透き通る世界の魔法使い マリヌス・ダンブルドア 作:ハルマサ
「ま、魔法って…冗談でしょう⁉︎」
マリヌスの言葉に、ユウカたちは衝撃を受ける。だが飄々とした態度と笑みで言葉を返す。
「なら、私がどうやって攻撃したのか説明できるかな?」
「それは……」
ユウカたちも必死に頭を回転させ、納得できる答えを探すが、何も思い浮かばず頭を抱える。
「…ん?チナツ!」
「えっ⁉︎キャッ!」
突然、マリヌスはチナツの腕を引き、後ろに庇う。そして同時に杖を振り、チナツを狙っていた不良に向け魔法を放つ。
「
「ぎゃん⁉︎」
杖から放たれたオレンジ色の閃光は、直撃した不良を空中で一回転させ、数メートル後ろに叩きつける。
「大丈夫かい?」
「は、はい……ありがとうございます…」
「今のって……」
「えぇ…にわかには信じられませんが……」
チナツの安否を確認するマリヌス。その後ろではユウカとスズミが敵を蹴散らしながら、何かを確かめ合っている。
「ッ……皆さん、前方に注意してください!巡航戦車です!」
リンの報告と共に、不良たちの後ろから巨大な戦車が姿を現した……!
「下がってください、先生!今までより遥かに威力が高い攻撃が来ます!」
ハスミとスズミがマリヌスを守ろうと前に出るが、マリヌスは新しい玩具を見つけた子供のように目を輝かせていた。
あれが戦車か………!マグルが記録した写真で見たことはあったが……確か、あの砲身?から弾が出るんだったか?
その時、マリヌス目掛けて、弾が発射される。
「先生!」
ドカアァァァン………!
「………ッ…先生!大丈夫ですか!?」
凄まじい爆風と煙が広がる。しかし戦車の攻撃がマリヌスに傷を負わせることはなかった。目を開けると、青い球体状のバリアを纏ったユウカが立っている。どうやらユウカが攻撃を防いでくれたらしい。
「……すまない…戦車を見たことがなくてね…思わず見惚れてしまった……本当に申し訳ない……」
さすがに生徒を巻き込んでしまったことに罪悪感を感じたらしく、マリヌスは深々と頭を下げる。
「せ、先生⁉︎私は大丈夫ですから!頭を上げてください!」
「先生、私たちはこの程度なら問題ありません。お気になさらないでください。」
慌ててユウカとハスミが応じ、マリヌスは顔を上げた。
「わかった…ありがとう。すまないがあれを止めるには君たちの力が必要だ。手を貸してくれるかい?」
ユウカたちが頷くのを確認すると、マリヌスは指示を出す。
「ユウカは前に出て敵の注意を引いてくれ。スズミはできるだけ敵の数を減らして欲しい。チナツ、君は回復ができると言っていたね?後ろに下がって支援してくれ。それとハスミ。」
「は、はい先生。」
いきなり指名され、驚くハスミにマリヌスは声を掛ける。
「こちらの武器の中で君の銃が一番威力が高い。私が合図したらあの戦車に一撃喰らわせて欲しい。できるかい?」
「…はい!お任せください!」
マリヌスに頼られたのが嬉しかったのか、ハスミの弾む声に合わせ背中の黒翼がパタパタと動く。
「よし……!では…行動開始!」
掛け声と共に、各々が攻撃を開始する。
ユウカがバリアを展開し、敵の攻撃を引き付け、スズミがその隙を狙い閃光手榴弾を投擲する。そして、その攻撃の隙間を縫うようにマリヌスは移動し、敵を撹乱していく。
「うわっ⁉︎来たぞ!撃て!撃てぇ!」
焦って銃を乱射する不良たち。しかしマリヌスは再び渦のように回転し、姿を消した。
「
すると、近くにあった瓦礫の山に渦が出現し、マリヌスが姿を現す。同時に近くにいた不良2人に失神呪文を放ち、気絶させた。
「なんなんだ、こいつ⁉︎…って、うわぁ⁉︎」
マリヌスに気を取られた不良たち目掛け、スズミが閃光手榴弾を放ち、一網打尽にする。
「やるねぇ!スズミ!君が持っているそれは投げると光って目眩しになるのかい?」
「はい!
