第20話:開門の和了り、決戦の手組み
「コガネ」
人気のない場所で、雀ヶ原雀はスマートフォンを片手に呼び出した。
いつもの気怠げな表情。わずかに猫背の姿勢。画面を見つめる目だけが、妙に鋭い。
「追加されたルールを確認させろ」
コガネの声が、静かな空間に響く。
【《
【死滅回游への参加を、現時点、2018年11月18日21時09分をもって打ち切る】
雀は画面を見つめたまま、黙って聞いていた。
【《総則》--14】
【夏油傑、伏黒恵を除く
「……へえ」
短い声が漏れる。
参加の打ち切りと夏油傑と伏黒恵を除く全泳者の死亡による、死滅回游の終了。
終わりへ至る条件が、ようやく明文化された。
だが、雀の意識を引きつけたのは、総則14に記された二人の名前だった。
「夏油傑と……伏黒恵、ね」
夏油傑の肉体は、羂索に利用されている。
ならば、伏黒恵を例外に含める意味は何なのか。
宿儺に身体を奪われた伏黒は、今も泳者として扱われている。その伏黒を、死滅回游の終了条件から除外する。
偶然とは考えにくかった。
「……面倒くせぇ条件をつけやがって」
雀はスマートフォンをポケットにしまった。
ルールが追加されたからといって、すべてが解決するわけではない。
むしろ、死滅回游の終わりが見えたことで、これから何をすべきなのかが、以前よりはっきりしたともいえる。
終わらせることと、伏黒を取り戻すこと。
そして、そのために誰が何をするのか。
「……ま、俺が考えても仕方ねぇか」
そう呟きながらも、雀の思考は止まっていなかった。
彼はスマートフォンを握り直すと、仲間たちの待つ場所へ向かった。
*
ロビーには、複数の術師が集まっていた。
宿儺との戦闘で負傷した者たちの状態を確認しながら、今後の行動について情報を整理している。
雀は少し離れた壁際の椅子に腰を下ろした。
わざわざ声をかけるつもりはない。
今は、何が話されているのかを聞いておけば十分だった。
「来栖の状態は?」
誰かが尋ねると、家入が答える。
「宿儺から受けた攻撃の影響が大きい。少なくとも、戦闘に参加できる状態ではないわ」
来栖華は、宿儺との戦闘で大きなダメージを負っていた。
天使の術式は強力だが、その術式を使う本人が戦えなければ、宿儺に対抗する手段として頼ることはできない。
雀は壁に背を預けたまま、視線だけを動かした。
「……虎杖は?」
呼びかけられた虎杖悠仁が、ゆっくりと口を開く。
「伏黒を助ける方法なら、考えがある」
その言葉に、室内の空気がわずかに変わった。
伏黒を取り戻す。
それは、ここにいる誰もが望んでいることだった。
だが、宿儺は伏黒の身体を完全に支配しようとしている。正面から戦って勝てば済むという、単純な話ではない。
「その方法ってのは……」
問いかけを受け、虎杖は自分の考えを説明し始めた。
雀は黙って、その話に耳を傾ける。
具体的な方法について、ここで口を挟むつもりはなかった。
虎杖が何を考え、どこまで覚悟を決めているのか。
今は、それを見極めるべきだった。
やがて、脹相が虎杖のもとへ歩み寄った。
「悠仁。これを受け取れ」
差し出されたのは、九十九由基が残した研究記録だった。
魂に関する研究。
九十九が何を調べ、どこまで理解していたのか。
その内容を知ることが、伏黒を救うための手掛かりになるかもしれない。
虎杖は記録を受け取った。
「……ありがとう、脹相」
「九十九が残したものだ。役立ててくれ」
二人のやり取りを、雀は少し離れた場所から見つめていた。
虎杖は伏黒を救おうとしている。
脹相は九十九の研究記録を託した。
来栖は戦闘に参加できず、天使の力もすぐには頼れない。
そして、死滅回游には新たな終了条件が追加された。
雀は、頭の中で一つひとつの情報を並べ、それぞれの関係を考える。
