あれから数日後、お互い予定のない日があったから夕食がてら話そうと一色を誘った。
もちろんサイゼである、ここは譲らない。
時刻は19時、ディナータイムだからか周囲は他の客で席が埋まりつつあり小さめな喧騒が店内に響いていた。
逆にこの喧騒のおかげで、しーんとした空間で話すより気が紛れて多少は話しやすいかと考えていた。
世間話を交わらせながらお互い注文を決めて品番用紙を店員に渡す。
気を利かせてか気付かぬうちに一色が水を持ってきてくれていた。
この辺りも変わったなぁと思うところ。
「さて、どこから話しましょうか?」
先に口を開いたのは一色だった。
久しぶりに会った日からの数日間、どう話そうかと思考を巡らせてはいたものの、いざ話そうとすると口が重くなる。
どこからか…どこからだろうなぁ
「一色は…どうして…俺を追ってまでここに来たんだ」
詰まり詰まり口から出た言葉はほぼ分かりきっているであろう質問で、でも直接一色から聞きたいことだと思った。
間違えないように予防線を張るのは癖だから仕方ない。
「好きだからですよ」
「…好き?」
「はい、先輩の事が好きだからです」
「………」
「先輩の事が…」
「聞こえてる、聞こえてるからちょっと待とうね…?」
「そうですか」
直球ストレート、想像以上にど真ん中過ぎた。
待って一色のやつ腹括り過ぎじゃない?
これじゃうだうだ考えてた俺バカみたいじゃん。
ストレートすぎて自分でも顔が熱いくらい赤くなってると理解できる。
「先輩は、どうして…っていっても答えは出てますよね。どうせわたしを傷つけたくないとか黒歴史がどうとか余計な事考えてその上わたしから逃げたんですよね?」
答え合わせにしても矛先鋭すぎだしなんなら刺さってる。
口撃の火力上がりすぎだって。
ぐぅの音も出ないくらい正確すぎるが、なんとか口を開いて回答する。
「……あぁ、全くもってその通り。正確すぎて泣けてきた」
「自業自得なので受け止めてください」
「あ、はい…」
容赦ないいろはすの攻撃!
会話始まってものの数分でメンタル持たなそう、いやほんと自業自得なんだけどさ。
そんな事を思っていると、一色が続けて問い始める。
「ごめんなさい、でも先輩をそう追い詰めてしまったのはわたしのせいですよね?自覚してるんです、今だから分かるんですよ、幼い自分のせいだって」
そう言って一色はゆっくりと両目を閉じ、当時の心境を話し始めた。
⭐︎⭐︎⭐︎
あの時の想い出は今でもはっきりと思い出せます。
見返してやろうなんて浅はかな気持ちで始めた生徒会長という役職でも、大変だったけど得難い経験で、唯一の想い出で、本当に楽しかった。
でもそれは先輩がいてくれたから。
そもそも先輩と出会っていなければ、わたしは普通の女子高生で終わっていたと思います。
先輩がいてくれたから楽しかったと思える。
そんな時に先輩はわたしの前からいなくなってしまった、もちろん会おうと思えば教室に行けば良いし奉仕部にも乗り込めた。
でもあの時のわたしは先輩のことを全然分かってなかった、あんなに一緒にいたのに。
先輩は捻くれてるって分かってるのに、"どうしてわたしを突き放すようなことをしたのか"を理解できませんでした。
あの時はただ、頼ってばかりでとうとう愛想を尽かされたとばかり思ってました。
それが頭の中を埋め尽くしている状態で先輩に会うなんて出来るはずもありません。
それからしばらくしてからですかね、雪乃先輩と結衣先輩に呼び出されたんですよ。
理由は明白で、先輩のことだろうと分かっていました。
多分、怒られるんだと。タイミング的にそれしか考えられない。
指定されたのは放課後の奉仕部部室。
意を決して部室に入ったんですけど、その日は先輩がお休みだったみたいでお二人しかいませんでした。
ホッとしたのも束の間、怒られるのは変わらないと思って気を引き締め直したんです。
あの3人の輪に割って入ったようなわたし、そして先輩を良いように使って見限られて。
それは怒られて当然なわけで。
そんな事を考えていたら、先に雪乃先輩が口を開いたんです。
あぁ、何て言われるのかな…と身構えていたら、言われた言葉は想像も出来なかったものですよ。
なんて言ったと思います?
