巡洋戦艦「蝦夷」物語   作:十二の子

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北号作戦...完遂!そして。


4 巡戦「蝦夷」の最期

ー1945年2月20日、東京、大本営ー

 

 「まずは、おめでとうと言うべきかな。」

 

 北号作戦は、奇跡とも思われる大成功に終わった。1隻の落伍も…どころか損傷もなく、南方の艦隊は無事に呉へとたどり着いたのだ。

 

 「基地航空隊と瑞雲による対潜索敵、敵機や敵潜への適切な回避行動…そしてスコールへの退避…松田少将と各艦艦長そして乗員一同の努力のたまものだな。」

 

 「アメリカ艦隊も、我が部隊がフィリピンに突っ込むと思い込み、盛大に引っ掻き回されてくれたようです。陸軍の山下大将から礼が届いています。」

 

 もし万が一にも3隻の戦艦が日本本土ではなくフィリピンに達したら…?最終的には排除できるだろうが、礼号作戦で巡洋艦による艦砲射撃ができた以上は二度目がないとは言えない。アメリカ軍は海上どころか陸上でも対応を強いられ、フィリピンの日本軍には多少の余裕が生じていた。多号増援輸送で得た兵力と合流し、指揮系統を整理する余裕が。それは3月に起こるはずだったルソン市街戦の悲劇を防ぐことになり、整然と奥地へ撤退した日本軍は終戦までアメリカ軍を手こずらせることとなる。

 

 「目下、アメリカ軍による硫黄島への艦砲射撃が行われており、3日前にはここ関東が敵機動部隊に空襲されたばかりです。

 

 来たる本土決戦に向け、帰還した3隻をどう扱うか…旧式の『伊勢』『日向』はともかく、せっかく急造した『蝦夷』と51センチ砲を遊ばせるのは惜しいでしょう。」

 

 ここで硫黄島へ「蝦夷」を突っ込ませようと考えるほど、大本営も短慮ではなかった。硫黄島はできるだけ長く奮戦して玉砕、沖縄そして本土決戦の準備時間を稼ぐのが当初からの計画である。

 

 そうして、半ば自然に、日本海軍最後の大海戦の舞台が決まっていった。

 

 2月末、「蝦夷」は第二艦隊へ編入。「大和」とともに水上特攻に用いるべしとの決定が下された。

 

ー1945年4月7日、九州南方の海上ー

 

 「『大和』、攻撃を受けています。」

 

 「右舷より本艦に接近する敵編隊あり!」

 

 「主砲、三式弾斉射用意!」

 

 昼から襲来したアメリカ海軍スプルーアンス機動部隊は、空母12隻から300以上の攻撃隊を繰り出し、戦艦「大和」巡戦「蝦夷」軽巡「矢矧」駆逐艦6隻からなる艦隊へ空襲をかけてきていた。

 

 特別攻撃が航空戦の主体となるような日本軍の惨状であるから、味方のエアカバーは望めない。そんな中、「大和」「蝦夷」は沖縄へたどり着くよう求められている。

 

 「後部マスト、倒壊します!」

 

 「3番噴進砲、射撃不可!」

 

 「右舷より雷撃機!」

 

 「取り舵いっぱい!」

 

 わずか後方では、「大和」があちこちから煙を噴き上げながらも、砲声を響かせている。「蝦夷」対空見張所からは「大和」が傾いているようにも見えていた…どうやら雷撃もくらっているらしい。

 

 46センチ砲にも耐えられる大和型戦艦だからこそ、攻撃が集中し何度も命中弾を受けても無事でいられるのだ。8インチ防御すら省略した「蝦夷」には無理な話で、少し前に航行不能となり落伍した「矢矧」がとても他人事には思えなかった。

 

 アメリカ側も必死である。日本軍の戦闘機がほとんどいないのはいいことだったが、「大和」「蝦夷」の対空砲火は決して侮れるものではないし、「蝦夷」の51センチ主砲も厄介だった。戦艦主砲の三式弾は派手な割に命中せず、主砲の旋回が敵機に追いつかない…というのは「蝦夷」には当てはまらず、単装のため「大和」主砲より軽快に旋回して51センチ砲弾の圧倒的な危害半径を発揮するため、おっかないのである。

 

 「『ヤマト』へ攻撃を集中させよ。『エゾ』は後回しだ。」

 

