抜け出せない沼を持つ男と実力主義の教室。雛鳥は何を見るか。 作:末路雛鳥
うさぎって可愛いですよね。全く関係ありませんが。
では本編をどうぞ。
今回は八幡くん視点です。
カラオケでの騒ぎから解放され、俺は一人、夜の海沿いを歩いて寮へと向かっていた。 潮風が頬を撫で、波の音が心地よく耳に響く。
海沿いを歩いているのは単純に気分だ、たまには帰り道を変えてみようと、何故か思ったのだ。
……だが、その選択を後悔することになる。
ガシャンッ! ガシャァァンッ!!
「……ん?」
ひどく暴力的な金属音が響き渡った。
夜の海沿いという一本道。音の出所は、帰るべきルート上から聞こえてきている。
足音を完全に殺し、そっと首だけを出して様子を窺った。
「あー、あー! もう、うざい、うざいっ!!」
……え?
フェンスに強烈な蹴りを叩き込んでいる人影。
ショートボブの髪を振り乱し、フェンスを親の仇のように蹴り上げているその女子生徒。
名前は、えーっと。
……あぁ、櫛田か、綾小路といつかの昼休みに話していた。
ガシャンッ!!
「堀北のおかげとか、みんな言って! 勉強会をして赤点組みの赤点を回避させた……すごいけど! ムカつく!」
……褒めるんだ。
「綾小路も綾小路よ! 堀北を素直に紹介すればよかったのに!」
……それはそう、多分堀北は拒否するが。
「だいたい、何が『櫛田ちゃんは顔も胸も綾小路ちゃんに少し劣るよな』だ! だまれ山内! クソ変態野郎!!」
え、えぇ……。
普段の櫛田は知らないが、まさかこんな裏の顔を隠し持っていたなんて。
この間見た顔と全く違うぞ。
しかも、その怒りの沸点が堀北のことと、綾小路より顔と胸が少し劣るという男子のデリカシー皆無な評価だっていうのが、生々しすぎて泣けてくる。
いや、山内って誰か知らないが、とりあえずクソなやつだとは理解できた。
そんな、どうでもいい考えを頭の片隅で考えてしまったのが運の尽きだった。
静かにこの場から後退しようと一歩足を踏み出した、その瞬間。
ザッ、と、音を立ててしまった。
ピタリ。 フェンスを蹴り上げる櫛田の足が、空中で止まった。
そして、ゆっくりと。本当に、ホラー映画の怨霊のようなぎこちない動きで、彼女が首だけをこちらへ振り返らせる。
彼女の瞳が、俺の姿を、完全に捉えた。
「――あ?」
低く、地を這うようなドス黒い声。
oh。
完全にブチギレてらっしゃる。
俺は一切の迷いなく、踵を返して全速力で走り出した。
当たり前だろ。
こんな絶対に見ちゃいけない場面を目撃してしまって、その場に止まって世間話ができるわけがない。
関われば間違いなく海の底に沈められる。
「待って! さっきから見てたわね!」
背後から、早く凄まじい足音が迫ってくる。
「あっ、ちょっ、待てよ!」
「……あんなの見たら逃げるに決まってるだろ!」
俺は半泣きになりながら、全力ダッシュで駆け抜ける。
キ〇タクみたいなセリフを吐きながら鬼の形相で追いかけてくる美少女なんて、恐怖以外の何物でもない。
だが……悪いな、俺は友達がいないことと目が腐っている以外はハイスペックの男、この先の展開を期待したやつには申し訳ないが、逃げ切らせてもらうぜ!
