抜け出せない沼を持つ男と実力主義の教室。雛鳥は何を見るか。 作:末路雛鳥
処女作です。面白いと思っていただけたら嬉しいです。誤字や脱字などの報告も、あればお願い致します。
もしかしたら総武中学に入学したのは間違いだったかもしれない、
そんなことを時々思っている男、比企谷八幡。現在十五歳で誕生日は八月八日。普通の中学生三年生だ。
いや普通は些か語弊があるな。俺の小学生時代を聞かせてやろうか? おそらく不良やヤクザも震え上がるであろう武勇伝(黒歴史) を持っている。最悪の場合、その場で涙を流し崩れ落ちて悲鳴をあげながら逃げ出す始末。最強かよ。
目が腐っていて友達がいないことを除けば俺はハイスペックだと自負している。致命的だと思うか? 友達はいるよ? うん、知らんけど。
ある日の放課後。誰もいない教室には十月特有の冷たい秋の空気が広がっている。 紅葉の葉が風に揺れ、教室の窓から差し込む夕日がどこか柔らかい。まるで重い病気を抱えている主人公が病室から外を見るように机に肘をつき、外を見る。
なんてかっこいいこと考えているが。
授業中に居眠りして誰も起こしてくれなかったのだ。居眠りした俺も悪いが起こしてくれていいだろうに。え? 影が薄くて分からなかった? あっ、そう。
ちなみに授業は数学だった。数学なんていらなくないか? 将来精々、足し算とか引き算、掛け算と割り算ぐらいしか使わんだろう。うん、間違いない、俺は間違っていないのだ。
なんて、くだらないことを考えながらこれまでの学校生活に想いを馳せる。
総武中学校での生活も残り少なくなり、最近は穏やかな時間が流れている。 放課後にいつも足を運ぶ奉仕部の活動も、ここのところは目立って大きな騒動は起きていない。今までが騒がしすぎただけだが。
あの聞くだけで死にそうな毒舌をぶち込んでくる雪ノ下や、空気を読みすぎてたまに空回りする愛すべきアホの子、由比ヶ浜。それに、やたらと爽やかな笑顔を振りまくリア充(笑)の葉山。あざとい後輩の一色。
本当にいろいろあった。文化祭とか修学旅行とかクリスマスの件とか、他にも数々の面倒事に巻き込まれまくった日々。だが、その数々の苦労話については、また別の機会に語るとしよう。一時期は本当に学校に行くのが億劫だった。その時を思い出して入学したことを今でも後悔するレベル。
だが、そんなことよりも今俺を悩ませているのはもっと現実的な問題だ。 雪ノ下と由比ヶ浜の会話に、やたらと進路という単語が登場するようになった。受験生なんだから当たり前といえば当たり前だ。あいつらは内部進学の総武高校を目指すらしい。二人とも出席日数とか授業態度が良いので受かるだろ。(由比ヶ浜のテストの点だけ心配だ)
俺自身はというと、高校なんてまったく決めていなかった。
この前まで、受験なんてまだまだ先、なんて思っていたらもう中三の秋。時間の流れは早いものだ。流石の俺でも、進路は人生に関わるので慎重になっている。ちなみに俺の将来の目標は専業主夫だ。
……おい、そこのお前。今、画面越しにゴミでも見るような目を向けただろ。やめてくれ、八幡死んじゃう。ガラスのハートが粉々に砕け散っちゃう。
いいだろ、専業主夫。奥さんが仕事から帰ったら手作りの暖かい料理にお帰りという優しい言葉、オマケにイケメンの夫がいる家。え? お前はイケメンじゃない? いやいや、俺は目以外は整っている。うん、目以外は。あれ、目から塩水が。
「はあ」
一つ大きなため息をつく。
なんだかんだ言っても、俺は悩んでいる。専業主夫という目標はあるにしても、現実問題として中卒では、もしものとき碌な仕事につけない。
専業主夫ではないが、夢らしきものが俺にもできてしまった今、少しでもマシな高校に行きたいと思う。夢? それはまた別の機会に。八幡恥ずかしくて死んじゃうから。
昔に比べたら、自分もずいぶんと変わったような気がする。 一人でいることが絶対であり、他者との関わりなんてものは時間の無駄でしかない。そう本気で信じていた時期もあった。いや、今でも基本的にはそのスタンスを崩すつもりはないが。
だけど、奉仕部という狭い空間で、面倒な奴らと顔を突き合わせるうちに、どうにも自分の内側に変化が生じてしまったのは否定しきれない事実だ。
俺が探し求めているもの。 「本物」 まだ見つかっていない。そもそも、そんなものがこの世に存在するのかどうかも怪しいところだ。探せば探すほど、蜃気楼のように遠ざかっていくような気もする。
だが、それでも。 コイツらと過ごしてきた時間は、決して無駄じゃなかった。 素直に認める気はないが、俺にとってあの騒がしい日常は、それなりに大切なものになっている。雪ノ下の毒舌も、由比ヶ浜のアホな発言が、今となっては心地よい日常の一部みたいに馴染んでいる。
だからこそ、少しばかり考えてしまう。 これから先、俺たちはどこへ向かうのだろうか。中学校という狭い世界を抜け出した後、この関係はどうなってしまうのか。
未来のことなんて誰にもわからない。どんな天才でも、全知全能な存在でも、先の景色を見通すことなんてのは絶対にできないんだ。そんな事実が不安で、どこか寂しくもある。 それでも、今はただ、どこか歪で、心地のいい、そんな面倒な関係に、付き合っていこう、そう思う。
原作よう実はまだ二話ぐらい後です。
読んでいただきありがとうございました