透き通る世界の魔法使い マリヌス・ダンブルドア 作:ハルマサ
不死鳥は砂漠の空へ
「ここは………どこだ?」
呟くマリヌスの頬を砂混じりの風が撫でていく。今彼は箒に跨り、上空から、砂漠に呑まれかけた街を見下ろしている。事の発端は昨日、シャーレに届いた手紙だった。アロナが不穏な手紙と評したそれには、アビドス高等学校の名前と、『地域の暴力組織に学校が追い詰められていて、物資が底を尽きかけているので助けて欲しい。』という内容が書かれており、よほど切羽詰まった状況であることが窺えた。
「う~ん………アビドス高等学校ですか……昔はとても大きい自治区でしたけど、気候の変化で街が厳しい状況になっていると聞きました。どれだけ広いかというと街のど真ん中で迷って遭難する人がいるぐらいだそうです!」
アロナの言葉を聞きながら、マリヌスはすぐに身支度を始めた。書類やパソコン、シッテムの箱を巾着に詰め込み、クラフトチャンバーで修復した愛用の箒、
「うむ……ここまで広いとはなぁ……もう少し調べてから来れば良かっ……ん?」
ふと下を見ると、何か動くものがあった。目を凝らすと、獣耳をつけた銀色の髪の少女が自転車を漕いでいるのが見える。マリヌスは箒の柄を握り込み、ゆっくりと降下していった。
「………おーーい」
「……?」
どこかから聞こえてくる呼び声に、獣耳の少女は自転車を止め、辺りを見回すが、辺りに人の姿はない。気のせいかと、自転車のペダルに足を乗せた時、今度は頭上からはっきりと声が聞こえた。
「おーーい!そこの君!ちょっと待ってくれ!」
「?……!?」
少女の顔が驚きに染まる。顔を上に向けると、箒に跨った白髪の男がスーッと降りてきて、目の前に着地した。
「良かった…!やっと人に会えた!君はアビドスの子かい?」
少女はポカンとしたまま固まっていたが、マリヌスの質問で我に返ったらしく首を縦に振る。
「ん。そうだけど……誰?見た感じ連邦生徒会の人っぽいけど。」
「ああ、すまない。私はマリヌス・ダンブルドア。シャーレで先生として働いている。君が手紙をくれた奥空アヤネ君かな?」
今度は少女の首が横に揺れた。
「ん、違う…私は砂狼シロコ。アヤネは私の後輩。」
目の前の大人がシャーレの先生であり、空を飛んできたという事実に戸惑いながらも、シロコは何とか言葉を絞り出す。
「そうか………シロコ君。もし良ければ、君たちの学校まで案内してくれないか?」
「ん、わかった。あとシロコでいい。……ねぇ先生、それどうやって飛ぶの?」
シロコが箒を指差し、興味津々といった様子でマリヌスに質問する。表情の変化は乏しいが、その目はキラキラと光り、彼女の強い興味と好奇心が伺える。
「……良かったら乗ってみるかい?」
「ん、良いの?」
マリヌスの言葉に、シロコの耳がピクン!と動いた。尻尾が付いていたならブンブン!と音が聞こえてきそうだ。
「構わないよ、二人乗りなら大丈夫だ。それと…君の乗り物も一緒にね。ちょっといいかな?」
シロコが頷くのを確認すると、マリヌスは懐から杖と小瓶を取り出し、呪文を唱える。
「
すると、あっという間にロードバイクが縮み、手のひらサイズに収まった。
「ん!?どうやったの?!」
驚くシロコを横目に、マリヌスは小瓶の中に自転車を入れ、栓をする。
「収縮呪文で小さくしたんだ。さすがに自転車を抱えて飛ぶわけにはいかないからね。」
「収縮呪文……」