『比企谷くんがごめんなさい』ですよ?
流石に予想外すぎて腰が砕けちゃってその場に座り込んじゃったんですよ。
緊張の糸が切れちゃったんですね。
お二人が話すに、先輩はあの日のこと何にも言ってなかったみたいですね。
ただ色々とおかしいと思ってはいたと言ってました。
そしてわたしが来なくなった事やわたしの話題を出した時に先輩の表情とか声とかあからさまにおかしくなったとか、色々と状況証拠が集まってきてたみたいです。
そして1番はあんな事言ったみたいじゃないですか?
『比企谷くん、一色さんと何かあったの?』
『何もない』
『そんなふうに見えないよ、いろはちゃん最近全然来ないしいろはちゃんの話をした時だってヒッキーずっと辛そうだし、無理してるようにしか…』
『無理もしていない』
『そんなわけ…』
『すまん、2人とも。何も聞かないでくれ』
『………』
『………』
『悪いのは、俺なんだ。話は通したから』
お二人はこれ以上聞いても無駄だと思って聞くのをやめたそうです。
こうなった先輩は何が何でも口を割らないだろうって。
だからいつか先輩から話してくれるまで待つと、そう言ったました。
あぁ、敵わないなぁって思いましたね。
そこからは実際の、あの時のことをお二人に話しました。
そしたらお二人とも、呆れ笑いしてましたよ。
その時はなんで笑えるのか理解できませんでしたけど。
『全く彼は…』
『あはは…まぁヒッキーっぽいよね』
『これで納得もできるし彼自身自分が悪いと言っていた意味もわかるわ』
『……先輩が?』
『ねぇ、一色さん。貴女から見て彼はどう見える?』
『……先輩は頼りになって、もし困ったことがあれば嫌々ながらもなんだかんだ助けてくれるお人好しで…』
『確かにそうね、でも本質はそこじゃないわ』
『うん。いろはちゃんはさ、生徒会選挙の時のこと覚えてる?』
『……はい』
『ならさ、ヒッキーってどんなやり方でいろはちゃんの事勝たせたんだっけ』
『あれは…先輩が葉山先輩とか雪乃先輩の名前を使って偽のSNSアカウント作ったりして…わたしの人気を集めた風にして…』
『そうだね、正しいやり方じゃなかったよね。でもヒッキーはそれが得意』
『……?』
『一色さん、彼は捻くれているのよ』
『…?そうですね…先輩は捻くれて……!』
『何か気付いたみたいね』
『まさか…先輩はワザとわたしを突き放したっていうんですか…?』
『ええ、状況を見るにその可能性が高いわ』
『もしそうだとして、先輩に得なんてないですよね?』
『得かどうかと言われたら微妙ね。彼は大切な人ほど遠ざけようとする癖があるのよ、妹の小町さんを除いて』
『大切な…人ほど…』
『恐らく、彼は私たち以上に貴女の事を思っているわ』
『そうだねぇ、悔しいけど分かっちゃうんだよね』
『わたしがお二人より大切だなんて、そんな…』
『これはもう理屈ではないのよ、なんと言うか…』
『女の勘ってやつ?』
『そうとも言うわね』
『………』
『一色さんは葉山くんの事が気になっていたわよね、それは今も?』
『……葉山先輩は…カッコいいですし人気者ですし、憧れてます』
『なら彼は?』
『先輩は…』
『私は彼のこと、気に入っているわよ。もしかしたら異性として』
『!!』
『あ、あたしも!ヒッキーのこと…』
『貴女はどうなの?』
『わ、わたしは…わたしは…』
『………』
『………』
『わたしは…先輩の事が…好きなんだと思います』
『そう』
『そっかぁ』
『………』
『なら、いつか彼に伝えないといけないわね』
『でも今はやめておいた方がいいかもね』
『そうね、今の彼はとても危うい状態にあると思うの。その上受験生だもの、精神的負荷をこれ以上与えるのはおすすめしないわ』
