冒険者になった猫 ~話せないけど、言葉はわかります~   作:播磨 由道

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第12話 ねこです? よろしくおねがいします

淡い光が収まると、鑑定紙の上には、整然とした文字の列が浮かび上がっていた。

 

――――――――――

名前:シロ(城之内 士郎)

種族:ねこ?

レベル:3

体C 力D 器B 速A 知A 魔A

 

所持スキル

言語理解、探知、思考加速、風魔法、雷魔法

――――――――――

 

吾輩は、一番上の行に釘付けになった。

 

城之内 士郎。

もう二度と目にすることはないと思っていた、懐かしい漢字の並び。

異世界の文字で書かれた『シロ』の横に、括弧書きで、確かに吾輩の前世の名前が記されていたのである。

 

「名前は……シロ。うん、ちゃんとシロって書いてある!」

 

セリアが嬉しそうに声を上げ、それから首を傾げた。

 

「でも、その横の、この模様みたいなのは何だろう?」

「文字……よね? でも、こんなの見たことないわ。古代文字かしら」

 

カティアが眉をひそめて紙に顔を近づける。

 

当然だ。

この世界に、漢字などという複雑怪奇な文字が存在するはずもない。

 

「シロ、これ、読めるのか?」

 

ジェイクの問いに、吾輩は少し迷ってから――右の前足を上げた。

仲間に隠し事はしないと、決めたばかりである。

 

「マジかよ……。じゃあ、なんて書いてあるんだ?」

「ジェイク、それ『はい』と『いいえ』じゃ答えられないでしょ」

「あ、そうか……」

 

メアリーにやんわりと指摘され、ジェイクがガシガシと頭を掻く。

 

助かった。

今はまだ、前世のことまで説明できる手段がない。

いつか言葉を伝える方法が見つかったら、その時にちゃんと話そう。

 

それよりも、だ。

吾輩の視線は、すぐ下の行へと移った。

 

『種族:ねこ?』

 

……ねこ。

 

しかも、ひらがな。

いや、異世界の文字だから、本当はひらがなではない。

吾輩の脳内ではなぜか、ひらがなに『?』がついた形で翻訳されているのだ。

 

(なぜ疑問形なのだ)

 

白虎ではなかった。

神獣でもなかった。

 

それどころか、鑑定紙の方が「たぶん、ねこ……かな?」と首を傾げているような有様である。

吾輩は猫ではない、と散々言い張ってきた。

だが、まさか世界の側からも「猫かどうか自信がない」と言われるとは思わなかった。

 

「ねえ、種族のところ、なんで疑問形なの……?」

「鑑定紙が疑問形で表示するなんて、聞いたことないわ」

「不良品だったんじゃねえか? ハズレ紙だし」

「でも、他のところはちゃんと書いてありますよ?」

 

四人がわいわいと議論を始める中、吾輩はがっくりと項垂れた。

期待が大きかった分、落差がひどい。

前世でいえば、宝くじの当選番号を確認したら、一桁違いの組違いだった時のような気分である。

 

しかし、気を取り直してステータスの数値に目を移すと、今度は四人の様子が変わった。

 

「ちょっと待って。速さと知恵と魔力が、全部A……?」

 

カティアの声が上ずる。

話を聞くに、ステータスの評価はギルドのランクと同じく、最高がSで最低がFらしい。

 

一般的な成人男性で、だいたいDからC。

Aといえば、その道の一流と呼ばれる人間でようやく届く領域なのだという。

 

「俺なんかレベル8で、力がB、速さはDだぞ……」

「私、魔力はBなのに……猫に負けた……」

 

ジェイクとカティアが、揃って遠い目をしている。

 

レベル3ということは、先日のゴブリン戦で少し上がったのだろうか。

レベルは彼らよりずっと低いのに、能力値だけは妙に高い。

 

特に『知』がAなのは、中身が三十代の元社会人だからだろう。

伊達に十年以上、理不尽な会議と資料作成に揉まれてきたわけではない。

 

そして、所持スキル。

 

『言語理解』――これは、神がくれた唯一のチートだ。セリアたちの言葉がわかるのも、これのおかげに違いない。

『探知』――薬草探しでやけに鼻が利いたのは、猫の嗅覚だけでなく、このスキルの効果もあったのかもしれない。もっとも、ゴブリンの大群を見逃したあたり、まだ使いこなせてはいないようだが。

『思考加速』――ホブゴブリンの棍棒がスローモーションに見えた、あれだ。やはり、ただの猫の反射神経などではなかったのである。

 

なるほど。

これまでの謎が、パズルのピースのように次々と埋まっていく。

 

だが、吾輩の目はその先――最後の二つに吸い寄せられて、離れなかった。

 

『風魔法』

『雷魔法』

 

「……二属性」

 

メアリーが、ぽつりと呟いた。

部屋の空気が、しんと静まり返る。

 

魔法の素質を持つ者は、百人に一人。

その大半は単一属性で、二属性を扱えれば、それだけで才能ある魔法使いとしてもてはやされる。

以前、そう聞いたことがある。

 

「二属性の魔法使いなんて、この街の魔術師ギルドにも何人いるか……」

 

カティアが、信じられないものを見る目で吾輩と鑑定紙を見比べている。

ジェイクは口を半開きにしたまま固まり、セリアは両手で口元を押さえていた。

 

吾輩は、自分の小さな前足を、じっと見下ろした。

 

ぷにぷにとした肉球。

泥を掘り、干し肉を押さえ、ホブゴブリンの鼻っ柱を引っ掻いた、ただの猫の前足だ。

 

この前足から、風が吹き、雷が奔る。

 

種族は、ねこ?

白虎でも、神獣でもなかった。

 

だが――どうやら吾輩は、魔法を使うことができるらしい。

 

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