方城開局   作:機織りカエル

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第四章:二盃口
第20話:開門の和了り、決戦の手組み


 

「コガネ」

 

 人気のない場所で、雀ヶ原雀はスマートフォンを片手に呼び出した。

 

 いつもの気怠げな表情。わずかに猫背の姿勢。画面を見つめる目だけが、妙に鋭い。

 

「追加されたルールを確認させろ」

 

 コガネの声が、静かな空間に響く。

 

【《総則(ルール)》--13】

【死滅回游への参加を、現時点、2018年11月18日21時09分をもって打ち切る】

 

 雀は画面を見つめたまま、黙って聞いていた。

 

【《総則》--14】

【夏油傑、伏黒恵を除く全泳者(全プレイヤー)の死亡をもって、死滅回遊を終了する】

 

「……へえ」

 

 短い声が漏れる。

 

 参加の打ち切りと夏油傑と伏黒恵を除く全泳者の死亡による、死滅回游の終了。

 

 終わりへ至る条件が、ようやく明文化された。

 

 だが、雀の意識を引きつけたのは、総則14に記された二人の名前だった。

 

「夏油傑と……伏黒恵、ね」

 

 夏油傑の肉体は、羂索に利用されている。

 

 ならば、伏黒恵を例外に含める意味は何なのか。

 

 宿儺に身体を奪われた伏黒は、今も泳者として扱われている。その伏黒を、死滅回游の終了条件から除外する。

 

 偶然とは考えにくかった。

 

「……面倒くせぇ条件をつけやがって」

 

 雀はスマートフォンをポケットにしまった。

 

 ルールが追加されたからといって、すべてが解決するわけではない。

 

 むしろ、死滅回游の終わりが見えたことで、これから何をすべきなのかが、以前よりはっきりしたともいえる。

 

 終わらせることと、伏黒を取り戻すこと。

 

 そして、そのために誰が何をするのか。

 

「……ま、俺が考えても仕方ねぇか」

 

 そう呟きながらも、雀の思考は止まっていなかった。

 

 彼はスマートフォンを握り直すと、仲間たちの待つ場所へ向かった。

 

  *

 

 ロビーには、複数の術師が集まっていた。

 

 宿儺との戦闘で負傷した者たちの状態を確認しながら、今後の行動について情報を整理している。

 

 雀は少し離れた壁際の椅子に腰を下ろした。

 

 わざわざ声をかけるつもりはない。

 

 今は、何が話されているのかを聞いておけば十分だった。

 

「来栖の状態は?」

 

 誰かが尋ねると、家入が答える。

 

「宿儺から受けた攻撃の影響が大きい。少なくとも、戦闘に参加できる状態ではないわ」

 

 来栖華は、宿儺との戦闘で大きなダメージを負っていた。

 

 天使の術式は強力だが、その術式を使う本人が戦えなければ、宿儺に対抗する手段として頼ることはできない。

 

 雀は壁に背を預けたまま、視線だけを動かした。

 

「……虎杖は?」

 

 呼びかけられた虎杖悠仁が、ゆっくりと口を開く。

 

「伏黒を助ける方法なら、考えがある」

 

 その言葉に、室内の空気がわずかに変わった。

 

 伏黒を取り戻す。

 

 それは、ここにいる誰もが望んでいることだった。

 

 だが、宿儺は伏黒の身体を完全に支配しようとしている。正面から戦って勝てば済むという、単純な話ではない。

 

「その方法ってのは……」

 

 問いかけを受け、虎杖は自分の考えを説明し始めた。

 

 雀は黙って、その話に耳を傾ける。

 

 具体的な方法について、ここで口を挟むつもりはなかった。

 

 虎杖が何を考え、どこまで覚悟を決めているのか。

 

 今は、それを見極めるべきだった。

 

 やがて、脹相が虎杖のもとへ歩み寄った。

 

「悠仁。これを受け取れ」

 

 差し出されたのは、九十九由基が残した研究記録だった。

 

 魂に関する研究。

 

 九十九が何を調べ、どこまで理解していたのか。

 

 その内容を知ることが、伏黒を救うための手掛かりになるかもしれない。

 

 虎杖は記録を受け取った。

 

「……ありがとう、脹相」

 

「九十九が残したものだ。役立ててくれ」

 

 二人のやり取りを、雀は少し離れた場所から見つめていた。

 

 虎杖は伏黒を救おうとしている。

 

 脹相は九十九の研究記録を託した。

 

 来栖は戦闘に参加できず、天使の力もすぐには頼れない。

 

