山岸由花子のお礼参り 作:故郷のピッツァが食べたい
2001年11月。日本、M県S市杜王町。
秋も深まり、街路樹の葉が赤や黄色に色づき始めた頃。昼間はまだ過ごしやすいものの、日が傾けば途端に冷たい風が吹き始める。そんな季節の変わり目にあっても、杜王町の人々の暮らしはいつもと変わらない。少なくとも、今日の放課後まではそうだった。
「なあ康一よォ。そういや、おめー春頃にイタリア行ってたよな?」
町の一角にある喫茶店で、虹村億泰が唐突にそんなことを言い出した。窓際の四人掛けテーブルには、億泰のほかに東方仗助と広瀬康一が座っている。テーブルの上にはそれぞれ注文した飲み物と、億泰が追加で頼んだケーキの皿が並んでいた。
「うん、行ったけど。それがどうかしたの?」
「いやよォ、イタリアっていったらパスタとかピッツァとか、本場のメシが食えるんだろ? どうだったんだよ、やっぱうめーのか?」
どうやら食べ物の話がしたかったらしい。康一は少し考えてから頷いた。
「うん、美味しかったよ。日本のイタリア料理とはちょっと違う感じだったかな。でも、僕も向こうではそんなにゆっくりできなかったんだ」
「マジかよォ~! いいなァ、イタリア! オレも一回行ってみてーぜ!」
「おめー、結局食い物のことしか考えてねーじゃん」
仗助が呆れたように突っ込むと、億泰はフォークを片手に反論した。
「うっせーな仗助! 美味いモン食いてーってのは人間の本能だろーがよォ! それにイタリアといやあ、トニオさんの故郷だぜ? そりゃ気になるだろ!」
「あー、確かに。トニオさんの料理はスゲーもんなァ」
その名前を聞いて、仗助も納得したようだった。杜王町でイタリア料理店を営むトニオ・トラサルディー。その料理の腕前は、二人とも身をもって知っている。もっとも、彼の料理には味以外にも少々変わった特徴があるのだが、今さらそれを気にするような二人ではなかった。
「そういや康一。おめー、向こうには承太郎さんの頼みで行ったんだよな?」
「あ、うん。ちょっと人を探してほしいって頼まれてね」
「へえ。で、その人は見つかったのか?」
「見つかったよ。というか、向こうに着いてすぐ会ってたんだけどね」
「なんだそりゃ?」
億泰が首を傾げる。康一は苦笑しながら、ストローで飲み物を一口飲んだ。
「実はさ、その人にカバンを盗まれちゃったんだよ」
「…………は?」
仗助と億泰の声が重なった。
「いや、だからね。イタリアの空港に着いたとき、タクシーに乗ろうとしたんだけど、その運転手が僕の探してた人だったんだ。僕が車に乗る前に、荷物だけ持って逃げられちゃって……」
「ちょ、ちょっと待て康一! おめー、外国でカバン盗まれたのかよ!?」
「う、うん」
「しかも空港着いてすぐかよォ!? そりゃ災難なんてもんじゃねーだろ!」
二人の反応に、康一は困ったように笑った。
「まあ、そうなんだけどね。僕もエコーズで車を止めたんだよ。でも、その人は車を置いて逃げちゃってさ。しかも、カバンまでなくなってたんだ」
「車止めたのに逃げられたのかよ?」
「うん。そのときは車の中にカエルがいたんだけど、後になって、その人がスタンドで僕のカバンをカエルに変えてたんだって分かったんだ」
「カエル?」
仗助が眉を寄せた。
「そう。生きてるカエル。僕も最初は、まさか自分のカバンがカエルになってるなんて思わなかったよ」
「……なんつー変わったスタンドだよ」
「それでよォ、康一。カバンはどうなったんだ?」
「中に入ってた物は、ほとんど売られちゃってたみたい」
「売られたァ!?」
億泰が思わず立ち上がり、テーブルがガタンと揺れた。近くの客が何事かと振り返る。仗助が慌てて億泰の袖を引っ張り、椅子に座らせた。
「声デケーって億泰!」
「だってよォ仗助! 外国で荷物盗られた挙げ句、勝手に売っ払われたんだぜ!? ふざけた野郎じゃねーか!」
「まあ、そりゃそうだけどよ……」
「しかもパスポートもカバンの中だったから、あのときは本当に困ったよ。幸い、パスポートだけは後でその人の部屋から取り戻せたんだけどね」
「パスポートまでかよ……。おめー、よく無事に帰ってこられたな」
仗助の言葉に、康一は肩をすくめた。彼自身、当時のことを思い返せば、よくあれだけの騒動に巻き込まれながら無事に帰国できたものだと思う。
「でもね、その人とは後でいろいろあったんだ。最初は僕も怒ってたけど、ただの悪い人ってわけじゃないんだよ。僕のことを助けてくれたこともあったし……」
「いやいやいや! 待て待て康一!」
億泰は納得がいかない様子で身を乗り出した。
「いくら助けてもらったからって、カバン盗んでいいって話にはならねーだろ!?」