シロコの脳裏に、ある映像が蘇る。数日前にSNSに投稿された、シャーレ周辺を占拠した不良たちをゲヘナやトリニティ、ミレニアムの生徒と共に、蹴散らしていく動画。映像では顔がよく分からなかったが、黒いローブに白髪という特徴は一致している。動画では手に持った棒から閃光を飛ばし、不良を倒していた。動画には、CGだ!合成だ!などのコメントが書き込まれていたが……今、目の前で起きた現象は間違いなく、現実だ。
「……先生はマジシャン?」
シロコの言葉にマリヌスは首を振り、答えた。
「いやいや、私は魔法使いだ。種も……仕掛けもない。」
マリヌスはニヤリと笑みを浮かべると、杖を振ってシロコのマフラーをリボン結びにしてみせた。
「さてと……それじゃ…そろそろ行こうか。私の後ろに乗ってくれるかな?」
箒に跨り、自身の後ろのスペースを指差すマリヌス。シロコもそれに応じて箒に跨る。
「私の腰に手を回して……あぁ、そうそう…しっかり掴むんだよ?落ちたら骨を折るからね………よし、行こうか!」
マリヌスが地面を蹴ると、徐々に速度を上げながら箒が上昇していく。
「ん!凄い!空を飛んでる!」
シロコが驚いている間のわずか数秒で、箒はアビドスの街を見下ろせる高さまで来ていた。
「怖いなら高度を下げるが……その心配はなさそうだね。」
様子を確認しようとマリヌスが後ろを見ると、興奮した様子で街を見下ろしたり、辺りを見回しているシロコと目があった。その顔は「怖くない!もっと飛びたい!」と主張している。
「ふふっ、楽しんでいただけたなら何より。これから速度を上げるから、しっかり掴まっていなさい。あと案内を頼む。」
「ん!わかった、任せて。」
シロコの腕がしっかりと腰に巻き付いたのを確認すると、箒は徐々に速度を上げ、シロコの案内でアビドス高等学校に向け、飛んでいった……
しばらく飛び続けると、白を基調とした大きな校舎が姿を見せる。マリヌスが後ろを振り返り、シロコが頷くのを確認すると、二人を乗せた箒は高度を下げ、ゆっくりとグラウンドに着地した。
「道案内ありがとう、シロコ。箒の乗り心地はいかがだったかな?」
「ん!凄く気持ち良かった…!また乗りたい…!」
「それなら良かった!私も箒に乗るのが大好きでねぇ……昔はクィディッチに明け暮れたものだ………」
懐かしむような顔をした後、マリヌスは懐から小瓶を取り出し、中に入っていたロードバイクを地面に置いた。
「
呪文を唱え、杖を向けるとロードバイクは再び元の大きさまで肥大し、再びシロコを驚かせた。マリヌスは校舎に足を踏み入れ、他の部員がいるという部屋まで案内された。
「ん、先生。着いたよ。」
シロコは[廃校対策委員会]と張り紙が貼られた、木製の古い引き戸に手をかけ、扉を開ける。
「ただいま。」
部屋の中には、黒髪に猫の耳が生えた少女とベージュの髪を伸ばした朗らかそうな少女、赤い眼鏡をかけた黒髪の少女がおり、シロコに返事を返した。
「シロコ先輩⁉︎誰その人⁉︎」
マリヌスに気づいた猫耳の少女が、座っていた椅子から勢いよく立ち上がり、驚きと警戒心を露わにする。他の二人も差はあれど、同じような反応を見せた。
「ん、セリカ、大丈夫。この人はマリヌス先生。シャーレの先生なんだって。」
シロコの言葉に、目の前の三人は驚いた様子でマリヌスを視線を向ける。
「え、ええっ!?まさか!」
「連邦捜査部[シャーレ]の先生⁉︎」
「わあ☆支援要請が受理されたんですね!良かったですね、アヤネちゃん!」
「はい!これで……弾薬や補給品の援助が受けられます。」
赤い眼鏡をかけた少女が、心の底から安堵したような笑みを浮かべて頷く。どうやらこの子が手紙の差出人のようだ。
「支援が遅れて申し訳ない。新しくシャーレの先生になったマリヌス・ダンブルドアだ。君が手紙をくれた子かな?」
マリヌスの言葉に、アヤネはこくり。と頷いた。
