抜け出せない沼を持つ男と実力主義の教室。雛鳥は何を見るか。   作:末路雛鳥

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二話目です。今回は奉仕部2人と進路の話。では、お楽しみください。


奉仕部と進路。俺は〇〇になりたい

次の日。放課後のチャイムが鳴り終わり、いつものように特別棟の空き教室へ向かう。 見慣れたプレートを視界の隅に入れながら扉を開けると、そこにはすっかり見慣れてしまった風景が広がっていた。

 

「あら、こんにちは、比企谷くん。今日も見事に目が腐っているわね。襲われる前に退治しないといけないかしら」

 

開口一番、挨拶の代わりに飛んできたのは、冷たすぎる雪ノ下雪乃の毒舌だ。

 

文庫本から顔を上げ、その息を飲む美貌を晒しながら、それを台無しにするほどの、暴言を息を吐くように繰り出すその手腕にはもはや感心すら覚える。

 

いや、感心したくないな、それに退治て、俺はゾンビでもないぞ。俺の目は腐っているだけじゃない、多分、知らんけど。

 

「やっはろー、ヒッキー! 今日も目が死んでるね!」

「……お前ら、俺の目になんか恨みでもあるのか?」

 

雪ノ下の隣では、由比ヶ浜結衣が満面の笑みで手を振っていた。しかも、あろうことか雪ノ下の腕にめちゃくちゃ抱きついている。

 

今日も百合百合しいな。目の保養だ。雪ノ下もそのスキンシップを嫌がりもせず、むしろ頬を染めて自然に受け入れている。……なんだその反応、由比ヶ浜に甘すぎだろ。

 

少し前のこいつらなら、到底考えられない光景だ。出会った当初なんて、雪ノ下の冷たい視線と正論、暴言に由比ヶ浜の気まずそうな苦笑い、ついでに不審者一名。  いや俺は不審者じゃねえ。俺の目は街を歩いていたら必ず1人に悲鳴をあげられるぐらいだぞ。あれ? それって不審者では?

 

今ではこの2人は大の仲良しになっている。もはや親友と呼べるだろう。人間の適応能力ってやつは侮れない。これでも結構マシな関係に、俺? 俺は2人のサンドバッグだが。雪ノ下の冷たい視線と暴言と由比ヶ浜の悪意なき悪口には慣れすぎた。むしろもっとちょうだい。

 

もしかして調教されてる?

 

その事実に背筋を凍らせながら適当に相槌を打ち返し、自分の定位置である二人の反対位置のパイプ椅子に腰を下ろす。

 

二人は俺への言及に満足したのか、再び自分たちの会話に戻っていった。進路の話をしているらしい。またかよ。

 

聞こえてくる内容を総合するとやはり二人とも内部進学で総武高校へ進むつもりみたいだ。

雪ノ下は当然として、問題は由比ヶ浜だ。あいつの絶望的なテストの点数は内部進学の基準を満たせるのか、総武高校は海浜高校と並ぶ千葉ではネームバリューのある高校である。

 

そんな高校にどうしてこの中学に入れたかさえ分からない由比ヶ浜が内部進学とはいえ入学できるか甚だ疑問である。

雪ノ下がつきっきりで勉強の面倒を見ているようだから、ギリギリで首の皮一枚つながるんだろうけど。

 

そんな二人の平和な会話を聞きながら、俺は鞄の中から一冊のパンフレットを取り出した。

紙に印刷された表紙には、『高度育成高等学校』という文字が書かれている。

 

このパンフレットを俺に渡してきたのは、国語教師であり奉仕部の顧問でもある平塚静先生だ。

俺をこの部活に無理やり引きずり込み、雪ノ下や由比ヶ浜と引き合わせた張本人。いわば、恩師と呼んでも過言じゃない存在だ。熱血で、やたらと理不尽な拳骨を落としてきて(普通に痛い)そして何より――未だに独身だ。

 

どこの誰でもいいから、マジであの人をもらってやってくれないだろうか。あのままじゃ三十路の壁を越えて取り返しのつかない独身になってしまう。たまに見せる弱々しい顔に涙を隠せない、世の男性陣はもっと見る目を持つべきだろ。

 

そんな余計なお節介はさておき、パンフレットのページをめくる。

俺が調べた内容も合わせると以下の通りだ。

『日本政府が生み出した、未来を担う若者を育成する学校』

『就職、進学ともにほぼ百%を誇る、国屈指の名門校』

 

