(なあ)
『なんだぁ? 次買うマンガならもっとバトルシーン多い奴にしてぇ~?』
(んなこと聞いてねぇよ。なんでお前のためにマンガ選んでやらにゃあならんのよ)
まあバトルものはあたしも好きだけどさ。
それは後で買うとして、今日のバイトの帰り道、妙案を思いついた。
忘れず、声は出さずに心の声でっと。
(明日、トリニティ行かないか?)
『ぶっは!? 突然何を言い出す!?』
汚ねぇな。吹き出すなよ。
まあ吹き出すものも無いし、そもそもコイツ何も食ってねぇし。じゃあ何を吹き出したんだよ。
(いや、もう面倒だから直接会って聞いちまおうかなーって)
『せっかく転校したのにか!?』
(転校したのは"アン"だろ。あたしには関係ない)
襲撃してきたあいつらに出くわす可能性もあるし、何なら学園総出であたしを攻撃してくる可能性すらあるわけだが。
それほど"アン"がヘイトを溜めてるなら、転校してるところで逃げ切れないだろうし。今後も襲われて、何なら今の学校が被害を受けるようなことがあってはならない。
ハナミには、ハナミの作品には、決して手を出させるわけにはいかない。
であれば取るべきは、先手に他ならないはずだ。それであたしだけでカタつけられれば最高だ。
つくづく地頭いいな、"アン"よ。スペックいい頭してるわ。
『なんだなんだ!? 学園相手にカチコミでも仕掛けようってのか!? 頭ん中トチ狂ったんかぁ!? ああん!?』
(頭ん中で狂ってるのはお前だろ。それにどこの極道モンだよそんなカチコミとか。普通に行って話がしたいんだよ)
どうにも、あたしが起きる前にいろいろあったらしい。
それを知り、あたしからも全てを話す。これで終いだ。簡単だろう。
『はああああ...ワシは知らんからな』
(いつも通り、頭ん中でギャーギャー喚いていろ。全部終わらせてやる)
元より、コイツにどうこう言われようとも、関係ない。
そもそもお前は何なんだよ。
トリニティでそれを聞いてみてもいいかもしれないな。
『はあああああ...』
(溜め息はよせ。幸せとセリカちゃんが逃げちゃうだろ)
『...溜め息も出るわ、こんなの』
頭ん中が不幸だ。
まあ悪いのが憑いてるようなものだから当然か。
それ、悪霊退散、悪霊退散。ぎゃーてー、ぎゃーてー...これはちょっと違ったか。
× × × ×
「なあセリカちゃん」
「はい! 何ですかアン先輩!」
バイト前、今日も早めについているセリカちゃんに話しかける。
すっかりセリカちゃんと話すことが多くなった
うおー、今日も癒しだ。助かる。天使。好き。
「トリニティに友達とかいないかな? 行ってみたくて」
「トリニティですか? あー、一人いますよ。先輩と同学年の方!」
マジか。セリカちゃん交友関係広いな。
「いるんだ。バ先で知り合ったとか?」
「いえ、まあ、その。たまたまというか、経緯はちょっとアレなんですけど...銀行で...」
「銀行?」
「あっ、いいえ! 今のは違くて...!」
また銀行か。
セリカちゃん達は銀行が好きなのかな。変わった趣味だ。
でもセリカちゃんなら銀行員とかきっとなれるよ。
襲ってきた銀行強盗を華麗に撃退するセリカちゃんが見たい。
「まあその銀行友達でもいい。どんな人なんだ?」
「ぎ、銀行友達...! あながち間違いじゃない...?