 そして、死滅回游には新たな終了条件が追加された。

 

 雀は、頭の中で一つひとつの情報を並べ、それぞれの関係を考える。

 

 終わりが見えたからといって、そこへ至る道筋まで整ったわけではない。

 

 虎杖の考えがうまくいく保証もなかった。

 

 研究記録に何が書かれているのかも、まだ分からない。

 

 雀は黙ったまま、虎杖の手元にある記録へ視線を落とした。

 

 今の自分にできるのは、情報を集め、状況を見極めることだ。

 

 無闇に口を挟んだところで、答えが出るわけではない。

 

「……焦っても、コスパ悪ぃしな」

 

 誰にも聞こえないほどの声で呟き、雀は再び仲間たちの様子を観察し始めた。

 

  *

 

 獄門疆「裏」。

 

 五条悟を封じた獄門疆、そのもう一つの門である。

 

 一行は、その封印を解くため、集まっていた。

 

「ここで開けるのか?」

 

 誰かが確認すると、天使は獄門疆「裏」を見つめたまま答えた。

 

「そのつもりだったが……一つ、問題がある」

 

 一同の視線が集まる。

 

「獄門疆の中には、時間の概念がない。封印が解けた瞬間、五条悟がどんな状態で出てくるのか分からない」

 

「どんな状態って?」

 

「攻撃してくる可能性もある。封印されていた時間が本人にどう作用しているのか、私にも分からない」

 

「五条先生が、いきなり襲ってくるってことか?」

 

「可能性の話だ」

 

 天使は淡々と答えた。

 

 五条悟が封印されていた時間は、外の世界とは異なる。封印が解けた瞬間、何が起こるのかは予測できない。もし五条が、周囲を敵と認識したまま現れたら。もし封印の影響で、何らかの異常が生じていたら。

 

 最強の無差別攻撃が飛んでくるかもしれない。

 

「……ここでやるのは、やめた方がいいな」

 

 誰かが呟いた。

 

 結局、一行は高専の第四演習場へ移動することになった。

 

 十分な広さがあり、万が一の事態にも対応しやすい場所だ。

 

 演習場の中央に獄門疆「裏」を置き、全員が距離を取る。

 

「準備はいいか?」

 

 天使が確認する。

 

 一同は、それぞれ身構えた。

 

 張り詰めた空気の中、天使の術式が発動する。

 

 獄門疆「裏」に干渉する一条の光が眩しく降り注ぐ。

 

 そして――。

 

「……」

 

 何も起きなかった。

 

 正確には、封印は解除された。

 

 しかし、五条悟の姿がない。

 

「……あれ?」

 

 虎杖が首を傾げる。

 

「五条先生は?」

 

「知らん」

 

 天使が即答した。

 

「いや、知らんって……」

 

「封印は解いた。そこまでは間違いない」

 

 一同は、目の前の獄門疆「裏」を見つめた。

 

 確かに、五条は出てこない。

 

「……失敗したのか?」

 

「そんなはずは……」

 

 天使自身も、困惑を隠せずにいた。

 

「獄門疆に天使の術式を当てると、全てが消え去る。こうしたまた、新たなるトリビアが生まれた」

 

 高羽がふざけながら場を和まそうとする。

 

「もしかして、五条先生って、封印されてる間に別の何かになっちゃったんじゃ……」

 

 誰かが、真剣とも冗談ともつかない声で言う。

 

「いや、さすがにそれはないだろ!」

 

「でも、いないじゃん!」

 

「どこかに転移したとか?」

 

「獄門疆の中に置いてきたんじゃないだろうな……」

 

「そんなことがあるか!」

 

 次々と推測が飛び交う。

 

 張り詰めていたはずの空気は、いつの間にか妙な方向へ転がり始めていた。

 

 天使は額に手を当てる。

 

「……私は、確かに封印を解除した」

 

「じゃあ、五条先生は?」

 

「だから、分からないと言っている」

 

「いや、そこが一番大事なんだけど!」

 

 虎杖の声が、演習場に響き渡った。

 

 彼らが五条の封印解除に気を取られている間、事態はすでに別の場所で動き始めていた。

 

*

 

 日本海溝。

 

 光の届かない深海の底に、獄門疆は沈められていた。

 

 周囲には二重、三重の結界が張り巡らされ、その内側には複数の呪霊が配置されている。

 

 五条悟が封印から解放された場合に備えた、羂索の策だった。

 

「封印が解かれたところで、簡単には動けない」

 

 羂索は、そう考えていた。

 

 獄門疆を日本海溝の底へ沈める。

 

