透き通る世界の魔法使い マリヌス・ダンブルドア 作:ハルマサ
不死鳥の一族 ギヴォトスヘ
「
その言葉と共に、古い家の中から何かの呻き声や、のた打ち回る音が聞こえる。
「話す気になったか?マリヌス。」
問いかける声は不気味なほどに優しく、穏やか……だが、その言葉を吐く男の姿は、この世のものとは思えない。肌は白く、目の端には赤みが混ざり、顔は僅かに人間の面影を残しているが、まるで蛇と人間が混ざり合ったような姿をしていた。この男の名は、ヴォルデモート卿。史上最も邪悪な闇の魔法使いとして恐れられており、今なおその勢力を拡大し続けている。
ヴォルデモートが下へ視線を移すと、ボロ布のようなものが転がっている。それは「ゼィ…ゼィ……」と弱々しい呼吸を繰り返し、顔を上げた。髭とシワに覆われたその顔は、度重なる
「お前のような……力に溺れた…愚か者に……話すことなど何もない……」
男の名前は、マリヌス・ペルシヴァル・カエリウス・ヒエラクス・ダンブルドア。史上最も偉大な魔法使いと謳われるアルバス・ダンブルドアと同じ、ダンブルドア一族の血を引く魔法使いだ。
マリヌスはヴォルデモートに対抗すべく、アルバスが創った不死鳥の騎士団のメンバーでもある。現在、不死鳥の騎士団は闇の帝王を打ち破る力を持つという予言の赤ん坊、ハリー・ポッターとその両親を守るため総力を挙げポッター夫妻を隠していた。そこでヴォルデモートは不死鳥の騎士団のメンバーを虱潰しに拷問し、行方を追っていたのだ。
「慈悲深い、偉大な俺様が情けをかけてやろうというのに……お前という奴はなんと愚かな……」
ヴォルデモートは、さも悲しげな表情を浮かべるが、マリヌスは毅然とした態度で言い返す。
「偉大?慈悲深い?寝言なら寝て言え。お前なんぞ、アルバスの足元にも及ばん。現にお前はアルバスのいるホグワーツに手を出せていない。そうだろう!」
その言葉を聞いた瞬間、ヴォルデモートの顔に怒りの色が浮かび、床に転がったマリヌスの背中を踏みつけた。
「お前はどこまでも愚かだな、マリヌス。俺様の慈悲を無下にするとは……だがその勇気は大したものだ……敬意を払おう。俺様が直々に始末してやる。」
満面の笑みを浮かべたヴォルデモートは杖を振り、マリヌスへ向ける。そして最も邪悪な、許されざる呪文を放った。
「
家中に緑の閃光が放たれ、マリヌスの意識はそこで途絶えた………
それからどれほどの時間が流れたのだろう。僅かだった気もするが、とても長い年月が経ったような気もする。マリヌスの意識はゆっくりと浮上し、その目を開けた。マリヌスは見たこともない場所に座っていた。見た目は以前、マグルの世界で見た地下鉄によく似ている。だが、窓や座席は真新しく、汚れひとつない。ふと正面を向くと、一人の少女が座っていた。白を基調とした服に身を包み、顔の左側に髪を編み込んでいる。
「………私のミスでした。」
少女が語りかけてくる。
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況……結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたが正しかったことを悟るだなんて……。」
マリヌスは彼女が何の話をしているのか、見当もつかない。しかし彼女が、酷く後悔しているということだけは理解できた。
「……今更図々しいですが、お願いします……マリヌス先生。きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。何も思い出せなくても、恐らくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから………ですから……大事なのは経験ではなく、選択。」
「あなたにしかできない選択の数々………大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心延えも。…………ですから先生。私が信じられるあなたなら…この捻れて歪んだ先の終着点とはまた別の結果を……」
だから先生、どうか………
少女の言葉と共に、再びマリヌスの意識は沈んでいった……
「先生……先生、起きてください……マリヌス先生!起きてください!」
どこからか自分を呼ぶ声が聞こえる。
目を開けると、今度は眼鏡をかけた厳格そうな少女が見下ろしていた。ここは何処なのか、君は誰なのか。気になることは山ほどあったが、何より目を引いたのは少女の頭上に浮かぶ、独特な紋様だ。
魔法……?いや、違うな…
心の中で呟くと、マリヌスは腰掛けていた椅子から腰を上げ、辺りを見回す。少女の目には寝ぼけて混乱しているように映ったのだろう。少女はやれやれ…という表情を浮かべ、話しを始めた。
「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは。もう一度、改めて今の状況をお伝えします。」
少女の説明で彼女の名前が七神リンであり、ここの名前は、学園都市『キヴォトス』であること、『キヴォトス』は数千の学園が集まってできた都市であり、リンはそれを管理する連邦生徒会という組織の幹部であること、自分はその組織の長である連邦生徒会長に呼び出されたらしいことが理解できた。
