私は目立たず生きたいだけ 日陰者転移者の異世界生活 作:稲荷竜
「ギルドはこの災害級のモンスターを『
なんか、出たらしいです。
これ、完全に、レイド戦の空気なんだけど、そういえば、この世界で、レイドとか、どうしてるんだろう。
「我々『
「俺たち『
有力と思われる人たちが顔を突き合わせて、会話をしている。
多くの人が、そっちに注目して、真剣な顔をしてる、みたいですね。
ちょっと、話を途中からしか聞いてなかったんですけど、『驟雨』っていうのは、でっかいドラゴンのこと、みたいです。
ゲームで言えば、トビトカゲになる、のかなあ。
私がやってたゲームでレイドボスっていうと、だいたい、どこにでもいる雑魚モンスターを巨大にしたやつで、『汚泥戦線』とかの話を聞いた感じだと、それは、この世界でも変わらないみたい。
ボスモンスターみたいなものも、まあ、いるんだけれど。レイド戦は、確実に、巨大化した雑魚モンスターだったな……
運営のこだわり、なんですかね。専用モンスターとか、いてもいいように思われるんですけど。シナリオで、何か、触れられてたりするのかな。シナリオ、本当に、あんまり読んでなくて……
レベルキャップを外す条件だから、シナリオクエスト自体はクリアしたんだけど、シナリオそのものは……その……スキップ、しちゃって……
私、物語に、興味がない。
なんだろう、物語、まあ、短いのは読むんだけど、『文庫三冊分のシナリオが追加!』とか言われると、『あ、じゃあいいです……』って、なってしまう。
いえ、『長すぎ! 絶対に読まねーよ! ペッ!』みたいな感じじゃなくて、『今は、余力がなくて、読めないから、後回しにしよう。いつか、読もう』って、そういう気持ちは、あるんです。でも、『いつか』が、来ない。本当に、びっくりするほど、来ない。
なんだろう、まあ、最近のゲームだから、スキップしても、シナリオの要約は出してくれるんだけど、シナリオの要約が正しかったこと、ないんで、結局、なんも知らんまま、SNSでネタバレだけ食らって、『まあ、じゃあ、いいか』ってなって、おしまい、みたいな。そういう人生を、送っている。
余力、どうやって捻出したら、いいんだろう。
私があまり、ゲームの熱心なファンを自認できないのは、メインシナリオはもちろん、NPCたちのキャラシナリオみたいなものさえ、読めない。読もうという気持ちはあるし、読まないといけないっていう、焦り? 罪の意識? もあるのに、読めない。
読むぐらいなら、デイリーとか、ウィークリーのクエストをこなして、もうボーナスも取り尽くしたローグライク系のクエストを、やってしまう。そういう、時間と体力の使い方から、抜け出せないんです。
レア掘りとかがある時は、『まあ、レア掘りだしな』っていう言い訳も、立つんだけど。なんにもない時も、何かこう、手が伸びなくて、シナリオを読めなくて、だんだん、罪の意識を感じていってしまって、情報を目にするのも申し訳なく、SNSや、公式のアカウントからも距離をとって、ひたすら、篭って一人でできることばっかりするようになっていく、っていうか。
シナリオを読まない、新しく追加された要素を遊ばない。……たぶん、別に、そういう遊び方をしても、いいんでしょう。
いいとは、思う。でも、なんか、追加されたものを遊べないこの怠惰さ、無気力さが、申し訳なくて、せっかく出された料理を半端に残すみたいな、そういう、罪の意識ばかり、つのってしまって、結果的に、ゲームそのものから遠ざかる、みたいなことも、何回か、やってきた。
実は、今、なんの因果か(本当に、なんの因果なのか、説明が欲しい)、異世界転移をしてしまっているのだけれど、このゲームも、辞める寸前ぐらいまでは、いってたりする。
新しい要素は、新しい罪なんです。
罪を重ねすぎると、その場所から心が遠ざかるんです。
だから、まあ、シナリオを読めなかったこと、現状、けっこう、申し訳なく思ってるっていうか。まさか転移するとは思ってなかったし、ああ、ここまで私の人生にかかわるなら、もっと、一生懸命にすべての知識を頭に入れておけばよかったなーっていう後悔が、不意に、襲い来る時が、あります。
「──以上! 各々役割をこなし、『驟雨』の脅威に一丸となって立ち向かうこと!」
しかし、いくら後悔しても、私はこの世界で、すでに生きているのでした。
生きている世界からは、逃れられません。日本にいた時、『現実、サ終しないかな』と思ったこと、何度だって、ある。あるけど、サ終しなかった。
現実で生きてることにも、うっすらとした罪の意識っていうか、『私が、こんなんで、すみません』みたいな、常に怒られて生きてるみたいな、そういう気持ちもあった。
でも、どう償っていいか、わからなくて。小さくなって、居心地悪くして、生きていた。生きていくしか、なかったから。
この世界では……
この世界では。
私は、『生きているという罪』に対する、償いが、できる。
これまで、いろいろな人に、当たり前みたいにクエストに連れ出されて、それを断り切れなかったのは、まあ、その、『断るコストが払えない』っていうのは、それはそれで、真実なんだけど。
誰かの依頼を受けて、それをこなすことで、生きてていい、この、人間ではなく、人という名の獣でしかない私が、コミュニケーションをさぼっても、人間様の社会文明の恩恵を享受していいと、そういう赦しをもらえる気がして、贖罪のために、ある程度の我慢をしていたっていうのも、ありますからね。
さて。
『驟雨』は、この町から、そこそこ近くに出たみたい。
大きなマップがあって、ピンで、居場所が示されている。
私なら、徒歩で片道五時間ぐらいかな。
じゃあ……
贖罪に、行きますか。
人間になれない獣の私が、人間社会で生きていることを、私自身に、赦すために。
◆
「えー……昨夜、『驟雨』が唐突に、消えました」
うん。
急いで、日帰りしたし。倒す時、メイン装備にしたし。頭はフルフェイスのままだったから、近場で偵察とかしてる人がいても、私だって、バレては、いないと思う。
っていうか、装備が、男性用じゃなくて、女性用になってたんで、バレてたら、なんていうか、死ですね。女性用装備、基本、露出度が高いもので。
バレてない、はずなんだけど。
受付のお姉さん、なんか、私をチラチラ見てるんだよな……
「……詳しいことは事後調査をいたしますが、ともあれ皆様、『驟雨』への対応、お疲れ様でした」
まあでも、久々に、本来の装備で、それなりに、戦ったの、よかったかも。
うん、世界は平和だし。よかった、よかった。そういうことに、しましょうか。
……バレてませんように。