「くぁぁぁ...かったりぃ」
『いかにもやる気無さそうなツラしてるのぉ! シャキシャキ歩けぇ!』
「しゃーないだろうが...こちとら朝4時起きなんだぞ...」
あたしは学生。生徒手帳によると2年生。
そして今日は平日。
つまり、学校がある。
『情けないのう! そんなんで本当に一人で生きていけるのか? この根性なしが!』
「学校行くのにいちいち根性が必要なほうに問題があるだろ...」
無論、生きるためには金が必要だ。
だから朝4時起きからバイトして、平日は8時に上がり、そのまま制服に着替えて登校。そんなことだってあるだろう。
いや無いだろ。なんでそんな過酷さを求められてるんだ。不幸だ。この体のやつは何か良からぬことでも仕出かしたのか。
《ヒソヒソ...》
《ヒソヒソ...》
(あーやっべ、また声に出てた。何とかしないとなコレ...)
そんなこんなでお疲れのあたしは、脳内のうるさいやつへの声がお外に漏れまくりなわけで。当然変な目で見られるわけだ。
人混みでも目を引く有翼族の黒い翼をこさえた背の高めの転校生が、何やら独り言をブツブツ言って登校する姿の誕生である。巷では呪文を唱えるヤベー奴扱いな噂まで立ってるらしい。
(お前のせいだ。責任を取れ)
『イヤでええええす! 残念でしたああああああ!』
(ほんま...! コロ...!)
イライライライラ!
腹立つ奴...!
ダメだ。これで眉間にシワでも寄ろうものなら噂が悪化すること間違いなし。
クラスの唯一の話し相手のアイツまで離れかねん。
あたしは心を無にし、平和への祈りでも捧げながら登校することにした。あー、ワールドピース。ワールドピース。世に平穏のあらんことを。
× × × ×
「で、お前は何を祈ってるんだ。
「
「成る程、この教室が平和になる代わりに、人類の知性が一歩後退する。そんな祈りだな」
「ああ。平和か知性かで言えば、平和を願いたい心境なんだ」
「言ってねぇで勉強しろ」
このバカが、学校の唯一の話し相手。
口調が頭良さそうな癖してバカな奴だ。
ちなみに顔が良い。動かない表情筋と相まって外面はクールビューティだ。
こいつ勉強と運動さえできればな...と何度思ったことか。
その二つが全くできないのが致命的過ぎるんだわ。
「そう言うアンは何故勉強が出来るんだ」
「知らねぇよ。あたしに聞くな」
「お前以外の誰に聞けと」
「神?」
「神の扱い雑過ぎるだろ」
一応、学校では、生徒手帳にあった"
ちなみにあたしは勉強できる。一通りのBDやノートをひっくり返したら全部理解できた。思い出した感覚に近い。
きっと"アン"が勉強熱心だったのだろう。
「神なんざ雑に扱っときゃいいんだよ」
「元トリニティからそんな言葉が聞けるとはな。さぞ素行不良だったのだろうな」
「そう言うハナミは元ゲヘナらしくねぇよな。ウェーイドカーンバコーンって感じがしない」
「あれは温泉と美食が悪いだけだ。3割くらいは」
「7割は全体の責任じゃねーか」
あたし、というより"アン"は元トリニティ生で、ハナミは元ゲヘナ生だった。あたしたちは完全に一緒のタイミングでこのキヴォトス外周圏の学校に転校してきた者同士である。そんなことある?
ハナミは元美術部で、絵が上手い。涼しい顔で今日の空とか完璧に描き出す。
授業中に。
それがバカの原因だろ。
「ほら、授業が始まるぞ」
「ああ、今日は良い空だな」
「授業だっつってんだろ絵を描いてんじゃねぇ」
「まさに絵空事ということか!」
「おめぇにピッタリだよ」
結局、小テストは実施された。
昼に貼り出された後日再テスト者の一覧には、当然のようにハナミの名前が記されていた。
三個も。
「お前今日の小テスト全部不合格かよ」
「ああ、おかげでいい絵が描けた。
見ろ、白鳥が優雅に空を舞う満天の晴れ模様だ」
「空見てねぇで現実を見ろ」
絵はめっちゃ上手かった。
× × × ×
「ああ、花丸そばが旨い」
「ハナミのテストはバツだったけどな」
「何故アンのテストは花丸なのだ...」
「勉強してるからだよ」
狭い学食。机と椅子のみで、飾りっ気は全く無い。
この学校は外周圏の小さな学校で、規模も予算もそこまでではない。
とはいえ、勉学に不自由があるわけではない。あたしには十分に感じている。学食も安くて程よく旨い。
「うむ、ごちそうさまだ」
「ごちそうさまだな」
ハナミとは友達と言っても、会話はそこまで多くない。
それでいいという合意と理解があたしたちにはあった。
静かで無機質な空間に、唯一の娯楽要素として備え付けられたテレビだけが、色彩豊かにニュースを報じている。
《先日行われたエデン条約の会場に巨大な爆発物が飛来した件などの一連の事件、仮称エデン事件による被害者は非常に多数となっております。
ゲヘナ・トリニティ両校の発表によりますと、死者は二名で両校より一名ずつ。重傷者以下は多数につき現在も調査中となっており―――》
「...行こう。あまり聞いて気分の良くなるものでもない」
「...だな」
「オレは美術室に行く」
「そうか。ならあたしは戻る。また教室で」
「ああ、またな」
それでハナミは隙あらば美術室に行く。昼飯後や放課後など特にである。何なら時折授業に遅れてくる。そういうとこだぞ。
そして何と一人称がオレである。変人過ぎるだろ。
× × × ×
「あー、疲れた...」
授業が終わり、案の定ハナミは美術室に行った。
今日の帰りも一人である。気楽でいい。
『とでも思ったかあああああ!!
ひーひゃひゃひゃーーー!!』
(うわでた...)
訂正。うるさいのがいたわ。
(なんで授業中は黙ってるのに、放課後になると出てくるんだよ)
『あぁん? 授業なんぞつまらなさすぎて聞いてられんわああああ!! 寝てる!!』
(ずっと寝てろ。永眠してろ)
『イヤでええええええす!! 覚醒しまああああああす!!』
コイツ、授業中というか学校では内ではずっと静かなのに、放課後になるとすぐコレなのだ。起きてくるな。あたしの安寧よ、何処に。
(まあいい、帰るぞ)
『今日はぁ...! ハンバーグ食べたああああい!!』
(はいはい。まああたしもそうだから買って帰るよ)
『食ったら昨日の漫画の続き読ましてええええ!!』
(はいはい。私も気になってるから。読むから。静かにしててね)
『ひっひゃあ!!』
あー、騒がしいなー本当に。
あれこれ考えるのもバカらしい。今日もハンバーグ食ってゴロゴロして寝よう。
考え事は、また今度だ。