魔法少女リリカルなのはRe:SET   作:月想

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開いて頂きありがとうございます!
なのは熱が再燃した為、実験的に投稿しました。
楽しんで頂ければ幸いです。


第1話『スタンバイ・レディ』

この世界には、

楽しいことや、嬉しいこと。

 

それと同じくらいか、

それよりも多く。

 

悲しいことや、

辛いことがあって。

 

どんな人にも、

大切なモノがあるのに。

 

守りたいと思う程に、

それを失くしてしまう。

 

一緒にいたかっただけなのに。

 

ただ、笑っていたいだけだったのに。

 

胸に宿した小さな願いすら、

簡単に叶えることは出来なくて。

 

必死に頑張ろうとすれば、

必死に頑張ってる誰かとぶつかる。

 

そうやって、傷ついて。

 

傷つけられるしかない世界。

 

それでも、

人と人とが関わって生きる世界だから。

 

助けて、

支え合うことだってできるはず。

 

痛いから、辛いから。

君も痛いよね、辛いよねって言える。

 

だから、守りたいって思える。

 

それが正しいことだって、信じていたい。

 

これはそんな、

誰よりも傷ついて。

 

だけど、

絶対に諦めなかった、魔法使いたちのお話。

 

『魔法少女リリカルなのはRe:SET』

 

始まります。

 

―――――――――――――――――――――――

 

眠っている時の"夢"というのは、基本的にいつも突発的で、荒唐無稽なモノである。

だから今まさに彼女が見ている夢も、無茶苦茶で理解が及ばない意味のないモノに決まっている。

 

だが、それにしても今回はおかしかった。

彼女の夢だと言うのに、彼(・)女(・)自(・)身(・)が(・)そ(・)こ(・)に(・)い(・)な(・)い(・)のだ。

まるで映画でも見ているように、その景色を感じず触れず、ただ傍観しているだけ。

 

『小さいでしょ?あなたはお父さん似だけど、この子は私似よね♪』

 

最初の場面は、特に不思議でも何でもない"家族"の団欒風景だった。

 

知らないようで知っているような家。

自分という存在が曖昧なので、記憶と照合することも出来ない。

でも、どこか安心するような見た目のリビングに、母親と幼い少女、そして母親に抱かれた赤子がいた。

察するに、この赤子は少女の妹なのだろう。

母親の言葉に少女は頷き、遠慮がちに赤子の頭に触れる。

本能的に抱いている母親と同じ存在に感じたのか、赤子は少女を見つめて、ニッコリとした笑顔を向ける。

それを見た少女も母親も、連れて笑顔になってしまう。

 

そんな見ているだけで心が温かくなるような、幸せなワンシーン。

だが何故か、胸が締め付けられるような気持ちになって。

 

気付けばもう、夢は次の場面へと移っていた。

 

『ハァ...!ハァ...!』

 

何処ともつかない、鬱蒼とした森の中。

一人の少年が獣道を息を切らしながら走っている。

 

ほら、お決まりの無茶苦茶である。

少年の見た目を確認するが、先程の普通の親子とはまったく関係がなさそうだ。

赤子は女の子だったし、第一少年の格好がおかしい。

民族衣装のような、ファンタジーっぽい模様が入ったマント付きの衣装。

世界観が全然違う。

意味がありそうだった初めのシーンとは違い、これはただの無茶苦茶パート。

それこそ映画でも見るつもりで、彼女は傍観に徹する。

 

"グオオォォ...!!"

 

少年の後ろから飛び出して来たのは、何とも形容し難い"黒いモヤ"。

それに顔と思える穴が空いていて、かろうじてそれが化け物だと言うことが分かった。

可愛くはないが、かっこよくもない。

 

少年がそれに向かって手を翳すと、空間に緑色の模様が、何個も重なるように展開された。

化け物と違い、こちらはなかなか凝った見た目をしている。

俗に言う、"魔法陣"というモノによく似ている。

 

『...!』

 

少年が気合いを入れると、その魔法陣から緑に光る鎖のようなモノが飛び出る。

それは力強く化け物に絡み付き、その動きを止めることに成功する。

 

『今だ...!』

 

手応えを感じた少年が取り出したのは、綺麗な赤い球状の宝石。

ビー玉にしては美しいそれを怪物に向け、少年は漸くそれっぽい呪文を唱え始めた。

 

『ジュエルシード、封印...!』

 

最後に添えられた、分かりやすい一言。

宝石の種という意味なら、そのビー玉の方がそれっぽいけど。

 

などとツッコむ余地もなく。

またしても夢は、次の場面へとその景色を切り替えてしまった。

 

『ぐっ...』

 