……で、現在。
俺は中学の頃から自転車通学で鍛えられた体力こそあるものの、足が特別速いわけではない。
櫛田の足は、普通に速い。
……結果としてどうなったか。
寮の裏手で櫛田に思い切り胸倉を掴み上げられていた。
いやー惜しかった、寮までは来れたんだが、後ろから首を鷲掴みされたのマジで怖かった、はは。
……笑えねぇ。
「……っ」
首が締まる。物理的な苦しさもあるが、それ以上にプレッシャーがエグい。 見下ろしてくる彼女の目が、怖い。
親の仇、いや、もはや人間の言葉が通じない未知の凶悪生物でも見下すような冷たい目。
俺の目も大概だが、この純度100%のドス黒い殺意の目には敵わない。
本気でチビりそうになる。これは効く。
精神的ダメージが計り知れない。
「今聞いたこと、誰かに話したら容赦しないから」
地を這うような、ドスの効いた声。 胸倉を掴む手に、ギリッと強い力がこもる。
はい、絶対に誰にも言いません。
「もし……その、話したら?」
あ、あれ? 思っていたことと全く違う言葉が。
そんな間の抜けた問いかけに、櫛田はフッと、夜の闇よりも暗い笑みを浮かべた。 そして、俺の耳元に顔を寄せ、とびきり甘くて、とびきり邪悪な声で囁いた。
「アンタに、レイプされたって言いふらしてやる」
……レイプ。女子高生からの、身の毛もよだつ虚偽の告発。
終わる。そんな噂を流されたら、この学校での平穏な生活どころか、俺の人生そのものが一発で終了だ。
退学なんて生ぬるい。警察沙汰になり、前科持ちという最悪のレッテルと共に俺は死ぬ。
女の武器を最大限に悪用した脅迫。
俺は一切の迷いなく、胸倉を掴む彼女の腕を振り解き
躊躇もなく、アスファルトの地面に両膝をつき、額を全力で擦り付けた。
……土下座。
プライド? そんなもの、そこら辺の犬に食わせたわ。
命と平穏には代えられない。
俺の十五年の人生で培ってきた最大の教えは、誰よりも早く、誰よりも美しく地面に這いつくばることだ。
「申し訳ありませんでした! 命だけはお助けを!」
情けない命乞いを叫んでいると、頭上から困惑の声が聞こえた。
「……は?」
櫛田の、完全に素の、戸惑ったような声が落ちてくる。
「ちょ、ちょっと……アンタ、何してんの……」
明らかに動揺している。
そりゃそうだろう。秘密を握った男を脅迫したら、反抗するでも逃げ出すでもなく、土下座をかましてきたのだ。
流石の彼女も、この展開は理解できなかったらしい。
「いや、ちょっと、頭を上げてよ……誰かに見られたらどうすんのよ」
少し焦ったような、あたふたとした声。
あれ?
脅しをかけてきたくせに、俺が土下座をしただけで動揺している。
もっと冷酷に地面や靴でも舐めなさいくらい言うかと思っていたのに。
なんだ、根はそこまで悪くないんじゃないか? というか、この状況にビビっているのは向こうも同じなのかもしれない。
そう思って、俺は少しだけ安心しながら返事をして、ゆっくりと顔を上げた。
その、瞬間。
土下座の姿勢から顔を上げるという、極めて下から上を見上げる絶妙な角度。
そして、目の前には、動揺して少し足を開き気味に立っているスカートの女子高生。
…………。
時間という概念が停止したかのような、そんな錯覚。
いや、不可抗力だ。決して狙ったわけじゃない。
視線の先に気づいた櫛田の動きが、ピタリと止まる。
…… 数秒の、恐ろしいほどの静寂。
バサッ!
櫛田が両手で慌ててスカートの裾を押さえ込んだ。
夜の暗闇の中でもはっきりとわかるほど、その整った顔が耳の先まで真っ赤に染め上がっている。羞恥と、先ほどとは別ベクトルの怒りが沸点に達する音。
「――っ、この、バカァッ!!」
ドゴォッ!!
「ぐへぇっ!?」
鼻の頭にクリーンヒットした強烈な蹴り。
俺の体は土下座の姿勢から見事な放物線を描き、無様に地面に転がった。
フェンスにあれだけ音を立たせていた蹴りだ、痛くないわけがない。
「いってえええ……!」
鼻を押さえて悶絶している間に、
足音が向こうへと逃げ去っていく。
あとに残されたのは、仰向けに倒れたままの俺だけ。
「……っ」
鼻の奥から、温かい液体が流れ出してくるのがわかる。 指で触れてみると、べっとりと赤い血がついていた。
鼻血だ。ダラダラと出血している。
蹴りを顔面に食らったせいか、それとも視覚的刺激のせいか、原因の割合は俺自身にもわからない。
俺は夜空を見上げたまま、動く気力もない。
諸君。 一つだけ、言わせてほしい(弁明)
この学校の女子の制服のスカートは、異常に短い。 もはや膝の上なんてもんじゃない。
太ももの半分以上が露出している、完全に風紀を乱す危険な丈だ。
エッチなのはダメ、死刑! とどこからか聞こえてくるぐらいだ。
そんな布の面積で、どうやって日々の階段や風のイタズラから身を守れというのか。
学校側は一体何を考えてあのデザインを採用したんだ。まずはスカート丈の是正から始めるべきだろ。
薄れていく意識の中、俺は最後まで清々しかった。
最後に、一つだけ。
……白って、綺麗な色だよな。
……ガク
活動報告で一日一回のログインボーナス程度の感覚でイラストを投稿しています。毎日ですので、一緒に上達していく様子を見てみましょう、ちなみに目標はタイトルとキャラたちのイラストです。
明日は雪ちゃんと雛鳥ちゃんとの会話。ここで雛鳥ちゃんがどう変わったのか、確認できます。
ここまで読んでくださりありがとうございます!