私は目立たず生きたいだけ 日陰者転移者の異世界生活 作:稲荷竜
「俺が『
「ゴーリーさんは『
え、あの、すいません、大して読まれてない自創作の作者セルフスピンオフみたいな自己紹介やめていただいてもよろしいでしょうか……
どうしよう、どう見ても『ええ!? あの!?』っていう反応をしなきゃいけないやつなのに、なんにもわからないし、なんなら興味もわかない……
来ちゃった。面接の日。
いや、うん、まあ、『面接』とは言われてないんだけど。あくまでも『パーティへのお誘いがあります。会ってみませんか?』ってことでセッティングされてる、けども。
でも実質は面接だよね、これ。
私、バイトも『人間と話さなきゃいけないから』っていう理由で無理すぎてできなかったのに、なんで、異世界転移してこんなことになってるんだろ……
私が、悪いんです。
たぶん、普通に冒険者として生きて、人と交わってたら、普通に知ってるんだろうな、えっと、『汚泥戦線』とか、そういうやつ。
もしも私に、人並みのコミュニケーション能力があれば、この面接も、開始前にはっきり断れた、気がする。そもそも、人並みのコミュニケーションっていうものがあったら、『面接を断ろう』っていう発想も、なかったですかね。はい。ごめんなさい。
恐らくだけど、私が全部悪いんです。
『土塁』っていうパーティも、『名前を言えばわかる』ぐらいの勢いでみんなの中に浸透してる有名なものだっていうの、雰囲気で、わかります。
わかりますけど、私、この世界に来て、二週間なんですよね。
冒険者、ゲームのノリでなれたから、なんか、なじんでる感じで見られちゃったのかな?
幾度となく繰り返したもんね、ゲームで。そしてその繰り返したすべての時間、私は、ずっと、ソロでした。
掲示板とか、こっそり見て情報集めたり、騒ぎになるようなパーティの名前とか、要注意プレイヤーの名前とかは、把握してたけど。
この世界の一部地域で有名なよくわからないパーティのリーダーとか、全然、わからない。具体的な活躍を挙げられても、そこに使われてる名詞について、何もイメージがわかないんです。
異世界転移をして、私は『この世界で生きてる』つもりでいたけど、こうして、『私が知らない、みんなが知ってるっぽい人』と引き合わされると、なんだかすごく、『人生』が襲い掛かって来る感じがする。
人間って、『人』の『
私は、生物学上の『人』では、あったと、思う。でも、人間じゃ、なかった。人の間で生きることを避けてたし、それが、心地よかった。
でも今、面接は始まってしまい、私が人間かどうか、人という名の獣ではなく、きちんと社会に帰属できるかどうかを、問われている感じが、して、こう、なんていうか……とても、つらいです。
あと、これは本当にごめんなんだけど、『土塁』の人、すごい、体育会系の感じがして、苦手、っていうのかな……
視線とか、筋肉ふくれした体つきとか、あと、眉毛。そう、眉毛が、太くて、ぎゅーんって、上がってて、ものすごい、苦手。見てるだけで、謝りそうになる。
あ、視線、向いてる理由、わかった。
私が自己紹介するターンなんですね、これ。そうですよね。向こうから、自己紹介があったんだから、次は、私ですよね。
こういうの、自然にできないところで、私はまた、罪の意識を感じるんです。
自己紹介に、自己紹介で返すっていうの、考えたら、私だって、当たり前だと、わかるんです。
わかるんですよ、頭では。なのに、実際にその場に立たされると、まあ、座ってますけど、立たされると、頭が真っ白で、何もできないんです。意識が、画面の前のプレイヤーみたいな感じになってしまって、オートで状況が進まないかな、とか、思ってしまうんです。
でも、私は、この世界で、生きている。
だから、状況は、私がアクションを起こさないと、進まない。
人生を、強いられています。すごく、苦手かも。人生。
「えっと…………ジュリです」
「ジュリさんはこの街で活動をして十七日ではありますが、真面目で堅実な働きぶりと、何より毎日確実に一定量の仕事をするところなど、かなり期待できる冒険者なんですよ」
受付のお姉さん、ありがとう。でも、なんだろう、私の評価を、上げるような言動、避けてもらっていいでしょうか。
面接、したくなかったんです。私は、あなたの輝かしい善意に逆らえず、だらだら、こんな場所に来てしまっただけの、迷子にしか過ぎないんですよ。
私は、帰りたいんです。『
私にはこの面接を成功させる意思が欠片ほどもないんですよ。
でも、私は、はっきりとここで『NO』を突きつけたくは、ないんです。
印象に残りたくありません。誰かを拒絶した、という十字架を背負いたくありません。
理想は、相手側から、『ああ、面接してみたけど、ダメだな』って思ってもらうこと。
はっきり、お断りされなくってもいいから、なんかこう、『じゃあ、結果は今度伝えるね』って言われて、そのまま、自然と会話もなく、縁も離れていく。そういうのがね、理想なんです。
