方城開局   作:機織りカエル

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第21話:決戦への仕込み、勝ち筋の配牌

 2018年11月20日。

 

 五条悟が帰還し、両面宿儺との決戦が12月24日に定められた。

 

 残された時間は、およそ一か月。長いようで、短い。

 

 相手は呪いの王、両面宿儺。しかも今、その身体を支配しているのは伏黒恵だ。五条が戦うと決めたからといって、ほかの者が何もしなくていいわけではない。勝つにしても、敗れるにしても、決戦の前後に何が起こるかは分からない。

 

 だからこそ、準備が必要だった。

 

     *

 

「……で、誰から始める?」

 

 高専の訓練場。

 

 雀ヶ原雀は、手にしたスマートフォンを操作しながら、集まった面々を見回した。

 

 虎杖悠仁、乙骨憂太、秤金次、禪院真希、脹相。

 

 それぞれが思い思いに身体をほぐしたり、武器を確認したりしている。

 

「誰からって、何が?」

 

 虎杖が聞き返す。

 

「鍛錬。まさか全員で適当に殴り合って、一か月後には強くなってる予定とか言わねえよな?」

 

「いや、そんな予定はねえけど……」

 

「なら、先に課題を決めろよ。時間がねえんだから」

 

 雀は画面を消し、ポケットにしまった。

 

 いつものように気怠そうな顔をしている。だが、今日は自分から訓練場に来ていた。誰かに頼まれたわけでもない。五条に指示されたわけでもない。

 

 雀自身が、鍛錬を手伝うと決めたのだ。

 

「お前、珍しいな」

 

 秤が口元を緩めた。

 

「普段なら、こういう面倒事は真っ先にサボるだろ」

 

「金ちゃん、俺だって状況くらい見るって。全員が好き勝手に鍛えて、いざ本番で連携が取れませんでした、なんて展開が一番コスパ悪ぃだろ」

 

「なるほどな。自分のためってわけか」

 

「そういうことにしとけ」

 

 雀は否定しなかった。

 

 虎杖は、そんな雀を少し不思議そうに見つめた。

 

 普段の雀なら、訓練に付き合うくらいなら昼寝を選ぶ。必要なときには動くが、必要以上に働こうとはしない。その雀が、自分から全員の鍛錬を手伝おうとしている。

 

 何か思うところがあるのかもしれない。

 

 しかし、虎杖がそれを尋ねる前に、雀は手を叩いた。

 

「まずは現状確認。今の自分に何ができて、何ができねえのか。それを分かってねえ奴が、いきなり強くなろうとしたって無駄だ」

 

「……お前が言うと、妙に説得力があるな」

 

 真希が腕を組む。

 

「実際、そうだろ。弱点を放置したまま得意なことだけ伸ばしても、相手にそこを突かれたら終わりだ」

 

 雀は訓練場の中央を指した。

 

「一人ずつ動いてみろ。俺が見て、気づいたことを言う。最後に必要なら組み合わせを変える」

 

「ずいぶんと偉そうじゃねえか」

 

「嫌なら自分でやれよ。俺は帰る」

 

「誰も嫌だとは言ってねえだろ!」

 

 秤の声を聞き流し、雀は最初の相手を指名した。

 

「虎杖。お前から」

 

「俺?」

 

「そう。ほら、来いよ」

 

     *

 

 虎杖との訓練は、短い打ち合いから始まった。雀は正面から攻め込まず、虎杖の動きを観察することに徹した。

 

 虎杖が踏み込む。

 

 雀は半歩下がる。

 

 拳を受け流し、身体の向きを変え、虎杖の側面へ回り込む。

 

「っ!」

 

 虎杖が振り返るより早く、雀の手が肩に触れた。

 

「はい、一回」

 

「今ので?」

 

「今ので。お前、相手を捉えたと思った瞬間、そっちに意識が寄りすぎる。攻撃が外れた後の動きが一瞬止まってんだよ」

 

「いや、でも今のは……」

 

「言い訳は後。もう一回」

 

 虎杖は口を閉じ、構え直した。今度は、攻撃を外した直後に身体を戻すことを意識する。

 

