翼が黒くなった。あと頭ん中がうるさい。   作:木工用

1 / 6
【朝起きてすぐ飲むコーヒーは体に悪いらしいぞ?】

 

 

「...んっ...んっ...ぷはぁ、旨い。ごちそうさま」

 

 まだ朝日も出てない東の空を見上げ、空にしたブラックコーヒー缶を握り潰す。いつものお気にのものだ。110円。

 

「せいっ!...ちっ...」

 

 ゴミ箱に投げ捨てるが、入らず。

 前(・)はしていたらしい野球だかキャッチボールだかをしなくなったからか、とうとう腕がなまってきたのかもしれねぇ。

 わざわざ拾ってゴミ箱に突っ込む。カランッと捨てた音が虚しく響く。

 

「さーて、行くか」

 

 バイトだ。

 今日初めて行く場所だ。

 一週間前まで行ってたところは辞めた。普通の飲食店だったが、怖い従業員がいるとご意見をいただいてしまったもんで。

 

「今度は怖がられても平気そうなところにしてやったが...どうだかな」

 

『それは貴様次第であろうよ? ひっひゃっひゃ!』

 

「...うるせぇ。バイト中は黙ってろよ? 初日ってのは大事なんだからな?」

 

『ハッ! それも貴様次第だな!』

 

「...はぁ」

 

 今日もあたしの脳内には、この粗暴で元気なヤツがいる。

 迷惑だ。

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

「お疲れ様。気をつけて帰るんだよ」

「ありがとうございました」

 

 初バイト。感触は悪くなかった。

 小さなスーパーの、開店前の品出しと商品棚の整理と掃除。他雑用といった仕事だ。朝4時出勤は大変だけど、朝9時には帰れるし、時給も割高。これでも生活には問題なさそうなくらいには稼げそうだ。

 今日は学校が休日。今から帰って、シャワーを浴びて二度寝。いいじゃん。

 

「どうせなら朝メシ買って帰ってくればよかったかもな~」

『その程度のことも気づけぬとは! ポンコツめ!』

「うるさっ。こんなことにまで反応すな」

『ひーひゃひゃひゃ! ワシはいつでも見ているからのう!』

 

 文句があるとすれば、脳内のコイツが四六時中うるさいというところだ。

 何なのこの体。

 身の上といい、理由もわからず怖がられがちなことといい、初めて起きたときにゴミ袋に包まれてた血だらけの服といい、謎だらけで怖いんだけど。

 

「...寝よ寝よ」

 

 こんなときはうめぇもん食って寝るに限る。

 目覚まし時計はノーセット! どこまでも落ちていくとしよう。

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

「...ん...まだ寝れるな...」

『もう14時だろうがあああああ!!

 起きろおおおおおおおお!!』

「うるせええええええ!!」

 

 本当に何なんだコイツ!?

 音としては全く出てないのに脳内だけの声がうるせぇ!

 ふざけやがって...!

 

「はっ倒す」

『できるものならなぁ! ワシは貴様の中だけの存在...! 影も形もありはしない...! 故に無敵! 最強なのでええええす!』

「クソが」

 

 最初こそ"漫画の主人公キャラ設定あるあるみたーい。わーい。"で許してやってた脳内のコイツも、だんだんと腹立つだけのヤツになってきた。

 今度除霊とか試してやろうか...

 

『ねー腹減った! なんか食え!』

「言われんでもさっきの残り食ってやるから、黙って待ってろ。ついでにそのまま永久に黙ってろ」

『黙りませええええん!! ワシは無敵なのでえええええす!!』

「無敵なら腹減るな」

『仕方ないではないか。体は貴様と同じなのだ。貴様の腹が減ればワシも減るに決まっておろう』

「...ったく」

 

 明日からまた学校だ。

 宿題やら予習やら、あと掃除に洗濯に、やることがたくさんあるってのに、コイツの面倒まで見させられるの何なんだよ。

 

「...何なんだよ。教えてくれよ、あたしは何者なんだよ。おい」

『あん?』

「お前に言ってない」

 

 昨日読んだマンガみたいな話が現実に起こるとは思わなかった。推定だが、誰(・)か(・)の(・)体(・)に(・)あ(・)た(・)し(・)の(・)意(・)識(・)だ(・)け(・)乗(・)り(・)移(・)っ(・)ち(・)ま(・)う(・)だなんて、こんなこと。

 

 ベッドの横の棚の上。ご丁寧に額入りで飾られた写真。

 写っているのは二人の並んだ女子生徒。体育着の手にはグラブと野球ボール。

 一人はいかにも清楚なお嬢様然とした、白髪の小柄で控えめそうな女の子。

 そしてもう一人は、元気が取り柄のような、赤髪を前髪パッツンにしたショートヘアのイケイケ系女子。

 二人とも有翼族で、二人の白い翼が太陽に照らされて美しく輝いている。

 

 赤髪のほうが、あたしっぽい奴だった。

 最も、今の髪色は濃い紫色でちょっと伸ばしたし、翼は真っ黒になっちゃったから、わりと変わってるんだけど。

 それでも見比べれば、少なくとも姉妹ではあるだろうというくらいには、写真のあたしはあたしだった。

 

 教えてくれよ、写真の中の自分。

 あたしはなぜ、こうなってるんだ?

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。