確変。
秤金次の領域が、大当たりを引き当てた。溢れ出す呪力。止まらない心臓。傷ついた肉体が、反転術式によって瞬く間に修復されていく。
4分11秒。
その間、秤は事実上、不死身に等しい状態となる。
「っしゃああああ! 来た来た来たァ!」
秤の拳が、シャルル・ベルナールを捉えた。
シャルルはペン型の呪具『G戦杖』を構え、次の未来を描こうとする。相手の血をペン先につけ、未来の行動を漫画のコマとして予測する。それがシャルルの術式だ。
見えているはずだった。
秤がどこから攻撃し、どう動くのか。未来のコマを読み、そこから逃れる。しかし、そのコマの中に、異物が混じる。
牌。
白、發、中。
三元牌が、未来のページに浮かび上がっている。
「……また、これか!」
シャルルの予測にノイズが走る。秤の動きが変わったわけではない。未来が完全に見えなくなったわけでもない。
ただ、予測した未来と、実際に起きることの間に、わずかなずれが生じていた。
その一瞬を、秤は逃さない。
「見えてんなら、見えてるなりに殴りゃいいんだよ!」
拳がシャルルの身体を吹き飛ばした。
衝撃で、路面が削れる。
シャルルは地面を転がり、ペンを取り落とした。立ち上がろうとするが、足に力が入らない。意識はある。しかし、戦闘を続けられる状態ではなかった。
「ぐっ……! なんなんだよ、あの牌は……!」
秤は答えず、自分の拳を見下ろした。確変中の呪力は、いつもどおりだ。
だが、それだけでは説明できない何かがある。
自分の領域とは別の場所から、もう一つの術式が接続されているような感覚。
その瞬間、秤の周囲に三枚の牌が浮かび上がった。
“白” “發” “中”
それぞれの牌が、まるで何かを待つように空中で静止する。
次の瞬間、三枚の牌から異なる呪力が溢れ出した。
大三元。
白・發・中の三元牌を揃える役満。
雀ヶ原雀の術式において、その成立は単なる高得点を意味しない。三元牌に対応した能力を、組み合わせて扱う権利を得ること。
そして今、その効果が、本来の術者ではない秤の身体にまで及んでいた。
*
最初に変化したのは、足元だった。
秤が一歩踏み出す。
その瞬間、周囲の地面が軋んだ。
「……あ?」
目に見えない力が、面となって広がる。シャルルの身体が、地面へ押しつけられた。足元だけではない。身体全体を覆うような重力が、逃げるための動作そのものを押さえ込む。
“白”
面で作用する重力攻撃。
「ぐっ……!」
シャルルが腕をついて抵抗する。しかし、秤はその様子を気にも留めず、指を握り込んだ。
「へえ。こいつは便利だな」
自分の術式ではない。それでも、使い方だけは直感的に理解できる。
続いて、秤の腕に残っていた傷が、急速に塞がっていった。確変による反転術式だけではない。肉体の損傷を修復する力が、さらに上乗せされている。
“發”
急激な回復能力。
「回復までついてくんのかよ。サービスよすぎだろ!」
秤が笑った。
そして、最後の牌が赤黒い熱を帯びる。
“中”
空気が歪むほどの高熱が、秤の拳にまとわりついた。
それは、ただ肉体を焼くための熱ではない。
魂を焼く高熱。
身体が無事でも、魂に刻まれた損傷までは単純な肉体の回復で帳消しにできない。
秤は拳を握り直す。重力で相手の動きを封じ、急激な回復で自分の損傷を補い、魂を焼く高熱で攻める。三つの能力が、一つの身体に重なっていた。
そこへ、さらに別の効果が加わる。
秤の呪力が、連続して脈打つ。攻撃を続けるための流れが途切れない。確変の残り時間が刻まれる一方で、戦闘そのものが連荘するように継続していく。
雀ヶ原の役満時に発生する、もう一つの効果。
攻撃力が上昇し、連続して命中させることで優位を維持する。さらに、攻撃が途切れずに続く限り、次の一打へとつながっていく。
それが、秤にも発生していた。
「……ははっ」
秤は自分の拳を見つめ、笑い声を漏らした。