マリヌスが杖を振り、攻撃を防ぎながらスズミに問う。スズミも銃と手榴弾で応戦しながら返す。
「…!先生!また砲撃が来ます!」
その言葉に、マリヌスは戦車へ目を向けると戦車が動き、砲門をマリヌスに向けようとしている。だが同じ手を二度も喰らうマリヌスではない……!
「スズミ!手を!」
「えっ⁉︎は、はい!」
マリヌスが差し出した手に、スズミも手を伸ばす。そして、スズミがマリヌスの手をしっかり握り込むと……!
「うわぁぁぁぁあああ⁉︎」
マリヌスと共に、スズミの体も渦のように捻れ姿を消した!それとほぼ同時に、後ろに控えていたハスミとチナツの目の前に2人が姿を現す。
「今だ!撃て、ハスミ!」
「は、はい!」
目標を失い、戸惑う戦車にハスミは洗練された一撃を放つ。放たれた弾丸は見事に装甲を貫き、戦車は爆風に包まれた。
「ふむ…今ので全部か。みんな無事……ではないね…大丈夫かい?スズミ…」
「スズミさん!?大丈夫ですか?!」
地面に片手を突き、口を押さえるスズミに慌ててチナツが駆け寄る。
「だ…大丈夫です……少し、酔ってしまったようで……」
背中を摩るチナツに、なんとか応答するスズミ。
「すまないね、スズミ……姿くらましが酔いやすいのを忘れていたよ……」
「姿くらまし……?先ほど、先生が渦のように消えたあれですか?」
ハスミの質問にマリヌスが頷く。
「あぁ、さっき使った、姿を消すのが姿くらまし。もう一度現れるのが姿あらわし。便利な魔法なんだが…かなりの回転や圧力が掛かるからね、初心者は酔いやすいんだ。」
「さっきの攻撃といい、瞬間移動といい……本当に魔法が使えるなんて……」
ユウカが呆れたような顔で呟く。その時、リンから通信が入る。
「先生、今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました。名前は狐坂ワカモ。百鬼夜行連合学院て停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気を付けてください。」
矯正局……アズカバンのような場所らしいな……なら恐らく、今倒した彼女たちよりも……
「シャーレ部室の奪還完了。私も、もうすぐ到着予定です。建物の地下でお会いしましょう。」
「あぁ、待っているよ。」
そう言って、マリヌスはシャーレへと足を踏み入れた。
「うーん……これが一体何なのか、まったく分かりませんね。これでは壊そうにも……」
狐面の少女、狐坂ワカモは手に持ったタブレットをひっくり返したりしながら首を捻る。
「君がワカモかな?」
「ッ⁉︎」
突如、背後から響く声にワカモは飛び退き、距離を取る。
「驚かせてしまったね、私はマリヌス・ダンブルドア。悪いが、君の持っているそれは私にとって大事な物なんだ。渡してもらうよ。」
そう言うと、マリヌスは杖を向け、呪文を唱える。
「
唱えると同時に、タブレットがワカモの手から飛び出し、マリヌスの手に収まった。
「なっ⁉︎」
信じられないという顔で、自身の手とマリヌスを交互に見やるワカモ。そんなワカモを見てマリヌスは笑みを浮かべる。
「もうすぐここに連邦生徒会が来る。早く行きなさい。」
マリヌスの言葉にワカモは怪訝そうに首を傾げる。