……胡散臭い。正直言ってこの高校のことを俺はあまり信用していない。

何故ならこれだけの恩恵を貰えるのなら、もっとこの高校の卒業生の有名人が世間に沢山いるはずだ。

テレビで見ても、携帯で調べてみても、この学校の卒業生の有名人はあまりに少なすぎた。

 

世の中に百%なんて数字が存在するわけない。はっきり言って怪しすぎる。だが平塚先生はこの学校から俺に推薦が来ていると言った。なら、せっかくの推薦だし、入試を受けてみないと勿体ない。そんなことを考えていたら一つの項目に目が止まる。

 

『三年間、外部と完全に遮断された閉鎖空間での寮生活』

 

マジか。 つまり、実家から離れ、外界との連絡すら完全に制限されるってことだ。

条件としては悪くない、むしろよろこんでいるまである。一人暮らしをしてみたい。誰にも指図されない、どれだけ寝ようが夜更かししようが何も言われない、はっきり言って天国だ。

 

携帯で敷地内の大きさを調べてみる。なるほど、見れば人工島らしい。本土から切り離された東京湾の埋立地にあり、その広さは約六十万平方メートル以上と、小さな街と言える。少なくとも、三年間余裕で過ごせるだけの広さはある。

 

ただ、唯一にして最大の欠点は、愛すべき妹である小町と三年間も離れ離れになってしまうことだ。あぁ、小町ぃ、お兄ちゃん寂しいよぉ、小町成分不足で発作が出てもおかしくない。まだ入学できると決まっているわけではないが、想像するだけで死にそうになる。

 

小町の方も「お兄ちゃんがいなくて寂しいよぅ」と夜な夜な涙で枕を濡らすに違いない。泣かない? いや絶対泣く。泣くはずだ。泣いてほしい(願望)

 

それでも、俺はここを受験することに決めた。

一人暮らしの練習ができるし、何より将来は専業主夫になるという目標を叶えられるチャンスだ。冷静に考えてみてほしい。国屈指の名門校ともなれば、将来有望なエリートな女子が沢山いるんじゃないか?

 

つまり、そこで優秀なお嫁さん候補を見つけて彼女にして、彼女との楽しい学校生活を送れば、俺の専業主夫としての目標も青春の謳歌もできる。進路もおまけに叶えられる。

 

我ながら完璧なプランだろ。これぞ真の逆玉の輿作戦。不純な動機? うるさい、人間は己の欲望に忠実に生きるべきだ。え? そんな目的のお前がモテるはずないだろ? ……何も言い返せない。

 

1人漫才で自分を納得させようとしている自分がいる。 本当は、もっと別の理由があることくらい、俺自身が一番よくわかっている。

 

誰にも言わない。絶対に口に出したりしない。

ただ、あの人が見せてくれた、生徒に真剣に向き合う真っ直ぐな背中。

すぐに殴ってくる(致命的すぎる)けれど、それでも俺は救われた。

 

あんな風に、誰かの人生の分岐点で一緒に悩めるような、誰かの助けになれる、そんな大人になるのも悪くないんじゃないかって。俺みたいなどん底を経験した人しかわからない苦しみも、救えるんじゃないかって。自惚れてはいないが、それでも、目標は人それぞれだし、いいだろう。

 

要するに。 俺も、平塚先生みたいな教師になってみたい、なんて。

 

そんな柄にもない、気恥ずかしい思いが芽生えてしまったのは紛れもない事実だ。

口が裂けても言わないが。雪ノ下や由比ヶ浜に知られでもしたら、一生分の揶揄いと爆笑を浴びせられるに決まっている。

 

だから、この思いは胸の奥底にそっとしまっておく。

 

「俺、進路決めたわ」

 

静寂を破るように、俺はポツリとこぼした。 部室の空気が、ふっと止まる。雪ノ下と由比ヶ浜の視線が、同時にこちらへ向けられた。それはそうだろう、今まで俺は進路のしの字もなかったのだから。

 

「高度育成高等学校。そこを受験することにした」

 

パンフレットを鞄に押し込みながら、できるだけ平坦な声で告げる。

 

「勿論、落ちたら同じ総武高校を受けるがな。」

 

二人の反応はひどく対照的でありながら、予想以上に劇的なものだった。

由比ヶ浜の顔から、ふにゃりとしたいつもの笑みがスッと消え去る。頭の上にないはずの犬耳と尻尾が、パタンと力なく垂れ下がったのが幻で見えた気がした。

 

「え……それって、東京の……? 寮に入っちゃうって、こと?」

 

縋るような、ひどく心細そうな声。寂しさを隠そうともしないその姿に、俺まで居心地が悪くなってくる。ていうか由比ヶ浜、この高校のこと知ってたんだな。

 