終わりが見えたからといって、そこへ至る道筋まで整ったわけではない。
虎杖の考えがうまくいく保証もなかった。
研究記録に何が書かれているのかも、まだ分からない。
雀は黙ったまま、虎杖の手元にある記録へ視線を落とした。
今の自分にできるのは、情報を集め、状況を見極めることだ。
無闇に口を挟んだところで、答えが出るわけではない。
「……焦っても、コスパ悪ぃしな」
誰にも聞こえないほどの声で呟き、雀は再び仲間たちの様子を観察し始めた。
*
獄門疆「裏」。
五条悟を封じた獄門疆、そのもう一つの門である。
一行は、その封印を解くため、集まっていた。
「ここで開けるのか?」
誰かが確認すると、天使は獄門疆「裏」を見つめたまま答えた。
「そのつもりだったが……一つ、問題がある」
一同の視線が集まる。
「獄門疆の中には、時間の概念がない。封印が解けた瞬間、五条悟がどんな状態で出てくるのか分からない」
「どんな状態って?」
「攻撃してくる可能性もある。封印されていた時間が本人にどう作用しているのか、私にも分からない」
「五条先生が、いきなり襲ってくるってことか?」
「可能性の話だ」
天使は淡々と答えた。
五条悟が封印されていた時間は、外の世界とは異なる。封印が解けた瞬間、何が起こるのかは予測できない。もし五条が、周囲を敵と認識したまま現れたら。もし封印の影響で、何らかの異常が生じていたら。
最強の無差別攻撃が飛んでくるかもしれない。
「……ここでやるのは、やめた方がいいな」
誰かが呟いた。
結局、一行は高専の第四演習場へ移動することになった。
十分な広さがあり、万が一の事態にも対応しやすい場所だ。
演習場の中央に獄門疆「裏」を置き、全員が距離を取る。
「準備はいいか?」
天使が確認する。
一同は、それぞれ身構えた。
張り詰めた空気の中、天使の術式が発動する。
獄門疆「裏」に干渉する一条の光が眩しく降り注ぐ。
そして――。
「……」
何も起きなかった。
正確には、封印は解除された。
しかし、五条悟の姿がない。
「……あれ?」
虎杖が首を傾げる。
「五条先生は?」
「知らん」
天使が即答した。
「いや、知らんって……」
「封印は解いた。そこまでは間違いない」
一同は、目の前の獄門疆「裏」を見つめた。
確かに、五条は出てこない。
「……失敗したのか?」
「そんなはずは……」
天使自身も、困惑を隠せずにいた。
「獄門疆に天使の術式を当てると、全てが消え去る。こうしたまた、新たなるトリビアが生まれた」
高羽がふざけながら場を和まそうとする。
「もしかして、五条先生って、封印されてる間に別の何かになっちゃったんじゃ……」
誰かが、真剣とも冗談ともつかない声で言う。
「いや、さすがにそれはないだろ!」
「でも、いないじゃん!」
「どこかに転移したとか?」
「獄門疆の中に置いてきたんじゃないだろうな……」
「そんなことがあるか!」
次々と推測が飛び交う。
張り詰めていたはずの空気は、いつの間にか妙な方向へ転がり始めていた。
天使は額に手を当てる。
「……私は、確かに封印を解除した」
「じゃあ、五条先生は?」
「だから、分からないと言っている」
「いや、そこが一番大事なんだけど!」
虎杖の声が、演習場に響き渡った。
彼らが五条の封印解除に気を取られている間、事態はすでに別の場所で動き始めていた。
*
日本海溝。
光の届かない深海の底に、獄門疆は沈められていた。
周囲には二重、三重の結界が張り巡らされ、その内側には複数の呪霊が配置されている。
五条悟が封印から解放された場合に備えた、羂索の策だった。
「封印が解かれたところで、簡単には動けない」
羂索は、そう考えていた。
獄門疆を日本海溝の底へ沈める。
結界で周囲を封じる。
呪霊を配置し、五条悟が現れた瞬間に襲わせる。