「君は確かに……少々、派手にやりすぎる節があるようだが、いたずらに力を振り回す阿呆でも、周りが言うような極悪人…というわけではなさそうだからね。今度は紅茶でも飲みながら話そう。」
マリヌスの
「あ…ああああああ……し、失礼いたしましたー!!」
………天井裏に姿を消したのだった。
「お待たせしました。……?何かありましたか?」
「いや、なんでもない。ところで……探し物はこれかい?」
現れたリンにタブレットを見せるマリヌス。それを見たリンも深く頷く。
「はい、それが連邦生徒会長が先生に残した物。[シッテムの箱]です。」
リンの言葉を聞きながら、マリヌスは強い既視感を感じていた。見たことも触ったことも、ましてや名前を聞いたこともない…その筈なのにどこか懐かしい……
「普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みの全てが不明。」
「連邦生徒会長は、この[シッテムの箱]は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました。私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」
そう言うと、リンは微かに不安げな顔でマリヌスを見つめる。いくら自身の信頼する連邦生徒会長が選んだとはいえ、出会ったばかりの大人を信用するのは難しかろう……そう考えたマリヌスは優しく笑いかける。
「大丈夫だ、リン。私を……魔法を信じなさい。目を瞑って、手を握ってごらん。……信じれば必ず応えてくれる。」
こくり、と頷くと、リンは目を瞑り手を握る。
するとリンの頭上で、小さな青い火花が一つ、二つと弾けた。
…⁉︎……今のは.…まさか…!
「…先生?」
硬直するマリヌスを不審に思ったのだろう。目を開けたリンが不思議そうな顔で見上げていた。
「いや…なんでもない。」
「そうですか?では、私はここまでです。ここから先は、全て先生にかかっています。」
邪魔にならないよう離れていますね。とリンは部屋の隅に移動する。
マリヌスが画面に触れると、驚くほど簡単に電源が入り、『システム接続パスワードをご入力ください。』という言葉が浮かび上がる。マリヌスは数秒ほど考え込むと、ある言葉を打ち込んだ。
誰の言葉なのか、どこで聞いたのか……何ひとつ思い出せない。それなのに何故か、この言葉が正解だという確信があった。
打ち込むと、画面から眩い光が放たれ、マリヌスを包み込んだ………………
しばらくして、目を開けるとマリヌスは先ほどとは、まるで違う場所に立っていた。そこは壁が砕け、青空が広がる教室のようで、少し離れたところに机がうず高く積まれている。教室の周りは海らしく、足元は僅かに浸水している。
前を見ると、一人の少女が机にうつ伏せになり、寝息をたてていた。
「くううぅぅ……Zzzz」
「おや……」
10歳ほどだろうか?空色の髪に白いリボンの大きなカチューシャをつけた少女は寝言を喋り始める。
「むにゃ、カステラにはぁ……いちごミルクより……バナナミルクのほうが……」
「お嬢さん?悪いが起きておくれ。君に聞きたいことがあるんだ。」
「えへっ……まだたくさんありますよぉ……」
肩を揺さぶるが、少女が起きる気配はない。仕方ない……と呟くと、マリヌスは杖を一振りし、紫色の火花を爆ぜさせる。
バァァン!!!
