「……ん」
目を覚まし、周りを確認するかのように左右とゆっくり頭を傾ける。
ぼやけている意識でも、いつの間にか制服を着たままうつ伏せで寝てしまっていた事に気付く。
部屋は暗く、外から差し込む街灯の光と思われる明るさが夜だと教えてくれる。
(ここは…私の部屋?どう帰ってきたんだっけ。先輩に作業手伝ってもらって…それで)
これまでの記憶を辿る。
未だハッキリしない頭で順々に思い出していく。
(さよならだ…)
ズキン
(っ…!先輩…せんぱい…せん、ぱい…)
思い出した、思い出してしまった。
先輩の発したあの言葉を。
先輩に色々頼みすぎちゃったから嫌われてしまったんだろうか…
私なにかしちゃったのかな…考えても分からない。
いや、頭の中がぐちゃぐちゃすぎて何も考えられない。
ツー
「うっ…うぅ、ヒック…せんぱぁい…」
堪えきれず一筋の涙が頬を下っていく。
今はただ、突き放されてしまった事実を認めざるおえない現実に失望するしかなかった。
⭐︎⭐︎⭐︎
さよならだ
「せ、せんぱ…」
一色は今にも消えそうなほど小さな声で俺を呼びながら手を伸ばすが、その手には何も握られていない。
俺が一言いい終えた時には踵を返し、生徒会室のドアに手を掛けていた。
一色はその場から動かず、俯いて涙を流していた。
俺が、泣かせた。
大事な存在だと思っていたものを、自らの手で壊した。
それがお互いの為だと自分に言い聞かせて。
その日は荷物を持ってきていたので、部室には寄らずそのまま帰った。
アイツらに会ったら全部見抜かれそうで怖かった。
「うっ…一色…ごめん、ごめんなぁ」
雲一つない夕焼け空だったが、俺から見える空は揺らいでいた。
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あれから暫く経った。
雪ノ下や由比ヶ浜はもちろん、戸塚、材木座でさえ早々に俺の異変に気付き色々と聞いてきたが、何でもないと言ってからはそれきり聞いて来なくなった。
一色は部室に来なくなった。
あの笑顔はもう見れない。
あの声はもう聞けない。
俺は逃げた、全てから逃げた。
数少ない友人からも。
本物が欲しいと、共に泣いた奉仕部からも。
小町からは過去最大級に目が腐ってると言ってきただけで、他は何も聞いてこなかった。
そして、あっという間に学年は3年生になり一日のやることは受験勉強がメインになった。
来る日も来る日も勉強に明け暮れ、残りの学生生活は灰色に。
気づけば受験シーズン、目標だった東京の大学を受験した。
普通なら合格発表まで気が気でないだろうに、俺の場合は妙に落ち着いていた。まるで合格している事が決まっているかのように。
合格発表当日、スマホで結果を確認し、自分の受験番号が画面に表示されているのを確認した。
ふーっと安堵した。
でもそれは無事合格出来たから、だけではないと理解していた。
またあの時みたいに、人間関係をリセットしたんだ。
今や俺ひとり、他はいない。
ひとりぼっち。
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高校卒業後は実家を出て一人暮らしを始めた。
あれだけ好きだった千葉からも逃げて。
あの場所にいると、今にでも壊れてしまいそうだった…。
雪ノ下らは卒業後、それぞれ別の道を歩んだ。
もちろん、2人とは一切連絡を取っていない。
今更相談なんて出来ないし、する気もない。
授業受けて、バイトして、飯食って寝る。
そんな無気力な生活を1年間続けた。
ずっと心にぽっかり穴が空いたまま…。
そして2年に進級する新たな年になった。
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キーンコーン…
「あー、では今日の課題は以上。本日中にサイトから提出するように」
講義終了の鐘が鳴り、教室にいた学生たちは各々雑談などしながら片付けをし教室を出ていく。
俺のもその中の一人。
まぁ雑談する相手いないからステルスヒッキー状態なんだけどね。
「…………」
今日の授業は全て終わり、次はバイトの時間になる。
今日は誰と相方だろうか、暇だといいなぁ…
面倒な客の相手なんざ絶対嫌だ。
しっかし、今日の授業は楽だったな。
一人でずっと喋ってるだけで金貰えるとか超楽じゃん。
んで俺らは話聞いてるだけで単位もらえてwin-win
いま一瞬玉縄出てきたな、懐かしい。
あいつちゃんと人間語話せてるんだろうな?
クリスマスイベントの事は今でもよく覚えてる。
懐かしい…か。
『先輩!』
(っ……)
思い出したくないものまで思い出しちまった、はぁ…
俺はまだ忘れられないでいる。
これ辛いんだよなぁ
『先輩!』
変に昔のこと思い出したら、記憶の奥底に眠ってたアイツの声が頭の中で反響する。
やめてくれ…もう忘れたはずなんだ…
「先輩!」
「……え?」
リアルな声量で現実に引き戻される。
そして何故か聞き覚えのある声のせいで余計に反応良く振り返ってしまった。
その声の先にいる人物を俺の瞳が捉える。
「………………」
俺はいま、どんな表情をしているのだろう。
まるでおばけでも見たような顔だろうか。
それくらい間抜けな顔だろう。
そんな…バカな。
なんで、お前が。
何でお前がここにいるんだ。
「やっと見つけましたよ、何も言わず勝手にいなくなるなんて」
「………一色?」
「はい、一色いろはですよ。お久しぶりです、先輩」
夢でも幻覚でもない、一色いろはがそこにいた。