「それは、まあ……そうなんだけど」
「で、弁償はしてもらったのか?」
「いや、それは……」
「してねーのかよォ!?」
再び億泰の声が店内に響き渡る。仗助は片手で顔を覆った。先ほどから周囲の視線が痛い。
「億泰、おめーちょっと落ち着けって……。それで康一、結局どうなったんだよ?」
「どうって?」
「そのカバン盗んだ野郎だよ。捕まえなかったのか?」
「うーん。まあ、最終的には僕も納得したっていうか……。今はもう怒ってないよ」
康一はそう言って微笑んだ。しかし、ただ相手が許してほしいと言ったから許したわけではないし、盗まれた物を諦めるしかなかったからでもない。
ジョルノ・ジョバァーナとの出会いは、間違いなく最悪だった。空港に到着するなり荷物を盗まれ、追いかければスタンド能力で逃げられ、パスポートまで取り戻さなければならなくなったのだから、当時の康一が彼に腹を立てていたのは当然である。
それでも、後に遭遇した
ジョルノは、ギャングになることを目指していた。それだけを聞けば、ろくでもない少年だと思っただろう。実際、康一も最初はそう考えていた。だが、彼は自分の行動が原因で無関係の人間が命を落としたことに怒りを覚え、自分の信じる正義のために危険な戦いへ踏み込んでいった、その覚悟は本物だった。
そして何より、ジョルノは康一を助け、康一もまたジョルノを助けた。互いのスタンド能力を生かして強敵を倒した経験は、最初の印象を覆すには十分だった。
盗みを働いたことと、ジョルノが信念を持った人間であること。その二つは矛盾するようでいて、康一にとってはどちらも事実だった。だからこそ彼は、ジョルノが将来何を成し遂げるのか、見届けてみたいと思えたのである。
「ふーん……。ま、康一がそう言うならいいけどよォ」
億泰はまだ不満そうだったが、それ以上は追及しなかった。康一が相手を信用しているというのなら、自分がいつまでも怒っていても仕方がない。仗助も話が一段落したと判断したのか、グラスに残った飲み物を口に運ぶ。
そのときだった。
「……康一くん?」
背後から聞こえてきた声に、康一が振り返った。
「あ、由花子さん!」
そこに立っていたのは、腰まで届く美しい黒髪を持つ少女、山岸由花子だった。由花子は康一の顔を見ると、ふわりと微笑んだ。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって。待った?」
「ううん、全然。僕たちも今まで話してたところだよ」
「そう。よかったわ」
どうやら二人は、この後に会う約束をしていたらしい。由花子は仗助と億泰にも軽く挨拶すると、康一の隣に腰を下ろした。
「それで康一くん。さっきの話なんだけど……」
「え?」
「イタリアで、カバンを盗まれたって聞こえたんだけど」
「ああ、そのこと?」
康一は何でもないことのように頷いた。
「うん。ちょっとそんなことがあってね」
「……そう」
由花子は微笑んだままだった。が、その視線は康一から離れなかった。
「それって、いつの話?」
「えっと、今年の春かな。イタリアに着いたばかりのときだよ」
「そう……。じゃあ、そのときは一人だったの?」
「うん。承太郎さんに頼まれた用事だったし」
「言葉も通じない外国で?」
「いや、イタリア語なら露伴先生に話せるようにしてもらってたから……」
「そうじゃないのよ、康一くん」
由花子の声は穏やかだった。確かに穏やかではあったのだが、仗助はその声を聞いた瞬間、何とも言えない居心地の悪さを覚えた。
「つまり、その人は一人で外国に来ていた康一くんから、荷物を盗んだってことよね?」
「え? うん、まあ……」
「パスポートも?」
「うん」
「それで、カバンの中の物は返してもらえなかったのね?」
「そうだけど……」
「弁償もしてもらってない?」
「……うん」
由花子は何も言わなかった。
その沈黙の間、仗助は妙なことに気づいた。彼女の長い黒髪。その毛先の一部が、誰も触れていないのにゆっくりと動いている。見間違いかと思ったが、違った。髪の毛は椅子の背もたれに絡みつき、ぎしりと小さな音を立てていた。
(……おいおい、ちょっと待てよ)
仗助は思わず身構えた。以前に比べれば随分と落ち着いたとはいえ、山岸由花子のスタンドが本人の感情に影響されることを、彼はよく知っている。
「ねえ、康一くん」
「な、何?」
「その人、康一くんに謝ったの?」
「え?」
「ちゃんと謝罪したのかって聞いてるの」
康一は困ったように視線を泳がせた。
「いや、その……ちゃんと謝ってもらったかどうかは覚えてないけど……」
「そう」
由花子は一度頷いた。それから、康一の手にそっと自分の手を重ねる。