3つ目の場面は、今までで最も現実離れした景色だった。

見渡す限りの炎、炎、炎。

散乱する瓦礫に、よくわからない機械の部品がそこかしこに打ち捨てられている。

 

その中心には、一人の女性。

身に纏う白い服は至るところがボロボロで、痛そうに抑える腕には、変わった形状の"刀"のような武器が握られていた。

 

これまた夢ではよくあることだ。

1つ目の場面に、2つ目のファンタジーが合わさってしまっただけ。

 

服装は変わっているが、あのポニーテールには見覚えがある。

この女性は最初の夢の母親と同一人物だろう。

本当に、夢というのは無茶苦茶だ。

寝ている時はもっと優しく、幸せな光景だけ見ていたい。

こんなバイオレンスな夢からは一秒でも早く目覚めたいものだ。

 

そう、思っていたのに。

目を離すことが出来なかった。

頭から流血し、見るからに満身創痍。

それでも目の前にいる"何か"に、毅然として立ち向かおうとする姿が。

その背中が、とても愛おしくて。

切なくて仕方なくなったから。

 

『ごめんね...っ...ナノハ...』

「お母さんっ!!」

 

叫んだところで聞こえない。

いくら泣いても届かない。

 

これは、夢なんだから。

 

そんな残酷な現実を突き付けられ、彼女の夢はここで終わりを告げた。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「んっ...?」

 

気が付くと、スマホのアラームが好きな音楽を繰り返し流してた。

枕元のそれを手に取って、鳴りっぱなしのアラームを切る。

時間は朝の5:30。

学校のある日はいつもこの時間に起きてる。

 

よかった、寝坊はしてないみたい。

 

「何か、夢を見てた気がする...。」

 

寝てる時に見ていた夢の内容は、もう覚えてない。

でも何だか、上手く言えないけど。

大切な夢を見ていたような。

 

「え...?」

 

ぽろぽろと落ちる雫。

それは私の目から溢れた涙だった。

びっくりして、咄嗟に袖で拭う。

 

「そんなに悲しい夢、見てたのかな...?」

 

泣いたりするのはもう止めたはずなのに。

こんなんじゃいけない。

また、お姉ちゃんを心配させちゃう。

 

夢については忘れることにして、あくびをしながらベッドを出る。

カーテンを開くと、雲の間からお日さまが元気いっぱいに輝いていた。

 

「今日も、いいお天気。」

 

いい日になるといいな、なんて。

ついぼーっとしちゃうけど、急がなきゃ。

私の朝はいつも、大忙しなのです。

 

私、"ナノハ・スタークス"。

ここ海鳴市に住む、普通の女の子。

私立聖祥大附属小学校に通う、小学3年生です。

 

「むむっ...今日の寝癖、なかなか手ごわそう。」

 

顔を洗って、歯を磨いて。

髪を整えるのは後回し。

運動用の服に着替えて、まずは朝の"日課"から。

 

「ふっ...!はっ...!」

 

やって来たのは、お家に建てられた小さな"道場"。

ここで刀の素振りをするのが、私のお決まりのルーティンです。

 

こういう場所があるお家は珍しいって、お姉ちゃんは言ってたけど。

すずかちゃんやアリサちゃんがお友だちだと、そんなに特別な感じはしなかったり。

 

「ふぅ...。放課後は、型のお稽古かな...。」

 

この道場は、元々お母さんがお稽古をする為に作った場所みたい。

お母さんがいなくなって、今はもう私専用の場所になっちゃってます。

 

「お母さん、お父さん。ナノハ、今日も一日がんばるね。」

 

お稽古が終わったら、次は仏壇に朝のご挨拶。

スタークス家には、もうお母さんもお父さんもいません。

私が物心つく前に、事故で二人ともいなくなってしまいました。

すごく優しくて、強い人たちだったそうです。

私はしっかりとは覚えてないけど、それでも大好きだったことは確かです。

 

「ちょっと時間が怪しいから...今日はパン食、かな。」

 

制服に着替えて髪を整えると、次はいよいよ朝の大仕事。

朝ごはんの準備が始まります。

スタークス家のごはん係は、朝昼晩全て漏れなく私なのです。

始めは心配されてたけど、今はもうすっかりお任せされる腕前。

献立も臨機応変に対応出来て、ちょっと自慢に思っちゃってたり。

 

料理はお父さんが得意で、刀はお母さんの真似っこ。

この朝のルーティンはもしかしたら、私が家族を忘れない為に続けていることなのかも。

 

「おはようございます、ナノハ。」

「あ、お姉ちゃん。おはよう...♪」

 

