「なあ、伏黒。雀ヶ原先輩って、結局どんな人なんだ?」
任務帰りの高専。虎杖悠仁は、廊下を歩きながらふと思い出したように尋ねた。
「……急にどうした」
「いや、最近ちょっと一緒にいることが増えただろ? なんか、よく分かんねえんだよな。やる気なさそうなのに、いざってときはちゃんと動くし」
「普段は本当にやる気がないけどな」
伏黒恵は即答した。
「仕事を面倒くさがる。説明を省く。金に細かい。自分が楽をするためなら、他人を動かすこともためらわない」
「ちょっと!それ、先輩としてどうなのよ!」
釘崎野薔薇が眉をひそめる。
「そもそも、あの人って何年なの?もうちょっと後輩に対する態度ってものがあるじゃない!」
「でも、悪い人じゃないと思うんだけどな」
「虎杖、あんた騙されてない?」
「騙されてねえって!」
虎杖は慌てて手を振った。
「この前だって、俺が危なかったときに助けてくれたしさ。あの牌を使う術式もすげえし」
「そこなのよね……」
釘崎は腕を組んだ。
「実力があるのは分かる。でも、普段のあの態度を見てると、どうしても納得いかないのよ」
伏黒も否定はしなかった。
雀ヶ原雀。
怠惰で、気だるげで、何事にも積極的に関わろうとしない。それなのに、戦闘になると状況を冷静に見極め、こちらが気づかないうちに勝ち筋を作っている。
あの男は、一体何を考えているのか。
「……上級生に聞いてみるか」
伏黒の提案に、虎杖と釘崎が顔を見合わせた。
「おっ、いいな!」
「本人に直接聞くより、そっちの方がまともな答えが返ってきそうね」
「それ、本人に聞こえたら怒られるぞ……」
そんなことを言いながら、三人は上級生たちを探しに向かった。
*
最初に見つけたのは、真希だった。
「雀ヶ原先輩って、どんな人なんですか?」
虎杖が尋ねると、真希は露骨に嫌そうな顔をした。
「……あいつの話か」
「その反応、何かあったんですか?」
「何かあったというか、何もしてねえというか……」
真希はため息をついた。
「あいつは、やればできる。体術も悪くないし、術式の扱いも上手い。結界術に関しては、かなりのもんだ」
「やっぱり強いんですね!」
「強いのは認める。だがな、あいつは自分が動かなくて済む方法を考えることに、無駄に頭を使うんだ」
「……ああ」
伏黒が納得したように頷く。
「この前も、少し動けば済む話をわざわざ面倒な手順に変えようとしてたな」
「だろ?」
真希は肩をすくめた。
「しかも、こっちが文句を言うと『そっちの方がコスパ悪ぃだろ』だ。あいつのコスパは、だいたい自分に都合よくできてる」
「うわぁ……」
釘崎が顔をしかめた。
「最低じゃない」
「まあ、あいつが本気でやると決めたときは頼りになる。そこは間違いない」
真希はそう言って、三人を見た。
「ただし、あいつに任せきりにするな。あいつはあいつで、自分の都合を優先するからな」
*
次に三人が話を聞いたのは、パンダだった。
「雀のこと?ああ、あいつは面白いぞ」
「面白い?」
虎杖が首を傾げる。
「そう。面倒を避けるためなら、もっと面倒なことをやる」
「それ、さっきも聞いたんだけど……」
「じゃあ、実例を話してやろう」
パンダは腕を組み、遠い目をした。
「去年の京都姉妹校交流会。あれは忘れられねえな」
その言葉に、三人は顔を見合わせた。
「交流会って、あの京都校と戦うやつ?」
「ああ。あいつ、始まって早々に領域を展開したんだ」
「えっ、いきなり!?」
虎杖が声を上げた。
「東堂と乙骨を除いた京都校の連中を、まとめて領域に閉じ込めた。しかも、ただ閉じ込めるだけじゃない。配牌降りっていう、攻撃をせずに防御に徹する戦法を使ってな」
「……待って。それ、交流会になってないじゃない」
釘崎の指摘に、パンダは頷いた。
「そう。まともに試合ができなくなった」
「なんでそんなことしたんですか?」
伏黒が尋ねる。
「東京校が有利に戦える時間を稼ぐためだとよ。京都校の動きを封じて、こっちが動きやすい状況を作る。本人としては、勝率を上げるための合理的な判断だったらしい」
「合理的って……」
釘崎は額を押さえた。
「交流会を何だと思ってるのよ、あの人!」
「それだけじゃねえんだ」
パンダは続けた。
「その後、乙骨のリカが暴走する事態も起きた。いろいろ重なって、結局、交流会は不成立になったんだ」
「それで、雀ヶ原先輩は?」
「一年間の謹慎処分」
「一年!?」