『……ならわたしはどうすればいいんでしょうか、先輩の迷惑になるのならあたしは…』
『手なら一つあるわ、彼の進学先と同じところを受験するの』
『えぇ!ヒッキーと同じところって、東京の大学だよね?しかも凄く頭のいいところだったし…』
『平均的に見れば難しい部類に入るでしょうね、私なら余裕だけれど』
『そんな……』
『でも、そんな私が勉強を教えるというのなら、どんな人でも可能性はあるわよね?』
『それって…ゆきのんもしかして』
『多分、彼を振り向かせられるのは貴女だけよ。私たちは彼を支えることしかもう出来ないと思う』
『………』
『だから、貴女がそれでも彼を追うというのであれば、私は助力を惜しまないわ』
『雪乃先輩…!』
『どうするの?』
『わたしはこのまま終わるのは嫌です…先輩を追いかけたい…!雪乃先輩……わたしを、わたしに勉強を教えてください!』
『……わかりました。奉仕部としてその依頼、お受けします』
『あ、あたしも勉強は無理だけど出来る限り手伝うから!』
『由比ヶ浜さん、貴女も教わる側よ』
まぁ、そんなこんなで先輩には内緒で雪乃先輩にほぼマンツーマンで勉強を教えてもらったんですよ。
それはもう辛かったですね、当時のわたしじゃ逆立ちしても届くわけがない大学でしたし。
でもそんな甲斐あって無事合格できたってわけですよ。
地頭は悪い方じゃないですからねー、本気を出せばこんなもんですよ……ジョーダンです。
だから、先輩がなぜわたしを突き放したのか…なぜいなくなったのか分かったんです。
そしてわたし自身の気持ちも。
わたしのせいで先輩を追い込んで、ごめんなさい
⭐︎⭐︎⭐︎
一色の話を聞いている途中で料理が届いたから、食べながら話を聞いた。
そして食事が終わる頃に一色の話も一旦終わった。
「……そうか、あいつらがそんな事を…」
あいつらが辿り着いた俺の行動予測は怖いほど的中していて、見られていたんじゃないかと思えるくらいだった。
まぁ、それくらい俺を見ていてくれたんだと、嬉しく感じた。
「えぇ、ほんとに良い人たちですよ。頭が上がりません」
「俺…卒業してからあいつらと一切連絡取ってなかったんだよ」
「知ってますよ、それで結衣先輩とかすごーく寂しがってましたよ。顔には出ないけど雪乃先輩も」
「そうか…じゃあ今度久しぶりに連絡してみっかな」
「………」
あいつらのことを思い出して、罪滅ぼしのつもりでそう言ったら一色の目つきが一瞬で変わった。
そして頬を膨らませる。
何だこの可愛い生き物は。
「なんだよ…」
「わたしがいる時に他の女性の話しないでください、てか堂々と連絡するなんて言わないでくださいよバカですか?」
「えぇ…これは不可抗力だろ…」
「これは先輩が悪いですからね、傷ついたのでデザート奢ってください」
無理矢理すぎる…まぁ諸々の迷惑料だと思えば安いもんか。
新しい注文用紙を一色の前に出す。
「わーったから、好きなだけ頼めよ…」
ふふんっとしたり顔を見せてメニューに目を移す。
一色のこんな顔を見るのも、心地よい会話をするのも久しぶりだ。
これが見れなくなると考えたら、俺が悩み突き放した事が間違いだと実感する。
悲しませないようにとしたはずが、逆に悲しませてしまっていた。
なんと情けない話だ。
「さてと、わたしの話は以上です。次は先輩の番ですよ」
「俺の番って言ったって、ほぼ全部一色の話に出てきちまったじゃねぇか。話す事なくなっちまったよ」
「分かってませんねぇ先輩は。先輩の口から聞く事に意味があるんです」
さっき俺が一色に聞いたのとほぼ同じ理由だな。
ふと思い出したのは奉仕部で泣きあったあの日。
やはり人は分かりきっている事でも、大切なことほど言わないと伝わらないこともあるか…
どうして忘れちまっていたんだろうなぁ。