封印が解かれたとしても、深海の圧力と結界、そして呪霊によって五条を仕留める。
それが、羂索の算段だった。
五条悟は強い。
そのことは、羂索自身が誰よりも理解している。
だからこそ、正面から戦うつもりはなかった。
封印するだけでは足りない。
封印が解かれた後まで想定し、対策を重ねる必要がある。
「これなら、さすがの五条悟も……」
その言葉は、最後まで続かなかった。
羂索の目の前に、一人の男が立っていた。
白い髪。
青い眼。
余裕に満ちた立ち姿。
五条悟。
「……やあ」
五条は、まるで散歩から帰ってきたかのように、軽い調子で声をかけた。
羂索の表情が、わずかに固まる。
想定していたはずの事態。
備えていたはずの対策。
そのすべてを嘲笑うかのように、五条は目の前に立っていた。
「……五条悟」
「久しぶり。元気そうじゃん」
五条は笑った。
その声には、怒りを押し殺したような響きがあった。
五条は、羂索を見下ろす。
「今際の際だぞ」
「おやおや。久しぶりに会ったというのに、随分と物騒な挨拶だね」
羂索は軽口を叩く。
だが、五条は取り合わなかった。
一歩、踏み出す。
その瞬間だった。
呪力の塊を纏って、宿儺が五条に殴りつける。
ただし、その姿は以前とは違う。
伏黒恵の身体。
その顔を見た瞬間、五条の表情がわずかに変わった。
「しばらく見ない間に変わったな、恵」
宿儺は口元を歪める。
「こちらの小僧になってはしまったが、殺してやるぞ」
五条は宿儺を見据えた。
「へえ。ずいぶん偉そうじゃん」
そして、挑発するように言った。
「悠仁から逃げたくせに尻捲ってダセェな!」
宿儺の表情が険しくなる。
その言葉に反応したのは、宿儺だけではなかった。
「貴様……!」
裏梅が激昂し、五条へ向かって動こうとする。
しかし、五条は裏梅へ一瞥をくれると、あっさりと拳を振るった。
一撃。
裏梅の身体が吹き飛ばされる。
「誰だよ、お前」
五条は、何事もなかったかのように言った。
その場に、短い沈黙が落ちる。
羂索も宿儺も、五条の復活を前にして動きを止めていた。
封印されていた最強の術師。
その帰還は、ただ封印が解かれたというだけではない。
死滅回游の行く末を左右する、新たな局面の始まりだった。
*
五条は宿儺から視線を外さず、ふと思い出したように尋ねた。
「ところで、今日って何日?」
その場にいた者たちが、一瞬だけ反応に困る。
「……11月19日だ」
誰かが答えた。
五条は軽く頷く。
「そっか。じゃあ、ちょうどいいね」
宿儺が笑った。
「何がだ」
五条は、いつもの軽い調子で答える。
「決めようよ。戦う日」
宿儺の目が細くなる。
五条は続けた。
「ちょうどいいや、12月24日」
それは、五条悟と両面宿儺が戦う日。
封印から解放された五条は、復活してすぐに宿儺との決戦を定めた。
「それまで、せいぜい準備しておきなよ」
五条は笑った。
「安心しろ、殺してやる」
宿儺もまた、笑みを浮かべる。
「僕、最強だよ?」
二人の間に、明確な敵意が走った。
死滅回游の終了条件は示された。
伏黒を救うための道筋も、少しずつ形になろうとしている。
だが、すべてが解決したわけではない。
宿儺は伏黒の身体を奪ったまま。
羂索も健在だ。
そして、五条悟と両面宿儺の決戦が、12月24日に定められた。
死滅回游の終わりへ向けて、物語は新たな局面へと進んでいく。
原作基準で行きますか?
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はい。原作基準でオリ敵、オリ展開無し。
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いいえ。原作基準ではなくオリ敵オリ展開で