虎杖が目を見開く。
「そりゃそうなるだろ……」
パンダは苦笑した。
「まあ、交流会が不成立になった件を、上層部があいつへの処分に利用したようなところもある。リカの暴走まで全部あいつの責任ってわけじゃないからな」
「でも、自分から京都校を閉じ込めたのは事実なんでしょ?」
「そういうことだ」
パンダは頷いた。
「自分の判断で勝率を上げようとした。その結果、交流会がまともに成立しなくなった。あいつは自分のやったことを認めてるが、反省してるかどうかは……まあ、本人に聞いてみな」
「聞きたくないわよ、そんなの!」
釘崎が即座に返した。
*
「じゃあ、乙骨先輩はどう思ってるんですか?」
虎杖が尋ねると、パンダは少し考えた。
「乙骨に聞くのが一番だろうな。あいつは当事者だし」
ちょうどそのとき、乙骨憂太が廊下の向こうから歩いてきた。
「あれ?みんな、どうしたの?」
「乙骨先輩!雀ヶ原先輩について聞きたいことがあって!」
「雀くん?」
乙骨は少し驚いたあと、穏やかに笑った。
「そうだね……。雀くんの判断には、驚かされたよ」
「やっぱり、交流会のことですか?」
伏黒が尋ねる。
「うん。京都校の動きを封じて、東京校が有利に戦える時間を稼ごうとしたんだ。本人なりに勝つ方法を考えたんだと思う」
乙骨は少し言葉を選んだ。
「でも、結果的には交流会が不成立になった。リカちゃんの暴走もあったから、雀くんだけが原因だったわけじゃないけどね」
「……先輩は、雀ヶ原先輩のことを怒ってないんですか?」
虎杖が尋ねた。
「怒るわけないよ。あのときの判断には問題があるとは僕には思わないよ」
乙骨は三人を見た。
「自分が直接戦うより、状況を作った方が勝てる。そう考えたんだと思う。実際、あの術式はそういう戦い方に向いてるから」
「……やっぱり、頭がいいんですね」
伏黒が呟く。
「うん。でも、頭がいいことと、何をしてもいいことは別だからね」
乙骨は苦笑した。
「雀くんは、そこをもう少し考えた方がいいと思う」
*
「で、五条先生。雀ヶ原先輩って、実際どれくらい強いんですか?」
虎杖の質問に、五条悟は顎に手を当てた。
「んー、そうだねぇ。体術も悪くないし、術式の使い方も上手い。戦況を読むのも得意だし、単純な戦闘能力だけ見てもかなり強いよ」
「かなり、ですか?」
釘崎が聞き返す。
「そうそう。特に結界術ね。あれだけの技量があるなら、結界術だけで一級術師相当の評価をしてもいいくらい」
「結界術だけで……?」
伏黒が反応した。
「そう。普通は自分の術式をどう使うかで精いっぱいなのに、あいつは結界そのものを戦術に組み込んでくる。相手を閉じ込める、動きを制限する、状況を自分に有利な形に変える。真正面から殴り合うだけが戦闘じゃないってことを、よく分かってるんだよね」
五条は感心したように頷いた。
「体術も術式運用も上手い。頭も回る。実力だけなら、もっと高く評価されてもおかしくないんだけどねぇ」
「……じゃあ、なんで準一級なんですか?」
虎杖が首を傾げる。
五条は、待ってましたと言わんばかりに笑った。
「交流会の件と、日頃の行い」
「そこなんですか!?」
「そこなんだよ」
五条はあっさりと言い切った。
「交流会をあんな形にしたうえに、普段から面倒くさがって仕事を避けるし、態度もよろしくない。実力があるのは間違いないけど、呪術師として任せられるかって話は別だからね」
「自業自得じゃない……」
釘崎が呆れたように呟く。
「まあね。実力と評価は別物ってこと」
五条は楽しそうに笑った。
「実力が足りなくて評価が伸びないんじゃない。実力以外のところで、自分から評価を落としてるんだよ」
「……なんか、もったいない人ですね」
虎杖の言葉に、伏黒も小さく頷いた。
五条は最後に、こう付け加えた。
「でも、結界術を甘く見て雀と戦うのはやめた方がいいよ」
五条は楽しそうに笑った。
「あの浮かぶ牌、結界が浮いてるようなものだからね?」
「……え?」
虎杖が目を丸くする。
「牌を飛ばしてるだけじゃないんですか?」
「そう見えるでしょ? でも、あれは単に牌を飛ばしてるわけじゃない。結界術を応用して、ああいう形で扱ってるんだよ」
五条は指先で、空中に四角形を描くような仕草をした。
「つまり、あいつが使ってるのは麻雀の牌だけど、その土台にあるのは結界術。そこを理解しないまま相手をすると、思わぬところで足をすくわれるよ」
「……なるほど」
