「ハナミのやつ、再テストも落ちてたな...」
美術室に逃げようとした容疑者が再テスト室に連行されていくのを見届けながら、今日も一人帰宅。
頭ん中は相変わらずうるさいがまあいい。夏の暑さのせいってことで許してやろう。
何せ今日は卵が安く買えたのだ。しかも最後の一つ。これはツイてる。気分がいいのだ。
とはいえスキップしようものなら卵が割れかねない。このまま平穏に帰らせて貰うとしよう。今夜は卵焼きと―――
「あなたッ!!」
ガシッ
「あ?」
肩を捕まれた。
何ならちょっと後ろに引かれた。
危ねぇだろ。袋じゃねーほうでよかったけど、反対だったら卵が割れてたぞ。
「何だよ、危ねぇだろうが」
「危ねぇではありません! あなた! こんなとこにいたのですね!!」
「あ?」
振り向いて見た姿。
"アン"より低い背に、どこかで見たようなお嬢様然とした学生服。
整えられた髪と眉。
白い翼。
どうしよう、全く見覚えがない。
「...人違いでは?」
「しらばっくらるのも大概にしなさい! あなたアンでしょ!」
「あー、アンだわ。確かに」
そうか、"アン"の知り合いか。
しかもキレられてるから、悪い知り合いだな。
どうしたものか...卵だけは守りたいな。
「腹立つその言い方! 変わってませんのね!
とにかく! 今すぐトリニティに戻って謝罪しなさい! サクラコ様や委員会の方々にも!」
「え?」
ヤバい。イチからジュウまでわからん。
謝罪って何だ。サクラコ様って誰だ。委員会って何だ。まあトリニティの委員会のことか。ようやくイチくらいならわかったわ。
「ちょっと落ち着け。わかんないんだわ。とりあえず一回家に帰ってからどこかで話をだな...」
まあ"アン"のことを知れるいい機会かもしれないし、話をすること自体は吝かではないんだが...
「キーッ!! どこまでしらばっくれるおつもりで!! あまつさえ帰るなどと!!
こうなったら...!」
できるだけ穏便に済ませたかったのに、なんと相手はカバンからアサルトライフルを取り出し銃口をこちらに―――
―――コロ―――
「ガハッ!?」
「...あ?」
―――気がついたら、アサルトライフルを取り上げ、女子生徒を地面にはっ倒してた。
うわ、ここまですることないじゃん。綺麗な服汚れちゃってるし。誰だよこんな酷いことしたの。
あたしだわ。
「ほ、本性表しましたわね...! 赤髪の無情な先輩め...!」
「す、すまん。ここまでする気じゃ...」
「どうして...! どうして...!」
「すまんって。ほら、銃も返すから...」
「どうして貴女なんかが生き残ったんですかッ!!!」
「.....................はい?」
生き残った?
あたしが?
「ひいいいいいいいいい!!」
「あ、あ~...」
聞き返そうとしたが、女子生徒は銃をひったくるように取って駆け出してしまった。
うーむ、話も聞けなかったし、大いなる誤解を生んでしまった気がする。
「...なあ、お前。どういうことかわかるか?」
話し相手を求めて、つい普段からうるさい奴にも聞きたくなるというもの。
『..................』
「おーい、今回はお前に聞いてるんだぞ。
お〜〜い」
『...んあ? すまん、ワシか?』
「お前だわ。お前じゃなかったらガチの独り言なんだわ。あ、また声に...あぁもう...」
だってのに、肝心なときに上の空だわ。
空に夢中なのはハナミだけにしてくれって。
「あいつのこと。知らん?」
『...知らん。じゃがあいつはまあ、トリニティの生徒じゃろう。口調や仕草、あと匂いもそうじゃ』
「トリニティ...あ~~」
取り出すのは、"アン"のもう一つの生徒手帳。
今の学校のではなく、以前の学校の頃の、この体が"アン"のものだったときの手帳だ。
確かにそこに記されていた、"トリニティ総合学園シスターフッド所属"と。
「そっか..."アン"があたしになってるの知られてないんだな...」
マジで何やらかしたんだ、"アン"よ。
不安にさせないでくれ。
「...帰るか。あー、袋が...」
知らず知らず地面に落ちてた袋を拾い上げる。
まあ案の定、卵は潰れて半分以上割れていた。
幸い、小袋から漏れてはいないから他のは無事だ。
「...オムレツだな」
どうにも味の濃いオムレツが出来そうだ。
そこからの帰り道は、現実も脳内も静かだった。