五条悟と両面宿儺の戦いは、すでに常人には追いきれない領域へと踏み込んでいた。
高専の面々は、離れた場所から二人の戦闘を見守っている。雀ヶ原雀もまた、スマートフォンを手に、戦場から目を離さずにいた。
「……二回目か」
五条と宿儺が、再び領域を展開する。
五条の『無量空処』。
宿儺の『伏魔御廚子』。
一度目の領域戦で、五条は宿儺の領域が持つ外側からの攻撃という弱点を突きつけられた。通常の結界を持つ五条に対し、結界の外側から攻撃できる宿儺の領域は、相性の面で優位に立っていた。
だが、五条も同じ手を繰り返すつもりはない。
二人の領域がぶつかり合う。
五条は結界の条件を変更し、外側からの攻撃に耐えられるよう調整していた。それでも、宿儺は上回る。効果範囲を絞り、その分だけ攻撃力を高める。自らに課した縛りによって、結界の外側から五条の領域を破壊する。
無量空処の結界が崩壊した。
「……条件を変えても、押し切られるか」
雀は画面に視線を落とすことなく呟いた。
五条の対応が間違っているわけではない。相手の優位を潰すために条件を変えた。それでも、宿儺はさらに条件を変えて対抗してくる。
領域の押し合いは、単純な出力だけで決まるものではない。結界の構造と、術師がどこまでその仕組みを扱えるか。その両方が、勝敗に影響している。
雀は、領域を閉じずに展開する宿儺の姿を見つめた。
外郭を閉じない領域。それは、結界の外側から攻撃されるという弱点を抱える五条に対し、確かな優位を生み出している。だが、外郭を閉じないことが、どんな術師にとっても有利なわけではない。
雀は自分の術式を思い浮かべた。
「……俺の四方宝城なら、閉じねえ方がコスパ悪いけどな」
「どういうこと?」
虎杖悠仁が顔を向ける。
「俺の領域は、相手を対局に引きずり込むのが目的だ。閉じなきゃ、相手が逃げられる。外から結界を壊される弱点を避けられたとしても、肝心の対局が成立しなきゃ意味ねえだろ」
「じゃあ、閉じない領域には向き不向きがあるってことか」
「術式と術師の相性もあるし、結界術をどこまで理解してるか、どれだけ修練してるかにもよる。できるからって、使うとは限らねえよ。相手が宿儺みたいに、お遊びに付き合って一発は受けるっていう奴ならまぁ閉じずに展開できるがな」
雀は再び戦場に目を向けた。
「……まあ、俺の術式が伏黒のだったら、領域は閉じねえかもな」
「伏黒の術式?」
「影だよ。逃げる相手の影を式神で踏んで、動きを止める。影を使って打てるだろ?」
雀は軽く肩をすくめた。
「影鬼的なさ。あいつの術式だったらやりたい放題出来るぞ」
「結界で閉じ込める代わりに、影で逃げられなくするってことか……」
虎杖が呟く。
「実際には別の話だけどな。要は、領域の外郭一つの形だけ見ても意味ねえってこと」
説明を終えた雀は、再び五条と宿儺の攻防を追い始めた。
五条は領域を失っても、戦いを止めなかった。反転術式による回復。術式の焼き切れへの対処。そして、宿儺へ向かっていく肉弾戦。
雀は、その一つひとつを観察していた。
*
三回目。
再び、二人の領域が展開される。
今度は五条の結界が、バスケットボールほどの大きさにまで縮小されていた。
「……あんなに小さくできんのかよ」
虎杖が思わず声を漏らす。
雀は五条の領域を見つめたまま答えた。
「獄門疆での経験を使ってんだろ。閉じた結界の条件を、あそこまで極端に変えてる」
五条は結界を極小化することで、外部からの攻撃に対する耐久性を高めていた。小さくなった無量空処が、伏魔御廚子の攻撃を受け止める。
領域の内部では、五条と宿儺が再び肉弾戦を繰り広げていた。五条は攻撃を繰り出しながら、相手の動きを崩そうとする。宿儺もまた、五条の攻撃を受け流し、反撃を重ねていく。
雀は二人の動きを追った。
五条が結界を維持できている時間。
宿儺が攻撃を続けている時間。
そして、両者の動きに現れるわずかな変化。
「……三分」
雀が呟いた。
約三分。
その時間を耐え抜いた五条は、同時に宿儺へダメージを与えていた。次の瞬間、二人の領域が同時に崩壊する。
雀は短く息を吐いた。
「今度は、外から壊される前に中で仕留めるつもりか」
五条は領域を小さくすることで、宿儺の領域に耐える時間を稼いだ。その時間を利用して、宿儺へダメージを与える。領域の性能だけで勝とうとするのではなく、結界が維持されている時間そのものを勝負に利用している。
ただし、宿儺も無傷ではない。五条の攻撃が、確実にその身体へ蓄積していた。
*
四回目。
両者は、再び領域を展開した。五条は三回目と同じように、小型化した結界を用いる。宿儺もまた、伏魔御廚子を展開する。