卵とベーコンを焼いていると、すっかり支度を終えたお姉ちゃんがリビングにやって来た。

この落ち着いていて大人っぽい素敵な人が、私のお姉ちゃん。

名前は"シュテル・スタークス"。

中学2年生で、成績優秀文武両道。

いつも優しく私を見守ってくれる、自慢で憧れなお姉ちゃんです。

 

「いつもすみません。ナノハにばかり仕度をさせてしまって。」

「ううん。お姉ちゃんはお仕事とお勉強で忙しいから。家事くらい、私にやらせて欲しいな。」

 

さっきも言った通り、スタークス家には大人がいません。

普通なら施設に預けられたりとか、そういう辛い話が出るのですが...。

お父さんとお母さんが遺してくれたお金に、お母さんのお友だちからの支援。

そこにお姉ちゃんのアルバイト代が加わって、不自由なく暮らすことが出来てます。

そのアルバイト先もお母さんの伝みたいで、中学生でもお仕事が出来ているのは、そのおかげもあるそうです。

 

「ナノハは、優しいですね...♪」

「お姉ちゃんが優しいからだよ♪」

 

甘えるのは良くないなと思いながら、こうやって頭を撫でられると、まだまだ嬉しい気持ちが勝っちゃう。

たった二人だけの家族だから、私に出来ることで、お姉ちゃんを支えてあげなくちゃ。

 

「「いただきます。」」

 

二人で向かい合って、いつものように食卓を囲む。

メニューはジャムトーストにスクランブルエッグとベーコン、トマトとレタスのサラダ。

簡単な物ばかりだけど、お姉ちゃんは嬉しそうに食べてくれる。

食事をしながら昨日の話をしたり、今日はどんな授業があって、放課後はどんなことをするのかとか。

そんな普通のお話をして、笑い合う。

何でもない時間が、私にはとっても幸せで。

だからお姉ちゃんがいれば、寂しいなんて全然思いません。

 

「今日は少し、早く帰れそうです。」

「分かった。じゃあ夜ごはん、少し奮発しちゃうね。」

「ええ。楽しみにしています。」

 

食べ終わったら一緒に片付け。

時計を見ると、そろそろ登校時間が迫って来ました。

 

「「いってきます。」」

 

お父さんとお母さんの写真に挨拶して、今日も元気に登校です。

途中の分かれ道でお姉ちゃんと離れて、私は一人でバス停へ。

学校への直通バスでは、私の大事なお友だちが待っています。

 

「ナノハ!こっちこっち~。」

「ナノハちゃん、おはよう♪」

「アリサちゃん、すずかちゃん。おはよう♪」

 

バスの一番奥。

ちょっと贅沢にスペースを使っている二人。

金髪で大人っぽい髪型の元気な子が"アリサ・バニングス"ちゃん。

紫紺の髪が綺麗なお淑やかな子が、

"月村すずか"ちゃん。

 

「おはよ。真ん中空いてるわよ。」

「相変わらず大胆に座ってるね。」

「だってこのバス、席は半分くらいしか埋まらないじゃない。」

「毎朝のことだともう慣れちゃうんだよね~。」

 

どちらも引っ込み思案な私には勿体ないくらいの、優しくて素敵なお友だちです。

 

「新しいゲームがあるの!ナノハも来るでしょ?」

「うんっ。でも、今日はお姉ちゃんが早く帰って来るらしくて。お料理頑張るから、ちょっと早めに帰るね?」

「ナノハちゃんはすごいよねぇ...同い年なのにお料理上手だし、家事も完璧だし。」

「いつでも雇う準備はあるわよ!」

「あはは...ほめ過ぎだよ、二人とも。」

 

通学中は、こうして二人とお話するのが通例になってます。

 

今私がしているツーサイドアップの髪型も、実はアリサちゃんにオススメされたからで。

すずかちゃんにもお洋服のことで色々教えてもらったりしてて、お世話になりっぱなし。

 

二人と仲良くなったきっかけは...あるにはあるけど、秘密にさせて下さい。

ちょっと恥ずかしいお話なので。

 

「と、いうわけです。ページを捲って、次は」

 

登校したら、当然後はお勉強の時間。

理数系は得意、だと思うのですが。

それ以外は普通って感じです。

 

「ナノハって、やっぱり結構運動神経いいわよね。」

「そうかな?お稽古してるから、その分普通よりは動くだけだと思うけど...すずかちゃんには負けちゃうし。」

「意外な特技よねぇ...。」

「二人とも何のお話してるの~?」

 

体育はたぶん、日頃の頑張り分はまともなのかも。

だからって、スポーツ選手になれるわけじゃないし。

将来の明確なビジョンとか、そういうのもありません。

 

得意不得意のある授業を乗り越え、やっとやって来たお昼時。

改めて、二人にそんな話題を振ってみることにしました。

 