「でも、康一くんはその人のこと、もう怒ってないのよね?」
「う、うん。僕はもう気にしてないよ」
「……そう。康一くんがそう言うなら、あたしから言うことはないわ」
そう言って、由花子はいつものように微笑んだ。
その言葉に康一はほっと胸を撫で下ろした。仗助も内心で安堵する。どうやら今回は、何事もなく済みそうだ。
ところが。
「あ、そうだ。康一くん」
「何?」
「その人の名前、教えてもらってもいいかしら?」
「名前?」
「ええ。ちょっと気になっただけよ」
由花子はにこりと笑った。康一は特に疑問を抱くこともなく答える。
「ジョルノ・ジョバァーナっていうんだ。僕たちと同じくらいの年齢の男の子だよ」
「ジョルノ・ジョバァーナ……」
由花子はその名前を、確かめるように小さく繰り返した。
「イタリア人なの?」
「えっと、今はイタリアで暮らしてるんだけど、ちょっと事情があってね。ナポリに住んでるんだ」
「ナポリね。ありがとう、康一くん」
「う、うん……?」
由花子は満足したように微笑んだ。そして、注文を取りに来た店員に紅茶を頼むと、何事もなかったように康一との会話を始めた。翌日の予定や学校であった出来事を楽しげに話す横顔は、いつもと変わらない。少なくとも康一には、そう見えていた。
一方、向かいに座る仗助は、先ほどから嫌な予感が拭えずにいた。
由花子は怒っていない。声を荒らげてもいないし、康一を責めてもいない。むしろ、いつもより機嫌がよさそうにすら見える。しかし、それがかえって恐ろしかった。
仗助は隣の億泰を肘で小突いた。
「……なあ、億泰」
「あん?」
「なんか、ヤバくねーか?」
「何が?」
「いや、由花子のことなんだけどよ……」
億泰は由花子の方をちらりと見た。彼女は康一と楽しそうに話している。
「別に普通じゃねーか?」
「……そうかァ?」
「おめー、考えすぎなんじゃねーの?」
そう言って億泰は残っていたケーキを口に放り込んだ。仗助は何か言いかけたが、結局やめた。康一本人がもう済んだことだと言っている以上、ここで話を蒸し返すのもよくない。
しかし、せめてこのとき、億泰にもう少し強く注意しておくべきだったのかもしれない。もっとも、注意したところで結果が変わったかどうかは、甚だ疑問だったが。
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翌日の放課後。
「虹村くん、ちょっといいかしら?」
下校しようとしていた億泰は、校門近くで由花子に呼び止められた。
「お? なんだよ、由花子。康一ならさっき教室にいたぜ?」
「今日はあなたに用があるの」
「オレに?」
意外な言葉に、億泰は目を丸くした。由花子が自分に用事とは珍しい。というより、康一抜きでまともに話したことが、そもそもあまりなかった。
「お願いがあるのよ」
「お願い?」
「ええ。あたしと一緒に、イタリアへ行ってほしいの」
「……イタリア?」
「そうよ」
億泰は目の前の少女を見つめた。それから、ゆっくりと首を傾げる。
「イタリアって、あのイタリアか?」
「他にどんなイタリアがあるの?」
「いや、あの、パスタとかピッツァとかの……」
「ええ。そのイタリアよ」
億泰は少し考えた。そして。
「なんでだよォ!?」
校門前に素っ頓狂な声が響いた。
「どうしてオレがおめーとイタリアに行くことになるんだよ! つーか、急すぎんだろーが!」
「大きな声を出さないでちょうだい。ちゃんと説明するから」
由花子は落ち着き払っていた。
「昨日、康一くんが話していたでしょう? イタリアでカバンを盗まれたって」
「ん? ああ、あの話か」
「その犯人に会いに行くのよ」
「……は?」
「ジョルノ・ジョバァーナ。ナポリに住んでいるそうだから、まずはそこで探すつもり」
由花子はまるで週末の買い物の予定でも話すように言った。億泰はしばらく口を開けたまま固まっていた。
「……ちょっと待てよ」
「何かしら?」
「おめー、まさかとは思うけどよォ……」
億泰は恐る恐る尋ねた。
「康一のカバン盗んだ野郎に、仕返しするためだけにイタリアまで行こうってのか?」
「仕返しだなんて、人聞きの悪いこと言わないで」
由花子は眉をひそめた。
「ちゃんと謝ってもらうだけよ。もちろん、カバンの弁償もしてもらうつもりだけど」
「それを仕返しって言うんじゃねーのかよォ……」
億泰は頭を掻いた。確かに、昨日は自分も腹を立てた。康一は大切な友人だし、そいつの荷物を勝手に盗んで売り払ったというのなら、文句の一つも言ってやりたい。しかし、それとこれとは話が別である。
「つーかよォ、康一はもういいって言ってただろ? 本人が許してんだから、それでいいんじゃねーのか?」
