シャルルの視界に漫画のコマが浮かび上がった。
未来の一場面。
秤が踏み込む。右拳が迫る。シャルルは身体を捻り、攻撃を避ける。その直後、秤の左手が伸びる――。ページの中に描かれた動きを、シャルルは現実よりも先に読む。
「見えましたよ」
シャルルは身を沈めた。
秤の拳が頭上を通過する。
続く左の攻撃も、最小限の動きでかわす。
「あなたの動きは、すべて漫画の中に描かれる。僕が先に読んでしまえば、どれだけ勢いがあろうと意味がない」
「へえ。そりゃ便利だ」
「軽口を叩いている場合ですか?」
シャルルの『G戦杖』が唸る。鋭い一撃が秤の身体を打ち、彼の体勢を崩した。秤は後退し、鉄柵の柱に足をかけて踏みとどまる。痛みを確かめるように肩を回した。
「なるほど。未来を先読みして、こっちの動きを潰す。面倒くせえ術式だな」
「理解したなら、諦めてください。僕はあなたのような人間に、漫画を邪魔されたくないんです」
「そりゃ無理だ」
秤は首を鳴らした。
「俺、他人の夢とか都合とか、そういうのに合わせて勝負する趣味ねえんだわ」
彼の呪力が膨れ上がる。
空気が震えた。
「領域展開――『
瞬間、景色が変わる。
巨大なパチンコ台を思わせる領域が展開され、秤を中心に独特のルールが現実へと押しつけられた。
シャルルは舌打ちする。
「領域展開……!」
視界に、また漫画のコマが浮かぶ。領域の演出。秤の動き。迫り来る攻撃。
シャルルは未来を読む。だが、秤の領域は単純な殴り合いではない。
演出が進み、抽選が行われ、結果によって秤の状態が変化する。戦いそのものが、確率とルールを内包した勝負へと姿を変える。
シャルルは必死に先を読む。
次のコマ。さらに次のコマ。
秤の攻撃を避ける。距離を取る。反撃する。読み取った未来をもとに、最適な行動を選び続ける。
「どれだけ特殊な領域であろうと、起きることが分かっていれば――」
そのときだった。
漫画のコマの端に、奇妙なものが映り込んだ。
牌。
白い長方形の物体が、描かれていた未来の背景に浮かんでいる。
「……?」
シャルルは一瞬、目を疑った。
次のコマにも牌がある。
今度は二枚。
さらに次のコマでは、三枚の牌が秤の拳に重なるように描かれていた。
あり得ない。自分の術式が見せる未来に、こんなものが混じるはずはない。
シャルルは目を凝らした。牌の図柄が見える。
萬子。筒子。索子。そして、白。
漫画のコマが乱れる。
秤の動きは読める。攻撃の軌道も、身体の向きも、次に踏み込む位置も見えている。だが、その周囲に描かれた麻雀牌が、未来の画面を埋め始めていた。
「何だ、これは……!」
シャルルの視線が泳ぐ。牌は攻撃してこない。未来そのものを塗り替えているわけでもない。
ただ、そこにある。
読もうとするたび、視界の端に入り込む。まるで、完成した漫画の原稿に、誰かが無関係な絵を描き足していくように。
――集中できない。その一瞬。
「おらぁっ!」
秤の拳が、シャルルの頬を捉えた。
「ぐっ……!」
シャルルの身体が吹き飛び、体勢を崩す。彼は『G戦杖』を突き立てて姿勢を立て直した。口元から血が垂れる。
今の攻撃は、見えていた。秤が踏み込むことも、拳が迫ることも、漫画のコマには描かれていた。それでも、反応が遅れた。
未来を読み違えたのではない。読み取るための集中を、一瞬だけ乱されたのだ。
「……何をした?」
シャルルが睨む。
秤は拳を握り直した。
「さあな。俺も全部分かってるわけじゃねえ」
その言葉は、半分だけ本当だった。秤自身にも、何が起きたのかを正確に把握する余裕はない。