「アリサちゃんもすずかちゃんも、将来はお家のお仕事を継ぐんだよね?」

「まあ、私はそうなるわね。」

「私も、たぶんそうかなぁ。」

 

二人はいわゆる社長令嬢さんで、こうして一緒にいるのが不思議なくらいに色々なお勉強をしています。

決められた道って言うことも出来るけど、それを二人は逃げずにがんばっているわけで。

友だちとしては、何も決まっていないことに罪悪感みたいなものがあったりします。

 

「ナノハはどうするの?」

「私は...特には、まだ。」

「ナノハちゃんなら、料理人さんとか?」

「いやいや、もっと向いてるのがあるじゃない。」

「え?それって...?」

「それはねぇ~...お・よ・め・さんよ!」

「えっ!?///」

「確かに!ナノハちゃんならいいお嫁さんに、いいお母さんになれるよ~。」

「それはそれで恥ずかしいよすずかちゃん!///」

 

と、まあこんな感じで。

将来の夢について考えても、ちゃんとした答えはまだ見つからなくて。

自分が出来ることとか、すべきこととか。

そういうのがあったらいいなって。

小さな期待を持って、毎日頑張って生きてます。

 

「今が幸せなら、私はそれでいいかな。」

「小学生の台詞とは思えないわね。」

「ふふっ、ナノハちゃんって大人っぽいもんね~。」

 

お姉ちゃんがいて、友だちがいて。

私は十分幸せだなって思うから。

こんな風に過ごせていれば、きっと。

ずっと笑顔でいられるはず。

 

そう思っていたんです。

この時までは。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「それでその子がヤンチャでね~?」

「分かる分かる、うちにも暴れん坊が一匹いてさ。」

 

一日のお務めを終えた放課後。

朝の約束通り、ナノハはアリサ、すずかと共にアリサの自宅へと向かっていた。

 

バスを降り、木々に囲まれた道を歩く。

その先にあるバニングス家のお屋敷はかなり立派な物で、小市民のナノハは初めて訪れた時、かなりの緊張を強いられた。

 

だが、今となっては勝手知ったる場所である。

むしろ毎度その訪問を楽しみにしているくらいだった。

 

「今日もワンちゃん、触ってもいいかな?」

「もちろん。あの子たちも喜ぶんだから、ナノハが来ると。」

「えへへ...♪」

 

彼女のお目当ては専ら、お屋敷で飼われているたくさんの犬たちである。

アリサの可愛がる多種多様な犬たちは、皆非常に人懐っこい。

客人として招かれたナノハたちにもフレンドリーで、すっかり心を奪われてしまったというわけだ。

 

ナノハが動物好きになったのにはいくつかのきっかけがあるが、一番は姉であるシュテルの影響だろう。

彼女は昔から、何故か異様に猫に好かれやすい体質らしく。

よく外を出歩いては家に猫の群れを引き連れて帰って来ていた。

そうなると、妹であるナノハも自然と触れ合う機会が多くなり。

結果として、愛らしい生き物に目が無い状態となったわけだ。

 

「うちの子たちも、ナノハちゃんがいるとご機嫌なんだよね。」

「生き物に好かれる才能かしら?」

「そうだと、嬉しいな...♪」

 

ちなみに、対照的にすずかのお屋敷には猫がたくさん飼われている。

そちらのナノハへの食い付きは犬以上で、しっかりと姉の才能を受け継いでいるようだった。

 

「ナノハの家は何かペット飼わないの?」

「飼いたいんだけど...お姉ちゃんがよく猫ちゃんたちを連れて来るから。」

「猫って可愛いけど、縄張り意識強いもんね。ケンカになっちゃったら大変かも。」

 

定期的に野良猫がやって来るので寂しくはないが、あくまで野良であって、自分のペットではない。

なので二人がその手の話をしていると、決まってナノハは羨ましがるのだった。

 

「...あれ?」

「ナノハちゃん?」

 

そんな会話をしながら、いよいよお屋敷が見えてきた時だった。

突然ナノハが立ち止まり、辺りの様子をあちこち気にし始めたのだ。

 

「どうしたのよ?うち、すぐそこよ?」

「この景色...もしかして...?」

 

勿論何度も見ている道だが、思い当たったのは今朝の夢だ。

すっかり記憶から消えていた光景が、目の前の景色に重なる。

確か男の子が出てくる夢の舞台が、こんな風景だったはず。

 

「ちょっと、ごめん!」

「え、ちょっとって何ナノハ!?」

「ナノハちゃん!?」

 

言葉少なに木々の方へ走り出すナノハ。

見送るわけにも行かず、アリサとすずかもその後を追い掛ける。

 