「……そうね」
由花子はあっさりと頷き、その反応に億泰は少し拍子抜けする。
「康一くんは優しいから。きっと、そのジョルノって人のことも、本当に許しているんだと思うわ」
「だったらよォ……」
「でも、それと相手がしたことは別でしょう?」
「……ああ?」
「康一くんが許したからって、盗んだことまでなかったことになるわけじゃないもの」
由花子は静かに続けた。
「考えてもみて。康一くんは一人で外国に行ったのよ? そこでいきなり荷物もパスポートも盗られて……。どれだけ心細かったと思う?」
「そりゃあ……」
「しかも犯人は謝りもしないで、カバンの中の物まで売ってしまった。あたし、それがどうしても許せないの」
由花子の声には、はっきりとした怒りがあった。それに呼応するように、彼女の髪の毛が僅かに持ち上がる。
億泰は思わずそちらに目をやった。以前の由花子なら、この時点で何かとんでもないことを言い出していてもおかしくなかっただろう。今は表情を崩していないものの、その奥にある感情までは隠しきれていなかった。
「……なあ、由花子」
億泰は少しだけ真面目な声になった。
「おめーが腹立つのは分かるぜ。オレだって康一がそんな目に遭わされたって聞いて、ムカつかなかったわけじゃあねー。でもよォ、康一が許したって言ってんのに、おめーが勝手に仕返しして、それで康一が喜ぶと思うか?」
「だから、仕返しじゃないって言っているでしょう」
由花子は億泰をまっすぐに見た。
「康一くんが嫌がることをするつもりはないわ。ただ、あたし自身が納得したいのよ」
「……そーかよ」
「ええ。相手に直接会って、どうしてそんなことをしたのか聞きたいの。そして、康一くんにきちんと謝ってもらいたい。それだけよ」
億泰は困ったように頭を掻いた。どうやら、この女は本気らしい。
「……それでもよォ。だからってイタリアまで行く必要あんのか?」
「あるわ」
即答だった。
「どうしても直接会って、話をしたいの」
「……ったく」
億泰は大きくため息をついた。
「で、なんでオレなんだよ? 仗助じゃあダメなのか?」
「東方くんには頼まないわ」
「なんで?」
「きっと止められるもの」
その判断は、おそらく正しい。億泰は昨日の仗助の様子を思い出した。確かにあいつなら、由花子がこんなことを言い出したと知れば、何が何でも止めようとするだろう。
「あなたなら、康一くんのことを心配してくれると思ったの。それに……」
「それに?」
「あなたのスタンド、頼りになるでしょう?」
億泰は自分の右手を見下ろした。ザ・ハンドが強力なスタンドであることは、彼自身もよく理解している。しかし、だからこそ、こんな目的で外国まで連れていかれようとしていることには複雑な気分だった。
「……おめー、まさかオレにそのジョルノって奴を消させようってんじゃあねーだろうな?」
「そんなことしないわよ」
「ホントだな?」
「ええ。あたしが頼みたいのは、何かあったときに力を貸してもらうことだけよ」
由花子はそう答えたが、億泰は完全には安心できなかった。何かあったとき、というのが問題なのである。
「……なあ由花子。おめー、一人でも行くつもりなのか?」
「ええ」
「オレが断っても?」
「もちろん」
まったく迷いのない返事だった。
億泰は腕を組み、少し考え込んだ。正直なところ、この話には乗りたくない。金もかかるし、外国へ行ったこともないし、面倒なことになる予感しかしない。しかし、ここで断ったところで、由花子は本当に一人でイタリアへ行ってしまうだろう。
あいつが康一のことでどれほど無茶をするかは、仗助からも聞いている。まして相手は、スタンド使いの泥棒だ。放っておいたら、どちらかが怪我をするようなことになりかねない。
「……ったく、しょうがねーなァ」
「じゃあ!」
「勘違いすんなよ! オレはおめーが変なことしねーように見張りに行くんだからな! 向こうでいきなりそのジョルノって奴をブッ飛ばすとか、そういうのはナシだぜ!」
「分かっているわ」
由花子は満足そうに微笑んだ。
「ありがとう、虹村くん」
「お、おう……」
その笑顔を見て、億泰は少しだけ安心した。少なくとも、今すぐにでもスタンドを使って誰かに襲いかかるような雰囲気ではない。
「ところでよォ、イタリアに行ったら自由時間とかあんのか?」
「用事が済めば、少しくらい観光してもいいんじゃないかしら」
「マジかよ! だったらよォ、オレ、本場のピッツァってやつ食ってみてーんだよな!」
億泰の表情が明るくなった。
「あとパスタ! トニオさんの店で食ったやつも美味かったけどよォ、本場のイタリアじゃあどんな味がすんのか気になるぜ!」
「そうね。時間があったら行きましょう」