 雀はその動きを見て、すぐに距離を詰めた。

 

 虎杖は反応し、腕で防御する。

 

 衝撃が響いた。

 

「おっ、今のは悪くねえ」

 

「よし!」

 

「ただ、次は逆側から来るぞ」

 

「えっ?」

 

 雀は虎杖の反応を待たずに足を払った。虎杖の身体が傾く。

 

 だが、今度は倒れなかった。体勢を崩しながらも足を踏み直し、距離を取る。

 

 雀は小さく頷いた。

 

「そういうこと。攻撃が通らなかった後、相手がどう動くかまで考えろ。自分の攻撃だけで頭をいっぱいにすんな」

 

「……なるほどな」

 

 虎杖は息を整えながら、先ほどの動きを思い返す。雀は強引に力で押し切ることも、術式で圧倒することもしなかった。

 

 相手の癖を見て、わずかな隙を突く。

 

 それは、虎杖が普段行っている殴り合いとは少し違う考え方だった。

 

「もう一回、お願いします!」

 

「元気だねえ。俺はもう疲れたんだけど」

 

「まだ二回しかやってねえだろ!」

 

「二回もやっただろ」

 

 ぼやきながらも、雀は再び構えた。

 

 それから何度か打ち合いを繰り返し、虎杖の動きが少しずつ変わっていく。

 

 攻撃を当てることだけでなく、外した後の立て直しや、相手の反撃を想定した動きが加わっていた。

 

 劇的な変化ではない。

 

 それでも、実戦で生死を分けるのは、そうした小さな差の積み重ねだ。

 

「はい、そこまで」

 

 雀は手を上げた。

 

「今の動きを忘れんなよ。相手が宿儺なら、一回の失敗で終わる可能性だってあるんだからな」

 

 虎杖の表情が引き締まった。

 

 宿儺。

 

 その名を聞くたび、伏黒の顔が脳裏に浮かぶ。

 

 救い出したい。だが、どうすればいいのか。

 

 まだ答えは見つかっていない。

 

「……分かってる」

 

 虎杖は拳を握った。

 

「だから、もっと強くなる」

 

「強くなるのは結構。けど、焦って雑になるなよ。急いでるときほど、手順を間違えんじゃねえ」

 

 雀はそう言って、次の相手へ視線を移した。

 

     *

 

「次、乙骨」

 

「よろしく、雀君」

 

 乙骨は刀を構えた。

 

 雀は少し離れた位置から、その姿を観察する。

 

「お前の場合、単純な攻撃力をどうこう言う必要はねえな。問題は、何をどの順番で使うかだ」

 

「順番?」

 

「状況に応じて選択肢が多いのは強みだけど、選択肢が多いほど判断に時間がかかることもある。相手に考える暇を与えないために、何を優先するか決めといたほうがいい」

 

 乙骨は頷いた。

 

 彼には、刀による近接戦闘だけでなく、リカや術式の模倣など、状況に応じた複数の手段がある。

 

 その多彩さは大きな武器だ。

 

 しかし、すべてを一度に使えるわけではない。相手や状況によって、最適な選択は変わる。

 

「じゃあ、相手が予想外の動きをした場合は?」

 

「その場で考えるしかねえよ。ただし、考えるための基準は用意できる」

 

 雀は地面に落ちていた木片を拾い、簡単な図を描いた。

 

「攻撃を通すことを優先するのか。味方を守ることを優先するのか。それとも、相手の情報を取ることを優先するのか。目的が決まってりゃ、選択肢は絞れる」

 

「なるほど……」

 

「全部を完璧にやろうとすんな。必要な場面で、必要な手を切れ。それだけだ」

 

 乙骨はしばらく図を眺めた後、刀を構え直した。

 

「じゃあ、実際にやってみようか」

 

「え、俺が相手すんの?」

 

「アドバイスをくれたのは雀君だろう?」

 

「いや、説明と実践は別料金なんだけど」

 

「後で何か奢るよ」

 

「……最初に言えよ」

 

 雀は露骨に面倒くさそうな顔をした。だが、逃げることはなかった。

 

 乙骨が動く。

 