「毎日同じだけ依頼をこなし、堅実に働く──そういう者こそ、我ら『土塁』は求めている」
毎日普通に出勤するだけで、なんでそんなに高評価なんですか。
しまったな。これは本当に、予想の外だった。そうか、この世界の人は、毎日真面目に一定の労働をしないんだ……
ゲームと、あと、日本のノリで、普通に毎日稼いで、貯金なんかもしてたけど、それはどうにも、この世界だと、『特筆すべき真面目さ』っていう、美点になってしまうんですね。
違うんですよ。私は、無課金ゲーマーなんです。デイリーをちゃんとこなして、課金勢がお金で買うところの『プレイ時間に伴う資産』を、普通に時間をかけて増やしている、それだけの存在なんです。
真面目と言われると、違和感だらけなんです。
ただ、惰性でやっていただけなので。惰性。人生全部が、惰性だったと、正直に告白できたら、何か、感じてもらえるでしょうか。
私は不真面目なんです。ただ、目標を自分で定めたり、毎日のルーティンを変えたりっていう、行動力がないだけなんです。
そもそも、ここ、私にとっての異世界なんで。ゲームのノリ以外で、どう生きていいかわからないっていうのも、かなり、あります。
まあ、異世界転移者なんていう、目立つ特徴は、絶対に人には言いませんけど……
どうしたら、相手にあきらめてもらうように誘導できるかな。
現在、何か、私への評価と好感度が、やたら高いのを感じる。
『ひぃ……』って感じ。やめて、そんな視線を向けられても、私はひるむだけなんです。光系っていうか、炎系の圧が強すぎて、今にも、消えそう。っていうか、消えられたら、どれほどよかったでしょうって、そういう感じなので。
「『土塁』はいわゆるノルマの存在しないパーティだが、週に最低四日はギルドから依頼を受け、こなす者を選んで集めている」
ノルマとか、一週間が七日とか、助かるんですけど、何かこう、ちょっと、元の世界のこと引きずりすぎてる単語・制度のように感じてしまうんですよね。
そのたび、私の、『この世界で、私はもう、生きているんだ』っていう実感が、ちょっと薄れていくっていうか。どこか、ゲームの延長で、何かの間違いで異世界転移したのと同じで、何かの間違いでまた日本に戻るんじゃないかって、そういう気持ちに、なってしまう。
言葉も、たぶん日本語じゃないんだろうなって思う瞬間が、最近、増えてる。
口の動きがね、日本語じゃない。人の顔とか、全然、見ないで、うつむいてばっかりだったから、気付けなかったけど。私、たぶん日本語話してない。相手は、確実に、日本語話してない。そう思われる瞬間が、人と会話する場に引きずり出されるようになって、増えています。
そう気づいてしまうと、なんか、少し、怖いっていうか……
ううん、うまく、言語化できないな。
私は、怖いことから目を逸らして生きてきたのに。将来とか、そういう……
成績は、まあまあだったけど、勉強だけそこそこできてれば、将来どうにかなるとか、そういうことは、全然、思ってなかったし。
たぶん、バイトとかで、接客とかして、コミュニケーション能力を育てないと『詰む』場面が、未来、どこかで訪れるのは、私だって、わかってた。でも、避けてたし、考えないようにしてきた。
なのに異世界転移して、『詰む』瞬間が急に来てしまった。
後悔、しています。自分の怠惰な生き方すべてを。
育てておけばよかった能力が、人生をやってみて、次々に明らかになるんです。才能というやつのなさを、日々、思い知らされるんです。普通の人が、普通にできてることが、できない。その事実が突きつけられるたび、胸が、苦しくなります。
もしかしたら、私が『普通の人が、普通にできることだ』と思ってることも、みんなは、吐き気を覚えるほどの努力のすえに、できるようになっているだけ、なんでしょうか。
私が特別怠惰なだけで、みんなは、私よりずっとずっと努力ができて、苦境に身を置いて自分を育てていて、そのうえで、『普通』に生きられている、だけなんでしょうか。
わかりません。考えているとね、気持ちが、暗くなっていくばかりなんです。
ああ、やだな、やだな……
面接というイベントは、私が目を逸らしていた『普通』が、まとめて襲い掛かって来る……そういう、ものなんだ。本当に。
「どうだろう、まず『土塁』のメンバーと、依頼を受けてはみないか?」
ああ、もう、本当に、だめだ……
私がずっと黙ったまま、うじうじ、頭の中で、人生の反省会とかしてるから、相手ばっかり、話す。申し訳なさすぎる……
しゃべらせてしまっている、というのが、心にのしかかって、ますます、しゃべらせてしまう。
何か、一言、言わないと。なんだっけ。私、なんで、ここにいるの。私は、何をしようとしてたの。私の目的は、なんなの。
ああ、そうだ、断ろう。断って、孤独という名の故郷に帰る。きらびやかな、『仲間のいる人生』というやつは、私の身を焦がして、私を病ませるから、そこに行かず、ひっそりと、暗い穴倉に帰る。これが、私の目標だったんだ。