「よっしゃあ!」
拳を握って喜ぶ億泰。その姿を見ながら、由花子は小さく笑った。目的さえ果たせれば、あとは彼が何をしようと構わない。むしろ、一緒に来てくれるというのなら、食事くらい付き合ってもいいだろう。
そして、思い出したように言った。
「ああ、それと。もう一人、誘いたい人がいるの」
「ん? 誰だよ?」
「岸辺露伴先生」
億泰の笑顔が消えた。
「……え?」
「先生にも一緒に来ていただこうと思って」
「おいおいおいおい! なんでそこで露伴が出てくんだよォ!?」
「だって、先生のスタンドがあれば人探しも楽になるでしょう?」
「いや、そりゃそうだけどよォ……」
億泰は再び頭を抱えた。
山岸由花子。岸辺露伴。そして自分。
この三人で海外旅行。
考えただけでも頭が痛くなりそうだった。
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「断る」
翌日、岸辺露伴の自宅。
玄関先で事情を説明しようとした由花子は、わずか数秒でその言葉を浴びせられた。
「……まだ何も説明していないんですけど」
「説明されるまでもないね」
露伴は腕を組み、目の前の二人を不機嫌そうに見下ろした。
「わざわざ二人揃ってぼくの家まで来たんだ。どうせロクでもない頼み事に決まっている」
「そう決めつけるのはどうかと思いますけど」
「じゃあ聞こう。何の用だ?」
由花子は一呼吸置いて答えた。
「イタリアに一緒に来ていただきたいんです」
「断る」
「だから、最後まで話を……!」
「聞く必要があるのか? ぼくは忙しいんだ。君たちの旅行に付き合っている暇なんかない」
露伴はそう言うと、二人を追い返そうとした。しかし、億泰が慌てて口を挟む。
「いや、ちょっと待てって露伴! オレだって好きで来たわけじゃねーんだよ!」
「だったら帰ればいいだろう、虹村億泰」
「そーじゃねーんだよ! この女がよォ、イタリアにいる泥棒に会いに行くって言い出して……!」
露伴の動きが止まった。
「……泥棒?」
「ああ。康一のカバンを盗んだ奴がイタリアにいるらしくてよォ……」
「康一くんの?」
露伴の眉がぴくりと動いた。
「待て。詳しく話せ」
先ほどまでとは明らかに態度が違った。由花子は内心で首を傾げたが、ひとまず康一から聞いた話を説明することにした。
春に康一がイタリアへ行ったこと。空港でジョルノ・ジョバァーナという少年に荷物を盗まれたこと。その少年はスタンド使いで、カバンをカエルに変えて逃げたこと。そして、パスポートは取り戻したものの、荷物の中身はほとんど戻ってこなかったこと。
露伴は途中で何度か質問を挟み、そのたびに由花子が答えた。やがて説明が終わると、彼は考え込むように顎に手を当てた。
「……物体を生物に変えるスタンド、か」
「そうらしいんです」
「その康一くんの見たカエルは、本物の生物だったのか?」
「そこまでは聞いていませんけど……」
「ふむ……」
露伴は小さく唸った。無機物を生物に変化させるスタンド。確かに、奇妙な能力だった。これまで様々なスタンド使いと遭遇してきた露伴だが、そんな能力には覚えがない。
もっとも、本人が興味を持ったのは、単に珍しい能力だったからではない。物体を生命に変えるとは、具体的にどういうことなのか。変化した生物は意思を持つのか。元の物体の性質は残るのか。そして、なぜそんな能力を持つ少年が、わざわざ旅行者のカバンを盗んだのか。
どれも漫画の題材として興味深い。何より、実際にその場にいた人物の話を聞き、自分の目で確かめることには価値がある。
「……それで、そのスタンド使いの名前は?」
「ジョルノ・ジョバァーナです」
「ジョルノ・ジョバァーナ……」
露伴はその名前を口の中で転がした。
「康一くんがイタリアに行ったことは知っていたが……そんな興味深い奴と出会っていたとはね」
「おい露伴。面白いってなんだよ。そいつ、康一の荷物盗んだ泥棒なんだぜ?」
「そんなことは分かっている。ぼくが興味を持っているのはスタンド能力の方だ」
露伴は億泰を一瞥した。
「第一、君たちは本当にそいつを探しにイタリアへ行くつもりなのか?」
「ええ」
由花子は迷いなく答えた。
「康一くんに謝ってもらうために」
「……君という女は、相変わらずだな」
露伴は呆れたようにため息をついた。
「何がです?」
「何が、だって? 恋人のカバンを盗んだ奴を追いかけて、わざわざ海を越えようとしているんだぞ? 普通なら警察に任せるか、諦めるかのどちらかだろう」
「康一くんはもう許しているそうですから、警察に届けるつもりはありません」
「だったら君も諦めればいいじゃあないか」
「それは嫌です」
即答だった。