 結界で周囲を封じる。

 

 呪霊を配置し、五条悟が現れた瞬間に襲わせる。

 

 封印が解かれたとしても、深海の圧力と結界、そして呪霊によって五条を仕留める。

 

 それが、羂索の算段だった。

 

 五条悟は強い。

 

 そのことは、羂索自身が誰よりも理解している。

 

 だからこそ、正面から戦うつもりはなかった。

 

 封印するだけでは足りない。

 

 封印が解かれた後まで想定し、対策を重ねる必要がある。

 

「これなら、さすがの五条悟も……」

 

 その言葉は、最後まで続かなかった。

 

 羂索の目の前に、一人の男が立っていた。

 

 白い髪。

 

 青い眼。

 

 余裕に満ちた立ち姿。

 

 五条悟。

 

「……やあ」

 

 五条は、まるで散歩から帰ってきたかのように、軽い調子で声をかけた。

 

 羂索の表情が、わずかに固まる。

 

 想定していたはずの事態。

 

 備えていたはずの対策。

 

 そのすべてを嘲笑うかのように、五条は目の前に立っていた。

 

「……五条悟」

 

「久しぶり。元気そうじゃん」

 

 五条は笑った。

 

 その声には、怒りを押し殺したような響きがあった。

 

 五条は、羂索を見下ろす。

 

「今際の際だぞ」

 

「おやおや。久しぶりに会ったというのに、随分と物騒な挨拶だね」

 

 羂索は軽口を叩く。

 

 だが、五条は取り合わなかった。

 

 一歩、踏み出す。

 

 その瞬間だった。

 

 呪力の塊を纏って、宿儺が五条に殴りつける。

 

 ただし、その姿は以前とは違う。

 

 伏黒恵の身体。

 

 その顔を見た瞬間、五条の表情がわずかに変わった。

 

「しばらく見ない間に変わったな、恵」

 

 宿儺は口元を歪める。

 

「こちらの小僧になってはしまったが、殺してやるぞ」

 

 五条は宿儺を見据えた。

 

「へえ。ずいぶん偉そうじゃん」

 

 そして、挑発するように言った。

 

「悠仁から逃げたくせに尻捲ってダセェな!」

 

 宿儺の表情が険しくなる。

 

 その言葉に反応したのは、宿儺だけではなかった。

 

「貴様……!」

 

 裏梅が激昂し、五条へ向かって動こうとする。

 

 しかし、五条は裏梅へ一瞥をくれると、あっさりと拳を振るった。

 

 一撃。

 

 裏梅の身体が吹き飛ばされる。

 

「誰だよ、お前」

 

 五条は、何事もなかったかのように言った。

 

 その場に、短い沈黙が落ちる。

 

 羂索も宿儺も、五条の復活を前にして動きを止めていた。

 

 封印されていた最強の術師。

 

 その帰還は、ただ封印が解かれたというだけではない。

 

 死滅回游の行く末を左右する、新たな局面の始まりだった。

 

   *

 

 五条は宿儺から視線を外さず、ふと思い出したように尋ねた。

 

「ところで、今日って何日?」

 

 その場にいた者たちが、一瞬だけ反応に困る。

 

「……11月19日だ」

 

 誰かが答えた。

 

 五条は軽く頷く。

 

「そっか。じゃあ、ちょうどいいね」

 

 宿儺が笑った。

 

「何がだ」

 

 五条は、いつもの軽い調子で答える。

 

「決めようよ。戦う日」

 

 宿儺の目が細くなる。

 

 五条は続けた。

 

「ちょうどいいや、12月24日」

 

 それは、五条悟と両面宿儺が戦う日。

 

 封印から解放された五条は、復活してすぐに宿儺との決戦を定めた。

 

「それまで、せいぜい準備しておきなよ」

 

 五条は笑った。

 

「安心しろ、殺してやる」

 

 宿儺もまた、笑みを浮かべる。

 

「僕、最強だよ?」

 

 二人の間に、明確な敵意が走った。

 

 死滅回游の終了条件は示された。

 

 伏黒を救うための道筋も、少しずつ形になろうとしている。

 

 だが、すべてが解決したわけではない。

 

 宿儺は伏黒の身体を奪ったまま。

 

 羂索も健在だ。

 

 そして、五条悟と両面宿儺の決戦が、12月24日に定められた。

 

 死滅回游の終わりへ向けて、物語は新たな局面へと進んでいく。

原作基準で行きますか?

  • はい。原作基準でオリ敵、オリ展開無し。
  • いいえ。原作基準ではなくオリ敵オリ展開で
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