「なあ。銃って何を使えばいいんだ?」
『あぁん? 知るか。ワシに銃のことなんぞ聞くでないわ』
「期待したあたしがバカだったわ」
学園都市キヴォトス。
この地では、人が銃を持つのが当たり前となっている、らしい。クラスの人たちも当たり前のように銃を持ってる。
だが、あたしにはその価値観も今一つピンと来ていないし、初めて目覚めたときも"アン"の所持品にも部屋の中にも、銃らしきものは何一つ無かった。
なんで持ってないんだよ。
危険だろ。
あたしが。
「ほら、前みたいにトリニティの嬢ちゃんがカチコんでくることもあるかもだから、あたしも持っておこうかな~と」
『...ふんっ。好きにせい。
ワシはその話には乗れないがなぁ』
「ホントうるさいだけだなアンタ。いい加減誰なんだよお前は」
『さっきから聞くことしか能がないのぉ愚か者!! アタマで考えてみろ!! その変な髪色のアタマでなぁ!! ひーひゃひゃひゃ!!』
「髪色は"アン"のせいだコラ」
言いたい放題言いやがってこの...!
それに結構いいだろ紫髪。高めな"アン"の背丈にわりと似合ってるだろ。翼も黒くてカッコいいし。
少なくとも写真の中の短い赤髪に白羽の"アン"よりは落ち着いた雰囲気であたし好みだ。
「うーん...なーんかこう、抵抗感がなー」
やっぱ銃とか怖いんだよなぁ。考えるの嫌になってきた。
それより、今夜はお待ちかねのハンバーグなんだわ。我ながら旨くできたぜ~♪
やかましいわ。
「ほいよハンバーグお待ち~」
『やったあああああ!! ねぇねぇねぇ!! ハバネロいーっぱいかけてガブッといって!!』
「旨くできたんだよそんな勿体無いことできねぇよ。
ほいじゃ、いただきます。あむっ、うまっ」
『キャアアアアア⭐️♪⭐️♪⭐️♪ウマイイイイイ⭐️♪⭐️♪⭐️♪』
「...ま、許してやるか」
相変わらず脳内奇声がうるさいが、まあ作った飯を喜ばれて悪い気はしない。少しは多目に見よう。
ハバネロはかけないが、チーズくらいは乗せてやるか。
あたしが好きだし。
(そういえば...)
ハナミはどんな銃を使っているのだろうか。
思えば気にしてこなかった。あいつもあたしも、争いごとはあまりしないタチだからな。
× × × ×
「ということでどうなんだ、ハナミ」
「すまん。もう少し待て。後少しで完成するのだ」
「あいよ」
美術室。
初めて入ったな。
絵の具の臭いがプンプンする室内で、ハナミは一心不乱に紙を色で染めている。
ほう、今日は色えんぴつの日か。
「...すぅ...うむ...ここと...ここか...」
顔は真剣そのもの。横顔がイケメンである。
これ眺めてるだけでもまあ飽きないな。
「...よし、できた。
見ろ、アン。授業中に見せた絵の続きが完成したぞ」
「授業中にが無ければ完璧なんだけどなあ」
お出しされたのは、教室中を折り紙でできた鶴が無数に飛び回る、とても幻想的かつ楽しさに溢れた絵だ。
「いかにもハナミが描きそうな絵だな」
「そうだろう。いい絵だろう」
授業に反逆して紙なんて飛んで行ってしまえという感情が如実に出てるところも含めてのハナミらしさだ。
「授業に反逆して紙なんて飛んで行ってしまえという感情が如実に出てるところも含めてな」
「その軽口は言わずに胸にしまって置くものじゃないのか?」
「すまん。あたしはズバズバ物言うタチなんだ」
「ああ、知ってる」
その絵は、美術室の一角にある箱の中にスッと入れられた。管理雑じゃないか?
「ふぅ。いい絵が描けた。
待たせたな、アン。帰っていいぞ」
「帰んねぇよ聞きたいことがあるって言ってんだろ」
「そうだったか?」
「このバカ...」
ほんま。
こいつほんま。
何のためにあたしがこんなところで待たされたと。
「もう一度聞くが。
ハナミ、銃を見せてくれないか?」
「銃か、そうだったそうだった。ちょっと待っていろ」
完全に忘れていたというマヌケ顔だった。これがさっきのイケメン横顔と同一人物だという事実。
「これだ。この拳銃だ」
マヌケが違う違うハナミが鞄から拳銃を取り出した。
「小っっっっっっっっっさ」
「だろう? そこが気に入っている」
ハナミの比較的大きめの手のひらにポンっと乗っかっている拳銃は、それはそれは可愛らしいサイズで。
妙にハナミらしいと感じる一品だった。
「自動リロード式、小口径、装填数8発。
型式は知らないが、軽くて反動が小さく、手が疲れなくてオレには好ましい」
「...なるほどな。そういう考えもあるのか」
思ってたよりちゃんとした理由なもんで、納得させられてしまった。少なくともあたしよりは考えられている。ハナミのくせになまいきだ。
「ハナミのことだから、パッと見て美しかったからとかそういう理由かと思った」
「6割くらいはそうだな」
「半分以上じゃねーかそれ先に言え」
「何なら反動とかそういうのは後から着いてきた利点だな」
「台無しだよ」
良かったハナミはちゃんとハナミだった。
「まあ、オレは銃を積極的に使うわけでもないからな。お守り代わりにと適当に見繕っただけだ。
アンも銃を持つなら、その程度の理由で適当に持ってみてもいいと思うぞ」
「...そうか。ありがとう、参考になった」
「ああ。礼には及ばない。明日もノートを見せてくれればな」
「いい加減少しは自分でノートとれ」
それでも、気は随分と楽になった。
護身用にとか、あのトリニティお嬢様と戦うためとか、そういう理由で銃を持つのはどうにも気が重い。お守り程度の気持ちで持つのが精一杯だろう。
それに、ハナミの銃を小っさとは言ったが、これですらあたしには抵抗感がある。何の覚悟も無しには一発すら撃てないと思ってしまってるくらいには。
どうにも、銃は好きになれん。
「また考えてみるわ。じゃ」
「帰るのか。気を付けてな」
そう言って、ハナミは美術室に置いてあるパレットを手にした。絵の具の臭いはあのへんからか。
ハナミの絵が気にならないことも無かったが...むしろ壁際に置いてあるクソデカい布が掛かってるやつとか気になりまくりだが...明日もバイトだ。
大人しく、帰路についた。
『あぁん? 大人しく家に帰るってのか? 折角あの絵描きから話を聞けたのにかぁ?』
「まあな。銃はまた今度だ」
『ひーひゃひゃひゃ!! 怖気づいたか!! ザコめ!!』
「うるせぇな...やっぱなんかこう、イヤなんだよ」
『ケッ! 好きにせい!』
今日はあいつに帰りを狙われることもなく、平和に食べ物だけ買って帰った。
さあ、明日も朝からバイトだ。待っててくれセリカちゃん。