露伴は額に手を当てた。実に面倒くさい。この女は、昔からこうだった。広瀬康一という人物に対する執着心は相変わらずで、本人が成長したといっても、根本的な部分まで変わったわけではないらしい。
もっとも、康一は露伴にとっても数少ない、心から信頼できる友人だった。イタリアへ行く際には、自分のスタンドでイタリア語を話せるようにしてやったほどである。その康一が、現地でそんな目に遭っていたとは。しかも自分には何も話さなかったというのだから、少々面白くない。
ただし、康一がすでに許している以上、わざわざ本人に代わって報復する気など毛頭ない……多分。そもそも露伴にとって大切なのは、それとは別のことだった。
「……一つ聞くぞ」
「何でしょう?」
「そのジョルノ・ジョバァーナという少年は、今もナポリにいるんだな?」
「康一くんの話では、そうらしいです」
「住所は?」
「まだ聞いていません」
「学校は?」
「それも……」
「写真は?」
「ありません」
露伴は眉間に皺を寄せた。
「……君たち、まさか名前だけで探すつもりなのか?」
「今のところは、そうなりますね」
「ふざけているのか?」
「ふざけてなんかいません!」
由花子の声が僅かに強くなった。
「あたしだって、何の準備もせずに行こうとは思っていません。康一くんから詳しいことを聞くつもりですし、それでも分からなければ、現地で調べます」
「だから、ぼくのヘブンズ・ドアーを使いたいというわけか」
「……ええ」
露伴はしばらく由花子を見つめていた。それから、くつくつと笑い始めた。
「フフ……なるほど。そういうことか」
「……何がおかしいんです?」
「いや、実に君らしいと思ってね。肝心の居場所も分からない人間を追いかけて、外国まで行こうっていうんだから」
「先生には関係ないでしょう?」
「そうだな。関係ない」
露伴はあっさりと認めて続ける。
「だが、そのスタンド使いには興味がある」
由花子の目が僅かに見開かれた。
「……では?」
「勘違いするなよ。ぼくは君の復讐なんかに協力するつもりはない」
露伴は人差し指を立てた。
「ぼくが興味を持ったのは、物体を生物に変えるスタンドの使い手だ。実際に会って、どういう能力なのか確かめてみたい。漫画の取材になるかもしれないからね」
「……つまり?」
「イタリアには行く。だが、ぼくはぼくの目的で行動する。それでよければ、同行してやってもいい」
由花子の表情が明るくなった。
「ありがとうございます、露伴先生!」
「礼を言われる筋合いはない。言っただろう、取材だと」
露伴はそう言いながらも、二人に念を押した。
「ただし、向こうへ行ってから、ぼくの取材を邪魔するのはやめてもらいたいね。それに、ヘブンズ・ドアーを君たちの便利な人探し道具にするつもりもない」
「必要なときには、協力していただけるんですよね?」
「それはぼくが決めることだ。君が決めることじゃあない」
取り付く島もない返答だったが、由花子はさほど気にした様子もなかった。露伴の性格は十分に理解している。少なくとも、興味の対象さえ見つかれば、自分から進んで調べ始める人物だということは。
「ところで虹村億泰。君は何しに行くんだ?」
「お、オレか?」
突然話を振られ、億泰は一瞬言葉に詰まった。
「オレはよォ……由花子が変なことしねーように見張りに行くんだよ!」
「ほう?」
「あと、イタリアには美味えメシがいっぱいあるっていうしよォ……」
「……観光か」
「ち、違うっての!」
露伴は鼻で笑った。
「まあ、君らしいといえば君らしいな」
「んだとォ!? おめーだって、漫画のネタ探しに行くだけじゃあねーか!」
「ぼくの取材と君の食べ歩きを一緒にするな」
「なんだとコラァ!?」
「やめなさい、虹村くん」
由花子が間に入った。億泰はまだ何か言いたそうだったが、結局口を閉じた。
露伴はそんな二人を一瞥すると、玄関の扉に手をかける。
「とにかく、詳しい話はまた後日だ。ぼくにも仕事の都合があるし、いきなり明日出発というわけにはいかないからな」
「分かりました」
「それと、旅費や宿泊先は各自で考えておけ。ぼくは君たちの保護者じゃあないんだからな」
「ええ、もちろんです」
「……本当に分かっているのか?」
露伴は疑わしげな目を向けたが、由花子はにこりと微笑むだけだった。
「先生は、ご自分の取材のことだけ考えていてくだされば結構です」
「……そうさせてもらうよ」
少々癪に障る返答だったが、これ以上話しても時間の無駄だ。露伴は二人を玄関から追い出すと、そのまま扉を閉めた。
「まったく……。とんでもない取材になりそうだ」
口ではそう言いながらも、彼の頭の中ではすでに、イタリアで出会うであろう未知のスタンド使いに関する疑問が次々と浮かんでいた。
