抜け出せない沼を持つ男と実力主義の教室。雛鳥は何を見るか。 作:末路雛鳥
では、本編をどうぞ。
誰もいない廊下を1人で歩く、他のクラスは自己紹介をしている最中らしい。
校舎を出てそのまま歩き続けたらマンションが見えてきた。デカいし高い、高級マンションと呼べるほどの外見。
一階フロントの管理人から401と書かれたカードキーと、寮のルールが描かれたマニュアルを受け取った。
エレベーターに乗りながらマニュアルを見る、簡単に言えばゴミ出しの日と時間、騒音の注意と水の使い過ぎや無駄な電気の使用を控えることなどの生活の基本の事柄ばかりだった。
「俺は友達とか部屋に呼ばないから騒音の心配はないな」
そんな聞く人の涙が止まらない話はさて置き、電気やガス代も制限がないらしい、本当に万全な設備だな。こんな甘やかして大丈夫か?
それに男女共用の寮になっていることに驚いている、高校生にそぐわない恋愛をはしてはいけないと書いているが、当たり前だろ。リア充は滅びろ(過激)
部屋に入る、僅か八畳ほどのワンルーム、俺だけの部屋って考えたらなんかこう、テンション上がるな。
鞄から着替えを出してタンスに入れる、愛用のI❤︎千葉Tシャツはもちろんあるぞ。制服を脱ぎ捨ててベッドの上に置く、灰色のパーカーを着て黒のズボンを履く、似合っている、似合いすぎている。そう、暗い色が似合う、俺は暗い男、目が腐った男。
……あれ、目の前が滲む。
そっと袖で目元を払いポケットに学生証を入れて出る。
一通りの家電はあるが食べ物と飲み物、食器や洗剤とか諸々がないから買いに行かないといけない。
コンビニに入りカゴを持ち買い物を始まる。
カップラーメンと野菜に肉、クッション一つにコップと皿、洗面用具、こんなところか、あとはーー
その瞬間、俺の目が見開くことがわかった、それほどまで瞼が見開いている。
鮮やかな黄色をベースに茶色の波線が走る缶。
あのデザイン、あのいかにも健康に悪そうなエナジードリンクのような缶、間違いない!
千葉県民のソウルフードにして、血液(個人の意見です)。一口飲めば強烈な甘さ、糖分で虫歯菌が歯の上で歓喜のダンス踊り出すという、飲み物。
間違いない。マックスコーヒーだ!
略してマッ缶。このコンビニで再会できるなんて思ってもみなかった。敷地内の自販機とか探し回ろうと思っていたのに。
彦星と織姫だって、ここまで劇的な再会は果たせないだろ。運命ってやつは、時として俺に味方する。
震える手で(禁断症状)その黄色い缶を手に取り、恐る恐る棚に貼られた値札へと視線を落とす。
『百P』
……は? 百ポイント?
安い。安すぎる。千葉では一本百二十円だった。ここでは十個まとめ買いしたところで、たったの千ポイント。先ほど支給されたばかりの十万ポイントという大金からすれば、誤差の範囲でしかない。
つまり、毎日浴びるようにマッ缶を飲んでも、俺のポイントはあまり揺るがない。
五本カゴに放り込む。 十本買ってもいいが他に安い場所があるかもしれない、ホクホクしながらレジに向かう。
十万円のお小遣いをくれて、なおかつ安いポイントでマッ缶が買える。もう一生ここで暮らしたい。外部との接触なんてなくても生きていける。この学校は天国だ。誰がなんと言おうと、異論は一切認めない。
あっ、やっぱなし、小町に会えないからな。
この学校にきて1番テンションが上がっている自覚がある。
自動ドアを抜け、袋に手を入れる。 さっそく、さっき買ったばかりのマッ缶のプルタブに指を引っ掛けた。プシュッ、心地良い音とともに甘い香りが漂う。
一口飲む。暴力的な甘さが、体に染みる。
ふう、と吐息を漏らしながら、寮に帰ろうとした、その瞬間。
クイ、クイ。
背後から、俺の袖を軽く引っ張られる感覚があった。
なんだ?誰かと間違えたか? もしくは俺と話したいのか? はは、ナイスジョーク、俺に興味ある奴なんていないだろ。悲しい考えとともに振り返った俺の目に飛び込んできたのは、予想の斜め上をいく光景だった。
「……」
そこに立っていたのは、無表情な美少女。
いや、冗談抜きでとんでもない美少女だ。膝下あたりまで伸びた茶髪のロングヘアはボサボサしながらも艶やかだ。真っ赤でぷっくりとした唇、シュッとした鼻形。瞳は眠たげでとろんとした茶色の瞳。
そして何より、ブレザーの上からでもはっきりとわかる、その常軌を逸したスタイル。思わず「デッ!?」と言いそうな、同年代の女子が泣いて嫉妬すら起きなさそうな、グラビアアイドルすら裸足で逃げ出すような暴力的なまでのスタイル。あと小さい、身長はおよそ140センチぐらいじゃなかろうか。
男の理想と言えばわかりやすいと思う。
いかん、比企谷八幡。相手の目を見ろ、視線を下にしたら終わる。
だが、顔を見ても一切の感情がその顔に浮かんでいない。精巧に作られたフランス人形みたいに、スッと整った可愛らしい顔立ちが、ジッとこちらを見つめている。ダメだ、顔を見ても眩しい。浄化されてしまう。
なんとなくだが雰囲気がぽやぽやしている。こっちまで気が抜けそうだ。
スッと手を差し出してきて、言った。
「綾小路雛鳥、よろしく」
唐突に、鈴を転がすような声でそいつは名乗った。 …… え?