景色が過ぎていくにつれて、まるで台風でも通ったかのような破壊の跡が、至るところに見受けられた。

どんどん酷くなるそれを追うように走ると、やがて一際激しくズタズタにされた木へとたどり着く。

 

「あ...!?」 

 

その根元に、小さな"生き物"が倒れているのが見えた。

明るい茶色の毛並みで、姿はイタチやオコジョのような見た目。

絶妙に見たことのない生き物だが、気になるのはその傍らに置かれた赤い"宝石"だ。

ペットのアクセサリーだろうか。

ナノハはそう思考して、すぐにそんな場合ではないと首を振る。

 

「この子、ケガしてる...!」

「フェレットかしら...誰かのペットかも?」

「早く病院に連れてかなきゃ!」

「アリサちゃん、お車出せる?」

「任さなさい!」

 

フェレットっぽい何かの正体は気になるものの、助けなければいけないのは三人の共通認識だった。

 

急いで来た道を戻り、屋敷から車を手配。

最寄りの獣医まで最速で向かうのだった。

 

「怪我はそんなに深くないけど、随分衰弱してるみたいね。きっと、ずっと独りぼっちだったんじゃないかな?」

「医院長先生、ありがとうございます!」

「いいえ。どういたしまして。」

 

槙原動物病院にて。

無事治療を終えたフェレットを見守りながら、ナノハたちは女性の医院長にその健康状態について話を聞いていた。

 

少なくとも、群れで行動していたわけではないようだ。

 

「先生、これってフェレットですよね?やっぱり誰かのペットなんでしょうか?」

「フェレット、なのかな...?変わった種類だけど。それに、この首輪についてるのは、宝石なのかな?」

 

命に別状がないとなると、次に気になるのはその正体である。

アリサの疑問に医師でさえ明確には答えられず、全員が頭を捻る。

ナノハたちもまた気にしていた、その宝石に医師が指を伸ばした時だった。

 

「!...?」

 

「あ...」

「起きた!」

「可愛い~♪」

 

意識を取り戻したフェレットが、少し驚いた様子で周りを観察する。

その視線は興味津々のアリサ、その愛らしさに目を奪われているすずかを順に見て。

最後に静かに見守っていた、ナノハへと定めてじっと見つめるのだった。

 

「見てる...。」

「ナノハ、見られてるわよ。」

「え、あ...う、うん。えっと...えーっと...」

 

フェレットに何か不思議な縁を感じ、ぼーっとした心地になっていたナノハ。

アリサに言われて咄嗟にアクションを取ることに。

 

怪我をした動物はナイーブだし、恐がっているかもしれないし。

何が正解か分からないまま、取り敢えず指を近付けてみる。

生物によっては噛みつかれそうなものだが、そういう攻撃的な印象をこのフェレットには持っていなかったらしい。

 

「スンスン...ペロ。」

「わぁ~!♪」

 

フェレットの方も、ナノハに敵意は感じなかったようだ。

匂いを嗅いだ後、その優しさに応えるようにその指を小さな舌で一舐めした。

親愛の証であると分かって、ナノハもまた嬉しげな声を上げる。

しかしやはり衰弱しているようで、すぐに意識を失って、また眠りについてしまった。

 

「あ...」

「しばらく安静にした方が良さそうだから、取り敢えず明日まで預かっておこうか?」

 

すぐに動かしていい状態ではないだろうし、それぞれのペット事情的にも今日の今日で連れ帰るのは良くないはず。

三人は目配せでそれを確認し合い、息を合わせて医院長の厚意に頷くのだった。

 

「「「はい!お願いしまーす!」」」

 

また明日、放課後に立ち寄ることを約束し、ナノハたちは一旦病院を後にする。

 

時刻は既に17時頃。

フェレットのことでいっぱいになる思考を何とか切り替え、ナノハは夕食の買い出しへと向かうのだった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「......お姉ちゃん、遅いなぁ...。」

 

空っぽの向かい席を見つめ、ガッカリしたように少女は呟いた。

言うまでもなく、その背中は非常に寂しそうである。

 

動物病院からすぐに買い出しを済ませ、真っ直ぐに帰宅したナノハ。

勉学にアルバイトと忙しい姉が夕食時に帰って来るのは珍しく、そういう時は決まってご馳走を作ることになっている。

姉妹での貴重なディナーを、目一杯楽しむ為の心遣いというやつだ。

 

今日のメニューはみんな大好きハンバーグ。

本格派デミグラスソースをかけたそれに、にんじんのグラッセ、ブロッコリー、蒸かしたじゃがいもを添えている。

そこにサラダと、単体で主役を張れるクリームシチューまで付いている。

家庭的ながら、確かに手間暇のかかったご馳走。

だと言うのに、件の姉はまったく帰って来る気配がない。

 