 レイテで「ムサシ」を沈めるのに途方もない手間がかかったことを、アメリカ軍は忘れていなかった。彼らは「ヤマト」とおそらくその軽量版である「エゾ」にどれほど苦労することになるか恐れていて...要するに二兎追いはしたくなかった。それにスプルーアンス中将は「機動部隊だけではダメでも、まだ戦艦部隊が控えている。いや、戦艦部隊に最後の水上砲戦の華を飾らせてやるのも悪くない」と思っていたが同時に「18インチ砲艦である『ヤマト』『エゾ』2隻を同時に相手するのはいくらサウスダコタ級3隻アイオワ級3隻いても勘弁したい」とも思っていたから、戦艦部隊にとってより手ごわそうー門数が4.5倍もあるー「ヤマト」を先に仕留めるように命じるのも当然であった。

 

 もし仮に「蝦夷」の主砲が18インチではなく20インチであるとアメリカ軍が知っていれば、話は違ったのかもしれない。戦艦「ミシシッピ」「テネシー」の轟沈に、よりはっきりとした危機感をいだけたかもしれない。しかしながら世界の標準が15〜16インチ砲であるというのに20インチ単装2基のハッシュハッシュクルーザーなど予想するほうが無理であった。そして、「大和」の46センチ3連装主砲は敵機の動きに追いつけないため三式弾を発砲できず、アメリカ軍はついに「大和」と「蝦夷」の主砲威力を見比べることができなかった。

 

 「急降下爆撃!数は8!」

 

 「取り舵いっぱい!」

 

 「敵戦闘機来ます!」

 

 「銃撃に備え!」

 

 高角砲弾と機銃弾を噴き上げながら旋回する「蝦夷」のすぐ横に爆弾が落ち、水柱が上がる。その直後、甲板を戦闘機の銃撃が舐める。

 

 「や、『大和』、大きく傾いています!」

 

 艦長が俯くー「大和」は長くない。そして次こそ「蝦夷」だ。

 

 「…機関増速、最大戦速。」

 

 「…はっ、機関増速、最大戦速!」

 

ー*ー

 

 沖縄水上特攻作戦に於いて、「大和」と「蝦夷」にはいくつもの違いがあった。「大和」への攻撃の集中ももちろんそうだが、そもそも心構えが違っていたのだ。

 

 「大和」には片道分の燃料しか積まれていなかったと後世に言われるが、これは間違いだ。現場判断で往復分の燃料が積まれていた。

 

 かたや、「蝦夷」は?

 

 「蝦夷」は北号作戦でシンガポールから帰投した際、大量の物資を搭載し、沖縄どころかもう一度シンガポールまで往復することも可能だった。それをわざわざ降ろし、この時は正真正銘、片道分の燃料しか搭載していなかった。

 

 「蝦夷」幕僚の思惑は、1つの言葉に集約されているー「大和に勝算あれど、本艦に勝算なし」。防御力のない巡洋戦艦がよしんば沖縄にたどり着けたとして、敵輸送部隊砲撃の任を達成するころにはアメリカ軍に包囲され、自慢の速力で逃げることもかなわずたちどころに沈められてしまうであろう。だから、往復は諦め、なんとしても片道に全力を尽くすしかないのだ。

 

 最大戦速ーつまり「大和」の27ノットにあわせてではないーの片道分の燃料を搭載した「蝦夷」は、ただでさえ簡素な艦内から予備機材や調度品のたぐいを放り出し、それどころか竣工時に20.3センチ砲を搭載する予定だった副砲ターレットすら12.7センチ連装高角砲に不要な部分を撤去、シンガポールでの改善工事もあり喫水は計画より数十センチ浮き上がっており…そして計画速力の35ノットを超えて走り出した。

 

 後方の「大和」では、伊藤整一中将が走り去ろうとする「蝦夷」へと敬礼…直後、アメリカ雷撃機の一斉雷撃が命中し、「大和」が転覆を始める。

 

 「蝦夷」へと目標を切り替えて急降下爆撃や雷撃のルートに入っていたアメリカ攻撃隊は、唐突に10ノット近くも加速した「蝦夷」にめんくらって攻撃のチャンスを逃した。

 

 唯一「蝦夷」の加速にくらいついた戦闘機隊が銃撃をくらわせようとする…直前、「蝦夷」の51センチ後部主砲が火を噴く。

 

 「What!?」「Shit!」

 

