私は目立たず生きたいだけ 日陰者転移者の異世界生活   作:稲荷竜

13 / 13
第13話

「ギルドはこの災害級のモンスターを『驟雨(しゅうう)』と名付けます」

 

 なんか、出たらしいです。

 

 これ、完全に、レイド戦の空気なんだけど、そういえば、この世界で、レイドとか、どうしてるんだろう。

 

「我々『土塁(どるい)』は土木ギルドと連携し、『驟雨』の侵攻ルートを制限するために工事計画を立て、実行する」

 

「俺たち『拾(ひろい)』は地下水道から『驟雨』が侵入しないかどうか、これまでに集めたデータを基にしつつ経過観察をする」

 

 有力と思われる人たちが顔を突き合わせて、会話をしている。

 多くの人が、そっちに注目して、真剣な顔をしてる、みたいですね。

 

 ちょっと、話を途中からしか聞いてなかったんですけど、『驟雨』っていうのは、でっかいドラゴンのこと、みたいです。

 ゲームで言えば、トビトカゲになる、のかなあ。

 私がやってたゲームでレイドボスっていうと、だいたい、どこにでもいる雑魚モンスターを巨大にしたやつで、『汚泥戦線』とかの話を聞いた感じだと、それは、この世界でも変わらないみたい。

 

 ボスモンスターみたいなものも、まあ、いるんだけれど。レイド戦は、確実に、巨大化した雑魚モンスターだったな……

 運営のこだわり、なんですかね。専用モンスターとか、いてもいいように思われるんですけど。シナリオで、何か、触れられてたりするのかな。シナリオ、本当に、あんまり読んでなくて……

 

 レベルキャップを外す条件だから、シナリオクエスト自体はクリアしたんだけど、シナリオそのものは……その……スキップ、しちゃって……

 

 私、物語に、興味がない。

 

 なんだろう、物語、まあ、短いのは読むんだけど、『文庫三冊分のシナリオが追加!』とか言われると、『あ、じゃあいいです……』って、なってしまう。

 いえ、『長すぎ! 絶対に読まねーよ! ペッ!』みたいな感じじゃなくて、『今は、余力がなくて、読めないから、後回しにしよう。いつか、読もう』って、そういう気持ちは、あるんです。でも、『いつか』が、来ない。本当に、びっくりするほど、来ない。

 

 なんだろう、まあ、最近のゲームだから、スキップしても、シナリオの要約は出してくれるんだけど、シナリオの要約が正しかったこと、ないんで、結局、なんも知らんまま、SNSでネタバレだけ食らって、『まあ、じゃあ、いいか』ってなって、おしまい、みたいな。そういう人生を、送っている。

 

 余力、どうやって捻出したら、いいんだろう。

 

 私があまり、ゲームの熱心なファンを自認できないのは、メインシナリオはもちろん、NPCたちのキャラシナリオみたいなものさえ、読めない。読もうという気持ちはあるし、読まないといけないっていう、焦り? 罪の意識? もあるのに、読めない。

 読むぐらいなら、デイリーとか、ウィークリーのクエストをこなして、もうボーナスも取り尽くしたローグライク系のクエストを、やってしまう。そういう、時間と体力の使い方から、抜け出せないんです。

 

 レア掘りとかがある時は、『まあ、レア掘りだしな』っていう言い訳も、立つんだけど。なんにもない時も、何かこう、手が伸びなくて、シナリオを読めなくて、だんだん、罪の意識を感じていってしまって、情報を目にするのも申し訳なく、SNSや、公式のアカウントからも距離をとって、ひたすら、篭って一人でできることばっかりするようになっていく、っていうか。

 

 シナリオを読まない、新しく追加された要素を遊ばない。……たぶん、別に、そういう遊び方をしても、いいんでしょう。

 いいとは、思う。でも、なんか、追加されたものを遊べないこの怠惰さ、無気力さが、申し訳なくて、せっかく出された料理を半端に残すみたいな、そういう、罪の意識ばかり、つのってしまって、結果的に、ゲームそのものから遠ざかる、みたいなことも、何回か、やってきた。

 

 実は、今、なんの因果か(本当に、なんの因果なのか、説明が欲しい)、異世界転移をしてしまっているのだけれど、このゲームも、辞める寸前ぐらいまでは、いってたりする。

 

 新しい要素は、新しい罪なんです。

 罪を重ねすぎると、その場所から心が遠ざかるんです。

 

 だから、まあ、シナリオを読めなかったこと、現状、けっこう、申し訳なく思ってるっていうか。まさか転移するとは思ってなかったし、ああ、ここまで私の人生にかかわるなら、もっと、一生懸命にすべての知識を頭に入れておけばよかったなーっていう後悔が、不意に、襲い来る時が、あります。

 

「──以上! 各々役割をこなし、『驟雨』の脅威に一丸となって立ち向かうこと!」

 