「そうだなぁ…あの時のことは今思い出しても死にたくなるくらい情けない記憶だな」
「そうですね、わたしから見ても情けないと思いました」
「自覚してる横から2倍攻撃するのやめよ?」
「はいはい。で、先輩がわたしを突き放した時どんな事を考えてたんですか?」
「………まぁ、あれだ、その」
「…………」
「………嫉妬してたんだよ」
「……へぇ、嫉妬ですか」
「そう、嫉妬。一色と葉山が話してるところを見た時にそう感じた」
「!!?」
あの時の俺の感情を話した途端、一色の顔がみるみる赤くなっていった。
「嫉妬…先輩がわたしに嫉妬を…ふふっ、そうですかそうですか…」
嫉妬という言葉を復誦しながらニヤニヤと表情が崩れていく一色。
一色さん、貴女いま凄く顔になってますよ。
「………でだ、俺は昔勘違いでやらかした記憶もあって、一色と葉山の邪魔をしないようにと…って思いながらも自分が傷付きたくないから勘違いと言い聞かせて一色から離れた」
「…………」
俺が言葉を一旦区切った時には一色は普通の表情に戻っていた。
恐らく一色が言っていた部分も大体ここについてなんだろうとは思っている。
「それはわたしのせいです、本当にごめんなさい」
一色は少し暗い表情になりながら目を伏せた。
違う、そうじゃないんだ、そうじゃないんだよ。
これは俺が自分大事にと取った行動で一色に非があるわけじゃない。
「一色、これはお前に非はないだろ。俺が勝手に嫉妬して突き放したんだから」
「いえ、あの時のわたしは仕事が出来るようになっても根本的なところは変わってなかったんですよ。好きと憧れを勘違いするくらいに」
「好きと…憧れ…」
「結局、どこまでいっても葉山先輩に対する思いは憧れだったんだと分かったんです。イケメンの人気者に縋る一般人と同じように」
「………」
「これを好きってことだと、ずっと勘違いしてきました。でも先輩と出会って、一緒に仕事とかして、わたしの素を見せて。そんなの葉山先輩に見せられないーとか考えてましたけど、そもそも好きでもない相手にそんなの見せられるはずがないじゃないですか」
葉山と俺の扱いに差があったのは確か。
表情も声のトーンも全て違っていたな、まぁそれが一色だと認識してたから今更どうこうも思わないが。
「あの日、お二人と話していてわたしの本当の気持ちに気付いたんです。葉山先輩を言い訳にしていたことも。デートした時だってそうですよ」
「あの時の予行演習のやつか、懐かしいな」
「はい、思い返してみればあの日はどんな服を着ていこうだとか髪型とか結構悩んだ記憶がありますよ、予行演習なのにですよ?無意識だったんでしょうね。普段なら適当な可愛い服選んで終わりなのに」
一色は真面目な表情で俺を見つめ直す。
「………それくらい、先輩を意識していたんですよ。わたしは」
一色はここまで俺に包み隠さず話してくれた。
当時の想いも。
なら、俺は……
「………一色」
「はい」
「………俺もあの時、嫉妬心を覚えた日に気付いたんだよ。お前といる日常が凄く楽しくて…愛おしくて…惹かれていたんだって」
あの日の記憶、黒歴史と共に思い出した忘れていたはずの感情。人を好きになる気持ちを。
結果的に自分の気持ちを無視して傷付きたくないからと逃げだしたが、一色に対しての感情は紛れもなく本物だったろう。
「その証拠に黒歴史以上に今日までお前とのこと引きずってるしな。それくらい、俺も意識してってことだな」
「先輩……」
「なぁ、一色。俺はお前に凄え迷惑をかけたと思う。お前の人生に関わるほどだったろう。だから、お前の人生を俺に支えさせてくれないか。罪滅ぼしのためじゃなく、心からそうしたいって思ってる」
「…………」
「どう……だろう」