「うひゃあ⁉︎え、あれ?せ、先生⁉︎」
至近距離で爆破という、荒っぽい目覚ましに意識を覚醒させた少女は、マリヌスの存在に気づいたらしく、目を白黒させた。
「この空間に入ってきたってことは、ま、ま、まさかマリヌス先生…⁈」
「うわ、わああ?落ち着いて、落ち着いて……」
少女は、しばらく慌てていたが、何とか落ち着きを取り戻したようだ。
「えっと……その…あっ、そうだ!まず自己紹介から!」
マリヌスに向き直り、少女は自己紹介を始める。
「私はアロナ!この[シッテムの箱]に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」
自己紹介を終え、アロナはマリヌスを見上げる。
「やっと会うことができました!私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました。」
「そのようだ。レディを熟睡するまで待たせるとは、私もまだまだ気配りが足りないね。」
「あ、あうう……も、もちろんたまに居眠りしたこともあるけど……」
マリヌスのからかいに、アロナは恥ずかしげに目線を逸らす。
「ふふ…冗談だ。これからよろしく頼むよ、アロナ。」
「はい!よろしくお願いします!」
満面の笑みで応えるとアロナは自身の説明を続ける。
「実は私…まだ身体のバージョンが低い状態でして、特に声帯周りの調整が必要なのですが……これから先、頑張って色々な面で先生のことをサポートしていきますね!」
アロナは、えっへん!という顔で説明を終える。
「あ、そうだ!ではまず、形式的ではありますが、生体認証を行います!」
「認証?…血でも垂らせば良いのかい?」
そう言って、自身の親指に歯を立てるマリヌス。その様子を見たアロナが慌てて止めに入る。
「わああああ⁉︎違います、違います!そんな怖いことはしませんから!」
何とか、マリヌスが指の皮膚を噛みちぎるのを阻止するとアロナはピッ!と人差し指を突き出した。
「この私の指に、先生の手を当ててください。それだけで充分ですから……」
指示に従い、マリヌスはアロナの人差し指に自身の指を当てる。
「うふふ、まるで指切りして約束するみたいでしょう?実はこれで、生体情報の指紋を確認するんです。」
指先ひとつで、相手を把握できるという技術力の高さと性能に感心する。自分のいた世界では果たして何年後に普及していたのだろう…そんなことを考えながら、認証は続いていく。
「……うーん……よく見えないかも……まあ、これでいいですかね?」
……なんだか、不安になる呟きが聞こえた気がするが、きっと聞き間違いだろう…多分………
「はい!認証終わりました!」
アロナが指を離すと、これまでの経緯を説明した。
「なるほど…連邦生徒会長が行方不明になって、そのせいでキヴォトスのタワーを制御する手段がなくなった……」
「ふむ……アロナ、君は連邦生徒会長について何か知っているかい?」
マリヌスの問いに、アロナは首を振る。
「私はギヴォトスの情報を多く知っていますが……連邦生徒会長についてほとんど知りません。彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかも……。お役に立てず、すみません。」
「いや、構わないよ。ありがとう、アロナ。」
申し訳なさそうに頭を下げるアロナに、マリヌスは礼を言った。
「ですが、サンクトゥムタワーの問題は私が何とか解決できそうです。」
「本当かい⁉︎ならぜひ頼みたい。」
さも当然のように話すアロナに驚かされながら、マリヌスは頭を下げた。
「はい!分かりました。それでは、サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します!」
そう言うとアロナは目を瞑り、沈黙する……
「サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了………………先生、サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収できました。今、サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります。」
しばらくの沈黙の後、アロナは静かに宣言し、その直後、恐ろしい言葉を放った。
「今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも同然です!」
無邪気な笑顔で報告するアロナに、マリヌスは顔を引き攣らせる。先ほど見た広大な都市…それを目の前の少女が、ものの数十秒で掌握した事実に戦慄したのだ。
「先生が承認さえしてくだされば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できます。でも……大丈夫ですか?連邦生徒会に制御権を渡しても……」
心配そうな顔をするアロナに、マリヌスは笑顔で頷く。
「あぁ、問題ない。承認するよ。」
「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」
アロナの宣言と共に、マリヌスは再び眩い光に包まれ、気づくと先ほどのシャーレの地下に立っていた。部屋の隅を見ると、連絡を取っていたリンと目が合いこちらに歩いてくる。
「サンクゥトムタワーの制御権の確保が確認できました。これからは連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められますね。」
「それなら良かった。仕事が貯まると後が怖いからね……」