 しかし、いくら後悔しても、私はこの世界で、すでに生きているのでした。

 生きている世界からは、逃れられません。日本にいた時、『現実、サ終しないかな』と思ったこと、何度だって、ある。あるけど、サ終しなかった。

 

 現実で生きてることにも、うっすらとした罪の意識っていうか、『私が、こんなんで、すみません』みたいな、常に怒られて生きてるみたいな、そういう気持ちもあった。

 でも、どう償っていいか、わからなくて。小さくなって、居心地悪くして、生きていた。生きていくしか、なかったから。

 

 この世界では……

 

 この世界では。

 

 私は、『生きているという罪』に対する、償いが、できる。

 

 これまで、いろいろな人に、当たり前みたいにクエストに連れ出されて、それを断り切れなかったのは、まあ、その、『断るコストが払えない』っていうのは、それはそれで、真実なんだけど。

 誰かの依頼を受けて、それをこなすことで、生きてていい、この、人間ではなく、人という名の獣でしかない私が、コミュニケーションをさぼっても、人間様の社会文明の恩恵を享受していいと、そういう赦しをもらえる気がして、贖罪のために、ある程度の我慢をしていたっていうのも、ありますからね。

 

 さて。

 

『驟雨』は、この町から、そこそこ近くに出たみたい。

 大きなマップがあって、ピンで、居場所が示されている。

 

 私なら、徒歩で片道五時間ぐらいかな。

 

 じゃあ……

 

 贖罪に、行きますか。

 

 人間になれない獣の私が、人間社会で生きていることを、私自身に、赦すために。

 

◆

 

「えー……昨夜、『驟雨』が唐突に、消えました」

 

 うん。

 

 急いで、日帰りしたし。倒す時、メイン装備にしたし。頭はフルフェイスのままだったから、近場で偵察とかしてる人がいても、私だって、バレては、いないと思う。

 

 っていうか、装備が、男性用じゃなくて、女性用になってたんで、バレてたら、なんていうか、死ですね。女性用装備、基本、露出度が高いもので。

 

 バレてない、はずなんだけど。

 

 受付のお姉さん、なんか、私をチラチラ見てるんだよな……

 

「……詳しいことは事後調査をいたしますが、ともあれ皆様、『驟雨』への対応、お疲れ様でした」

 

 まあでも、久々に、本来の装備で、それなりに、戦ったの、よかったかも。

 うん、世界は平和だし。よかった、よかった。そういうことに、しましょうか。

 

 ……バレてませんように。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

変な理由で上位存在さんに惚れられた俺の末路(作者:滅禁)(オリジナル:現代/日常)

変な理由で上位存在さんに惚れられてしまった


総合評価:2291/評価:7.89/完結:8話/更新日時:2026年09月27日(日) 00:31 小説情報

うわぁぁ!!! エルフだ!!??!(作者:葛城)(オリジナル:ファンタジー/日常)

例によって例のごとく、神様のミスで異世界TS転生しただけでなくエルフになった人の話▼なお、異世界ではエルフはお伽噺の住人扱いされるぐらいで、本当にエルフっていたんだって超驚かれる存在である▼※セルフレイティングは、いちおう念のため


総合評価:4463/評価:8.24/連載:14話/更新日時:2026年08月19日(水) 17:01 小説情報

エロゲーオブザデッド (仮)(作者:にーと戦士)(オリジナル:現代/コメディ)

チート盛り盛り、特典増し増しで転生した主人公。▼しかしそこは期待した異世界ではなく現実世界だった。▼そんな最中、平凡な日常を過ごしていたある日異変が起きた。▼ーーいや、なんであいつフルチンなん?▼


総合評価:7422/評価:8.47/連載:13話/更新日時:2026年10月25日(日) 17:26 小説情報

儚い系うすほそエルフになったので自由を謳歌する(作者:うすほそ~(挨拶))(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

人生に疲れていた社畜は、気がつけば異世界で儚い系うすほそエルフとなっていた。▼当然チートも持っている。▼ちょっと儚すぎること以外、何一つ不満のない状況を手に入れたのだ。▼これからは自由に生きていい、そんな幸福感に満ちながらうすほそエルフ”リリア”の新たな人生は始まった。▼しかし儚すぎる見た目のせいで、生き急いでいるようにしか見えないうすほそは、周囲に多大な心…


総合評価:1584/評価:8.5/連載:5話/更新日時:2026年08月30日(日) 12:35 小説情報

メスガキやめれないんだが(作者:かみゃきち)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

病気で死亡しファンタジーっぽい異世界に転生したとある男。生まれ変わった先の体は女の子だった。▼死に際に前世で成し遂げたことがぱっと思い浮かばない。だから好きだったメスガキに自分がなってやろうとロールプレイを続けて早16歳。若干無理しつつもメスガキロールプレイを楽しむ彼女(彼)はとあることに気づいてしまう。▼(これ、いつやめたらいいんだ……??)▼そうです。キ…


総合評価:7294/評価:8.42/連載:24話/更新日時:2026年10月24日(土) 17:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>