ただ、目の前のシャルルが一瞬だけ隙を見せた。それだけで十分だった。
「けど、隙ができたなら殴る。それだけだろ?」
秤は笑う。シャルルは答えず、再びペン先に血を触れさせた。
未来を読む。
次のコマが浮かぶ。
秤が動く。
――また、牌が混じった。
今度は見間違いではない。シャルルは確信した。
誰かが、自分の未来予知に干渉している。そして、その誰かは、この場にはいない。
*
東京第1結界。
雀ヶ原雀は、コガネの画面を見つめていた。秤へ送ったポイントの履歴。
たった一つの数字が、そこに記録されている。
「……へえ」
雀ヶ原は画面を閉じようとして、指を止めた。
何かが引っかかった。
ポイントを送った瞬間、確かに感じた妙な手応え。呪力を流したわけでもないのに、何かが自分の術式に触れたような感覚があった。
気のせいかもしれない。だが、雀ヶ原はそういう違和感を簡単には捨てない。
「点棒ってのは、渡したら渡したで、ちゃんと意味が残るもんだろ」
独り言のようにつぶやき、コガネを消す。
目の前に、呪力で形作られた麻雀牌が一枚浮かんだ。雀ヶ原はそれを指先で弾く。牌は、音もなく消えた。
「……差し込めるのか」
雀ヶ原は目を閉じた。遠く離れた場所にいる秤の姿を、正確に捉えているわけではない。ただ、牌を動かしてみる。
牌が一枚、指先に現れた。
続いて、もう一枚。
雀ヶ原は眉をひそめる。
「違う。そっちじゃねえ……」
牌を並べ直す。何度か試して、ようやく、指先にかすかな反応が返ってきた。遠くで何かが揺れた。
雀ヶ原は目を開ける。
「……今の、通ったのか?」
確信はない。できたと言う感覚だけがある。
雀ヶ原はもう一度、呪力を流した。その瞬間、遠く離れた卓で、誰かの未来に一枚の牌が紛れ込む。
雀ヶ原はしばらく指先を見つめていた。
「……ポイント移動が点棒授受ってことね」
そう呟いたものの、彼はもう一度だけ同じ操作を試した。
先ほどより反応が悪い。
「だよな。そんな都合よくいくわけねえか」
肩の力を抜く。だが、先ほどの感覚は消えていなかった。
雀ヶ原は、タバコを取り出して火をつける。
ただ、ポイントを送った。それが呪術的パイプラインになっていた。
「……まあ、今はいいや」
考えるのは後だ。目の前の勝負が終わっていない以上、無駄な検証に時間をかけるつもりはない。
雀ヶ原は灰を落とし、再び呪力の流れへ意識を向けた。今度は、先ほどの反応を追いかけるのではなく、目の前の牌を動かす。
いつも通りの術式。
いつも通りの卓。
そう思ったとき、指先に残っていた微かな違和感が、ほんの一瞬だけ脈打った。
雀ヶ原は眉を寄せる。
「……何なんだよ、これ」
答えは出ない。彼はそれ以上考えるのをやめた。
*
東京第2結界。
「……なるほど」
シャルルは、乱れた呼吸を整えながら、周囲を見回した。
「あなた一人の術式ではないんですね」
「何の話だ?」
「とぼけないでください。今のノイズ……あなたが直接起こしたものではないでしょう」
秤は肩をすくめた。
「どうだろうな」
「遠隔干渉。しかも、僕の未来予知そのものを破壊するのではなく、読み取る過程に余計な情報を混ぜる……」
シャルルの目が細くなる。
「あなたの仲間が、どこかから手を出している」
「さあ。俺は目の前の相手を殴るので忙しいんだ」
「……本当に、腹立たしい人間ですね」
シャルルは『G戦杖』を構え直した。
未来を読む。
牌が現れる。
だが、先ほどのような大きな乱れはない。干渉が弱まっている。遠隔からの術式は、永遠に続くものではないらしい。
シャルルはそこまで見抜くと、口元を拭った。