「………先輩」
「……………」
「捻くれすぎです」
「………は?」
「そんな回りくどい言い方なんて期待してないですよ。確かに受験は大変でしたけど、それはわたしがやりたくてやった事ですから先輩に謝られる筋合いはないですし、なんならお互い様です」
そう、一色はきっぱりと言い切った。
これほぼ一刀両断じゃねぇか泣くぞ
「私は先輩が好き、なら先輩はわたしの事どう思ってるんですか」
「そりゃ……好きじゃなきゃこんな事…」
「好きか、そうじゃないかです」
「……好きだよ、俺は一色が好きだ」
「なら、それでいいじゃないですか。もっと単純でいいんですよ」
「単純って…」
「単純ですよ単純、まぁ昔の私もその単純が出来なかったんですけどね。わたしはいま先輩が言った言葉を単純にしたものが聞きたいです」
単純に。
そう、もっとシンプルで良かったんだ。
その当たり前を一色が教えてくれた。
一色が俺を変えてくれた。
「………一色、俺はお前のことが好きだ。だから俺とつ…付き合ってくれ」
「………はい。末永くお願いしますね、先輩」
⭐︎⭐︎⭐︎
「ていうか、サイゼリアで告白って割とサイテーですよね」
「いや言わせたのキミだからね?」
食事を終え話も取り敢えずまとまったんで、レストラン街を出て住宅街へ。
あの後一色が急に泣き出すもんで、周りの目がすげー痛かったけど…嬉し涙だったらしいからまぁ良しとしよう。
「でも先輩らしかったので、100点あげちゃいますね!」
「そんなガバガバ採点でいいのかよ」
「いーんですよ、わたしが嬉しかったら100点なんですよ」
「……さいですか」
店を出てから終始ご機嫌な様で、ニッコニコである。
これまでこんな一色は見たことがなかったから新鮮だ。
「陽が落ちるとやっぱり少し寒いですね」
「まぁ日中は暖かかったし、薄手で来ちまってるからな」
「先輩。手、貸してください」
「あ?あぁ」
右手を右隣にいる一色へ向けると、一色は左手で俺の右手を握り……
つまりはいわゆる恋人繋ぎをしてきた。
一瞬の事だったから身体がビクッとなってしまった。
「ちょ、先輩急に止まらないでくださいよ」
「す、すまん。てか急に手握るなよビックリしただろ」
「えー、もう恋人同士なんだからいいじゃないですか」
「そりゃそうだけど、俺はこういうの不慣れなんだから準備ってもんが…」
「はいはい、じゃあさっさと慣れてくださいねー」
そう言うと、一色は俺の手を引き前に歩き始める。
最初こそ戸惑ったが、一色と歩調を合わせるべくちょっと早歩き。
再び横並びへ。
「ねぇ先輩」
「…なんだ?」
「わたし、いま幸せですよ」
歩きながら、一色は前を見つつそう言った。
表情は普通だが、耳が赤くなっているところを見るとまだ気恥ずかしさが残っているらしい。
「そうかい」
俺の方も表情は普通だ、普通だよ普通。
別に意中の女性と手を繋いで興奮したりとか手汗気にしたりとか考えてるわけじゃない。
本当だよ。
「…………」
「…………」
2人で初めて帰る夜道、夜空は澄んでいて星もチラホラ見える。
俺は一色ともっとこんな風に初めてを見てみたい。
心からそう思った。
「なぁ一色」
「なんですか?」
「俺もいま、すげー幸せかも」
柄じゃないとは思うよ。
ただ、素直に幸せだと感じられた。
一色のおかげで。
「ふふ、そうですか」
一色も柄じゃないと思っていたのだろうか、微笑しながらも相槌を打っていた。
「先輩、これからやり直しましょうね。わたしたちの想い出を」
「……あぁ、やり直そう」
人は分かり合える、変わっていける。
辛い過去さえ乗り越えられる。
それが可能性ってやつかな。
頑張ろう、2人で頑張ろう。
そう思いながら、一色の手を少しだけ強く握り返した。
fin