「...返事、ないなぁ。」

 

先程からいつ頃帰るのかメッセージを送っているが、未だに既読すらつかない。

きっとアルバイトで何かあったのだろう。

そう思いはするが諦め切れず、今の今まで自分の分を食べずにシュテルの帰宅を待っているのだった。

 

「...食べちゃわないと。」

 

時計の針はもう夜の8時を示していた。

明日も朝は早いし、寝る時間を考慮するとこれ以上は待てない。

心底落ち込みながら、ナノハは冷め切った食事をレンジに運ぼうとする。

 

『"...こえ...か..."』

 

「え...?」

 

突然、頭に響いたノイズ。

 

空耳かと頭を振ってみるが、その出所の分からない音は変わらず何度も聞こえてくる。

 

『"聞こえますか...?誰か、僕の声が聞こえませんか...?"』

「!...いたっ...」

 

一際強い、ズキリとした痛みが走る。

すると、先程まで雑音だったものが明確な誰(・)か(・)の(・)声(・)で(・)あ(・)る(・)ことが分かった。

だが、分かったと言っても理解はしていない。

知らない人の声が頭に直接届くなんておかしい。

普通なら恐怖を感じてもおかしくない状況だが、不思議とナノハにその感情はなかった。

 

「この、声...どこかで...」

『"僕の声が聞こえるんですね!?お願いです、どうか...どうか僕に、あなたの力を貸してください!"』

「え、ぇ...ちか、ら?」

 

得体の知れない声はナノハを認識し、唐突に助けを求めてくる。

力と言ってもナノハはまだ小学生で、そもそも何に困っていると言うのか。

聞きたいことは山程あるが、どうも焦って言葉が出てこない。

 

『"お願いです!どうか、僕のところへ...このままだと...っ!?"』

「...?あれ、あの...大丈夫?...もし、もし?」

 

色々と考えているうちに、謎の声はぱったりと聴こえなくなってしまった。

何度か電話のように呼び掛けてみるも、返事はまったくない。

 

あまりに突然過ぎて思考が追い付かない。

時間が経つにつれ、自分が何かとんでもないことに巻き込まれたのではないかと恐くなってくる。

姉に相談したくても、彼女は今側にいない。

ではアリサやすずかはどうか?

大人なら、先生とか。

 

「違う...違うよ...。」

 

そこまで考えて、そうじゃないと強く頭を振る。

弱気で誤魔化すわけにはいかない。

あの声の主は、"助けて欲しい"と言ったのだ。

届くかも分からない呼び掛けに望みを賭け、漸くそれを受け取ったのが自分だった。

声が途切れたのは、まさに助けが必要な状態に。つまり、"危険に瀕した"ということなのだろう。

何もかもまったく分からない。

それでも、しなくてはいけないことだけは分かる。

 

「っ...!」

 

エプロンを脱ぎ捨て、スマホも持たず。

ナノハは家を飛び出した。

 

息を切らして、脇目も振らずに全力疾走。

分からないはずの目的地。

しかし、何故かナノハにはどこへ向かうべきか見当が付いていた。

 

「ハァ...ハァ...!」

 

槙原動物病院。

声の主はきっとそこにいると、ナノハの中に言い表せない確信があった。

日頃の鍛練もあってか、かなりの速度で目的地へ近づくナノハ。

 

だが、彼女は気付いていなかった。

いつの間にか見慣れた街の景色すら、普(・)通(・)で(・)は(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)ことに。

 

「つい、た...!」

 

七色に滲み歪む世界で、ナノハはついに病院へと辿り着く。

まず目の前に広がったのは、玄関口がぐちゃぐちゃに破壊された建物。

明らかに尋常ではない光景と、言い知れぬ不快な空気感。

身体を緊張で強張らせながら、目的地がここで間違いないことをナノハは悟る。

 

『ウゴアァァ...!!』

「!な、なに...っ!?」

 

謎の呻き声が聞こえたと思った瞬間。

目の前に巨大な"何か"が、土煙を上げて降ってきた。

ズシリと重々しい音によろけてしまう程の振動。

心臓が跳ね鳴り、全身に怖気が走る。

 

「な、何なのっ...?」

『グオォォォォ!!』

 

視界一杯に広がる黒いモヤ。

蠢いているのは触手のようで、しかし身体という身体はずんぐりとした胴体だけの見た目。

そこに型を抜いたような、かろうじて顔と分かるものが付いている。

現実世界には絶対に存在しないような異形が、そこにいた。

 

「きゃあぁっ!?」

『グルルオォォァァ!!』

 