 雀は攻撃を避けながら、動きの切り替えを観察する。何度か攻防を繰り返した後、雀は手を上げて止めた。

 

「今のは、相手を倒すことに意識が寄りすぎたな。俺が横から入ってきたらどうするつもりだった?」

 

「……そこまでは考えていなかった」

 

「だろ。複数人が絡む戦いなら、正面の相手だけ見てりゃいいわけじゃねえ。味方の位置も、敵の位置も、常に頭の片隅に置いとけ」

 

「分かった。もう一度お願いするよ」

 

 乙骨は素直に頷いた。雀はため息をつき、再び構える。

 

「はいはい。今日だけだからな」

 

「ありがとう」

 

「その礼は、あとで飯を奢るときに言え」

 

     *

 

「お次は俺か?」

 

 秤が肩を回しながら前へ出た。

 

「金ちゃんは、俺が言うまでもねえだろ。実戦経験もあるし、自分の勝ち方も分かってる」

 

「おっ、褒めてくれんのか?」

 

「ただし、勝ち筋が見えてるときほど、そこに固執すんなよ」

 

 秤の笑みが少しだけ薄れた。

 

 雀は続ける。

 

「自分の得意な流れに持ち込むのは大事だ。けど、相手もこっちの勝ち筋を潰しにくる。想定どおりに進まなかったとき、次の手を用意できてるかどうかだ」

 

「……そりゃ、そうだな」

 

「特に、宿儺相手ならな。運が味方するのを待つだけじゃ、足りねえ場面もある」

 

「お前、俺のことを運任せみたいに言ってねえか?」

 

「違うの?」

 

「違うだろ!」

 

 秤の抗議を聞き流し、雀は訓練用の道具を指した。

 

「ほら、やるぞ。自分の得意な形を崩された状況を想定しろ。そこからどう立て直すか、俺が見る」

 

 秤は笑みを浮かべた。

 

「いいねえ。そういう面倒くせえことを考えるのは、お前の得意分野だもんな」

 

「自分で考えろって言ったら、どうせ俺に押しつけるだろ」

 

「よく分かってんじゃねえか」

 

「……あー、帰りてえ」

 

 口ではそう言いながら、雀は訓練の開始を告げた。

 

 秤は持ち前の戦闘勘で状況を切り抜けようとする。雀はその動きを見ながら、何度も条件を変え、いつもなら通る手が通らない状況を作っていった。

 

 秤もまた、そこで簡単には引き下がらない。

 

 何度か失敗した後、別の手段を選び、体勢を立て直す。

 

「そう、それだよ」

 

 雀が言った。

 

「勝ち筋が潰れたら、別の筋を探せ。最初の手が通らなかったからって、そこで終わりじゃねえ」

 

「お前に言われるまでもねえよ」

 

「なら、最初からできるようにしとけ」

 

「口が減らねえな!」

 

     *

 

 真希と脹相の訓練は、虎杖たちとは少し違う形になった。

 

 真希は武器を手に、無駄のない動きで訓練場を駆ける。

 

 雀は正面から相手をするのではなく、複数の位置から攻撃を仕掛ける役を担った。

 

 真希はそれをかわし、武器で受け、反撃へと繋げる。

 

「……今の、わざと遅らせただろ」

 

 真希が指摘する。

 

「よく分かったな」

 

「分かるに決まってんだろ。攻撃のタイミングが不自然だ」

 

「じゃあ、次はもっと自然にやるわ」

 

「最初からそうしろ」

 

 真希は呆れたように言った。

 

 雀は攻撃の角度や間合いを変えながら、真希の反応を確かめる。

 

 彼女の場合、身体能力そのものを鍛えるだけでなく、相手の攻撃をどう利用し、どの位置から反撃に繋げるかが重要になる。

 

 雀は真希の動きを見て、気づいたことを短く伝えた。

 

「今のは、相手を倒すところまで考えすぎたな。まずは安全に抜けることを優先してもいい」

 

「……分かってる」

 

「分かってるなら、次で見せてくれ」

 

 真希は答えず、構え直した。

 

 次の攻撃をかわした後、真希は無理に反撃へ移らず、確実に距離を取り直した。

 

 雀は頷く。

 