ああもう! 経緯はともかく! 本人も言う通り、普段は温厚で普通な人なんで! 大丈夫ですから!...多分」
...なーんか含みがあるけど。随所に。
まあセリカちゃんの友達なら大丈夫でしょ。
危ない事したり、学校サボったりとかっていう子ではないはずだ。
銃や火器、ましてや戦車なんて全く縁のない、真面目でいい人なんだろうなぁ~。
「じゃあ、その人を紹介してほしいな。トリニティ行く前に誰かには話しておきたいから」
「ならちょうどいいかもです! なんか、トリニティの偉い人とお友達らしいので!」
「そうなのか? 助かる」
ススス~っとセリカちゃんがモモトークを送っている。
ピコンッと通知。すぐに返信が来たようだ。
「おっけーみたいです! その子から、ナギサ様? にモモトークしてくれるみたいなので!」
「ありがとうセリカちゃん。好き」
「っ...! ああもうアン先輩まで先生みたいに...! そんな冗談言ってたらもう手伝ってあげないんですからねっ!」
「冗談じゃないのに...」
テレ顔のセリカちゃんもかわいい。
何はともあれ、これでトリニティに行けそうだ。
「はぁ...じゃあこの子の連絡先送りますね」
「はいよ...来た来た。この子か」
表示された顔は、確かに普通って感じのかわいい子だ。
バイト終わったら連絡とってみよっと。
「その人です。
トリニティ総合学園二年生。阿慈谷ヒフミさんです!」
× × × ×
「アン」
「どうしたハナミ」
放課後。今日は美術室に寄ってみた。
ハナミは例の古聖堂を描いていた。あたしが来たら手を止めたが、変わらず描いていて欲しいと頼んだ。
「怖くないのか」
「...ちょっとは」
「ふっ、正直なやつめ」
そして描く姿を後ろから眺めているのだが...それだけでわかるくらい、この絵を描いているハナミからは鬼気迫るものを感じている。
内心、どれほどの感情が渦巻いてることか、過去を聞いても尚、想像しきれるはずもなかった。
「ハナミ。一つだけ知らせに来た」
「どうした、アン」
ハナミが少しだけ気を抜いた瞬間が訪れた。
意を決して、告げる。
「明日、トリニティに行ってこようと思う」
「...学校はどうする?」
「休む。よろしく言っておいてくれ」
考え、やはり行くことにしたのだ。
そして折角行くなら、向こうの生徒も揃っている平日に行くべきだと判断した。
「...決意は固いようだな。なら止めはしない」
「ありがとな」
「トリニティの生徒にはお前に悪感情を持つものもいると聞く。大丈夫なのか」
「それは知ってる。計二回、帰りを襲われてる」
「...トリニティどもめ...!」
「お前にもトリニティ嫌いとかあるのか?」
「たった今、嫌いになりそうだ。
もう友を失いたくないオレの思いも考えてはくれないか」
...すまないな、ハナミ。
「はいよ。ハナミのためにも、五体満足で帰ってくると神に誓おう」
「だからお前は神を信じていないだろう。友よ」
「へへっ。そうだったな、友よ」
「土産も噂に聞くロールケーキだけでいいから、無事に帰って来いよ」
「ちゃっかりねだってんじゃねぇよ」
まあ、余裕があったら買ってきてやるか。
こんなあたしにも帰りを待ってくれるヤツがいてくれて嬉しい限りだよ。
「...アン、お前は銃を持っていなかったな」
「...まあ、そうだな」
「これを持っていけ」
手渡されたのは、小さめの拳銃とマガジンが数個。
「これ、ハナミの...」
「お前が銃を持ちたくないのは何となく察している。
だがいざというときには迷わず使え」
「お前はどうするんだよ」
「予備がある」
ハナミの手にちょこんと乗るくらい小さい拳銃を握る。
持ってみたら異常に重くのしかかる。
...重いなぁ、本当に。
「お守りと思ってくれてもいい。
頼む。オレに、お前を守らせてくれ」
「...んな大げさな...」
とはいえ無理もないか。
一度友を失っているハナミの心は押して図るべしだな。
「わかった。大切にするよ」
「すまない、ありがとう」
「そりゃあたしの言葉だ」
ハンドガンを鞄にしまう。やはり抵抗感があるが、ハナミの銃だと思うと幾分かマシだ。いざというときに一発撃てるくらいの気楽さはある。
「じゃ、すまんが行ってくる」
「また朝会おうな」
「ああ、また」
また帰ってくるよ。
この学校に。
次話まで、少々間隔を開けさせていただきます。
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