 まさか、戦艦主砲の爆風と三式弾弾子が吹き荒れる中には飛び込めない。戦闘機隊が慌てて旋回する一方で、「蝦夷」は敵機の攻撃で倒壊してしまった後部マストを爆風で吹き払い、さらに加速。

 

 艦内の数カ所から急造艦らしく軋み音を立てながら、「蝦夷」は沖縄へ36ノットで爆進していった。

 

 「…っ、司令部、第四次攻撃の要を認めます!」

 

 「早く!奴ら、雲に逃げ込むつもりだ!」

 

ー*ー

 

 アメリカ軍機動部隊の第四次攻撃隊は、ついに「蝦夷」を攻撃できなかった。予想外の快速は、本来なら間に合わなかったかもしれない沖縄の4月の低気圧へと「蝦夷」を隠れさせることができたのだ。そしてすぐに、夜が訪れた。

 

 「かくなる上は戦艦部隊で袋叩きにするしかない」

 

 スプルーアンスはそう判断し、アイオワ級3隻、サウスダコタ級3隻を「蝦夷」の予想海域へ向かわせた。条約明け新型戦艦でありSHS弾搭載16インチ砲艦であるこの6隻なら、18インチ砲艦にも数の優位で勝利できると信じて。

 

 「敵艦発砲!」

 

 だがいくらなんでも発砲が早すぎる。18インチ砲とはこんなにも射程が長いのか!?

 

 しばらくののち…本能的恐怖を覚えさせるような巨大な水柱が、先頭のアイオワ級「ニュージャージー」の右側に屹立する。

 

 51センチ砲弾の、至近距離での水中爆発。細長いアイオワ級の船体が軋み音を立てる。

 

 「なっ…

 

 撃ち返すぞ!最大戦速で『エゾ』を追撃!」

 

 「追いつかれるな!最大戦速、敵艦隊から退避!」

 

 闇夜、雲の下、水平線より少し短いくらいの幅を置いて巡洋戦艦1隻と高速戦艦6隻の追撃戦が繰り広げられる。アイオワ級は射程に入れ次第発砲しようと主砲を持ち上げ、「蝦夷」は後部51センチ単装主砲を撃ち続ける。

 

 「アイオワ級を持ってきてよかったな…敵艦が速すぎる…」

 

 本来、「大和」「蝦夷」と砲戦をするのであれば、空母機動部隊直衛の高速戦艦アイオワ級・サウスダコタ級ではなく、対地砲撃に駆り出されているコロラド級、テネシー級、ニューメキシコ級の部隊が引っ張り出されるはずだったのだ。しかしながらこの6隻の艦隊はスリガオ海峡海戦で「蝦夷」に2隻も沈められ、戦力の再建を図りつつも硫黄島・沖縄艦砲射撃にも駆り出され、とても18インチ砲艦2隻を迎え撃つわけにもいかなかった。

 

 …それが吉と出て、アイオワ級の最大速力が35.2ノットもあるおかげで、「蝦夷」に追いすがることができている。もっともサウスダコタ級は落伍しかけていた。

 

 「なんとしても、『エゾ』をとらえろ!」

 

 「電探に感あり!こ、後方より機影!味方にあらず!」

 

 「…!?カミカゼか!?

 

 対空戦闘用意!」

 

 「蝦夷」を猛追する艦隊の先頭、戦艦「ニュージャージー」へ、鹿屋基地から夜間飛行でやってきた零戦の編隊が突っ込んでいく。「ニュージャージー」は5インチ両用砲と40ミリボフォース機銃で懸命に対空迎撃を行い、その多くを撃墜する…が、もとより回避など考えていない特攻機には接近阻止弾幕は通用しないし、雷撃機などならともかく真っ直ぐ突っ込んでくる特攻機は粉砕しない限り加害性を失わない。搭乗員を失った…あるいは生きたまま、複数の零戦が「ニュージャージー」へ突入、衝突する。

 

 「SGレーダー、損壊!」

 

 「2番主砲、砲身損傷!射撃不能!」

 

 追撃戦では先頭艦の前方の砲しか使えず、大いに不利だ…なんとかして後ろから横に遷移し同航戦で叩きたいが、だいたい等速なので逃げられないことはできても距離を詰めることができない。というより、もともとはアメリカ戦艦部隊は沖縄側で待ち伏せていたのだから、回り込まれつつあるのだ。

 

 そんな状態で、「蝦夷」が速力を落とす。

 

 「…昼の空襲が響いていたか?チャンスだ!射程距離に入り次第発砲!」

 

 まもなくして、「ニュージャージー」の1番16インチ3連装主砲が火を噴く。…が、それと同時に、「蝦夷」の後部51センチ主砲も発砲。

 

 「いよいよ、いよいよ戦艦同士の砲戦だ!ジャップに目にもの見せてやるぞ!