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「……というわけで、先生も来てくれることになったわね」
露伴の家を後にした由花子は、上機嫌だった。隣を歩く億泰は、げんなりとした顔で空を見上げている。
「……なあ、由花子」
「何?」
「オレ、今さらだけどよォ……なんかスゲー面倒くせーことに首突っ込んじまった気がすんだよなァ」
「そう?」
「ああ……」
億泰は深々とため息をついた。
「つーか、学校はどうすんだよ。オレたち、まだ高校生だぜ?」
「もちろん、ちゃんと考えているわ。なるべく休まなくて済むように日程を決めましょう」
「パスポートだって必要だろ?」
「そうね。持っていなかったら申請しないと」
「飛行機代は?」
「それも調べなくちゃね」
億泰は立ち止まった。
「……おめー、もしかして何も決めてねーのか?」
「今、決めているところでしょう?」
「いや、そういうことじゃあねーんだけどよォ……!」
由花子は不思議そうに首を傾げた。しかし、億泰にとっては十分すぎるほど不安な返答だった。
(……本当に大丈夫なのかよ、これ)
億泰は空を仰いだ。こうなったら、せめて自分だけでもしっかりしなければならない。旅費や宿泊先はともかく、学校を休むならきちんと連絡を入れる必要があるし、外国へ行く以上、向こうで何が起きるかも分からない。さすがに、いつものように何も考えずに出かけるわけにはいかないだろう。
そんな決意を固めた直後。
「……あっ」
「どうしたの?」
「オレ、パスポート持ってねーわ」
由花子は無言で億泰を見つめた。億泰も由花子を見つめ返す。
「……先にそれを何とかしないといけないわね」
「……だな」
二人は顔を見合わせ、小さくため息をついた。イタリアへの道のりは、まだまだ遠そうだった。
---
同じ頃。
東方仗助は、自宅で雑誌を読んでいた。ベッドに寝転がりながら、適当にページをめくっていたのだが、そこへ電話が鳴った。
「はい、東方ですけど」
『おう、仗助かァ? オレだよ、オレ!』
「なんだ億泰か。どーした?」
『いやよォ、ちょっと聞きてーことがあってさ』
「ん?」
『おめー、パスポートってどうやって取るか知ってるか?』
「……は?」
仗助は雑誌から顔を上げた。
「パスポート? なんでまた急にそんなモン……」
『いや、今度イタリアに行くことになってよォ』
「イタリア?」
『おう! 由花子と露伴と一緒にな!』
仗助の表情が固まった。
由花子。露伴。億泰。イタリア。
その四つの単語が、頭の中で妙な組み合わせを作り始める。
「……おい、億泰」
『あん?』
「ちょっと待てよ。おめー、今なんつった?」
『だから、由花子と露伴とイタリア行くんだって』
「なんで?」
『ああ、昨日康一が話してたろ? カバン盗られたって話。あれの犯人に会いに行くんだよ』
嫌な予感がした。いや、嫌な予感どころではない。昨日、喫茶店で感じたあの妙な雰囲気。由花子の穏やかな笑顔。不自然に動いていた髪の毛。そして、犯人の名前を聞き出していたこと。
その全てが、一つの答えに繋がった。
「……おい」
『ん?』
「おめー、まさか……本気で言ってんのか?」
『本気も何も、もう露伴も行くって言ってんだぜ?』
「露伴までェ!?」
思わず大声を上げた。電話の向こうで億泰が何か文句を言っているが、それどころではない。
「お、おい億泰! ちょっと待て! 由花子は今どこにいる!?」
『あ? さっき別れたけどよォ』
「くっそ……! なんでこうなるんだよ!」
『なんだよ仗助。そんなに騒ぐことねーだろ? 別に旅行に行くだけなんだからよォ』
「旅行じゃねーだろ、それは!」
仗助は頭を抱えた。由花子が康一のことで暴走するのは、今に始まったことではない。だが、今回は規模が違いすぎる。何しろ、行き先は日本から遠く離れたイタリアだ。
しかも同行者は虹村億泰と岸辺露伴。前者は頼りになる相棒だが、何かと思いつきで行動するところがある。後者に至っては、興味を持ったことを調べるためなら危険な場所へでも平気で踏み込んでいくような男だ。
その二人が由花子と一緒に外国へ行く。
仗助には、まともな結果になる未来がまるで想像できなかった。
「……おい億泰。とにかく、まだ飛行機の予約とかしてねーんだよな?」
『おう。これからだってよ』
「だったら、ちょっと待ってろ。オレから康一に話してみるからよォ」
『康一に? なんで?』
「なんでって……そもそも康一の話だろーが!」
電話の向こうで億泰が「ああ、そういやそうだったな」と呑気に答えた。仗助はもう一度、大きなため息をついた。
