方城開局   作:機織りカエル

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第4話:オーラス、次局『元禄積み』の行方

「お前、誰だ?」

 

 雀ヶ原雀の問いに、額に縫い目のある男は薄く笑った。

 

「手荒な真似はしないでくれないかい?私のコレクション(獲物)には手を出さないで欲しい」

 

「……夏油、さん?」

 

 雀と虎杖は新たに出てきた敵に動けずにいた。

 

「助けてあげようか、真人」

 

 男の足元では、重傷を負った真人が地面に転がっている。しかし真人は、夏油と呼ばれた男の「助ける」という言葉の裏にある、『人間の悪意』を察知する。真人は最後の力を振り絞って右腕を刃に変え、羂索の背後から不意打ちで襲いかかる。

 

「知ってたさ、だって俺はお前ら(人間)から生まれたんだから」

 

 真人がかすれた声で叫びながら襲いかかるが振り返りもせず、いとも簡単にひらりと回避する。真人の体は宙で静止し、呪霊操術の力によって小さな黒い球体へと圧縮され始める。

 

「本当は漏瑚も欲しかったんだけどね」

 

 羂索はそう言うと、真人だった球体を口に放り込み、飲み込んだ。

 

「……何をした?」

 

 虎杖が身構える。

 

「さあね。君が知る必要のあることではないよ」

 

 羂索は虎杖から視線を外し、少し離れた場所で膝をつく雀ヶ原雀を見た。

 

「これからの世界の話をしたいが。それよりも、そちらの彼だ。自分の呪力をわずか二割まで減らして、何を企んでいるのかな?」

 

 雀は荒い息を吐きながら、顔を上げた。

 

「……何って、罰符の精算だよ」

 

「罰符?」

 

「俺の術式じゃ、錯和をやらかすと呪力の八割を没収される。けど、ただ消えるわけじゃねぇ」

 

 雀は虎杖をちらりと見た。

 

「同じ卓にいる奴に責任支払いがある。つまり、俺が敵じゃないと認めた奴に徴収された呪力が渡される。呪霊は敵、同卓者は虎杖と客打だったから今回は虎杖に渡る」

 

「えっ、俺に!?」

 

 虎杖は自分の拳を見下ろした。身体の奥から、今まで感じたことのないほどの呪力が湧き上がっている。雀が失った呪力の八割。その大部分が、虎杖へと移っていた。

 

「先輩……、なんでそんな」

 

「勘違いすんなパチンコ大王、これは精算だ。借りを返すのがギャンブラーの基本だろ」

 

 雀は口元を歪めた。

 

「それに、罰符にはもう一つ効果がある」

 

「もう一つ?」

 

「錯和(チョンボ)の代償として、次局の予約報酬が確定する。俺が次に使うはずだったイカサマ――『元禄積み(げんろくつみ)』だ」

 

羂索の笑みが、わずかに深くなる。

 

「なるほど。自分を犠牲にして、次の一手を確定させたわけか。だが、君自身にはもう戦う力が残っていない」

 

「だから言ってんだろ。精算だって」

 

 雀は床に落ちていた、一枚の血塗れの千円札を指す。真人との戦闘で攻撃を逸らすために使った、くしゃくしゃの千円。

 

「虎杖!! 拾えッッ!!」

 

 虎杖は反射的に千円札を拾い上げた。

 

 その瞬間、紙幣が黄金色の光を放つ。1枚の札が、無数の麻雀牌へと変化した。牌が空中に並び、ひとつの手牌を形作っていく。

 

 “一萬、一萬、一萬、二萬、三萬、四萬、五萬”

 

 “六萬、七萬、八萬、九萬、九萬、九萬”

 

 九つの門を備えた、純正九蓮宝燈(じゅんせいちゅうれんぽうとう)の聴牌。

 

 その牌姿が完成した瞬間、領域の残滓が大きく震えた。

 

『罰符支払いを確認』

 

『条件適合者への呪力移譲、完了』

 

『予約報酬――『元禄積み』の使用権を、虎杖悠仁へ移行』

 