 

 後続艦は変針!同航戦用意!」

 

 「蝦夷」の速力低下で、いよいよ追いついて側面を取り同航戦を挑む目が出てきた…そうアメリカ側の誰もが考える中、「ニュージャージー」はなおも「蝦夷」へ距離を詰め、着弾の精度が上がっていく。

 

 「相手はしょせん巡洋戦艦!勝てる!」

 

 「ウィスコンシン」「ミズーリ」が斜めに針路を取り、「蝦夷」右側面へと進んでいく。「ニュージャージー」の砲弾が「蝦夷」の側面に水柱を噴き上げ、水中爆発が「蝦夷」の柔い船体を軋ませる。

 

 「いけ!やっちまえ!」

 

 …そこまでだった。

 

 大落角で飛来した51センチ主砲弾一発が、「ニュージャージー」の艦首へと命中。

 

 たかだか16インチ、いや対16インチ防御すら不足しているアイオワ級の船体は、20インチ砲弾に容易に貫かれ、そして砲弾が内部で炸裂…艦首甲板を捲れ上がらせ、そればかりか喫水線下にも穴を開ける。

 

 「艦首に浸水!」

 

 「そ、速力低下!」

 

 「1番主砲、バーベットが歪み発砲不能!」

 

 全速力のまま艦首に穴が開いたので、艦体が水を呑んでつんのめる。

 

 「ほ、本当にコレが18インチか…!?」

 

 それが最期の言葉となった。

 

 2度目の命中弾はー「ニュージャージー」の速力低下を考えれば、これは完全にまぐれ当たりだったー煙突間の中央構造物に着弾、真下の機関部へ貫通し爆発…艦全体を大きく鳴動させ、衝撃で多くの人間を気絶させしめ…そして人事不省状態の「ニュージャージー」は艦首と艦底中央から水を呑んで少しずつ傾き始めたのだった。

 

 「蝦夷」の側面へと移動しようとしていた「ウィスコンシン」「ミズーリ」は、たった2発の着弾で「ニュージャージー」が戦闘不能に陥ったことに狼狽した。そんな中、「蝦夷」が再び増速、35ノットで南へと突進を再開する。

 

 「な…まさか奴ら、遊んで…」「いや、命中弾を得ようとわざと距離を詰めていたんだ…!」

 

 悔しがっても仕方がない。減速中の「蝦夷」に対して斜めに針路を取っていた「ウィスコンシン」「ミズーリ」は、最大速力の「蝦夷」に引き離されていく。

 

 「くっ…追いつけないぞ…」

 

 「そんなことより…『フッド』よろしく主砲に命中して爆沈ってわけじゃないんだ。それでも2発で『ニュージャージー』が…」

 

 いくら16インチ防御でも限度というものがある。18インチ砲弾2発なら、当たりどころがよほど悪くなければ…それが現実には、通信内容通りなら少なくとも間違いなく大破だ。

 

 「司令部に送信、敵艦『エゾ』主砲は18インチにあらず、19インチまたは20インチと認む!」

 

 最新鋭のアイオワ級戦艦ですら、運が悪ければアウトレンジから一撃で廃艦にしかねない…「蝦夷」の試製甲砲の真の脅威を、この時初めてアメリカ軍は理解したのだった。

 

ー1945年4月8日、沖縄北方ー

 

 「もはや、ここまでだな。」

 

 夜明けとともに血眼で「蝦夷」を捜索しているのであろうアメリカ機動部隊艦載機…その機影が13号電探に映り、「蝦夷」幕僚は覚悟を決めた。

 

 昨日の昼の空襲では少なからぬ被害を受け、夜の砲戦では多くの至近弾で痛めつけられた。この上、「大和」が受けたような大空襲をされては、とても耐えられない。

 

 「本艦はただちに擱座し、戦力の保全に努める。衝撃に備え!」

 

 沖縄中部に上陸中の輸送船団への攻撃は果たせそうにない。かくなる上は…沖縄北部、沖縄戦の激戦から見捨てられたような地域のサンゴ礁に、「蝦夷」は轟音を立て乗り上げた。