「推測形でお話ししたのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからで……」
リンの言葉を聞きながら、マリヌスは戸惑っていた。
マリヌスは改めて、辺りを見回す。床の材質、窓から見える構造物や空に浮かぶ不思議な紋様……全て、100年以上生きてきたマリヌスも見たことがない技術が使われている。一旦、思考を整理しようと視線を手元に向け………驚愕した……!痩せ衰え、骨と皮ばかりだった筈の手に肉が付き、生気が満ちている。
「なんと…!」
自身の顔に手を伸ばし、感覚を確かめる。老いて乾燥していた肌は弾力を持ち、シワや弛みも感じられない。窓のほうへ目を向け、マリヌスは愕然とした。窓ガラスには、30歳ほどだろうか?紫の目に白髪の癖毛、足まで隠れる長い漆黒のローブ………ありし日の姿がそこにあった。
「先生?聞いていますか?」
その言葉でようやく我に返った。
「あぁ……すまない。なんだったかな?」
「………すいません。突然のことで混乱されてますよね。ひとまず私についてきてください。」
リンの言葉に従い、二人はエレベーターに乗り込み下の階へと向かう。その道中、マリヌスはリンに尋ねる。
「ひとつ聞きたいんだが…ホグワーツという言葉を聞いたことはあるかい?それかイルヴァーモーニーやボーバトンは?」
リンは考え込む様子を見せたが、すぐに首を振った。
「すいません。どれも聞いたことは…調べましょうか?」
マリヌスは礼を言って提案を断ると、手に入れた情報を元に自らが置かれた状況を整理する。
リンの態度からして、ここは魔法界ではない…それにマグルの世界にしては発展しすぎている……
自身が見たもの、聞いたこと……それらを総合し、ひとつの結論へ辿り着く。
「どうやら…ここは私のいた場所とは別の世界のようだな……信じがたいが…それ以外に説明がつかん…
なんとか納得できる結論に辿り着き、自身の今後について考えを巡らせる。
「この世界で私は暮らせるのか?会話が成立しているから言語は問題ない。だが通貨は?家や食事はどうやって調達する?魔法は使えるのか?」
ひとしきり考え、マリヌスはある事に気づく。
「そうだ……!私の杖はどこだ⁉︎」
慌てて懐に手を入れ、中をまさぐる。
「先生?何か落とし物ですか?杖…とおっしゃっていましたが……」
「いや、大丈夫だ。だが…私の大事な物でね………あった!」
目当てのものを探し当て、ゆっくりと懐から
「それは……」
懐から現れたそれにリンも思わず息を呑む。
マリヌスの手には、27センチ程の杖が握られている。黒檀で作られたそれは艶やかな漆黒、持ち手の両端には金があしらわれており、気品と威厳を兼ね備えたマリヌスの人柄を表しているような美しい杖だった。
「
マリヌスが唱えると、杖の先端に光が灯る。続いて「
「よしよし……問題なく使えるな。」
満足そうに呟く。ふとリンを見ると、ポカンとした表情のまま固まっていた。リンはハッ…!と我に返ると矢継ぎ早に質問を投げかける。
「先生!今のは一体なんですか!?何をしたんですか?!仕掛けは⁉︎」
その反応に愉快そうな顔をしながらマリヌスは答える。
「今のはね…魔法だよ。種も仕掛けもない。」
魔法という言葉にリンは納得できない様子だったが、魔法を使い彼女の服を赤や緑に変え、再び白に戻してみせると、どうにか納得してくれたようだ。
「にわかには信じられませんが……先生のような魔法使いの方は他にもいらっしゃるのですか?」
「あぁ、私がいた場所は魔法界といって、魔法使いの横丁や学校があってね…ドラゴンやユニコーンもいて…………」
それからマリヌスは様々な話をリンに聞かせた。紀元前から続く杖作りの一族の話、
「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」
扉が開くと同時に、一際大きな声が聞こえ、リンは面倒なことになった。という顔で溜息をついた。
暗紫色の長髪をツーサイドアップにした少女がリンに詰め寄る。
「うん?隣の大人の方は?」
少女はマリヌスに気づくと怪訝そうな表情を浮かべる。
「首席行政官。お待ちしておりました。」
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています。」
ツーサイドアップの少女に続いて、マリヌスと変わらないほどの背丈に、巨大な黒翼を生やした少女とブロンドの髪に眼鏡をかけた少女、白髪から翼を生やした少女が進み出る。しかしマリヌスの関心は彼女たちの手に握られた物に向けられていた。
あれは銃か……?マグルが戦争の際に使う武器だと聞いていたが……こんな年端のいかない少女たちが……?
「あぁ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね。」
声を抑えながらも、ハッキリとリンは愚痴を吐いた。
「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています。今、ギウォトスで起きている混乱の責任を問うため…でしょう?」
その言葉に少女たちが詰め寄り、停学中の生徒が脱走した、戦車やヘリコプターなどの出所が分からない武器が溢れかえって大変だ、と不平や不満を口にする。リンの眉間に青筋が立ち、ピクピクと痙攣し始めたその時、後ろからバァァン!と爆発音が響いた。