「ならば、干渉が途切れるまで耐えればいい」
「お、正解」
秤は笑った。
「でもよ。そっちも、ずっと未来が見えてるわけじゃねえだろ?」
シャルルの眉が動く。
「……何?」
「未来が見えても、動けなきゃ意味がねえ。読めても、全部に対応できるわけじゃねえ。違うか?」
秤の呪力が再び膨れ上がった。
「だったら、俺は俺のやり方で押し通す!」
秤が踏み込む。
シャルルは未来を読む。
拳が来る。身体を捻る。『G戦杖』を振るう。だが、次の瞬間、秤の動きが予測をわずかに外れた。
牌が一枚。未来のコマの隅に、白い牌が浮かんでいる。
ほんの一瞬、視線がそちらへ引かれる。秤は、その一瞬を逃さなかった。
拳がシャルルの腹へと突き刺さる。
「ぐっ……!」
シャルルが後方へ飛ぶ。秤は追撃しようとしたが、シャルルは鉄骨を蹴って距離を取り、体勢を整えた。
まだ終わっていない。
未来予知は生きている。
遠隔干渉も、いつまでも続くわけではない。
それでも、確かに流れは変わり始めていた。
シャルルは秤を睨みつける。
「……あなたたちは、どこまで僕の漫画を邪魔するつもりですか」
「どこまでって?」
秤は拳を鳴らした。
「勝負が終わるまでだろ」
その答えに、シャルルは顔を歪めた。
*
東京第1結界。
雀ヶ原は、ふと指先を見た。先ほどまでそこに浮かんでいた牌は、もうない。差し込みの呪力消耗は、普段よりもわずかに大きかった。
何かを遠くへ押し出したような感覚。だが、それが何だったのか、どこまで届いたのかは分からない。
「……ま、あっち次第だな」
雀ヶ原は立ち上がり、乱れたジャージの裾を直した。吸っていた煙の火は、フィルター手前まで来ていた。
「……あとは任せたぜ、金ちゃん」
雀ヶ原はタバコを消し、ポケットに手を突っ込む。
今はまだ、遠くの卓に手を伸ばし続ける方法を考えるより、自分の卓で勝ち筋を探す方が先だ。
そう判断したはずなのに。
歩きながら、彼はもう一度だけ、ポイントの履歴を思い返していた。
あの手応えは何だったのか。なぜ、あの瞬間だったのか。
答えは、まだ出ない。
*
東京第2結界。
秤とシャルルは、再び向かい合っていた。互いに傷を負い、互いに相手の手の内を探っている。
シャルルの未来予知は厄介だ。
秤の領域は予測を超える展開を生み出す。そして、離れた場所からは、何者かの干渉が一瞬だけ未来の読み取りを乱した。
その正体も、仕組みも、まだ明らかではない。
秤が拳を握る。
シャルルがペン先を構える。
次の一手を決めるのは、まだ誰にも分からない。ただ、ほんの一瞬。
東京第1結界と東京第2結界。
二つの離れた卓で、同じ乱数が重なったかのような瞬間があった。
秤は、その一瞬を拳に変えた。
そして、どこか別の場所にいる雀ヶ原は、自分が何をしたのかも分からないまま、次の勝ち筋を探している。
確率は、確定ではない。
未来は、読めても覆ることがある。
ならば、そのわずかな隙に賭ける。
――遠隔(リモート)のコンビ打ち、確率のハッキング。
二つの卓をつなぐ何かが、確かに動き始めていた。
その正体を、まだ誰も知らない。
アンケートおねがいしまふ。天使までは決まってるんや、その先の話やパトラッシュ。
原作基準で行きますか?
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はい。原作基準でオリ敵、オリ展開無し。
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いいえ。原作基準ではなくオリ敵オリ展開で