冒険者になった猫 ~話せないけど、言葉はわかります~   作:播磨 由道

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第7話 たかがゴブリン、俺たちだけで十分だ

ギルドの受付嬢が、にっこりと微笑んで羊皮紙に承認のスタンプを押した。

 

「おめでとうございます。今日から皆さんはEランク冒険者です」

「やったー!」

 

セリアたち女性陣が歓声を上げる。

あの無愛想な剣士ジェイクでさえ、口元に得意げな笑みを浮かべていた。

 

こうしてセリアたちのパーティは、無事にFランクからEランクへの昇進を果たした。

 

ギルドの規定では、最初の昇進に必要なのは「最低限の常識と協調性がある」というお墨付きだけ。

要するに、退屈な雑用を放り出さないかを見る適性検査だ。

 

ところが、EランクからDランクへはそう甘くない。

依頼の達成数に、成功率。ギルド職員による実力評価。

そのうえ、昇進試験まであるらしい。

……前世の昇格面談より厳しくないか?

 

日本の会社に置き換えるなら、Fランクは入社直後の『研修期間』や『試用期間』だ。

 

それが終わり、晴れて現場に配属されたのが今のEランク。

ここからが、本当の冒険者生活の始まりというわけだ。

 

「よし! 討伐依頼が受けられるようになったんだ。早速ゴブリン退治に行こうぜ!」

 

ジェイクが鼻息を荒くして、依頼掲示板から一枚の紙を引っつかんできた。

 

(おいおい、いきなり実戦か……)

 

吾輩は尻尾をパタパタと揺らしながら、呆れ半分にため息をついた。

 

いくら昇進したとはいえ、これまで雑用と薬草採集ばかりだった連中だ。

いきなり魔物と命のやり取りなんて、危なっかしくて見ていられない。

 

万が一、勇み足で無茶をしてセリアが死んだらどうなる。

吾輩の三食昼寝付きの快適な生活が、根こそぎ崩れてしまう。

ピンチになったら、吾輩がなんとかして止めるしかあるまい。

 

……それに。

この半月あまり、セリアと同じふかふかのベッドで眠り、毎日のように撫で回されてきた。

吾輩自身も、このポンコツパーティに多少は情が移ってしまったのかもしれない。

 

街を出て、ゴブリンの目撃情報があった郊外の森へ向かう。

その道すがら、吾輩はゴブリンについて考えていた。

 

前世のRPGでは「序盤の雑魚モンスター」の代名詞だったゴブリン。

この世界では、どんな立ち位置なのだろうか。

 

吾輩のオタク知識によれば、ゴブリンは人間の子供くらいの背丈だ。

醜悪な顔つきに、尖った耳。ボロボロの衣服。

言葉は通じず、「グギャギャ」と奇声を発して仲間と多少の連携を取る。

 

問題は、作品によって『脅威度』がまるで違うことだ。

 

ただの動く的のような雑魚のこともある。

かと思えば、集団でずる賢く立ち回り、熟練の冒険者すら返り討ちにする凶悪な存在のこともある。

捕らえた女性冒険者を、とても健全とは言えない目に遭わせる……そんなハードコアな作品も多かったはずだ。

 

吾輩はチラリと、前を歩くセリア、カティア、メアリーの三人娘を見上げた。

 

結局、この世界のゴブリンがどれほど危険なのかはわからない。

最悪の事態も想定しつつ、自分の目で見て判断するしかないだろう。

 

「ねえ、本当に私、魔法使っちゃダメなの?」

 

森の入り口に差し掛かったところで、カティアが不満げに唇を尖らせた。

 

「ダメですよ、カティアちゃん。森の中で火の魔法なんて使ったら、火事になっちゃいますから」

 

メアリーが困ったような笑顔でたしなめる。

 

そう、今回の舞台は木々が鬱蒼と茂る森の中。

炎使いのカティアの魔法は、完全に封印なのである。

 

以前、薬草採集の最中に『ホーンラビット』という角の生えたウサギの魔物が出たことがある。

そのときもカティアは意気揚々と火魔法をぶっ放そうとして、慌ててメアリーに止められていた。

 

(森の中で火魔法とか、普通に考えてアウトだろう……)

 

と、吾輩もあの時は激しく同意したものである。

 

そもそも、この世界で魔法は非常に希少な技能だ。

 

魔法の素質を持っている者は、おおよそ百人に一人。

そして大半の魔法使いは『単一属性』の素質しか持っていない。

 

二属性を扱えれば、才能があるともてはやされる。

三属性なら、歴史に名を残す天才。

四属性ともなれば、国に一人いるかどうかの伝説レベルらしい。

 

そしてカティアは、典型的な一属性のみ――『火魔法』しか使えない魔術師だった。

つまり、今日の彼女はただの口の悪い足手まといである。

 

「しっ……! 静かに!」

 

先頭を歩いていたジェイクが、不意に足を止めて剣の柄に手をかけた。

途端に、パーティに張り詰めた緊張感が走る。

吾輩の猫の耳も、それを捉えていた。

草むらの奥から近づく、複数の不規則な足音。そして、下品な鳴き声。

 

「グギャ……、グギャギャッ!」

 

茂みがガサリと揺れ、現れたのは三匹の醜悪な小鬼。

手には錆びた鉈や棍棒が握られている。

 

Eランク冒険者としての真価が問われる、初めての討伐戦。

それが今、始まろうとしていた。

 

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