思わず悲鳴を上げてしまったナノハ。

それがトリガーとなったのか、怪物は咆哮し彼女に向かってその牙を剥いた。

 

「危ない...!」

『グギャアァァ!!』

「っ...え?」

 

恐怖のまま目を瞑る。

 

しかし、一向に重さも痛みも感じない。

恐る恐る目を開くと、怪物は離れた位置に転がっており。

ナノハの前には緑に輝く"光の壁"が作り出されていた。

記号がいくつも重なり各所に文字が刻まれているそれは、正確には壁と言うより所謂"魔法陣"のように見えた。

 

「来てくれたんですね?」

「さっきの声!ど、どこから...?」

 

前より明らかに鮮明な声が聞こえる。

頭ではなくちゃんと耳に届いている声を辿り周りを探すが、どこを見ても人らしい人は見当たらない。

 

「ここです。こっちです!」

「こっちって...え?」

 

素直に声の方向へ視線を向けると、抉れた地面に放課後に拾った、あの"フェレット"が立っていた。

動物病院があんなことになっていたのだから、逃げ出してもおかしくはない。

そう思って、自然にその身体を優しく抱き上げる。

 

「ありがとうございます…助けに来てくれて。」

「......喋ったぁ!?!?」

 

腕の中から聞こえる、流暢な日本語。

数秒停止した思考が再起動すると共にフェレットを宙に投げ、慌ててまたキャッチする。

ナノハの人生で、恐らく一番驚いた瞬間だっただろう。

 

「な、なな何で...!?どうして!?」

「説明は後で!今はとにかくあいつを...!」

『グガアアァァァ!!』

 

喋るフェレットを深掘りする暇はなかった。

怪物は跳ね返されただけで未だ健在。

一纏めになったナノハとフェレットを狙い、再びこちらへ敵意を向ける。

 

「何なの...!何なのこれっ...!?」

『グオォォォォ!!』

 

飛び掛かってくるそれを、ナノハは反射的に屈んで回避。

散った瓦礫を見て顔を青ざめさせ、一心不乱にその場から逃げ出す。

 

「逃げなきゃ...!あんなの何がどうやって...!?」

 

フェレットをキツく抱き締め、行き以上の速度で来た道を駆け抜ける。

半分程戻ったところで息が途切れ、あの怪物が追い掛けてきていないことに気付いた。

 

「ハァ...!ハァ...!た、助かった...?」

「まだです!跳んでっ!」

「きゃあっ!?」

 

安心したのも束の間。

遭遇時と同じように、頭上からあの怪物が降ってきた。

屋根伝いに近道をして追って来たのだろう。

フェレットの合図で直撃は避けられたが、無理に跳んだことで受け身を取れず、身体に擦り傷を負ってしまう。

 

「いつっ...あ!?」

『グガアアァァァ!!』

 

痛みで隙ができ、またしてもピンチを迎えるナノハ。

しかし、怪物の周囲から突然"光の鎖"がいくつも飛び出し、その動きを縛った。

いつの間にかフェレットが腕から抜け出し、怪物へ前足を向けているのが見える。

 

「あ、ありがとう...。」

「僕では足止めしか出来ません!だからどうか、あなたの力を貸してください!」

「力って...」

 

目の前で暴れる怪物。

それにより破壊されたコンクリート、建物、木々。

普通の少女にいったい何が出来ると言うのか。

 

「む、無理...無理だよあんなの...!私に出来ることなんかないよっ...!」

 

今まで空想の世界でしか知らなかった痛みと、それによる"死"。

普通は子どもが知らないはずの概念だが、不幸なことに、ナノハはそれを知っている。

死ぬということはつまり、"会えなくなる"ということだ。

シュテルに。アリサに、すずかに。

大切な人たちに二度と会えなくなって、大切な人たちを一生悲しませるということだ。

彼女の、両親のように。

 

「嫌だ...嫌だよ...お父さん...お母さん...!」

「ぁ...君は...」

 

フラッシュバックする、痛い程に辛かった過去。

真っ黒な服に線香、当たり前のように見ていた顔が映った写真。

悲しむ大人たちに、自分の手をぎゅっと握る姉。

心にぽっかりと空いた穴。

幸せな家族を見る度に痛むそこを、必死に隠して生きてきて。

 

「...巻き込んでごめん。君はこれを持って、早くここから逃げて。」

「え...?」

 

パニックを起こし座り込むナノハに、フェレットは逃げろと告げる。

器用に首輪を外し、赤い宝石をナノハに渡す。

 

「温かい...でも、あなたがっ」

「僕が時間を稼ぐから。それがあれば、きっと守ってくれるはずだよ。」

 