「はい、アビドス対策委員会でオペレーターと書記を担当している奥空アヤネです。よろしくお願いします。それでこっちが私と同じ、一年生の黒見セリカちゃん。二年生の十六夜ノノミ先輩。あと…もう知っているかもしれませんが、そちらが二年生の砂狼シロコ先輩です。」
アヤネの紹介に合わせ、セリカ、ノノミ、シロコと握手を交わす。四人の手は若人らしく滑らかだが、所々にマメやタコの感触がある。少ない人数で必死にここを守ってきたのだろう。
「あ、早くホシノ先輩にも知らせてあげないと……あれ?ホシノ先輩は?」
「ホシノ先輩なら確か、隣の部屋で寝てる。私、起こしてくるね。」
セリカが部屋から出て行ったその瞬間、外から銃声が響く。
「じゅ、銃声⁉︎」
窓に駆け寄り、外の様子をうかがうとヘルメットを被った集団が銃を乱射し、下品な笑い声を上げている。
「ひゃ〜ッハハハハハ!!」
「攻撃!攻撃だ!!奴らはすでに弾薬の補給を断たれている!襲撃して学校を占拠するのだぁ!!」
「カタカタヘルメット団……!あいつら……!性懲りもなく!」
耳を後ろに倒しながら、シロコが唸る。どうやら手紙に書かれていた暴力組織というのはあれのことらしい。
「ホシノ先輩を連れてきたよ!先輩!寝ぼけてないで起きて!」
そこにセリカが、桃色の髪の小柄な少女、小鳥遊ホシノを連れて戻ってきた。セリカが揺さぶると、ホシノはゆっくりと目を開き、さりげなく外のヘルメット団を、次にマリヌスに素早く視線を動かす。
「ホシノ先輩!ヘルメット団が再び襲撃を!こちらはシャーレの先生です!」
「ありゃ〜そりゃ大変だねぇ……あ、先生?よろしく〜」
ゆるい雰囲気で、ホシノと握手を交わすマリヌス。しかし彼の輝く紫の目は、彼女の青と金の目が疑わしげに細められるのを見逃さなかった。
……どうやら、この子が私を一番警戒しているようだな……まぁ、無理もないか……
そんなことを考えていると、セリカが部屋の隅に置かれていた、盾とショットガンをホシノに手渡す。
「先輩!武器持って!学校を守らないと!」
ホシノが盾とショットガンを受け取るのを確認すると、マリヌスが口を開いた。
「準備万端みたいだね、では…私は一足先に下に行かせてもらうよ。」
マリヌスは杖を取り出すと、姿くらましを使い、渦のように姿を消した。
「え!?」 「ん!」「うへ?」「はぁ?!」「わぁ!」
その光景にアビドスの面々が驚く中、マリヌスはヘルメット団の前に姿あらわしする。
「ん?誰だ!アンタ!」
「おい…あいつヘイローがないぞ?それにあの格好、どこかで……というか、どこから出てきたんだ?」
ヘイローを持たない、しかもいきなり現れた大人の存在にヘルメット団が戸惑う中、マリヌスは穏やかな口調で声を掛ける。
「やぁやぁ、君たち。いきなりすまないが、今回は帰ってくれるかな?ここの子達に用があるんだ。」
マリヌスの提案に、ヘルメット団のリーダーが言葉を返す。
「そういうわけにもいかねぇんだよ。こっちも
その言葉に、周りのヘルメット団から笑い声が漏れる。彼女たちは完全に、目の前の大人を舐めてかかっているのだ。
「ああ、そうだとも。」
マリヌスの顔から笑みが消え、眉間にシワが刻まれる。しかしヘルメット団は全く気づかない。それどころかポケットから手榴弾を取り出し、ピンを抜いた。
「へぇ〜?それなら……止めてみせろっ!」
ヘルメット団がマリヌスに向け、手榴弾を投擲する…!
「…先生ッ!」
背後からシロコの声が聞こえる。しかしマリヌスは落ち着き払った態度で杖を取り出し、空中の手榴弾に向け、呪文を唱えた。
杖の先から青い閃光が飛び、手榴弾を粉々に打ち砕いた…!