「そういうこと。いつも最短で仕留める必要はねえ。次に動ける状態を残すのも、立派な勝ち筋だ」

 

 一方、脹相は虎杖と向き合っていた。

 

 兄として弟を守りたい。その気持ちは強い。

 

 だが、決戦で必要なのは、気持ちだけではない。

 

 脹相は自分の術式を使う際の間合いや、攻撃を放った後の隙を意識して動いていた。

 

 雀は二人の様子を見ながら、必要に応じて声をかける。

 

「脹相、攻撃の後に止まるな。次の一手が遅れる」

 

「分かっている」

 

「虎杖も、相手の攻撃だけを見て反応するんじゃなくて、何を狙ってるのか考えろ」

 

「はい!」

 

 雀は二人の動きを交互に見た。

 

 術式も身体能力も違う。得意な距離も、攻撃の組み立ても違う。

 

 だからこそ、互いの動きを理解し、必要な場面で連携できるようにしておく意味がある。

 

 雀はすべての答えを知っているわけではない。

 

 ただ、何が起きたのかを観察し、次に何を変えるべきかを考えることはできる。

 

 その繰り返しが、鍛錬の質を少しずつ変えていった。

 

     *

 

 訓練が一段落した頃には、日が傾き始めていた。

 

 虎杖は地面に座り込み、肩で息をしている。

 

 秤は首を鳴らし、真希は武器の手入れを始めていた。乙骨は先ほどの訓練を振り返り、脹相は静かに呼吸を整えている。

 

 雀は少し離れた場所で、スマートフォンに訓練の記録を打ち込んでいた。

 

「……先輩、そんなことまで記録してんの?」

 

 虎杖が尋ねる。

 

「忘れたら面倒だろ」

 

「いや、そうだけどさ」

 

「誰が何を苦手としてて、どこを直したらどう変わったか。記録しとけば、次に同じことをやるときに無駄が減る」

 

「先輩らしい」

 

 虎杖は苦笑した。

 

 雀は画面を操作しながら、淡々と続ける。

 

「今日一日で急に強くなるわけじゃねえ。けど、何が足りないか分かってりゃ、無駄な鍛錬は減らせる。残り一か月、やることを間違えないようにしねえとな」

 

 その言葉に、誰も反論しなかった。

 

 決戦まで、まだ時間はある。

 

 しかし、十分な時間とは言えない。

 

 五条が宿儺と戦う。その事実は変わらない。

 

 けれど、五条だけにすべてを背負わせるわけにはいかなかった。

 

「……先輩」

 

 虎杖が声をかけた。

 

「ん?」

 

「ありがとうございます。今日、いろいろ教えてくれて」

 

 雀はスマートフォンから顔を上げた。

 

「別に。俺が勝手にやってるだけだし」

 

「それでも」

 

「……はいはい」

 

 雀は面倒くさそうに手を振った。

 

「礼はいいから、明日もちゃんと来いよ。今日できたことが、明日できなくなってたら意味ねえからな」

 

「おう!」

 

 虎杖は力強く頷いた。

 

 雀は再びスマートフォンへ目を落とした。画面には、今日の訓練で見つかった課題が並んでいる。

 

 攻撃後の隙。

 

 状況判断の優先順位。

 

 複数人で戦う際の視野。

 

 得意な戦法が崩れたときの立て直し。

 

 どれも、一日で解決できる問題ではない。だからこそ、少しずつ積み重ねるしかなかった。

 

「……ま、こんなもんか」

 

 雀は記録を保存し、スマートフォンをしまった。

 

 普段なら、ここまで他人のために時間を使うことはない。だが、12月24日には宿儺との決戦が待っている。その日までに、できることを増やす。

 

 自分のためにも。

 

 仲間のためにも。

 

 そして、誰一人として無駄に失わないためにも。

 

 雀は気怠そうに肩を回し、訓練場を後にした。

 

 決戦まで、あと一か月。

 

 勝ち筋を配るための準備は、まだ始まったばかりだった。

原作基準で行きますか?

  • はい。原作基準でオリ敵、オリ展開無し。
  • いいえ。原作基準ではなくオリ敵オリ展開で
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