ナノハが引き留めるのも聞かず、フェレットは勇敢にも怪物の元へ駆け出した。

鎖は脆くも崩れ去り、再び自由となった怪物が襲い掛かる。

 

「こっちだ!僕を追って来い!」

『グルルオォォァァ!!』

 

怪物を挑発し、どんどん遠くへ離れていくフェレット。

彼がナノハを守ろうとしているのは明白だ。

 

動揺した彼女の様子から戦えないことを察し、自らの保身ではなく巻き込んでしまったことの責任を果たそうとしている。

あんなに小さな身体で。

怪我もしていると言うのに。

 

「違う...違うでしょ、ナノハ...」

 

震えて立てない足に力を込める。

震え続ける手を、強く固く握り締める。

温かな赤い宝石を胸に当て、うるさい鼓動を落ち着かせようと心を澄ませる。

 

「泣いたままの自分が嫌で...弱虫な自分が大嫌いで...大切なモノを守れるようになりたいって...そう思ったんじゃなかったの...!?」

 

悲しくて、辛くて。

だからもう二度と失いたくないと思った。

泣いて見ているしかないなんて絶対に嫌だと。

大切で、ずっと笑っていて欲しいから。

それを守れる強い自分に"変わりたい"と願ったのだ。

 

「目の前で優しい子が傷ついてるのに...恐がって、逃げ出して...!そんなんじゃまたおんなじだよっ...!」

 

立ち上がり、流れる涙を袖で拭う。

震えはもう、止まっている。

 

「助けるんだ...私が、守るんだっ...!強い私になるって、私は私に約束したんだからっ!!」

 

固く握った拳から、淡く美しい輝きが漏れ出す。

掌を開いてみると、彼に託された宝石がナノハの想いに応えるように、光を放ち点滅していた。

 

『"新規使用者の設定が完了しました。こんにちは、マイマスター。"』

「マスター...?」

 

驚くべきことに、今度はこの宝石から声がする。

不思議は重なるもので、聞こえてくるのは英語のはずが、頭ではしっかりと翻訳が出来ていた。

 

『"初期設定に移ります。管理権限は全て前マスターより委譲。武装、防護服はパーソナルデータを読み込み自動で"』

「あ、あの!私急いでて...あの子を、助けたいんですっ!」

 

マイペースに話を進める宝石だが、その向こうでは障壁を破られ絶体絶命に陥るフェレットの姿があった。

 

『"承知しました、マスター。それでは、起動コードをお願いします。"』

「起動、コード...?」

『"既にインストールされているはずです。さあ、呼んでください。あなたの願いを果たす剣、その名前を。"』

 

この宝石の言う通り。

ナノハは既に、言うべき呪文を理(・)解(・)っ(・)て(・)いた。

胸に手を当て、浮かんでくる言葉を口ずさむ。

 

「風は空に。星は天に。...!」

 

言葉を紡ぎながら、踏み出した足は力強く前へ。

今まさに摘み取られようとする小さな命へ、真っ直ぐと駆け出す。

 

「輝く光はこの腕に...!不屈の魂(こころ)は、この胸にっ!」

 

「"レイジングハート"!

セーーット!アーーップ!!」

 

全身を輝きに包まれ。

か弱き少女は今、強き者へと変貌を遂げる。

降り立ったのは、"光の天使"。

 

『Stand by Ready Set up.』

 

怪物の牙が彼に届くより先に、桜色に煌めく"刃"がその巨体を真っ二つに切り裂く。

 

悲鳴を上げ、尚ものたうち暴れる怪物。

おぞましいそれを正面に。

守るべき小さき命を、背中に。

恐怖に怯えていた少女は、もうそこにはいなかった。

 

「この子に、手を出さないで...!」

 

―――――――――――――――――――――――

 

どこにでもいる平凡な小学3年生のわたくし、

ナノハ・スタークス。

 

何の因果か運命か。

 

喋るフェレット、ユーノくんと出会って魔法使いになっちゃいました!

 

何とかこわーい怪物を退治したものの、ユーノくんのお願いはその元の宝石、ジュエルシードを21個も集めることだった!?

 

あんなのとそんなにたくさん戦わなきゃいけないの!?

 

お姉ちゃんはユーノくんを怪しんでるし、アリサちゃんとはケンカしちゃうし!

 

魔法だけじゃなくプライベートまで大ピンチ!

 

果たして、無事に友情を取り戻すことは出来るのか!

そしてユーノくんをお家で飼えるようになるのか!

 

助けて!レイジングハート!

 

次回、魔法少女リリカルなのはRe:SET

 

第2話『この手に魔法を!』

 

リリカルマジカル、がんばりますっ!




いかがだったでしょうか?
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