そして、もっと異常だったのは雪ノ下の方だ。

 

「…… ぇ、なにを言っているのかしら、あなたは。あそこは国で有名な名門校よ、在学中は外部との接触が……その、一切禁じられているはずよ。それなのに、決めてしまったの? 会えなくなってしまうじゃない(小声)……」

 

最後の方は聞こえなかったが、それでも、顔を真っ青にして、尚且つ手が震えている雪ノ下。ここまで動揺したのは初めて見る。

 

「お、おい、雪ノ下、大丈夫か」

 

反応はない。雪ノ下は俯き動かない。

 

二人の反応の理由はわからんでもない。ずっと同じ総武校の内部進学で、これからも同じように続くと思っていた日常が、俺の一声でバッサリと断ち切られるわけだ。

 

俺だって血も涙もない人間じゃない。この空間から離れることに、まったく未練がないと言えば嘘になる。雪ノ下と由比ヶ浜も、寂しいのだろう。(クソボケ)

 

「まあ、なんだ……寂しくは、あるな」

 

気付けば、そんな言葉が自然と口をついて出ていた。

 

まずい、と思ったのも束の間、部室の空気がピクリと凍りついた。 由比ヶ浜と雪ノ下が顔を見合わせる。そして、まるで示し合わせたかのように、ぴたりと息を揃えて俺の方へ顔を向けた。雪ノ下はどこか拍子抜けして、安堵した様子で、由比ヶ浜は満面の笑みで。

 

「「捻デレ……」」

 

「誰が捻デレだ。俺はデレてなんかないし、そもそも捻くれてもいない。極めて真っ直ぐに、自分の考えに従っているだけだ。ていうか、捻デレってなんだよ」

 

俺の言葉を無視して雪ノ下は顔をこっちに向けて口を開く。

 

「まったく、突然何を言い出すのかと思えば……本当に気持ちが悪いわ、勘違い谷くん」

 

雪ノ下の表情は言葉とは違い優しく穏やかな笑みで、思わず見惚れてしまった。

 

「いやいや、俺の名前は悪口じゃないんだが。なんだよ勘違い谷って」

 

「あはは! もー、ヒッキーったら! びっくりさせないでよ! でも、ヒッキーが決めたなら、応援しなきゃ、だよね……」

 

由比ヶ浜が少し寂しそうに笑い、それを隠すように再び雪ノ下の腕にぎゅっと抱きつく。雪ノ下も「ちょっと、由比ヶ浜さん、離れてちょうだい」と口では文句を言いながらも、本気で払いのける気配はない。

 

騒がしい、でも穏やかな放課後の部室。 なんてことはない。こんな時間も、決して悪くない。

 

いつか、この場所がなくなってしまう日が来るのだろうか。それぞれの道を進み、このどうしようもない日々を、過去のものとして置いていくのだろうか。

 

大人になって、ふとしたときにこの日常をなくしたことを後悔する日が来るのかもしれない。 それでも、ここで過ごしたこの時間は、間違いなく俺たちの中で大切なものになるのだろう。

 

胸の奥に渦巻く、この妙にこそばゆい感情。それを気の利いた言葉にして相手に伝えることなんて、俺には到底できそうにないし、言葉にできないのも、また逃れようのない事実だ。

俺たちは間違えて、間違え尽くして。

 

すれ違い、傷つけ合い、不器用な言葉をぶつけ合って。正解なんて最初から用意されていないかった。テスト用紙に、一夜漬けの付け焼き刃で挑むような、そんな無様で滑稽な日々。

それでも、泥臭く捥がき苦しみながら、俺たちはここまで悩みながら進んできたんだ。

 

だからこそ、俺が選んだこの答えも、きっと間違いだらけの選択肢の一つに過ぎないのだろう。




末路雛鳥です。改めて、はじめまして、おはようございます、こんにちは、こんばんは。投稿は最低でも一日に一回はしたいなと思っています。あと、一年生編は最後まで絶対やります、止まることはないです。何故かって? 手元にラノベが一年生編まであるので。初めての小説で何かと不快にさせてしまうかもしれませんが、暖かく見守ってくださると、嬉しいです。

よかったら感想をお聞かせください。あと、ヒロインは一通り決めてはいるんですが、この人をヒロインにしてほしい! この人との関わりを書いてほしい! とかありましたら意見をください。

あっ、ちなみに龍園とかなしですよ(笑) 大人気ヒロインなのは分かりますが。

本当ですよ(真顔)
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