伏黒は納得したように呟いた。
術式の見た目だけでは、本当の仕組みは分からない。
雀ヶ原雀の強さは、単に牌を操ることではなく、その裏にある結界術の技量にも支えられているのだ。
*
最後に三人が向かったのは、夜蛾正道のもとだった。
「夜蛾学長。雀ヶ原先輩について、少し聞いてもいいですか?」
伏黒が尋ねると、夜蛾は書類から顔を上げた。
「雀ヶ原か。何を聞きたい?」
「どうして、一年間も謹慎していたんですか?」
夜蛾はすぐには答えなかった。
「京都姉妹校交流会の件は聞いたか?」
「はい。雀ヶ原先輩が京都校の生徒を領域に閉じ込めて、その後、乙骨先輩のリカが暴走して……」
「そうだ。交流会は不成立になった」
夜蛾は静かに頷いた。
「ただし、交流会が不成立になった原因を、すべて雀ヶ原一人に押しつけるのは正確ではない。リカの暴走もあった。だが、雀ヶ原が意図的に京都校の生徒たちを領域に閉じ込めたことも事実だ」
「……それで、謹慎になったんですね」
虎杖が呟く。
「上層部にとっては、処分を下す理由として十分だったのだろう」
夜蛾は書類を置いた。
「雀ヶ原には才能がある。結界術の技量も、戦況を分析する能力も高い。だが、才能があることと、呪術師として責任を果たせることは別だ」
三人は黙って話を聞いていた。
「自分で考え、判断して行動する。それ自体は悪いことではない。だが、自分の判断が周囲に何をもたらすのか、最後まで考えなければならない」
夜蛾は三人を見据えた。
「お前たちは、あいつが自分たちを助けてくれたとき、その理由まで考えたことがあるか?」
虎杖は少し考え込んだ。
「……勝つため、ですかね」
「それもあるだろう。だが、あいつは自分にとって最も都合のいい方法を選ぶ傾向がある。その結果、周囲が助かることもあれば、迷惑を被ることもある」
夜蛾は静かに続けた。
「助けることができるのと、助ける責任を理解していることは違う。あいつがこれからどうなるかは、本人次第だ」
その言葉は、五条の軽い評価とは違う重みを持っていた。
雀ヶ原雀は強い。
だが、その強さをどう使うかは、本人の問題なのだ。
*
学長室を出た三人は、しばらく無言で廊下を歩いた。
「……結局、どんな人なのよ、あの先輩!」
釘崎が声を上げた。
「頭がよくて、強くて、面倒くさがり?」
虎杖が指を折って数える。
「それだけじゃないだろ」
伏黒はため息をついた。
「自分が勝つためなら、周囲の状況そのものを変えようとする。しかも、それを合理的だと思ってる」
「やっぱり面倒な人じゃない!」
「まあ、そうだな……」
伏黒も否定できなかった。
そのとき、廊下の向こうから気だるげな声が聞こえた。
「……お前ら、俺の話してた?」
三人が振り向く。
そこには、ジャージ姿でスマートフォンを操作する雀ヶ原雀が立っていた。
「してたわよ!」
釘崎が即座に食ってかかる。
「あんた、交流会で何やったのよ!」
「何って、コスパを考えた結果だろ」
「その結果が一年間の謹慎って、割に合ってないじゃない!」
「だから後処理の見積もりが甘かったんだよ」
「反省しなさいよ!」
釘崎の怒声が廊下に響く。
虎杖は思わず吹き出し、伏黒は額に手を当てた。
雀は三人の反応を気にする様子もなく、スマートフォンへ視線を戻す。
「……まあ、そういうわけだ。今後ともよろしく」
「どういうわけよ!」
釘崎がさらに声を上げる。
虎杖は笑いながら、雀の横顔を見た。
怠け者で、口が悪くて、何を考えているのか分からない。
けれど、危ないときには助けてくれる。
「……やっぱ、変な先輩だな」
虎杖の呟きに、雀が顔を上げた。
「聞こえてんぞ、悠仁。あとで千円返せよ」
「まだ覚えてんのかよ!」
虎杖の声が廊下に響く。
伏黒は呆れ、釘崎は怒り、雀は再びスマートフォンへ目を落とした。
結局、雀ヶ原雀という人間は、一言では説明できない。
優秀で、厄介で、合理的で、そして簡単には割り切れない。
そんな先輩との日々は、まだ始まったばかりだった。
釘崎の言葉遣いがよくわからん。
原作基準で行きますか?
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はい。原作基準でオリ敵、オリ展開無し。
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いいえ。原作基準ではなくオリ敵オリ展開で