「……ったくよォ」
電話を切ると、仗助はすぐさま康一の家へ連絡を入れた。数回の呼び出し音の後、聞き慣れた声が受話器から響く。
『はい、広瀬です』
「康一か!? オレだ、仗助だ!」
『あ、仗助くん。どうしたの?』
「あのよォ、ちょっと落ち着いて聞いてほしいんだけど……」
『う、うん?』
仗助は一度深呼吸した。それから、できるだけ慎重に言葉を選ぶ。
「……由花子のことなんだけどよ」
『由花子さん?』
「ああ。おめー、昨日イタリアでカバン盗まれたって話しただろ?」
『うん。それがどうかしたの?』
「……その話を聞いてよォ、由花子がイタリアに行くって言い出したらしいんだ」
『……え?』
「しかも億泰と露伴も一緒にな」
しばらく返事がなかった。
「……康一?」
『…………』
「おーい、康一くーん?」
ようやく返ってきた声は、ひどく震えていた。
『……ちょ、ちょっと待ってよ仗助くん』
「おう」
『イタリアって……あのイタリア?』
「それ以外にどんなイタリアがあんだよ!」
『な、なんで!?』
「オレが聞きてーよ!」
受話器の向こうから、何か物音が聞こえた。康一が椅子から立ち上がったのか、それとも慌てて何かをひっくり返したのか。とにかく、相当動揺しているらしい。
『由花子さん、まさか……ジョルノに会いに行くつもりなの!?』
「どうもそうらしいぜ」
『そんな! だって僕、もう気にしてないって言ったのに!』
「それで納得してくれるなら、オレだって苦労してねーよ……」
『ど、どうしよう仗助くん! 止めないと!』
「だから今、おめーに電話してんだろーが!」
仗助はそう言いながら、窓の外に目を向けた。十一月の夕暮れ。杜王町の空は、いつもと変わらず穏やかな茜色に染まっていた。そんな平和な町で、今まさに、とんでもない計画が進行している。しかも、その中心にいるのが山岸由花子だというのだから始末が悪い。
「……とにかく康一。明日、由花子と話してみてくれねーか?」
『う、うん! もちろんだよ!』
「頼むぜ、マジで……」
仗助は祈るような気持ちで電話を切った。そしてベッドに腰を下ろし、天井を仰ぐ。
「……なんでこうなるかなァ」
誰にともなく呟いたその言葉に、答える者はいなかった。
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その頃、岸辺露伴は自宅の仕事机に向かっていた。机の上には描きかけの原稿と、資料用のノートが広げられている。露伴はペンを走らせながら、昼間に聞いた話を思い返していた。
物体を生物へと変えるスタンド。ジョルノ・ジョバァーナという、イタリアの少年。そして、その少年を探すために海を越えようとしている二人の高校生。
「……まったく、馬鹿げた話だ」
そう口にしながらも、露伴の表情はどこか楽しそうだった。彼はノートの端に、一匹のカエルを描き込んだ。
「だが、悪くない」
康一のカバンをカエルに変えた少年。一体どんな人物なのか。どんなスタンド能力を持っているのか。そして、何を考えてそんな能力を泥棒に使っているのか。漫画家としての好奇心は、すでに十分すぎるほど刺激されていた。
もちろん、物体を生物に変える能力などというものは、康一の説明から得られた情報にすぎない。実際にそのカエルがどのような状態だったのかも、今のところ分からない。
だからこそ、確かめる価値がある。
人から聞いた話だけで満足するようでは、漫画の取材にならない。自分自身の目で見て、体験し、そこから何かを描き出してこそ意味があるのだ。
「ジョルノ・ジョバァーナ……か」
露伴は小さく呟き、ペンを置いた。
当然ながら、彼はまだ知らない。その名前が、現在のイタリアの裏社会において、どれほど大きな意味を持っているのかを。そして、その少年が率いる組織の名を。
『パッショーネ』。
イタリア全土に勢力を広げる、巨大なギャング組織。その頂点に君臨する少年のもとへ、遠く離れた日本の杜王町から、三人のスタンド使いが向かおうとしていた。
理由は、ただ一つ。
かつて少年が盗んだ、日本人高校生のカバン。
それだけである。
もちろん、当のジョルノ・ジョバァーナは知る由もない。自分が八か月ほど前に犯した窃盗が、今になって思いもよらぬ形で返ってこようとしていることなど。ましてや、これからイタリアにやってくる三人のうち、一人が恋人のためなら何をしでかすか分からない女であり、もう一人が他人の人生を本のように読める漫画家、そして最後の一人が空間そのものを削り取る男だということも。
こうして、杜王町からイタリアへ向けた、奇妙なお礼参りの計画が動き始めたのであった。
――To Be Continued.