マリヌスは以前、魔法省に勤務していた友人を思い出す。箒から滑り落ちて腕を折り、しばらく入院したあと、その間に貯まっていた膨大な仕事を半泣きになりながら処理していた。………彼は元気だろうか………
「お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします。」
深々と頭を下げるリンに、マリヌスは笑顔で返す。
「私は先生なんだろう?なら困っている子供を助けるのは当然のことだ。」
「……そう、ですか………それでは[シッテムの箱]は渡しましたし、私の役目は終わったようで……あ、もう一つありました。」
ふと思い出した表情を浮かべると、リンはマリヌスに向き直る。
「ついてきてください。連邦捜査部[シャーレ]をご紹介します。」
マリヌスはリンに連れられ、再びエレベーターに乗り込む。
「ここがシャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね。」
「空室 近々始業予定」の張り紙が貼られた扉を開けると、中は広々としており、部屋の一面が巨大な窓になっている。中央にはデスクがあり、タブレットを大きくしたような物(あとで聞いたところ、パソコンというらしい……)が置かれている。ソファーセットやローテブルもあり、この部屋一つでも充分、暮らしていけそうだ。
「ここがシャーレの部室です。ここで先生の仕事を始めるといいでしょう。」
「仕事か……具体的には何を?」
マリヌスの質問に、リンは顎に手を当て考える。
「……シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので、特に何かをやらなきゃいけない……という強制力は存在しません。」
「キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入させることも可能です。面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした。」
つまりリンの話をまとめると、どこかの組織や陣営に偏らずあくまで中立的な立場を保ってくれ。ということらしい。
「……本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま……私たちは彼女を探すのに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力がありません。」
リンの顔をよく見ると、化粧で上手く隠してはいるが目元にクマが浮かんでいる。広大なキヴォトスを管理を管理するだけでも、仕事量と疲労はかなりのものだろう……それに加えて、組織の長が行方知れずになったとなれば、その心労も計り知れない。
「今も連邦生徒会寄せられてくるあらゆる苦情……支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部への支援要請などなど……もしかしたら、時間が有り余っているシャーレなら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね。」
やけに具体的な内容を挙げると、にこやかな笑顔でマリヌスを見つめるリン……その顔はどうみても「先生なんですから、面倒ごと……引き受けてくれますよね?」という顔である。
「そのあたりに関する書類は、先生の机の上にたくさん置いておきました。気が向いたらお読みください。……それではごゆっくり、必要な時には、またご連絡いたします。」
そう言って頭を下げると、リンはシャーレの部室を後にした。それから少しして、マリヌスも下へと向かう。
「ええ、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認したわ。」
外に出ると、ユウカが連絡を誰かと連絡をとっておりマリヌスに気づくと他の三人も近づいてきた。
「お疲れ様でした、先生。ワカモは自治区に逃げてしまったのですけど………すぐ捕まるでしょう。私たちはここまでで。あとは担当者に任せます。」
「そうか…協力してくれてありがとう、みんな。」
「先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」
SNS……というのはよく分からないが、あれだけの大立ち回りをしたのだ。それに、リンが口にした連邦生徒会への苦情や依頼を引き受けるためには、目立ったほうが得策かもしれない。
「これでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティに立ち寄ってください。先生。」
「私も、風紀委員長に今日のことを報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねてください。」
「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも?先生、ではまた!」
帰路につくユウカたちを見送ると、マリヌスはシャーレの部室へ戻り、ソファーに倒れ込んだ。
「はぁ………まさか、異世界で教師とは……人生というのは、わからないねぇ……」
ひとり呟くマリヌスは、半月型の眼鏡にライトブルーの瞳を持つ、従兄弟のことを思い出す。
「君のほうが適任だと思うんだがねぇ……アルバス……」
「だが、まぁ……選ばれたからには…できる限りは……やって、みる、か………」
マリヌスは、そのまま深い眠りに落ちるのだった………
お気に入り登録、感想ありがとうございます!ちなみに最近まで、「キヴォトス」を「ギヴォトス」だと思ってました……恥ずかしい……次の話は、シャーレの部室とリンに関する話を描く予定ですが…年末までには仕上げます…