『役満成立:純正九蓮宝燈』

 

 システム音が響き渡る。

 

 虎杖の右拳に、黄金色の呪力が集中した。

 

「……なんだ、これ」

 

「考えんな。牌に任せて殴れ」

 

 雀が短く告げる。

 

「その役満は、お前の拳で完成させろ」

 

 虎杖は一歩踏み込んだ。

 

「うおおおおおおおッ!!」

 

 拳が振り抜かれる。最後の“五萬”が虎杖の拳に吸い込まれる。

 

 その軌道から、九つの衝撃がほぼ同時に放たれた。

 

 正面、左右、上下、そして死角。九つの攻撃が互いの隙間を埋めるように広がり、羂索へと殺到する。

 

九蓮宝燈――九つの門から放たれる、逃げ場を塞ぐ連撃

 

 通常の回避では間に合わない。ひとつの方向を防御すれば、残る攻撃が別の角度から襲いかかる。

 

「これは……!」

 

 羂索の表情が初めて変わった。

 

 次の瞬間、九つの衝撃がその身体を捉えた。肉が裂け、骨が砕け、衝撃が地面を抉る。

 

 だが、最後の一撃が頭部を砕く寸前、羂索の身体が不自然に歪んだ。

 

 皮膚が波打ち、骨格がずれ、内臓の位置が強引に組み替えられる。真人の術式。『無為転変』。

 

 羂索は取り込んだ真人の術式を限定的に利用し、自身の魂に干渉して肉体の構造を変化させたのだ。急所をずらし、致命傷となる攻撃を紙一重で回避する。

 

 それでも、九撃すべてを防ぎきることはできなかった。

 

 身体の各所が深く抉られ、羂索は吹き飛ばされる。地面を転がった末、崩れた瓦礫の中で片膝をついた。

 

「……っ、はは」

 

 血を流しながら、羂索は笑った。

 

「なるほど。役満というのは、こういうものか」

 

 立ち上がろうとする身体が、わずかに揺れる。

 

「まともに受けていれば、危なかったね。まさか、あの状態からここまでの一撃を繰り出すとは」

 

 虎杖は拳を握りしめたまま、羂索を睨みつけた。

 

「まだやるか……!」

 

「いや。今日はここまでにしておこう」

 

 羂索はゆっくりと立ち上がる。

 

傷ついた身体を修復しながら、虎杖と雀を見比べた。

 

「虎杖悠仁。そして、雀ヶ原雀。君たちのことは覚えておくよ」

 

「逃げる気か!」

 

「逃げる? 違うね。次の勝負に備えるだけさ」

 

 羂索は笑みを浮かべた。

 

「死滅回游で、また会おう」

 

 そう言い残し、羂索は闇の中へと姿を消した。

 

 静寂が戻る。

 

 虎杖はしばらく拳を見つめていたが、やがて雀のもとへ駆け寄った。

 

「先輩!大丈夫っすか?」

 

「……大丈夫に見えるか?」

 

 雀は地面に仰向けになった。

 

「呪力はほぼ空。身体はボロボロ。おまけに、千円札まで使っちまった……」

 

「いや、最後のは別にいいだろ!」

 

「よくねぇよ。利子込みで二千円の価値があったんだぞ、あれ」

 

「そんな価値ないって!」

 

 雀は目を閉じ、深いため息をついた。

 

「……まあ、いい。借りは返した。これで親としての面目も立っただろ」

 

「親って何だよ!」

 

「麻雀の親だよ、親。細かいこと気にすんな」

 

「今そら必要?」

 

 虎杖の叫びが、崩壊した渋谷の街に響く。雀は返事をしなかった。そのまま意識を手放し、地面に倒れ込んだ。

 

「先輩!ちょっと先輩⁉︎」

 

 虎杖の声だけが、夜の街に残った。




役満確定を見せたいだけな人、京都校とか出すと俺の風呂敷では無理だから消しました。
続きは一旦書いてないので考えるかここで止まるかはSiriも知りもしねぇ
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