「すまないね。だが、不満を口にする前にまずリンの話を聞いてくれるかな?」
マリヌスは杖をしまうと少女たちを説き伏せ、驚く彼女たちを横目にリンにウインクをしてみせた。
「連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました。結論から言うと[サンクトゥムタワー]の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが……先ほどまで、その方法は見つかっていませんでした。」
「それでは、今は方法ががあるということですか、首席行政官?」
「はい、この先生こそがフィクサーになってくれるはずです。」
場の視線がマリヌスに集まる。
「ちょっと待って。そういえばこの先生はいったいどなた?どうしてここにいるの?」
「ギヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね。」
「はい、こちらのマリヌス先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です。」
少女たちの顔が驚きに染まる中、マリヌスは名乗り始める。
「初めまして、先生として赴任したマリヌス・ペルシヴァル・カエリウス・ヒエラクス・ダンブルドアだ。長いからね……マリヌスと呼んでくれ。」
「こ、こんにちは、マリヌス先生。私はミレニアムサイエンススクールの……い、いや、挨拶なんて今はどうでもよくて……!」
「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと……」
「誰がうるさいって⁉︎わ、私は早瀬ユウカ!覚えておいてください、先生!」
「ユウカだね?これからよろしく頼むよ。」
その後の説明で、黒翼を生やした少女がハスミ、眼鏡をかけているのがチナツ、頭から翼を生やした少女がスズミという名前であることがわかった。
「先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。」
ひと通り自己紹介を終えると、リンが説明を続ける。
「連邦捜査部[シャーレ]。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、ギヴォトスに存在する全ての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制限無しに戦闘活動も可能です。」
「それはまた……随分な権力だね……」
「えぇ…なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが………シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に「とある物」を持ち込んでいます。」
そこまで言うと、リンは手元の板(タブレット?というらしい……)を操作し、誰かに連絡を始める。
「モモカ、シャーレに直行するためのヘリが必要なんだけど……」
すると、目の前に桃色の髪にツノを生やした小柄な少女が現れ、あまりの驚きにマリヌスは腰を抜かしかけた。
「シャーレの部室?……ああ、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだけど?」
「大騒ぎ……?」
「矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ。」
「連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?それでシャーレの建物を占領しようとしてるらしくて……」
リンの眉間に青筋が立ち始めるが、モモカは気づかず話を続ける。
「まあでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な……あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリーが来たから、また連絡するね!」
そう言って一方的に通信を切られたリンは、あまりの怒りにプルプルと震えていた。
「リン?大丈夫かい?」
「……だ、大丈夫です。………少々問題が発生しましたが、大したことではありません。」
するとリンは、恐ろしいほどに穏やかな顔で、集まっていたユウカたちを見つめる。そしてゆっくりと口を開いた。
「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです。」
「…………へ?」
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう。」
「ちょ、ちょっと待って⁉︎ど、どこに行くのよ⁉︎」
有無を言わせぬ勢いで、ツカツカと歩き始めたリンを慌てて追いかける一同。そのまま30kmの距離を徒歩で移動し、シャーレの部室付近へと到着したのだった。
「な、なに、これ⁉︎」
ユウカの声と共に、爆発音が響き渡る。しかしマリヌスの胸中は興奮と好奇心に満ちていた。
ほほぅ……!銃とはああやって使うのか!……火薬の匂いがついてしまうのが難点だが……使い勝手のよさそうな道具だな……!