領域がぶつかり合う。
五条は内部での攻防を続けながら、結界を維持する。宿儺は外部から結界を破壊しようと攻撃を続ける。
互いに譲らない。
五条の拳が宿儺を捉える。宿儺も反撃を返す。どちらか一方が一方的に押し切る展開にはならなかった。
雀は戦場を見据えたまま、指先でスマートフォンの縁をなぞった。
「……同じ条件で、もう一度か」
五条は三回目の領域戦で、約三分間耐え抜いた。今回も、その時間が一つの基準になる。
領域が維持されている間に、どれだけ相手へダメージを与えられるか。そして、相手の領域が崩れる前に、自分の領域を保ち続けられるか。
やがて、再び約三分が経過した。
五条と宿儺の領域が、ほぼ同時に崩壊する。
「また同時……」
虎杖が呟く。
「どっちも、相手を倒しきるところまでは届いてねえ」
雀は淡々と答えた。
だが、戦況が完全に振り出しへ戻ったわけではない。五条の攻撃によるダメージは、宿儺に残っている。領域を展開するたびに、二人の身体と術式には負担が積み重なっていた。
次の一手が、これまでと同じ結果になるとは限らない。
*
五回目。
五条と宿儺が、再び領域展開の構えを取った。
雀は二人の動きを見逃さないよう、目を細める。
先に領域を展開したのは、五条だった。宿儺が続く。
その差は、わずかだった。
だが、決定的な差でもあった。
宿儺は、前回までの戦闘で受けたダメージの影響により、回復にわずかな遅れが生じていた。その遅れが、領域展開のタイミングにも現れる。
五条の無量空処が、宿儺へと届いた。
「……入った」
雀の声が低くなる。
ほんのわずかな時間差。それだけで、これまで拮抗していた領域戦の流れが変わった。
五条はその隙を逃さない。宿儺へ攻撃を叩き込み、さらに伏魔御廚子の領域を破壊する。
宿儺の領域が消失した。無量空処の影響を受けた宿儺は、これまでのように即座に反撃へ移ることができない。
五条は宿儺へ迫る。
雀は戦場を見つめたまま、静かに呟いた。
「……決まったか?」
しかし、五条の動きは止まらなかった。宿儺を倒しきるため、さらに領域を展開しようとする。
六回目。
そのはずだった。
五条の鼻から、血が流れ落ちる。次の瞬間、五条の動きが止まった。
領域は展開されない。
「……っ」
虎杖が息を呑む。
五条はこれまで、術式の焼き切れを回復するために、脳を自壊させて反転術式で修復するという荒技を繰り返していた。
その反動が、ついに限界へ達したのだ。脳への負担は、もはや無視できない。
五条は領域を展開できなかった。そして、宿儺もまた、無量空処による脳へのダメージを受けていた。
両者ともに、領域展開が不可能な状態に陥った。ここで、領域の押し合いは終わった。
雀は画面から目を離し、戦場を見据えた。
「……領域は、もう使えねえ」
勝敗を決めたのは、単純な領域の強さではなかった。
結界の条件を変え、相手の攻撃に耐え、領域の維持時間を利用し、ダメージを積み重ねる。
その繰り返しの果てに、わずか0.01秒の差が生まれた。
そして、そのわずかな差が、五条に次の一撃を与える機会をもたらした。
だが、まだ戦いは終わっていない。
*
五条は宿儺へ向かっていく。領域が使えなくなった以上、戦いは再び術式と肉弾戦を中心とした攻防へ移る。
五条は宿儺へダメージを与えようと攻め続ける。
そのときだった。宿儺の背後に、異形の影が現れた。
円環を背負った式神。
魔虚羅。
その姿を認めた瞬間、雀の目がわずかに細くなる。
「……そういうことか」
雀は、魔虚羅の頭上に浮かぶ法陣を見た。
領域の押し合いの最中、宿儺は五条の攻撃を受けながらも、伏黒の魂を利用して無量空処への適応を進めていた。
「……領域の中で、適応を進めてやがったのか」
宿儺は、ただ領域の押し合いに耐えていたわけではなかった。
領域戦の最中から、すでに次の手を仕込んでいた。五条が領域を展開できなくなった、このタイミングで魔虚羅を出す。
雀は、宿儺の狙いを理解し始めていた。
「……面倒な仕込みしやがる」
五条と宿儺の戦いは、新たな局面へと移っていく。
そして、五条悟の前に立ちはだかるのは、宿儺だけではなくなった。
最強の戦いは、まだ決着していない。
原作基準で行きますか?
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はい。原作基準でオリ敵、オリ展開無し。
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いいえ。原作基準ではなくオリ敵オリ展開で