冒険者になった猫 ~話せないけど、言葉はわかります~   作:播磨 由道

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第5話 猫の鼻は伊達じゃない

冒険者ギルドで受注した本日の業務――もとい、クエストは『薬草採集』であった。

 

駆け出しのセリアたちのパーティにとっては、実に堅実で身の丈に合ったチョイスと言える。

 

異世界といえば、スライムやゴブリンといった定番モンスターを倒して一攫千金――などと夢を見がちだが、まずは安全第一。

地道に日銭を稼いで装備を整えるのが、新入社員……いや、新人冒険者の鉄則である。

元・社畜の吾輩としては、彼らのその堅実な姿勢を高く評価したい。

 

街を抜け、郊外の森へと向かう道中。

吾輩はセリアの後ろを、一定の距離を保ちながらトコトコとついて歩いていた。

 

「シロ、こっちだよ」と呼ばれればそちらへ向かい、「ちょっと待ってて」と言われればその場でお座りをして待機する。

中身は三十代の日本人なのだから、言葉の意味を理解してその通りに動くなど造作もないことである。

 

「ねえ……この子、もしかしてセリアの言葉がわかってるんじゃない?」

 

おっとりした白ローブの娘(やはり回復系の僧侶だった)が、吾輩を見て感嘆の声を上げた。

気の強そうな赤ローブの娘(こちらは炎使いの魔術師だ)も、目を丸くして吾輩をまじまじと見つめている。

 

「ただの野良猫にしては、ずいぶんと賢いわね。もっとこう、気まぐれにあっちこっち行っちゃうものかと思ってたけど」

 

「えへへ、でしょー! さすが私のシロだよ!」

 

なぜかセリアが、得意げにふんぞり返っている。

 

いや、お前が躾けたわけでもなんでもないのだが。

なぜお前が偉そうにしているのか。

 

まあいい。

ご主人様のメンツを立ててやるのも、優秀な部下(ペット)の務めである。

男剣士は相変わらず「ふん」と興味なさそうにしているが、吾輩も彼には興味がないのでお互い様だ。

 

やがて目的の森に到着すると、一行は『アオバソウ』という傷薬の材料になる薬草を探し始めた。

 

しかし、自然界には似たような形の雑草がごまんと生えている。

素人目には判別が難しいらしい。

セリアたちは図鑑を書き写したメモ帳と睨めっこしながら、「これは違う」「こっちも葉っぱの形が……」と悪戦苦闘していた。

 

見かねた吾輩は、少しばかり手伝ってやることにした。

草の生い茂る一角に顔を近づけ、鼻をヒクつかせる。

 

――その瞬間、世界が劇的に解像度を上げた。

 

(……なるほど、これが『猫の嗅覚』というやつか)

 

湿った土の匂い、朝露の匂い、そして植物ごとの微かな香りの違い。

人間だった頃には決して気づけなかったそれらが、恐ろしいほど鮮明に嗅ぎ分けられるのだ。

 

人間の嗅覚とは比較にならないほどの情報量が、脳内に直接流れ込んでくる。

この鋭敏な嗅覚をフル稼働させれば、アオバソウが放つ特有の匂いを探り当てることなど朝飯前である。

 

「ニャア(これだ)」

 

吾輩は前足で器用に、アオバソウの根元を掘り起こした。

それを口にくわえてトコトコと運び、セリアの足元にポトリと落とす。

 

「えっ? シロ、これ……アオバソウじゃない! すごい、探してくれたの!?」

 

セリアが驚きの声を上げると、他のメンバーもワッと集まってきた。

 

その後も吾輩が次々と正解の薬草を見つけ出すものだから、パーティの採集ペースは飛躍的に上がった。

目標としていたノルマは、午前中のうちにあっさりと達成されてしまったのである。

 

「こいつ、本当にただの猫か……?」

 

あの無愛想な男剣士ですら、信じられないものを見るような目でこちらを見ている始末である。

 

ふっ、当然だ。

 

三食昼寝付き、ふかふかベッド完備の快適な住環境を維持するためには、吾輩も自らの有用性をアピールせねばならんからな。

異世界サバイバルを生き抜く元・サラリーマンの処世術、とくと見るがいい。

吾輩はドヤ顔で「ニャア」と一つ鳴き、セリアからご褒美の干し肉をちゃっかりと頂戴した。

うむ。

労働のあとの干し肉は格別である。

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