 

 陸上砲台となって、やってきた敵艦と少しでも多く差し違える…そんな覚悟が都合よく果たされるはずもない。まもなく、アメリカ機動部隊から戦闘機が大挙して来襲。「蝦夷」へと銃撃とロケット弾を見舞う。自慢の速力からなる回避も擱座しては活かせず、上甲板はズタズタ…なにより致命的なことに、電探、高射装置、そして主砲射撃指揮装置を全損させられた。

 

 51センチ簡易単装砲塔には砲側測距儀がない。簡易砲塔だから致し方ないが、こうなっては主砲の射撃は不可…どころか高射装置がやられて対空戦闘もおぼつかない。

 

 「やむをえん。

 

 陸戦隊を編成し、降ろせる限りの武器を持って総員退艦!」

 

 継戦能力がないならまだしも砲撃もできないでは仕方ない…おりからの悪天候で再び空襲が途絶えた隙に、「蝦夷」乗員は25ミリ機銃をバラして陸揚げし、それどころか12.7センチ連装高角砲もバラして台車に乗せ、空襲で開いた側面の破孔から揚陸、やんばるの森へ消えていった。

 

 12.7センチという陸戦に埒外の自走榴弾砲(?)と多くの自走機関砲を引きずりほぼノーマークの北方から来襲した「蝦夷」陸戦隊にアメリカ軍は手こずることになるが、補給のなさは如何ともしがたく、「蝦夷」陸戦隊のほとんどは2ヶ月後、沖縄戦で玉砕することになる。

 

ー*ー

 

 さて、擱座した「蝦夷」を空襲で機能停止に追い込んだアメリカ海軍だったが、その後どうしたものか迷っていた。

 

 陸上に乗り上げてしまった戦艦を航空攻撃でなんとかするというのは、世間で思われるほど簡単なことではない。沈めようにも陸に乗り上げてしまっているのだから沈まないのである。当然魚雷は使いようがない。

 

 戦艦からの対艦砲撃というのも手だった…が、今や「エゾ」の主砲は19ないし20インチでアメリカ軍のあらゆる艦砲をはるかにアウトレンジするとわかっている。アイオワ級やサウスダコタ級を接近させ、うっかり「ニュージャージー」に続く4隻目の餌食を出すのはもったいなさすぎる。

 

 急ぐことはないのだ。どうせ擱座してしまって動けない「エゾ」は、上陸中の沖縄中部にも、日本軍の主力が待ち伏せる沖縄南部にもたどり着けない。

 

 「『触らぬ神に祟りなし』…ジャップの諺だそうだ。

 

 諸君らが『ミシシッピ』『テネシー』『ニュージャージー』の仇を取りたいというのもわからんではない。しかしヤツは既に大破着底しているようなものではないか?」

 

 ニミッツ提督はそう言ったが、もちろんその発言の影には「もはや軍事的に何の意味もない『エゾ』にリスクを取れない」というソロバン弾きだけではなく、「アメリカ軍には未曾有の20インチ砲艦、鹵獲すれば軍事的にも技術的にも大きな意義がある」という政治的意図もあった。

 

 かくてアメリカ軍は何度も「エゾ」に空襲をかけ、ロケット弾と機銃弾、小型爆弾によりその上部構造物を破壊。無人になったのを確認し、占領したのであった。




巡洋戦艦「蝦夷」による史実との差

「蝦夷」戦果:戦艦「ミシシッピ」「テネシー」「ニュージャージー」撃沈、オンデンドルフ艦隊駆逐艦2魚雷艇5撃破(志摩艦隊巡洋艦との共同戦果)

 重巡「最上」、駆逐艦「霞」終戦時残存(史実ではスリガオ海峡撤退中と大和沖縄水上特攻中に撃沈されるが、この歴史では「蝦夷」に攻撃が向いたため難を逃れる)

 ルソン島の帝国陸軍、終戦時なおも組織的戦闘を継続(「蝦夷」陽動により史実より多く増援輸送に成功したため)

 硫黄島陥落、3月27日(史実より1日遅れ、戦艦「テネシー」がレイテ沖で沈んたことによりアメリカ軍の艦砲射撃戦力が7/8になったため)

 沖縄陥落、6月27日(史実より5日遅れ、「蝦夷」陸戦隊及び搭載砲の参戦などにより)

 巡戦「蝦夷」終戦時大破擱座で残存

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