「……えっと、あの、私は……私は、パーティに、入りません」
はっきり、言えた。なんだ、私、やるじゃん。
激闘だった。この一言は、普通の人からしたら、なんでもない一言なんだろう。でも、私にとっては、この日に、『はっきり言えた』っていう事実があるだけで、人生が、ちょっと良くなったように思える。そういう、一言だ。
「いや、いきなり『入れ』とは言わない。どうにも外から来たようだからな。まずは、なじむための時間が必要だろう」
それは『入れ』って言ってるんですよ。
なんだろう。どうしたんだろう。建前、とかそういう問題じゃないよね。私、はっきり、言ったよね。大冒険の末に魔王を倒した、そのぐらいの達成感を覚えるぐらい、はっきり、言ったよね。
どうして『いや、遠慮しなくていいんだよ』みたいな感じで、話を進めるんでしょうか。遠慮じゃねえんだよ。通じろ、言葉。
それとも、自動翻訳くさい謎の力が、私の言葉を、私の認識とは違う感じで、相手にお届けしてしまっているんでしょうか。
神様、そうじゃなくてもいいけど、私をこの世界に転移させた存在。
もしもいるなら出てきて、一から説明の上、謝罪を求めます。
日本に戻るのは、まあ、別に、しなくていいんだけどさ。日本にいるよりは、人生が詰んでない感もあるから。でも、説明ぐらいは、してほしい。私は、戸惑っているんです、これでも。
「いえ、その、私は…………一人が、居心地がいいんです」
はっきり、はっきり、言えた……
もう、疲れた……指先も、動かない……
今すぐ部屋に戻って、寝たい。倒れるように、寝たい。二日は目覚めない自信がある。
たった一言搾り出すだけで、この異常な疲労感。これだけ見ても、私は、人とコミュニケーションをとりながら、社会に属して生きていくのが向いてないって、断言できる。
私は、人間になるのは無理そうです。
社会の間に存在しない、人という名の獣として、これからも生きていきます。
「ジュリさん、どうか、そんなこと、おっしゃらないでください」
なんですか、受付さん。この獣めに、なんの御用でしょうか。
私は、すべての力を振り絞って、人間の言葉みたいな鳴き声を発したばっかりなんです。渾身の一言を、二回もですよ。
もう、余力がないんです。人間さんの基準で判断して、この獣を白日の下に引きずり出そうとするのを、やめてはいただけないでしょうか。もう、その気持ちを訴える余力すら、ないんですけど。
「ジュリさんは一人で活動して、充分な実績を挙げていらっしゃいます。けれど……仲間がいれば、もっと上に行けるんです」
よく言われますよね。ステップアップできる。もっと上のステージへ行ける。
でもね、そういうの、興味がない人だって、いるんですよ。今いる場所が底辺でも、まあ、生きていければ、それでいいや。そういう気持ちで生きてる、私みたいな人も、いるんです。
上へ行くことって、全人類が求めてるわけじゃ、ありませんからね。
下のままでいい。それが気楽でいい。この暗い沼地で這うような人生がいい。そういう人も、いますよ。たとえば、私とか。
「そうだ。我ら『土塁』も、より上へと行きたいと考えている……! 今は、Aランクのパーティだが、ゆくゆくは、Sランクに認定されるつもりだ。あなたは、そのためにも、我々に必要な人材なんだ。どうか、体験入隊だけでも、してはくれないだろうか」
体験入隊、略して
やです……
でも、もう、私には、『やです』っていう三文字を言う余力さえ、ない。
『断る』ってね、コストがかかるんです。みなさん、会話に使えるコストが、まあ、百とか、二百とかだとするじゃないですか。私はね、五とかなんです。桁違いなんですよ。
そしてね、『断る』にかけるコストが、まあ、みなさんは、百の中の、五。あるいは、一とか、二とか、かもしれませんね。
でも、私は、二十とか、三十なんです。
数日分の気力を前借りして振り絞って、二回も、二回もですよ。はっきりと、お断りの文句を言いました。
で、そこで限界なんです。もう、断る余力が、ありません。コミュニケーションにあてられるコストが、残ってない。残ってないどころか、数日分前借して、借金みたいなものさえ、あります。
「……わかりました……」
うう、わかりました、してしまった……
でも断れない……だってもう明らかに『入れよう』としてるもん……
まあ、でも、逆に、逆にね。よかったかも。
はっきり断れなくても、断ることさえはっきりできない私のクソ雑魚コミュ力を、体験入隊の中で知ってもらえれば、私が人間社会になじめない、人という名の獣であることが、わかってもらえると思う。
そうしたら、相手から、『すまないが……』って、追放してもらえる、はず。
完璧な計画だ。
うん、まあ、えっと。完璧な計画だと思うことにしよう。
今は……
……もう、疲れて、うまく、ものを考えられない。
とにかく、面接が終わってくれて、よかった。それだけはね、うん、思う。