「なんだよ、これ。最高じゃねえか!」
確変による無尽蔵の呪力と自動反転。大三元による重力攻撃、急激な回復、魂を焼く高熱。そして、天衣無縫・連荘親番による連続攻撃。異なるはずの効果が、一つの戦闘の中で噛み合っている。
なぜ自分にこんな力が発生しているのか。秤には分からない。雀からのアシストが来ただけ。ただ、目の前の敵を倒すための手札が増えた。
ならば、使わない理由はなかった。
「さて、シャルル。まだやるか?」
秤が問いかける。シャルルは地面に手をついたまま、秤を睨み返した。
「……冗談じゃ、ない……。こんなの、漫画でもやりすぎだろ……」
「そうか? 現実の方が面白えんだよ」
秤はもう一度肩を回した。シャルルはまだ息をしている。意識もある。だが、戦闘を続けることはできなかった。
勝負は決した。
*
「コガネ、次の相手を呼んでくれ」
秤が声をかける。その呼びかけに応じるように、次の参加者が姿を現した。
鹿紫雲一。
電気を帯びたような呪力をまとい、秤をまっすぐに見据える。その目にあるのは、目の前の相手への興味だけではなかった。
「おい」
鹿紫雲が口を開く。
「両面宿儺はどこにいる」
秤の眉が動いた。
「……宿儺?」
「両面宿儺だ。そいつと戦いたい」
鹿紫雲の目的は明白だった。結界の中で強者を探しているのは、ただ戦いを楽しむためではない。彼が求めているのは、両面宿儺との戦いだった。
しかし、秤にとっては知ったことではない。
「悪いけどよ。ここじゃ、順番ってもんがあるんだわ」
秤は笑みを浮かべた。
「まずは俺と遊んでいけよ」
鹿紫雲の口元にも、笑みが浮かぶ。
「……いいだろう」
その瞬間、二人の間に張り詰めた空気が走った。
片や、確変を引き当てた博徒。
片や、両面宿儺との戦いを求める雷。
秤の身体には、まだ三元牌の効果が残っている。確変のこうかものこっている。
そして、その力を生み出した遠隔の接続も、途切れてはいなかった。
*
同じ頃、東京第1結界。
東京第2結界では、秤と鹿紫雲が向かい合っている。秤の確変に、三元牌の能力が重なっていることを、雀ヶ原はまだ知らない。
大三元が成立した理由も。天衣無縫・連荘親番まで発生した理由も。なぜ、自分の術式が遠く離れた秤の卓にまで及んだのかも。
そのすべてを理解したわけではない。だが、一つだけ確かなことがあった。
雀ヶ原はが送った1点。その直後から、遠くの卓に自分の術式が干渉し始めた。
「……点棒の授受が、発動条件か」
雀ヶ原はまた新しい煙草をくわえ直す。
「俺が点棒を渡したことで、あっちの卓にも支配が及んだ。そう考えるのが筋だな」
点棒を渡した相手そのものを操るわけではない。相手の術式を乗っ取るわけでもない。点棒を介して、相手の卓へ自分の術式を接続する。そして、接続した卓に対して、限定的な支配権を得る。
しかし、なぜ秤の確変と大三元の能力が重なったのか。なぜ天衣無縫・連荘親番まで発生したのか。その接続がどこまでの影響を及ぼすのか。
答えは、まだ出ていない。
「面白えじゃねえか」
雀ヶ原は牌を一枚、指先で弾いた。
「点棒一つで、卓がつながる。なら――」
口元が、わずかに吊り上がる。
「この抜け道、使いようによっちゃ化けるぞ」
東京第2結界では、秤と鹿紫雲の勝負が始まろうとしていた。
点棒の授受によってつながった二つの卓。
一方の攻防が、もう一方の盤面を変える。その接続は、まだ切れていない。
そして雀ヶ原は、まだ知らない。
その卓支配が、いつか自分自身の卓を壊すことになるとは。
原作基準で行きますか?
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はい。原作基準でオリ敵、オリ展開無し。
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いいえ。原作基準ではなくオリ敵オリ展開で