「えっと…え?」
呆然としていると綾小路雛鳥と名乗ったその女子は、こくりと小さく頷いた。 なんだこいつ。
……なんだこいつ(大切なことだから二回言った)
側から見たら無表情で近寄りがたいのに、醸し出している空気がひどくマイペースというか、掴みどころがない。
不思議ちゃん、という言葉が一番しっくりくる。
すると、綾小路はスッとそのまま細く白い指を伸ばし、俺が手に持っている黄色い缶を指差した。
「飲みたい、ちょうだい」
「……は?」
「それ、飲みたい」
開口一言目がおねだり、どういう教育受けてきたんだ。綺麗な外見と幼い中身のギャップが激しすぎて、頭おかしくなりそうだ。
「いや、これ俺の飲みかけだし……」
「気にしない」
「俺が気にするんだよ……距離感バグってんのか」
そう言うと、綾小路は不思議そうに小首を傾げた。その仕草すらも、悔しいが絵になってしまう。
まあ、コーヒーに興味あるだけだろうし、飲んだらどっか行くだろ。
レジ袋の中に手を突っ込み、新品のマッ缶を一本取り出した。百ポイントが無駄になるが、必要経費だ。
「ほらよ。新しいやつだ。これでいいだろ」
差し出すと、綾小路はほんの一瞬だけ、目をパァッと輝かせた。
無表情のままなのに、なぜか「嬉しい」という考えがわかってしまう。
彼女は両手で大切そうに缶を受け取ると、小さな手で器用にプルタブを開け、ちびちびと飲み始めた。
両手で持って、その小動物っぽい飲み方、あざとすぎないか。いや、こいつの場合は天然でやってそうだから余計にタチが悪い。
「……」
コクコクと喉を鳴らしてマッ缶を飲んでいる綾小路。よし今のうちに寮に帰ろう。
トコ、トコ、トコ。
……ん? 俺が足を進めるたびについてくる小さな足音が聞こえる。 ピタリ、と足を止める。 背後の足音も、ピタリと止まる。
気のせいか。
トコ、トコ、トコ。
勢いよく振り返った。
そこには、缶を両手で持ったまま、ちびちびとマッ缶を啜っている綾小路の姿があった。俺と目が合うと、コクリと首を傾げる。だからそれやめてほしい、いちいち心臓に悪いんだよ。
「……なんでついてくるんだ」
「……?」
言葉は返ってこない。ただ、俺をジッと見つめているだけだ。 冷や汗がツツーッと背中を伝う。
だるまさんが転んだ、じゃないんだから。なんでそんな絶妙な間合いでついてくるんだよ。
俺は綾小路の瞳を見る。純粋……か? 光のない瞳、それが真っ直ぐ俺を見ている。無機質でありながらも少し希望と、それと同じぐらいの寂しさ? みたいなものが瞳にある、わからん、こんなやつ初めてだ。
だがーー
ナデ、ナデ。俺の右手は何故か綾小路のボサボサな頭を撫でていた。
もちろん内心は大慌てだ、主にセクハラで通報される、とか小町ちゃん、お兄ちゃん牢屋に入っちゃうよ、とか。
何故自分が撫でているのかわからない。
女子、ましてや初対面だぞ? 普段の俺なら関わらないはずなのに、そのはずなのに。
手が離れない。
びっくりしたようにこちらをじっと見て、どこか心地よさそうに瞳を閉じている。
なんでそんな反応をする。嫌がれよ。
……可愛すぎるな。
・・・ハッ!? 危なかった、明らかに俺は正気ではなかった。
手を急いで離したら綾小路はゆっくり瞳を開けた、どこかさっきより柔らかい瞳。俺の袖をキュッと握る小さな手。さっきまでの行動から考えて。
――懐かれた、かもしれない。
この、掴みどころのない、ぽやぽやしてて、何を考えているのかさっぱりわからない変なやつ、だが、どこか寂しそうな女子に。
どうも、末路です。その少女とは綾小路清隆くんのTS、綾小路雛鳥ちゃんでした。スタイルが良いのは清隆くんの筋肉とかすごいので女子ならスタイル良さそうだな、身長が低いのは元々でさらに鍛えているから低い、と思っています。ボサボサの長い髪もなんとなく似合いそうなのでそれにしました。
これは1番悩みました、性別が違うし喋り方も違う。でも初期の小路くんはチョロいので、女子にして天然タラシの八幡を混ぜたら面白そうだな、なんて思ってこの小説を作りました。今作の綾小路雛鳥ちゃんのスペック。
学力→原作通り。 身体能力→力が少し劣る代わりに柔軟性が高い。性格→原作通り。 ただ好きな人ができたらめちゃくちゃに甘えます。
乾いた愛情を求めて求めまくります、八幡くんは捻くれてますがたまに出る優しさに触れたらもう、ね?
何事も始めが大切なんですよ。ということで綾小路雛鳥ちゃんは比企谷八幡くんに沼ってもらいます。スタートダッシュで今ならチョロいので。
ちなみに八幡くんが撫でなかったらフラグは立たなかったです。
ここまで読んでくださりありがとうございました!