「……は?」
「嘘だろ……手榴弾が粉々に……?」
呆然とするヘルメット団をマリヌスは鋭く、冷徹な目で見据え、言葉を放つ。
「…私は無礼がなにより嫌いでね。君らの振る舞いは目に余る………私が、いや私たちが礼儀というものを叩き込んであげよう。」
そう言い放つマリヌスの横に、アビドスの面々が並び立つ。
「ん。ここは私たちの場所。今すぐ出てってもらう。」
「もう許さないわよ!」
「さぁ、お仕置きの時間ですよ〜♧」
シロコたちが構え、それぞれがヘルメット団への怒りを露わにする。
「うへ〜みんなやる気だねぇ〜まぁ、おじさんもだけど。」
ホシノがマリヌスの隣に並び、盾を構えた。ゆったりとした口調とは裏腹に、その目には鋭い眼光が宿っている。
「で、先生。さっき何したの?手品…じゃないよね?」
マリヌスの杖を見つめながら、ホシノが問う。本人は隠しているつもりだろうが、声に明らかな警戒心が宿っている。
「まぁ……それは後で説明するよ。まずは彼女たちにお帰り願おう。」
マリヌスが言葉を返すと、ヘルメット団が構えた銃から一斉に弾丸が放たれる。
「ん!」
「ふっ!」
シロコとセリカが横に飛び、ホシノの盾がマリヌスとノノミを後ろに庇う。
「うへ〜先生は下がったら?ヘイローも無いんだから、当たったら危ないよ?」
盾を構え、攻撃を防ぎながらホシノが促すが、マリヌスは首を振った。
「いやいや、君たちが前に出ているのに大人の私が下がったら格好つかないだろう?」
そう言うと、マリヌスは盾の裏から飛び出し、指示を出す。
「シロコ!セリカ!二人はそのまま目の前の敵を制圧してくれ!ノノミは私が合図したら思い切りやりなさい。躊躇しなくていい。アヤネ、君は後ろで支援を。ホシノ、悪いがこのまま敵の注意を引いてくれるかい?」
「ん、了解。」
マリヌスの指示を受け、シロコのドローンからミサイルが発射され、ヘルメット団が爆風に包まれる。
「何度も何度も襲って来て!絶対に許さないんだから!」
セリカは、戦場を素早く駆け回り、敵に弾丸を撃ち込んで気絶させていく。
「うへ〜おじさんもカッコいいとこ見せなきゃなぁ〜」
相変わらず、のんびりとした態度のホシノだがその戦い方は盾を構え、相手に突進して吹き飛ばし、それと同時にショットガンを放つという凄まじいものだった。
「おぉ!みんな強いなぁ…!私も負けてられないね。」
そう呟くと、マリヌスは再び姿くらましを使い、ヘルメット団の背後に現れる。
「
失神呪文を放ち、次々と敵を気絶させながら、マリヌスはヘルメット団のリーダーが言っていた事を考えていた。
……仕事、さっき彼女たちはそう言っていた…ということは裏に誰かがいるな……まぁ、今は目の前の事に集中するとしよう……
マリヌスやシロコ、ホシノとセリカの攻撃により最初は数十人ほどだったヘルメット団も数を減らし、わずか8人まで追い詰められていく。その隙を見逃さず、マリヌスは姿くらましで後ろへと移動する。
「ノノミ!」
「はい!いきますよ〜☆」
合図と共に、ノノミのミニガンが火を噴き、残ったヘルメット団を一掃していく。……ちなみにマリヌスはノノミの銃に興味津々だったため、ノノミが撃つ姿を、ワクワクとした気持ちで見つめていた。
「カタカタヘルメット団残党、郊外エリアに移動中。私たちの勝利です!」
アヤネからの報告に、シロコたちが喜ぶのを眺めながら、ホシノはマリヌスに近づいていく。
「お疲れ様〜先生。」
「ふふっ、君もよく頑張ったね、ホシノ。格好良かったよ。」
その言葉にホシノは照れ臭そうに、にへ〜と笑うと頭を掻く。
「それでさ、先生。色々聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」
ホシノから、にへ〜とした笑顔が消え、マリヌスに尋ねる。対照的にマリヌスはニヤリと笑みを浮かべ、頷いた。
「あぁ、君たちの部室に戻ったら、いくらでも答えるさ。」
マリヌスは、キラキラと輝く紫の目でホシノを見据えた。…その目を見て、ホシノは不思議な感覚に襲われる。まるで、彼女の心や彼女が隠している過去の後悔までも見透かされるような、そんな感覚だった。
「さあ、戻ろうか。」
しばらく沈黙した後、マリヌスに促されながら、ホシノは校舎へ足を進める。しかしその目は、油断なくマリヌスへと向けられているのだった………
いかがでしたか?正直、キャラの口調に違和感があるような……話の動かし方が不自然じゃないか?など、めちゃくちゃ悩みながら書いてます。ちなみに……まだまだ先ですが、マリヌスの過去の話も、少しずつ出していくつもりです。先に言っておくと、アルバスやアバーフォース、アリアナたちのようにマリヌスの人生も決して順風満帆なものではありません……この作品を気に入ってくださった方々、本当にありがとうございます!ではまた次回、お会いしましょう。