方城開局   作:機織りカエル

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第13話:終局の勝負師、流局の夜

ドババババババッッ!!!!

 

 東京第2結界、臨海公園。

 

 秤金次と鹿紫雲一の殴り合いは、もはや人間の領域を完全に超越していた。

 

 遠隔ハッキングによるイカサマバフ――大三元の連動効果と『天衣無縫・連荘親番(てんいむほう・れんちゃんおやばん)』の同期を焼き切られ、完全なガチンコタイマンに引きずり込まれた秤。しかし、その顔に悲壮感など微塵もない。

 

「オラァッ!!」

 

「ハッ!!」

 

 秤の呪力をまとった拳が、鹿紫雲の顔面を捉える。

 

 だが、鹿紫雲は怯まない。

 

 秤の肉体には負の電荷を、自身の肉体には正の電荷を蓄積させていく。一度蓄積された電荷は、次の必中の稲妻へとつながる。

 

 秤が殴る。鹿紫雲が受ける。そして、鹿紫雲が反撃する。互いに一歩も引かない攻防の中、確変の制限時間が刻一刻と迫っていた。

 

 4分11秒。

 

 その終わりは、すぐそこまで来ている。

 

(――ここだ)

 

 鹿紫雲が手をかざした瞬間、世界が白く染まった。

 

 必中の稲妻。

 

 音を置き去りにした超高電圧の電撃が、秤の左腕を肩口から吹き飛ばす。

 

 同時に、鹿紫雲は秤の脳を狙っていた。

 

 反転術式による再生の要を潰す。そこを断てば、いくら呪力が溢れていようと回復は間に合わない。だが、秤は寸前で首を傾けた。

 

 致命傷を避けた代償に、左腕を丸ごと失う。

 

「ハッ、腕の一本、賭け金(チップ)にしちゃ安い方だろ!!」

 

 そして――。

 

【確変終了】

【無制限の呪力溢出:終了】

 

秤の全身を包んでいた黄金の呪力が、一瞬だけ途切れた。その直後。

 

「領域展開――『坐殺博徒』!!」

 

 秤は、再び領域を押し通した。

 

 左腕を失ったまま、死の淵で引き当てる次の大当たり。一回転ごとに命を賭ける、1/239の地獄の抽選。

 

 鹿紫雲の猛攻が秤の肉体を切り刻む中、主題歌のビートが再び鳴り響く。

 

【大当たり(ジャックポット)】

 

「嘘だろ、コイツ……ッ!!」

 

 鹿紫雲が初めて声を荒らげた。

 

 腕を失い、死の淵に立ちながら、秤は自分自身の豪運だけで再び大当たりを引き当てたのだ。雀ヶ原の遠隔アシストは、もうない。大三元の重力も、魂を焼く熱も、急速な治癒もない。『天衣無縫・連荘親番』による連動効果も、すでに消えている。

 

 それでも、秤は当たりを引いた。

 

「ひゃはははは! 言ったろ! 俺は運がいいんだよォォォッッ!!」

 

 再び無制限の呪力が溢れ出す。失われた左腕を、反転術式が修復していく。

 

 秤は笑った。

 

 自分の命を賭け、確率を引き当て、何度でも立ち上がる。それこそが、秤金次というギャンブラーだった。

 

 そこからは、海水をも巻き込んだ極限の泥仕合となった。

 

 鹿紫雲は臨海公園の海水を利用し、電気分解によって生じる塩素や水素、酸素を戦術に組み込む。さらに水蒸気爆発を引き起こし、秤をまとめて吹き飛ばそうとした。

 

 爆音。閃光。飛び散る海水。

 

 秤の肉体は何度も損傷する。だが、確変中の無制限の呪力と自動反転術式によって、そのたびに修復されていった。

 

「しつけぇな……! 何回ぶっ壊しゃ止まるんだよ、お前は!」

 

「そりゃこっちの台詞だっつーの!!」

 

 秤は海水の中でも止まらない。

 

 呪力を無駄なく攻防へ回す雀ヶ原の同期補正は、もう届いていない。それでも、秤は自分の呪力と反転術式を頼りに、鹿紫雲へ食らいついた。

 

 そして、最後の一撃。

 

 秤は鹿紫雲の肉体を海へと叩き落とした。

 

 凄まじい水蒸気爆発が、辺りを真っ白に染め上げる。

 