だが次の瞬間、ユウカの頭に銃弾が直撃し、後ろへ吹き飛ばされた………!
「ッ……!ユウカ!」
慌ててマリヌスが駆け寄るが、ユウカは額を押さえゆっくりと起き上がった。よく見ると、弾が当たった額には赤い痕が残っている。
「いったぁぁ……!あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!」
「伏せてください、ユウカ。それにホローポイント弾は違法指定されてはいません。」
「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!」
当たり前のように銃弾を撃ち返す姿に、唖然とするマリヌス。その姿を見たリンが理由を事情を説明してくれた。なんでも、リンやユウカのようなキヴォトスの住人は頭上に浮かぶ紋様…[ヘイロー]の力により、頑丈にできているため通常の兵器で死ぬことは無いらしい。
「ふむ…なるほど……確認だが、多少の攻撃なら大丈夫なんだね?」
「えぇ…ミサイルなどの大型兵器や至近距離からの銃撃なら話は別ですが、多少の爆破や銃撃なら気を失う程度です。」
回答を受けたマリヌスは懐から杖を取り出し、ゆっくりと瓦礫の影から姿を現す。そして目の前に立ちはだかる不良たちへ近づいていく。
「おい!一人近づいて来てるぞ!撃て!」
「先生⁉︎」
掛け声と同時に敵の銃口が一斉にマリヌスへ向けられ、それを見たユウカたちがマリヌスを守ろうと、瓦礫から飛び出してくる。やがて向けられた銃口が一斉に火を吹いた……
「
しかし、放たれた銃弾がマリヌスに命中することは無く、当たる直前に何かに防がれ地面に落ちた。目を凝らすとマリヌスの前に、透明な壁のようなものが見える。続けてマリヌスは杖を突き出し、再び呪文を唱えた!
「
今度は杖の先から赤い閃光が飛び出し、不良生徒に直撃した。
「ぐふっ…⁉︎」
攻撃を受けた不良は数メートル後ろへ吹き飛ばされ、気を失った。
「は……?」
「え……?」
その光景に全員が呆気に取られる中、マリヌスは渦のように回転し、その姿を消した。そして……
「やぁ。」
「えっ⁈うぐっ…⁉︎」
突然、不良の背後に現れ、再び失神呪文を喰らわせる。その様子を見た不良たちがパニックになる中、銃声が響く。
「先生!今何をしたんですか⁉︎急に消えたと思ったらいきなり現れたり、というかさっきの赤い光は何なんですか⁉︎」
追いついたユウカたちがマリヌスを庇うように囲い込み、質問を投げかける。
「先ほどの銃弾を防いだ技といい……先生、あなたは一体…何者なのですか?」
ハスミの言葉にマリヌスは、いたずらっ子のような無邪気な笑みを浮かべ、口を開く。
「さっき言ったろう?私の名前はマリヌス・ダンブルドア。ただの…魔法使いさ。」
いかがでしたでしょうか?正直、かなり無理やり気味の設定なので、お気に召さない方を多いと思いますが、ゆっくり不定期で投稿していこうと思います。