「ふぅ...おっ、お疲れ、セリカちゃん」
「アンさん! お疲れ様です!」
今日もバイトが終わった。
帰りの更衣室で、セリカちゃんと一緒になる。
「今日もいてくれて有り難かった。ありがとう」
「お役に立てて良かったです!」
「セリカちゃんは次もあるんだろう? 気をつけてね」
バイトしながら軽く話をしてたが、セリカちゃんはこのあたりで複数のバイトを掛け持っている超バイト戦士らしいのだ。
何でも学校の借金を返すのだとか。偉すぎるだろ。本当に一年生? 背負ってる物が大きすぎない?
「大丈夫です。一応私ちょっとは強いんで!」
「だろうねぇ」
そんな子が並の戦士なわけないわ。
一人で十体くらい倒せそうだもん。
「あはははは...それでは、これで! またよろしくお願いいたします!」
「こちらこそ、またお願いするね」
そう言って去っていくセリカちゃんの動きは早く、退勤の最高効率を極めていて、一瞬で姿が見えなくなる。
「あれならあたしみたいに絡まれても大丈夫だな」
『貴様もあれくらいやってのけなければなぁ!! ひーひゃひゃひゃ!!』
「うるせぇいきなり出てくんな。あたし達も帰るぞ」
『今日は焼きそばパン食べたーい!! 紅ショウガいーっぱい乗っけて!!』
「へいへい」
あたしも帰ろう。
今日は学校も休みだ。久々にのんびりマンガでも読もうかな。
× × × ×
「ねぇ! 聞いてるんですけど!?」
「お答えいただけませんか!?」
「あの日、何があったのですの!」
「ちっ...!」
最悪だ。
バイト帰りを狙われた。
見れば、いつぞやのトリニティの生徒。今度は三人に増えた。
掴まれ、押され、知らんコンビニの裏で囲まれた。くそがっ。
「だから言ってるだろ。あたしは何も知らないんだよ」
「ほら、こいつ惚けたことを言うんですの!」
「知らないなんてことないでしょう! あの日のことをずーっと黙ったままで!」
「しらばっくれるのも大概にしてください!」
「聞いちゃいない...!」
本当に不快だ...
不快だが...いいことを思い付いた。
こんな奴らでも、"アン"のことを知ってる奴らだ。上手く聞き出せば"アン"のことがわかるかもしれない...!
「おい...悪いが、一つ一つ思い出させてくれ。あの日っていつのことだ?」
まずは初歩的なところから。5W1Hとやらだ。勉強が役に立つ。
「それを私達の口から言わせるなどと...!」
「忘れもしない! エデン事件の日のことですの!」
「それ以外にいつのことだっていうのよ!」
エデン事件...エデン事件...
思い出した。学食のニュースで流れてるやつか。あれのことばっかりだもんな。
エデン事件のとき、ね。
「エデン事件のときか。大変だったもんなぁ」
「貴女...他人事のように...!」
「あなたがあの日、古聖堂の調印式の場にいたせいで...!」
ついでに"古聖堂の調印式の場"とかいうキーワードもゲット。場所のことで間違いないだろう。
「あたしも大変だったんだぞ? お前らもいたんだろう?」
「どこまでも嫌味ったらしいですの!」
「私達は行けませんでしたわよ! 限られた人しか参加できない超重大式典でしたのよ!」
「本当に! なぜ貴女が!」
なんだ、コイツら当日は部外者だったのかよ。
でもあたしは、というより"アン"はいたと。
「ちなみにだが...お前らは、あたしが何をしたって聞いてるんだ?」
しっかし、コイツらよく喋るな。
敢えて琴線に触れるような話し方にてご無礼しているのは事実だが、ここまで欲しい情報をペラペラと話してくれて、有り難い限りだ。
でもまあ...そろそろ拳の一発くらいは覚悟だな...
「貴女が! 貴女が古聖堂にいたせいで!」
「そのせいで! 彼女は!」
「彼女が殺されたんですの!!」
ですの、のお嬢様が拳を振りかぶった。あーこれ顔面だわ―――
「ヴァルキューレさん! こっちです! こっち!」
「なんですの...!?」
「来ますわ! 逃げましょう!」
「くっ...いいですわ! 貴女なんて捕まってしまえばいいんですのよ!」
―――助かった。
「大丈夫ですか! アンさん!」
「...君の名前に黒は似合わないよ」
「...へ?」
声が聞こえたときはホント、天使か何かかと。
バイト中も癒しだし、優しいし、シゴデキだし、好き。
「ありがとう、セリカちゃん。好き」
「ちょっ! いきなり変なこと言わないでください! 心配したんですから!」
「ふふっ。それで、ヴァルキューレとやらは?」
「...あーすみません、ヴァルキューレが来るのは咄嗟のウソでして...」
「そうか。いやいや、助かったよ。好き」
「まーたそういうこと...!
はぁ...とりあえず、バックルームで休んで行ってください。今日はここ私しかいないので」
てことはあの後、ここのコンビニでバイト中だったのか。
運いいな。神に感謝だ。
神なんてカケラも信じる気無いけど。