 --数秒後。爆風が収まった海岸に、二人の男が倒れ込んでいた。

 

「ハァ……ハァ……。クソが、死ぬかと思ったわ……」

 

 秤は大の字にひっくり返り、荒い息を吐いた。隣では、呪力を使い果たした鹿紫雲が、ピクリとも動かずに空を仰いでいる。

 

「……俺の、負けか」

 

 鹿紫雲は、どこか満足げに呟いた。

 

「呪力を使い切った。……さぁ、殺せよ」

 

 秤は残された右手を持ち上げた。

 

「殺すわけねぇだろ」

 

「……何?」

 

「第一、俺はお前に勝ったと思えねぇ。術式使わずに呪力特性と操作でこんだけ出来んだ。よくやるよ」

 

「俺の術式は一発しか使えない。宿儺にしか使うつもりはない」

 

「なるほどな、だったら俺たちの卓(チーム)に入れ。両面宿儺と戦わせてやるよ」

 

 秤はゲラゲラと笑った。

 

「雀のハックがなくても、俺の豪運とお前のパワーがあれば、この死滅回游ってクソ卓を完全に制圧できるわ」

 

 鹿紫雲の目が、わずかに見開かれる。

 

「……両面宿儺と、戦えるんだな」

 

 その口元に、凶悪な笑みが戻った。

 

「いいだろう。君のその泥臭いギャンブル、僕も一枚噛ませてもらうよ」

 

【東京第2結界:南四局(オーラス)――決着】

【勝者:秤金次】

【鹿紫雲一:生存】

【鹿紫雲一の保持ポイント:200ポイント】

【鹿紫雲一が高専チームに合流】

 

 鹿紫雲の200ポイントは、移動していない。秤が奪ったわけでも、コガネを通して譲渡したわけでもない。200ポイントを持つ強者が、そのまま仲間になったのだ。それは、殺して奪うよりもはるかに大きな戦力の獲得だった。

 

 勝負は決した。だが、ポイントは動かなかった。

 

 鹿紫雲一は生きている。200ポイントも、その手元に残ったままだ。

 

 秤は相手を殺さず、鹿紫雲もまた、敗北と引き換えに自分の目的へ続く道を手に入れた。勝者と敗者が決まったにもかかわらず、卓の上には何も失われずに残っている。それは、殺し合いを強制する死滅回游において、奇妙な結末だった。

 

――流局。

 

 勝負が終わっても、すべてが清算されたわけではない。

 

 二人の勝負師は次の局へ進むため、同じ卓に座ることを選んだ。

 

     *

 

 同時刻。東京第1結界。

 

 日車との勝負を終えた東京都庁の最上階で、雀ヶ原雀は壁にもたれかかっていた。

 

「あー……。ダル……」

 

 ジャージの袖で鼻の頭の血を拭い、コガネの情報を見る。東京第2結界の最新の泳者一覧が表示されていた。

 

 そこには、単独で200ポイントを保持したままの『鹿紫雲一』の名前がある。

 

 ポイントは減っていない。

 

 鹿紫雲の表示も、秤の表示も消えていない。雀ヶ原は、画面を見ながら口元を歪めた。秤が勝つと思っているからだ。こちらからはどうなっているかはわからない。

 

「軍資金は、必要だな」

 

 面倒くさそうに首を鳴らし立ち上がる。

 

「さて、虎杖たちを探すか」

 

 東京都庁の窓の向こうには、呪霊に覆われた東京の街が広がっていた。

 

 主催者――羂索が作り上げた、理不尽なゲーム。

 

 その卓に座らされた泳者たちは、殺し合いを強制されている。

 

 ならば。

 

「ここから本格的に、打ち回しで進めようじゃねぇか」

 

 雀ヶ原は、タバコをポケットへ押し込んだ。

 

 ギャンブラーたちの仕込みは、まだ終わっていない。ポイントを奪うのではなく、ポイントを持ったままの強者を味方につける。

 

 それもまた、この理不尽な卓を攻略するための一手だった。

 

 死滅回游は、彼らのギャンブルによって、静かに、しかし確実に侵食され始めていた。

 




格ゲーの才能が、無いんだよなぁー

原作基準で行きますか?

  • はい。原作基準でオリ敵、オリ展開無し。
  • いいえ。原作基準ではなくオリ敵オリ展開で
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